鎧、教会へ行く
東の空が白じる頃、
『教会に行ってくる。ハイド達と朝食を摂っててくれ。あとで街の門の外で落ち合おう。』
と、寝ぼけ眼のエルトに伝え、俺は教会に向かった。
勿論、聖水を手に入れるためだ。
教会の場所は、すぐわかる。
なにせ、今いる宿の前の道、それがメインストリートなんだが、その行き着く先に遠目からでもわかる巨大な建物が見えるからだ。
街の中心に位置する教会は、どこからでも見えるし、どこからでも行ける道があるようで、俺の空間検知で街のマッピングをした結果、教会を中心にしたクモの巣上の道の構造となっていた。
(それにしても、教会の存在感は凄いな。)
俺は、教会の門から建物を見上げ、その荘厳な雰囲気に圧倒される。
白い巨大な円錐状の塔が三つ、その中の中央の塔がひと際目立つ。
天高くそびえ立つその塔は、街全体を見守っているという意味でもあるのかの如く、街を見下ろしている。
(エルデンリングの魔王城ほどではないが、人間も中々に巨大建造物を作るのが好きなようだ。)などと考えてしまう。
立ち止まっている俺の後ろから、俺を避けて人々が教会に入っていく。
まだ街に陽が差してこない早朝でも教会に出入りする人は、意外に多い。
(皆、仕事前の礼拝だろうか?)
と周囲に紛れて教会の中に入ろうとしたら、横から呼び止められてしまった。
「ちょっとちょっと、そこの貴方。いくら冒険者でも、ここは武装禁止です。その鎧を脱いでからお入りください。」
(教会で働く人か。そりゃそうか。)
俺は、謝る仕草を返し、諦めてその場を離れた。
(いかんいかん。喋れもしないし鎧も脱げないのに勇み足だったな。足はないけど、、、聖水は、後でハイリンか誰かに頼むしかないか。)
仕方ないので、このまま皆の待つ街の門の外へ向かおうとする俺に、話しかけてくる人が居た。
「あら?ビルハインドさん?」
俺に声をかけてきたのは、昨日の妖狐一件の事情を聞きに来たギルドの受付のお姉さんだった。
俺は、挨拶っぽくペコリと頭を下げ、その場を去ろうとしたが、、、
「何か、教会に御用だったんですか?あ、喋れないんでしたっけ?」
俺が話せないことは、昨日ハイドから説明されている。
昨日の事情聴取は、ハイドが居たから問題なかったが、、、
(そうだ。)
俺は、あらかじめ用意していた羊皮紙のメモを、そのギルドの受付嬢に見せた。
「まぁ聖水ですか。」
何か察してくれたのか、聖水としか書いていないメモに対し、受付嬢は思案している。
俺は、金貨を数枚取り出し、受付嬢に渡して手を合わせた。
「代わりに聖水をもらってきてほしい、と?」
俺は、頷く。
受付嬢は、怪訝な顔つきで、もっともな助言をくれる。
「いや、鎧を脱げばいいだけなんじゃないんですか?」
俺は、困ったジェスチャーをしただけだったんだが、またもや何かを察した受付嬢は、俺に提案してきてくれた。
「何か事情があるようですね。まぁそれは、いいでしょう。でも、聖水はギルドでも購入できますよ。」
(!!なんと!そうだったのか!確認不足だった!)
「ふふ、ハイリンさんに聞かれなかったですか?私も今からギルドに行きますので、ご一緒しましょう。」
何とも嬉しい申し出だった。
(ギルドなら鎧姿のままでもいいしな。って、この受付嬢の名前は何だったっけ?)
