鎧、相談する
街の大通りからハイド達は、ギルドへ、俺達は、薬品店へとそれぞれ向かう。
大通りから別の道に入り、その薬品店へ向かう途中、俺は気になったことをエルトに聞いてみた。
『エルト。あの獣人のタンタのことなんだが、、、』
『さすが師匠。気が付きましたか?そのとおりです。』
『いや、まだ何も言ってないが、、、まぁ、あのタンタの変貌ぶりの原因は、エルフの特性ってことで合っているか?』
『はい。特に私は森の動物達との親和性に秀でていたそうで。』
『そうか。変に納得できてしまうな。』
(まぁ、そういうのもエルフの能力の一つなのかな。)
『あ〜、だとすると。』
『なんでしょう?』
『明日、やつと合流した時、エルトと俺の秘密を話しておいて、口止めをしておいてほしい。獣人だからか、鼻が効くらしく、俺が人間でないことを見破りそうなんだ。』
『そうなんですね。わかりました。』
ああいうのは、変に隠すと返って気づかれやすい。なら、いっそ話した上で、内緒であることを伝えといた方が良策だろうと、俺は思った。
『でも師匠。』
『ん?』
『ハイドさん、ハイリン。師匠の話していた人間の相棒には、もってこいじゃないですか?そろそろ秘密を話してみては?』
『うん、相棒な。それなんだが、昨夜、色々と判明したことがあって、俺の事情に彼らを巻き込んでしまっていいのか、迷っているんだ。これは、エルトに関することでもあるんだが、宿に戻ってから相談に乗ってくれるか?』
『はい、わかりました。でも気になりますね。その事情って、、、』
『あぁ、あとでな。』
俺達は、街の市場の広場近くに来たみたいだ。
陽が傾きかけている時刻の市場は、買い物客が最も多い時なんだろう。
威勢のいい店の呼び込みや買い物客同士の雑談なんかで、賑やかな場所だ。
その客をあてにした屋台も多く出ている。
少し前に街の外であった騒動なんて、無かったかのような賑わいだ。
多分、その屋台のいろんな食べ物のいい匂いが漂っているのだろう。
俺には匂いがわからないが、エルトの鼻がスンスンと忙しなく動いている。
『ところで師匠。』
『ん?』
『魔力矢の元になる葉というか枝でもいいですが、どのくらい準備しましょうか?』
『天樹の樹皮は、まだあるが、、、エルト、例えばあそこに売っている肉串の串なんかでも矢にすることはできるか?例の精霊力を分けてもらって付与するってことを考慮して。』
『えと、試してみないことには、、、』
『そうか、そうだな。』
俺は、屋台で売っていた肉串を二本買って、エルトに渡す。
『あ、ありがとうございます。いただきます。あら、これもおいひぃ。』
『エルフって草食主義ってワケではないんだな、、、』
『私達は狩猟族ですよ?むしろ肉料理は好物です。』
『そ、そか。』
俺の中で、エルフのイメージが少し壊れた気がした。
『で、この串を矢にするんですね。えと、まず土の精霊さんからですかね。』
道の脇でエルトが地面に手をつき、右手に握る串を額に当てた。
エルトの手と額が一瞬、淡く光った。
『できました。』
『はや!っていうかできちゃうんだ、、、』
『次に風の精霊さんですね。って、あれれ。これも簡単でした。この街には、どちらも小精霊さんが多いのでしょうか?』
『俺には、精霊を感じる力がないからわからんよ。』
エルトが手にした先程まで串だったものは、見た目に一本の矢になっている。
(少し透けているのは、魔力矢だからかな?)
