鎧、西に向かう
『お?来たな。こっちだ。』
俺が門の外に出ると、街道から少し外れた場所に皆が揃っていた。
もう、東の空には朝日が昇り、ハイファーの街から東に広がる穀倉地帯なんだろう、小麦畑を小麦色に照らしている。
『遅れてすまない。』
『いや、問題ない。俺達もさっき、来たところだからな。じゃ、早速行こうか。』
『あの、ハイドさん?』
『何だい?エルトちゃん?』
『昨日、お会いしたタンタさんは?』
『あぁ、あいつは、こんな街の人間の目に付くところには姿を現さないよ。まぁ、そのうち、どっかの茂みから現れるから。』
『そうなんですね。あと、その妖狐の棲家?までは、どのくらい歩くんですか?』
俺が聞きたかったことをエルトが質問してくれた。
『あの見えているエルトラン湖に沿って、西へ一日歩けばやつらの縄張りに入るんだが、昨日のことがある。今までの情報は充てにしないほうが良いかな。』
『それは的確な判断だな。まぁ俺が周囲を警戒しておくから、やつらが突然襲ってくることはない。事前に察知できるからな。生体感知の感度精度と範囲も広がったから。』
『おう?頼りにしてるぜ。』
『ビルさん、どうやったら一晩で魔術の効果範囲を広げることができるんですか、、、』
ハイリンの疑問はもっともだが、それは俺も知りたいことなので、説明できない。
『まぁまぁ大事なのは、奴らより早くにこちらが気づき、作戦を立てる時間を得ることだからな。っと、俺からも質問がある。』
『なんだ?』
『馬車は使わないのか?』
そう質問したのは、俺以外のメンバーが荷物で一杯だからだ。
主に水と食料、そして野営の道具類だな。
『基本、馬車は街から街へと移動する手段であって、こういった討伐依頼では使わない。戦闘時にはお荷物だからな。』
『それもそうか。馬車を守る人員がいなけりゃ無防備だもんな。よし、皆の荷物は俺の次元収納にしまうから、預かるぞ。』
『おぉ、そうだった。ビルの次元収納があったわ。』
『ありがとうございます。ビルさん、助かります。』
『戦う前にこんなことで疲れることはないだろう?ほれ、エルトも。』
『はい師匠、すいません。』
『遠慮するな。』
『次元収納って凄いな。こんな楽なクエストの始まりは初めてだぜ。』
『その代わり、みんな、俺からはぐれるなよ。はぐれてしまうと餓死するからな。』
各自、各々の武装と水の入った皮袋、それに多少の回復薬やアイテムが入っている麻袋を一つ背負っている。
身軽になるため、食料や余分な水は、次元収納に収めた。
『あと、この疲労回復と傷回復の魔薬を各自二本、渡しておこう。それと、いざ戦闘となる前に飲む妖狐の毒を中和する薬も渡しておこう。』
『確かに、これ一度飲めば数日は、効果があって毒状態にはならないですが、これ、高かったんじゃぁ?』
『気にするな、ハイリン。金より命を惜しめ。金で毒予防できるのなら、いらぬ心配が少なくなるだろう?』
『気にするなって言っている師匠は、よっぽど、昨日のことを気にしているようですね。』
『むぅ。』
エルトの鋭い指摘に、俺は何も言えない。
『ビルよ、それこそ気にし過ぎじゃないのか?』
『それはそうなのかもしれないが、気にする質が違うというか、、、』
『ハイドさん。これは師匠の優しさということで、言うことを聞いてあげてください。』
『いや、苦情を言っているわけではなくて。むしろ、感謝するところなんだがな。』
『そうですよねぇ。兄さんもここまで気を配れるならパーティー解散もしなかったでしょうに。』
『おま、古キズを、、、』
『おや?もう古傷なんですか?僕は、今でも昨日のようにですね。』
『ストップストップ。あまりハイドを追い詰めるな、ハイリン。』
毒を吐くハイリン。
ダークハイリンは今に始まったわけではないが、、、
(よっぽど腹に据えかねた何かがあったんだろうなぁ。)
『何が有ったか知らんが、ハイドにも色々考えがあったんじゃないのか?』
『あったと思います?』
『い、いや、えーと、、、』
『師匠師匠。』
『なんだ?』
『二人は、ほっときましょう。いつもの、、、えと、なんていうか、、、そう、じゃれ合っているだけです。』
『な!』
『そうなのか?』
『い、いや、僕は、兄さんにもう少ししっかりしてほしいとですね、、、何で兄さん黙ったままなんですか!』
