鎧、絆を深める
「ただいまぁ、ビルさん、エルトちゃん、居る?」
そんな声と共に、コンコンコンとノックされる。
「どうぞ。」
エルトが部屋のドアを開け、二人を迎え入れる。
「おう、遅くなってすまんな。」
『二人ともおかえり。ギルドはどうだった?』
『あぁ、少し込み入ってしまってな。実は、ギルド長に捕まっちまって、、、』
『兄さん!そんな言い方、ギルド長に失礼ですよ。えと、ギルド長は、ビルさんの活躍の報告を聞いて、会いたかったらしくて、とても残念そうにしていましたよ。』
『でもなぁ、会いたかったというだけじゃないじゃん?今回の妖狐討伐の要だ!とか言われてさ。』
『いいじゃないですか。どうせやることは変わらないんだし、ギルド長からの直接依頼をこなせば、パーティの格も上がりやすいし。』
『すまん、二人とも。順を追って話をしてくれないか?何かとても大事な話のようだが?』
『そうそう、とても大事な話だ。ギルドとしては、急激に増えた妖狐の討伐はもちろんなんだが、その原因を調べてほしいって言われてな。今回、討伐をしっかりやっても、将来的に同じような危機が起きないような対策、そして起きてしまった場合の対応を考えときたいんだとさ。』
『そりゃそうか。責任者ならそう考えるか。』
『原因がわからないことには、予防も対策も立てられないから、調べてねって言われてさ。』
『調べてね?まさか、ギルド長って女性?』
『ビルさん、正解!兄さんってば、女の人に弱いから、、、』
『あ〜、大体その場の流れは想像がつくぞ。そのギルド長ってのは美人なのか?男の性ってやつだな。』
『おーわかってくれるか!ビルよぉ!』
ハイリンはやれやれといった感じだが、ギルド長からの直々の依頼に対する使命感みたいなものは感じているようだ。
『調査か。なら、やつらの食料になる川魚や小動物を現場で調べる必要があるな。』
『あぁ、例の川に薬品をばら撒いた奴がいるという噂か。』
『そうだ。それを調べれば、何か解るんじゃないか?』
『うん。でも、ある程度妖狐を討伐して、余裕があったらでいいよね。』
『そりゃそうだ。優先すべきは、全員無事に帰還することだからな。』
みんながハイドのその言葉にうんうんと頷く。
『あ、そうだ。ギルド長から調査のための前金を受け取っているんですが、預かっていただけますか?』
『え?俺が?ギルドに預けておけばいいんじゃぁ?』
『いえ、おそらくですが、ビルさん。この街で結構、お金を使ってますよね。』
『え〜、そうかなぁ。』
俺は、人間の貨幣価値には疎い。
次元収納に残っている金貨や銀貨は、確かに減っているが、、、
(金に対する危機管理が薄いのかも知れんな。)
俺は、少し反省する。
『この黄色の宝珠の杖や兄さんの装備の代金。それに先程行かれた薬品店で薬も必要以上に購入していませんか?』
『いや、必要以上かどうかはわからないが、まぁ沢山買ったのは認めよう。』
『ですので、この前金はビルさんの所持金への補填です。』
ぐいっと出された布袋。
前金としての金貨が入っているようだが、えらく強気のハイリンに”不要だ。”とは言えず、受け取ってしまった。
『まぁいいか。パーティーに何か必要な時に使うことにしよう。』
『いや、ですからぁ、、、』
『ハイリン、ハイリン。ビルとエルトちゃんの今の討伐数でも精算したら、二人はギルドから結構もらえるから、それで納得しておこうぜ。』
『そうなのか?二人で870匹。いくらになるんだ?』
『金貨217枚と銀貨2枚ですね。』
『それによ、タンタに頼んでいる素材も買い取ってもらうから、もっと入ってくるぞ。』
『いいのかな、そんなに貰ってしまって。』
『何言ってるんですか。今日のことだけを見ても、街を救ったとも言えるんですよ。しかも死傷者ゼロ。あ、兄さんが負傷者1か。』
「ハイリン、、、」
ハイドが言葉少なげに、何か言いかける。
厳しいハイリンの言葉がハイドにダメージを与えたようだ。
『ともかく、依頼された分の報酬だけでは足りないくらいです。』