俺は、今更ながらこのお姉さんの名を思い出そうとする。
(あぁ、そうだ。リーチェさんだったかな。)
「それにしても、ビルハインドさんは凄いですね。見た目は戦士風?騎士様風?なのに、広範囲魔術を扱えるなんて。」
俺は、手の平を横にひらひらと振って、”そうでもない”とジェスチャーをする。
「あら、ビルハインドさんは冒険者っぽくないですね。普通の冒険者ならこの大成果を自慢して偉そぶるのに。」
俺は、頭をかく仕草しかできなかった。
「今回の妖狐討伐と調査、期待していますね。」
俺は、拳を胸に当て、任せてくれというジェスチャーを返す。
(なぜだろう?このリーチェさんとの対話が、スムーズに進む。俺、ジェスチャーしかしてないけど。)
「さて、ギルドに着きましたよ。早速、取引と行きましょうか。」
まだ、早朝だからかギルドの建物内はひっそりしていた。
「おはようございます。」
「あ、リーチェさん。おはようございます。」
ギルド内の受付の席に一人、男性が挨拶を返してきた。
「ビルハインドさん、この方は元冒険者のシロクさんです。少し前に怪我で冒険者を引退されて、ギルドの夜詰めをしていただいているんです。」
リーチェさんから紹介をうけて、俺は手を差し出す。
「お?噂の白騎士さんじゃないか。よろしくな。」
シロクさんが俺の手を握り、そんな風に軽く挨拶をしてくる。
「っていうか、リーチェさんとこんな朝早くに?、、、あんた、この娘に手を出したのかい?」
「やだ、シロクさんってば、何言ってるんですか!早とちりもいい加減にしてください。教会前でお会いしただけですよ。ご、ごめんなさいね、ビルハンドさん。」
「なんだ、そうなんだ。俺ぁてっきり、、、」
「シロクさん?」
「なんでもねぇです。はい。」
「はい。では、私が来たので交代しますよ。夜詰め、お疲れ様でした。着替えてきますので、、、あ、ビルハインドさん、聖水もご用意しますので少しだけ待っててくださいね。」
そういって、リーチェさんは、パタパタとギルドの奥へと姿を消した。
「なぁ、ビルハイドさん?リーチェさんとは、本当に何もないんだな?」
俺は、頷きつつリーチェさんに見せたメモをシロクさんにも見せた。
「聖水?だから教会前か。ああ、リーチェさんも用意するとかなんか言ってたな。あ〜そして鎧を脱がないと入れない。脱いだ鎧も持って入るわけにはいかないし、そこに放置しておくのも物騒だしな。で、諦めて帰るところをリーチェさんと出会った感じなのか。」
(なんで、そんなに察しが良いのか?顔に出てたのかな?いや、俺、顔無かったっけ。)
「いい娘だろ?あの娘も年頃だから、恋人の一人や二人いてもおかしくないんだがなぁ。」
(恋人の一人は居てもおかしくはないが、二人も居るというのはどうなんだろうか?)
俺は、人間の倫理観に疑問を抱く。
俺の知っている人間の夫婦は、一夫一婦制となっているんだが、ここまで北に来ると風習も変わるのかな?などと考えてしまう。
「まぁギルド長が怖くて、よっぽどの強さがないと誰も言い寄らねぇか。」
(うん?なんでだろう?結構、美人だし、仕事もできるからか?優秀な職員をギルド長が手放したくないとか?)
俺は、首を傾げる。
「はは、知らないのかい?あの娘は、ギルド長の妹君なのさ。」
(な、なるほど。)
俺は、合点がいったというジェスチャーで答える。
(昨日、ハイドたちからここのギルド長は女性であると聞いていた。なるほど、ギルド長の庇護下にある妹君には、言い寄りにくいわな。となると、ここのギルド長も若くて美人で、しかもできる人なんだろうか。)
俺は、勝手に妄想する。
(ハイドではないが、そんなギルドは、男性の多い冒険者には人気が有るのかも知れないな。)
「お待たせしました。」
程なくして、ギルドの制服に身を包んだリーチェさんが台車とともに戻ってきた。
「金貨五枚分、聖水40本です。」
「こりゃまた、ずいぶんと沢山持っていくんだな。何に使うのか?魔薬でも作るのか?」
俺は、正解のジェスチャーをする。
「まじかよ。あんた、そんな事もできるのか。まるで昔話に出てくる勇者のセイシュウみたいだな。」
(セイシュウ?あぁナイトヒーラーだっけか。)
「ほんとに、そうですよね。ハイドさんも勇者ハイドランドと名前が被っていますし、、、」
(そう言われてみれば、そうだな。パーティーのバランス的にそうなるのだろうが、ハイドランドがハイド、キョウカとセイシュウが俺とハイリン、キキョウと同じタイプのエルト。中々はまり役かもな。)
とか考えつつ、聖水を次元収納へ収めた。
「ほう、次元収納かぁ。珍しいもんを見せてもらった気分だ。」
「それ、凄いですよね。どうなっているんですかね?取り出す時は間違えたりしないんですか?どのくらい入るんですか?」
おっと、今のリーチェさんの質問には、俺は答えることができない。
お手上げのジェスチャーをするだけだった。
「あ、ごめんなさい。しゃべれないのに、つい答えにくい質問なんか。失礼しました。」
「はっはっは、これまた珍しい。リーチェさんの素を見たな。」
「ちょ、なに言ってるんですか、シロクさんったら。ビルハインドさん、ほんとごめんなさいね。」
俺は、ノープロブレムのジェスチャーで返す。
(さて、聖水を入手したし、早く街を出ないとな。)
ギルドの二人に別れのジェスチャーをして、ギルドから出た。
「お気をつけてぇ〜」
リーチェさんに送り出してもらい、足早に街の門に向かう。
(みな、もう待ってるかな?)




