鎧、罠を張る
『よし!まだ、作戦を練る時間はあるな。まず俺は、魔力を温存しておきたい。よって、例の殲滅プロセスは使わない。その代わり、ここに広範囲の壁を俺達を中心に南北に作るぞ。』
『お、おぅ。で、俺は何をすればいい?』
『まぁ待て。説明する。まず、南北に作った土壁に一箇所だけ通り道を作るから、俺とハイドは、通り道を塞ぐ形で迎撃する。エルトは、壁の上から矢を射かける。ハイリンは、エルトと一緒に壁の上から奴らの動きを観察して、下にいる俺達に状況を報告してくれ。何か質問は有るか?』
皆、引き締まった表情で頷く。
問題は無いみたいだ。
『よし、では、念の為、毒消しの薬を飲んでおこうか。特にハイドな。』
『あぁ、わかった。早速ってわけだな。』
『昨日と同じ様にならないよう足元には気をつけろよ。今回は回り込まれる可能性は低いが、気張っていこうぜ。』
『おう!』
『はい!』
全員に気合が入ったところで、俺は魔術を発動させる。
『じゃ、始めるぞ。』
俺達を中心に南北に土壁がゴゴゴっと盛り上がる。
南北の長さは、見通し範囲。
南側は、エルトラン湖まで。
北側へは、遠くに見える森林まで。
『、、、なぁ、さっき魔力温存したい、とか言ってなかったか?温存しているようには見えないんだが。』
土壁を見上げるハイドが、そうコメントをする。
そして、その土壁に一箇所だけ通路的なものを用意する。
更に土壁の上部に物見台のようなタレットを形成した。
浮遊魔術で、ハイリンとエルトをそこに送り込み、エルトの見張りと弓矢による射撃準備は完了した。
『上から妖狐が来るのが見えたら、教えてくれ。』
『はい、わかりました。ところで師匠、どのくらいの妖狐を弓で討伐しましょうか?』
『そうだなぁ、半分はいけるか?』
『了解です!』
俺は、通路を通り、妖狐が向かってくる側、つまり土壁の西側面に少し細工をした。
そして、入口に昨日、街の屋台で買っておいた肉串を山積みにする。
(こいつは、ここにおびき寄せる餌ってことだな。)
『さて。ハイド、この通路にも仕掛けを作るから、お前は絶対に俺よりも前に出るなよ。』
『あぁ、わかったが何を仕掛けるんだ?』
『まぁ、見てろ。』
俺はエルトッキュでもらった天樹素材でできた糸車を取り出した。
その糸車からの糸を通路の入口から俺達のいるこちら側まで、上下左右に張り巡らせる。
更に土属性付与で、糸を金属並の硬さに強化する。
『ハイド、これの説明は、、、要らないよな?』
『あぁ、ちょっとあの妖狐が可哀想に思えてきたぞ。』
(奴らは数に任せて襲ってくる。その勢いのまま壁を超えることはできないから、唯一のこの通路を通ろうとする。だが、この糸が奴らの息の根を止める。糸に気付く奴もいるだろうが、後からあとから押し寄せる仲間によって、この糸の餌食になるってわけだな。我ながら残酷な罠を作ったものだ。)
『あとは、念の為に通路の最後のスペース、ここに落とし穴でも作っとくか。よし、こんなもんだろ。どうした?ハイド?』
『いや、あんた、エグいわ。ほんとに鍛冶師かよ。実は罠師なんじゃぁ?』
『呼び名なんてどうでもいいが、本業は鍛冶師だぞ。しばらくは休業だけどな。』
『凶悪極まりないわ。ビルよ、ずっと仲間で居てくれよな。』
『はっはっは。何を言ってるんだ。この仕掛けは、知能が低くて空を飛べない魔獣相手にしか通用しないからな。』
『いや、ビルなら例え魔物が空飛んでこようが、地上に引きずり下ろすだろ、、、』
『師匠!まだ距離はありますが、妖狐の群れが見えてきました。』
『おっと、くっちゃべってる場合ではないな。よし、エルト。充分に引きつけて、その群れの前衛100匹ほどから後ろの奴らに弓矢で攻撃してくれ。前衛100匹は、俺の罠で対処する。』
『はい、わかりました!』
妖狐の群れは、俺の壁を見ても動じずに向かってきている。
(お?妖狐の前衛の奴らが壁の前に置いた肉串に気がついたか。)
一気に駆け寄ってくる。
それにつられて、後ろの集団も走り出してきた。
『よし、今だ。エルト、攻撃開始!』
と、いう俺の合図から短時間で戦闘が終了したようだ。
『いや、戦闘でもないな。ただの駆除になっちゃったか。エルトを過小評価していたかな?ここまでとは、、、』