『ま、そういうこった。な、冒険者って上手くいきゃぁ儲かるだろ?』
『それはそうだが、死と隣り合わせってのを考えると、あまり手放しには喜べないぞ。現にハイドが死にかけてたじゃぁないか。』
『死んでねーから、いいのさ。』
『ハイドは、あっさりし過ぎじゃないのか?』
『まぁよ、死にかけってのは慣れたと言うか、俺はいつ死んでも悔いはないように生きてっからよ。』
俺はふと思いをハイリンに投げかける。
『なぁハイリン?今回の件、そして盗賊に襲われた後、餓死しかけた件。こういうのって運が良いって言えるのか?』
『そうなんですよねぇ。他にも、、、』
『こらこら、本人を目の前にして言うことか?しかも念話で。』
『もしかしたら、ハイドって神の加護でも付いているのか?もしくは、死神を味方につけているとか?』
『あはは、兄さんのここぞって言う時の強運は、思えば昔からですね。本当に女神様の加護があるのかも知れないですね。』
『ハイリン?その女神様の力による回復魔術で俺は生きてるんだけど。女神様っていうか、ハイリンのお陰で命拾いしていることを考えると、ハイリンの加護といっても過言ではないと思う。なんちって。』
『ここで駄洒落をいうお前の覚悟が凄いわ。』
『もう兄さん。僕が居なかったら死んでたみたいな言い方はやめてください。』
『わはは、いい兄妹じゃないか。』
『はい、とても羨ましいですね、師匠。』
『ん?』
『あれ?』
『えーと、、、』
『お?何だ?なにか変なこと言ったか?』
『あぁ、そうか僕が兄さんって呼んでいるから、、、』
『あ〜、すまん、ビル。ちゃんと言ってなかったな。俺とハイリンは兄弟じゃない。兄貴分弟分ってやつだな。』
『なんだ、そうだったのか。なんとなく似ているところもあったから本当の兄妹だと思っていたぞ。しっかり者のできた妹ってのは、いいなと思ってしまっていた。』
『ん?』
『あれ?』
『えーと、、、』
再び、全員の頭の上に疑問符が浮かぶ。
『何なんだ?俺、またなにか変なこと言ったか?』
『師匠?ハイリンを女の子だと思ってます?男の子ですよ。』
『な!マジか!その顔立ちで!あ、いや、気にしてたら悪いな。謝る。』
『いえ、見た目で女の子と間違えられるのは昔からですから、そこはいいです。でも、男の子っぽく””僕”って使ってたんですけどね。』
『あぁ〜、いや、”僕”って使う女の子もいるかぁ、、、って変に受け入れていたからなぁ。いや、すまん。』
「ふふ、、、」
急にエルトが笑いを抑えきれなくなったのか、声を出して笑う。
『ど、どうした?』
『いえ、す、すいません。ふふふ。』
念話でも笑いが抑えられないエルト、いったい、何がそんなに可笑しいのか。
『師匠は、随分先を見据えていたり、周囲の感知とか凄いのに、身近な人の性別には疎いのかと。そういう一面がおかしくって。』
(、、、それも、そうか。)
俺は、エルトの指摘で少し恥ずかしくなった。
赤面しててもおかしくないが、あいにくと顔がないので、そんな感覚だけが俺を襲う。
『あはは、別にいいじゃねぇか。ビルにも見通せないことがあるってことだろ。完璧な人間なんざ、面白く無いんだからよ。』
『兄さんは、欠点が目立つんですから、もう少し気を引きしめた方がいいと、僕は思いますけどね。』
『ふ、俺は俺だ。これが俺。』
『あはは、ハイドらしいっていうかなんというか。』
そういう俺の反応に、ハイドが俺に告げ口しようとする。
『それを言うなら、ハイリンだって、女の子に間違えられた時にだな、、、』
『ちょ!兄さん!』
その夜は、皆、眠くなるまで、お互いの欠点をいじりあう暴露話で盛り上がってしまった。
欠点とは言うが、みな、それが個性だということは、充分に理解している。
だからこそ、心から笑い合う。
この一場面は、エルトにしてみれば、凄く新鮮だったようで、彼女の笑顔は絶えなかった。
その笑顔を見て俺は、この娘をエルフの村から旅に連れ出して良かった、と心底安堵する。
そして、夜は更けていく。
、、、結局、俺が矢面に立たされた話が多かった気がする。
(解せぬ。)