ハイドは、何も言わない。
言わないが、口元が笑っているぞ。
『はぁ、もういいです。』
なんだかんだと仲の良い二人ということか、、、
『これは、余計な仲裁だったか。』
『ビルさんまで、、、』
『いや、ビルよ。ありがとな。俺の考えが浅いってのは事実なんだろう。ハイリンもすまなかったな。俺は昔から物事を軽く考えてしまうようなんだ。だが、今後はビルを見習って、少し考えてから行動するように気をつけるさ。』
(ほう、面と向かってハイリンに宣言したな。まぁその少しってのがどれだけなのか本人次第なんだが。)
『もういいです。僕も済んだことを言わないように気をつけます。』
と、やいのやいの言いながら俺達パーティーは、左手に見えるエルトラン湖に沿ってだだっ広い平原を歩いている。
(それにしてもこの湖、大きいな。向こう岸が見えない。)
ときおり、俺達の背中を押すように東からの風が吹き、そして過ぎ去っていく。
まるで、先に行ってるね。と言わんばかりに、、、
『さて、お二人さん。じゃれ合ってる間に、結構街から離れたんだが、そこの草陰に猫が居るぞ。』
「え?猫?」
ガサっと草陰から現れたのは、いわずもがな猫の獣人タンタだった。
「なんで、バレたんだ?驚かせようと気配を消していたのに。」
『ハイド。なんで、こいつが驚かせようとしたのかは、あとで聞くとして、タンタ以外にも生体反応が10体もあるんだが?』
『な!10体?わかった。ちょっと聞いてみよう。』
「おい、タンタ。仲間なのか?お前以外に10体の気配がするが?」
「な、なんだよ。それもバレてるのかよ。」
すごく残念そうなタンタだが、なんの目的で隠れていたのだろうか?
「しかたない。お前ら出てきていいぞ。」
タンタの声に反応して、草陰からにゃ〜にゃ〜と10匹の猫が出てきた。
二足歩行で、、、
(えと、こいつらも獣人?いや、ただの猫?なんだこいつら?)
タンタと違って、こいつらは二足歩行する以外、猫そのものだった。
そして10匹の猫とタンタは、エルトの前でお辞儀をしている。
「エルト様、ご機嫌麗しゅう。」
「えーと、はい。おはようございます。」
「おい、バカ猫。これは何の冗談なんだ?」
「誰がバカ猫だ!エルト様との挨拶を邪魔すんじゃない!」
「いや、挨拶は大事だが、、、って、説明しろよ。」
「ああん?何でハイドにいちいち説明しなきゃなんねーんだよ?」
「あの、タンタさん?私もお聞きしたいです。この仔たち、どうしたんです?」
「はは!実はですね。」
(エルトの言う事には、素直に反応するんだ。エルトの親和性、恐るべし。)
「と、いうわけで、昨夜の妖狐200匹の解体を済ませたわけですが、その作業中にエルト様の話を皆にしたんですよ。皆、一度お会いして頭を撫でてもらいたいと言い出しましてですね。」
(もうすでにエルトによって、可愛がられている状態なんだが、、、)
10匹の猫がエルトにまとわりついていて、エルトによって順番に撫でられている。
タンタの言い分は続く。
「それとですね。今回、妖狐討伐となれば、昨日の数以上の後始末が必要かと思い、エルト様が倒した妖狐を即座に解体するため、こうして連れてきたんです。」
タンタのその言葉にハイドが質問をする。
「理由はわかったが、なんで、エルトちゃんをそんなに敬っているんだ?」
「あぁん?ハイドには、わからんだろうな。何せ、このお方は、ェ、もごもご、、、」
とっさにエルトがタンタの口を塞いだ。
「ん?エルトちゃんがどうしたって?」
「あぁ、エルト様ぁ〜。」
口を塞がれたってのに、タンタは、感極まっている。
(あぶなかった。エルフって言いかけたんだろうなぁ。)
っと、タンタは、真顔に戻りハイドに向かって言い放った。
「俺様は、こういう方との出会いを求めていたんだ!そして、今後はエルト様に尽くし、少しでもエルト様のお役に立ちたくて、、、」
そこでタンタは、くるっとエルトに向き直り、ひざまずく。
「いかがでしょう?エルト様。このタンタとその仲間たちを貴方様の従猫として迎え入れていただけないでしょうか?もう、貴方様のその笑顔、お姿が頭から離れません。一生ついていきとうございます!」
「え、えーと、、、」




