鎧、遭遇する
「それにイスもふかふかですね。」
「エルト様にお褒めいただき、恐悦至極!そのイスは、こいつらの抜け毛を集めて袋に詰めて、クッションにしているんです。」
「え?中身、猫毛?!」
『ハイリン、なんでそんな嫌な顔をする?』
『猫、嫌いなんですよ、僕は。猫毛もダメ、、、』
ハイリンは、そう言ってイスに座らずに床に座り込んでしまった。
十匹の猫は、エルトにまとわりつき、懐きまくっている。
「まぁ猫毛だけでは、硬くなるので鳥の羽毛なんかも入っていますけどね。」
俺は俺で、浮遊魔術の使い方に感心していた。
(なるほど。馬に楽をさせるにはいいな。でも、停車させる時はどうするんだろうか?)
浮遊魔術の使い方として、面白い。が、それだけに色々と疑問が湧き出る。
(あぁそうか。停車時は、浮遊魔術を解除すれば、馬車を支えているスライムが地面に着地して、馬の手綱を引いたのと同じように止まる仕組みか。)
なるほどなるほど、と俺は一人で納得している。
(それにしても、スライムが魔術を使う?聞いたことがないな。なんらかの能力なのか?)
俺の疑問は、タンタ以外、誰も答えられないだろう。
(あとで聞いてみるか。)
馬車は、だだっ広い平原を西へと進んでいる。
地面を見ると、このあたりには背の低い草が一面に生えているようだ。
しかし、馬のカユマの足元からはバシャバシャと水の音がする。
『ここは、もう湿地帯なんだな。こんな所、人が歩いていくだけでも大変そうだ。タンタの馬車があってよかったな。』
『いや、それはそうなんだが。いざ、戦闘になった場合、この馬車を守る人間がいないぞ。』
『ん?タンタがいるじゃないか。戦闘には参加しないんだったら、戦闘の場から離脱しておけばいいんじゃないか?』
『うーん、それでいいのか、、、?』
「あ、そうだ。」
ハイドが何かを思い出したのか、急にタンタに話をふる。
「タンタ、この馬車の乗り心地の良さは分かった。こんなスライムが一杯いるなら流行るぜ。」
「兄さんってば。この仔たちみたいなスライムはそうそういないって。」
「居ればって話だよ。ところで、タンタ。」
「なんだ?」
馬車を褒められて得意気になっているタンタ。
機嫌のいいタンタに聞く話しとは?
「昨日、言ってた”いよいよか”って、どういう意味だったんだ?」
(あ、忘れてたわ。)
「あぁ、あれか。いやなに、妖狐が増えだしたのは半年ほど前からだったんだが、ここ数日は更にその数が増したみたいでな。スタンピードがいつおきてもおかしくない状況だったのさ。昨日のアレはまさしくスタンピードじゃないか?」
「確かにな。だとすると、やつらの暴走原因は食料不足だな。」
「ふむ、昨日1000匹近く退治したと聞いたが、それは一部であって次に同じ様に奴らが暴走するとしたら1000匹では効かないだろうな。」
「そうだな。昨日ので終わりってことはないとは、俺も思う。」
「此処らへん、エルトラン湖周辺全域がかなり危険な状況だと思うね。」
「むちゃくちゃ広範囲じゃないか!」
「で、そこの白騎士さんの魔術でなんとかなるのか?昨日はどうやって、そんな数を退治したんだ?」
「あ〜、それはだな、、、」
ハイドがタンタに昨日のことを詳細に伝えた。
「ほぉ確かにそりゃ凄い魔術だが、素材も何も残らないってのは、いただけないな。」
「タンタ、そうは言うが、命あってのものだぜ。」
「ん〜、まぁそうだな。妖狐の毛皮が大量に出回っても値が下がっちまうか。」
「いや、そういう事を言っているわけではないんだが。」
「しかし、次に1000匹以上と出くわしたらどうするんだ?」
『ハイド、俺の代わりに説明をしてやってくれ。』
「あぁ、えーと。ビルの魔術とエルトちゃんの弓で先制攻撃をする。一応、ビルの魔術で上手く行けば、一回で1000匹は対応できるらしい。あとは、生き残りが向かってきたら俺が始末するって感じかな。」
「ハイド、お前。」
「?」
「楽なポジションだな、、、」