俺の思惑通りではあるが、エルトが400匹弱、俺の壁で100匹ほどの妖狐は全滅した。
(いや、これは、思惑よりも上を行ってるな。)
壁の向こう側が静かになってしばらくして、ハイドがつぶやく。
「もう、終わったのかよ、、、」
「一瞬かよ!」
「うぉ!びっくりした!」
いつのまにか、ハイドの横にタンタが戻って来ていた。
「お前、いつのまに、、、」
「ん?少し前からずっと居たぞ。」
「気配がわからんかったわ。」
『うん、俺は、生体感知で気がついていたけどな。』
『言ってくれよ、、、』
「エ〜ル〜卜〜さまぁ〜!お疲れ様〜で〜す〜。」
タンタが壁の上にいるエルトに声を掛けている。
『よし、エルト、ハイリン、下に降ろすぞ。』
二人を浮遊魔術で下に降ろした。
皆、エルトの凄さを絶賛する。
『まずは、500匹だな。いや、正確には480匹か。』
『すいません。私の攻撃範囲より外に十数匹居たようで、西へと逃げていきました。』
『いや、謝ることはないぞ。エルトのお陰で楽ができたし、大戦果だ。』
『そうそう、俺なんて何にもしてないし、、、』
『まぁ、この位の群れならな。でも次はわからんぞ。ハイドにも出番があるんじゃないか。』
『だといいんだが。、、いや、多すぎるのもちょっとなぁ、手に負えないというか。』
『そんなこちらの都合よく奴らは来てくれないって。』
消化不良気味のハイドを置いて、俺は糸を張り巡らせた通路とは別の土壁の一箇所に穴を開け、壁の向こう側に行ってみた。
『さてと。』
壁の西側は、、、死屍累々、そんな言葉が脳裏をよぎる。
例の通路は、なんというか血生臭い酷い状況となってしまっているが、エルトの射撃による妖狐の死体は、きれいなもんだった。
「うひゃぁ、流石エルト様。こんなきれいな魔物の死体なんて、、、しかも大量、、、」
そう言うタンタと、いつの間にこちら側に来たのか、10匹の猫たちも妖狐の死体を検分している。
「流石というか、なんというか、、、言葉が出ないな。す、凄まじい、、、」
ハイドもこちら側に来て、腕を組んで感無量という表情を作っている。
「タンタ、仕事だな。」
「ハイドに言われなくたって、わかってるって。まかせときな。」
「じゃぁ、ここはタンタに任せて、俺達は軽い昼食でも摂っておくか。」
『俺は、物を食う気にはなれんから、三人で適当に済ませてくれ。食料は出しておいたから。』(と、いうことにしておこう。)
『何だ?あんた、意外と繊細だな。』
(こんなのの後によく物を食う気になれるよなぁ、、、)
少し呆れた俺だったが、冒険者とはそういうものなのかも知れない。と、ひとり納得していた。
(さて、この妖狐の死体から、異常繁殖の原因か何かわかるかな?)
俺の足元に伏していた一匹の妖狐。
頭に例の串が刺さっている以外、本当に傷がない。
俺は、妖狐を持ち上げて、見た目を確認してみるが、、、
(パッと見で、解るわけ無いか。そういや、変な臭いがするってタンタは言ってたな。あ、俺、嗅覚もないんだった。)
そんなことをやっている俺の横を猫たちが忙しなく行き来する。
俺の開けた壁の通路を使って、妖狐の死体を壁の東側へと運んでいるのだ。
例の糸罠で死んだ妖狐は、通路を塞いでしまっている。
(こいつらは、素材にもならないな、、、)
俺は、それらを除去、、、というか、通路出口に山積みにして、燃やしてやった。
供養のつもりだったんだが、、、
俺の横を通りがかったタンタが言う。
「流石だな。この妖狐の死骸は素材にはできない。しかし、次の襲撃の餌に有効活用しようっていうのか。」
(そんな、つもりはなかったんだが、言われてみれば、それはいい手だな。)
俺は、途中で火を消し、良い焼き具合になった妖狐の肉の山を餌にすることにした。
猫たちを見ると、恐ろしく手際よく妖狐を処理している。
タンタが持つ刃物で、妖狐の顔から縦に切る。その勢いで首から下、腹の皮を縦に切る、切る、切る。
ア組の猫達が器用に爪を使って、皮を剥ぐ。
スライムの一匹が、血抜きをして、メ゙組の猫達が皮を綺麗にして、更に肉を捌いている。
内臓や骨、不要な部分は、もう一匹のスライムが消化して居るようだ。
(スライムにそんな使い方があるのか、、、)