「言うなぁ。俺はぁ広範囲魔術や遠距離射撃なんかできねぇんだからよ。しかたないだろう?しかも戦闘に参加しないお前に言われたくもねぇし。」
「たっちゃん?」
エルトにそう呼ばれたタンタは、ドキッとしたのか、大慌てでいいつくろう。
「は、いや、これは、一般的な見解を言ったまででして、別にハイドに嫌味の一つでも言ってやろうってことではないです。はい!」
俺は、そんなやり取りを耳にしながら、ゆれない馬車の荷台で作業をする。
(耳もないけどね。)
次元収納から聖水を取り出し、回復薬の製造を試みる。
(なるほど、聖水ってこんな感じなのか。)
あらためて、聖水を観察し、そして、俺が魔力を流し込む。
すると、聖水が入った瓶ごと少し輝き出し、中の液体の色が淡い緑色に変化した。
『師匠、なんですか?これ?』
『そ、それは!』
床で寝ていたハイリンが飛び起き、その聖水の入った小瓶を凝視する。
『回復薬ができたな、、、』
『ビルさん、そんなこともできるんですか!』
『師匠、凄いです!』
『神の力が宿った水、聖水だけど、それに決められた術式で魔力を注ぎ込む。それだけなんだが、、、』
『か、神の力がわかるんですか!いや、そうでなくては、回復薬なんか作れないか。』
『ん?普通はできないのか?』
『いえ、ヒーラーならわかりますよ。でも、ビルさんは、ヒーラーでも無ければ、教徒でもないのに。』
『はは、ハイリンは勘違いをしている。』
『何をです?』
『俺は、魔術を使って回復薬を作ったが、聖水なるものは作れないからな。それは、それこそがヒーラーの能力を使っているんじゃないか?』
『あぁそれはそうですが、それにしたって聖水の力を把握しないとできないですよ。』
(ふむ、神の力の源は、キョウカに聞いたので、どこかに存在する神の元に集められているんだろうな。でも、聖水に宿っている神の力と天樹の素材に備わっている精霊力の残滓とが似ているんだよな。だから、把握もしやすい。)
『ま、できちゃったもんはできちゃうんだ。次は、傷の回復薬に挑戦してみようか。』
ハイリンとエルトが羨望の眼差しで見てくる。
俺は、デジャブを感じながら、懐かしむ。
(前にもあったな、こんな場面。)
と、そこで突然、俺の生体感知に反応があった。
『む!ハイド、馬車を止めるように言ってくれ!』
『お?おぅ!』
「タンタ!馬車を止めろ!」
タンタがスライムに指示をしたのか、ズザーと馬車の下から音がした途端、馬車は止まった。
「ど、どうしたんだ?止めたけど、、、」
『この先から、妖狐の集団が近づいてくるぞ!』
「妖狐の集団?ど、どのくらいの数だ?」
「にゃにぃ〜!」
俺の回答を待たずに、ハイドは皆に指示する。
「全員、馬車から降りるぞ。戦いの準備だ。」
(俺の生体感知の精度も上がっているのか?随分先まで視えるようになったな。数は、、、)
『ハイド。数は500匹程度だ。』
「そ、そうか500か。」
「え?500匹も?本当にこっちに来ているのか?この先から何も見えないが、、、」
「あぁ、ビルの生体感知は的確だからな。よし、ここで迎え撃とう。タンタは、馬車で退避しとけよ。」
「言われなくったって。あぁ、エルト様。申し訳ありません。このタンタ、戦闘には不向きでございまして。」
「いいですよ。ここは私達に任せて、カユマちゃんを守ってあげてね。」
「なんと、お優しい!」
「いいから、早く後方に行けって。」
「ハイリン。いくら猫嫌いだからって、そんな邪険にすることはないだろう?」
「うるさい。あんたが居ると気が散るから!」
「全く、、、」
なにかブツブツ言いながら、猫たちと馬車は後方へ退避していった。
俺は、生体感知の精度を上げてみた。
『奴ら、明らかにこちらを意識した動きをしている?』
『師匠。今は、東風。つまり、私達、風上だからかと、、、』
『そ、そうか、、、じゃぁ偶発的な遭遇ではなく、奴らは既にこちらを認知していて、迎撃体制をとっているということか、、、』