『これが、私の魔力で成形したマジックアローになります。』
『おおぅ、これは、、、ちゃんと使えそうだな。』
『そうですね。天樹様の素材ではないので、多少威力は落ちるかと思いますが、あの妖狐くらいなら大丈夫かと思います。』
『そうか。なら天樹の葉は、とっておくか。よし、後でこの串をどこかで大量に手に入れよう。』
『はい。っと、師匠。薬店はここです。』
俺達は、薬品店っぽい薬草の看板の掲げている店に入り、そして、買い過ぎたか?と思うほど薬を買ってしまった。
妖狐の血清による毒消しを含めて、他の回復薬も大量に入手したのだ。
『師匠、そんなに薬を買って、、、良いんですか?』
『ん?金ならまだあるし、それに俺が薬を作れないか試したくなってしまったんだ。』
『師匠のその探究心には感服いたしますが、、、』
エルトが若干の呆れ顔でそう言うが、俺は試したいという衝動に勝てない。
サンプルとして各種の薬を揃えたかっただけなんだが。
『いや、できるかどうかを試すだけだぞ。別に薬師になりたいとか、そういうんじゃないから。』
そうして、俺達は宿屋アムールに戻ってきた。
途中、エルトに買い食いさせながら。
『ハイリンと街を回った時も楽しかったですが、途中で街の外に黒煙が見えたもので、、、あらためて今回、師匠とだとより楽しかったです。』
『あ、うん。食べてばっかりだった気がするが、、、まぁエルトが楽しかったんならいいか。』
俺達はアムールの二階、妖精の間を訪ねてみたが、まだハイドたちは戻ってきていないようだ。
「お二人、まだのようですね。」
『しかたない、俺達の部屋で待つか。』
(待っている間に、俺の考察をエルトに聞いてもらおうかな。)
俺達は、エルフの間で二人を待つことにした。
エルトが部屋の窓を開けると、夕日がすっと部屋を照らす。
『うわぁ、きれいな夕日が見えますよ。』
窓の外をぼんやり眺めているエルトに、俺は念話を送る。
『エルト、実はな。君に少し話をしておきたい。』
『え?あ、はい。先程の事情という話ですね。どういった話でしょうか?』
『そう、さっきも言ってた君に関する事、、、というか、君の種族と人間に関することだな。2000年も前の話になるが、俺の中のキョウカが過去の記録を教えてくれてな。』
それを聞いて、エルトは一瞬こわばった表情になった。
俺は、ハイドたちにも言っていない昨夜のキョウカの話、2000年前のエルフ達の企みの記録をエルトに話して聞かせた。
ただし、キョクロプスの核の欠片の話は、エルトにも内緒にした。
これの影響が出ないとも限らないし、余計な心配を増やすだけだしな。
『途方もない、でも真実味の有る話ですね。私達の先祖がそんな風に行動していたなんて。』
『いやまぁ、言ってしまえば、今、この大陸に存在している生き物全員の先祖が関わっているからな。ともあれ、エルフたちも必死だったんだろう。それで、キキョウに会ってエルトッキュの天樹の呪縛というか、結界を解いてもらうよう説得してもらえれば、エルミの悲しい未来が変わるような気がしないか?』
『そうですね。朗報です。ですが、、、』
『ですが?』
『いえ、私達の願いにキキョウ様がなんのメリットもなく、動いてくれるでしょうか?』
『た、たしかに。それについては、何か考えておこう。それはそうと、今の状況や噂話からの俺の考察を聞いてほしいんだが。』
俺は、街の噂になっている各地の異変について、何らかの形でキキョウが関わっているのではないかと、考えていることをエルトに伝える。
『キキョウ様の企み?かどうかはわかりませんが、この国のあちこちで、何か実験的な意味で動いている、ようなそんな気がしますね。』
『そうかぁ、実験かぁ。その線はあるな。』
『仮にキキョウ様が何かを企てているとして、その目的がわかりにくいですね。今更、エルフの復権?この大陸の支配?なんて望むことはないと思いますが?』
『ん?ん〜?確かに、何を望むのか、か。それよりは、実験している。と言われた方がしっくりくるな。キキョウじゃない可能性もあるが。』
(まぁ直接会って聞き出すしか無いか?そんなに簡単に会えないけど。)
『それで、先程のハイドさんを相棒とする話ですが。』
『ん、俺達の、エルトッキュやエルミの問題、キキョウに会うことに巻き込んで良いのかどうか?』
『はい。私は、彼らを頼っていいと思います。ハイドさん達と行動を共にすれば、師匠は人間の国で動きやすくなりますよね。例え装備してもらえなくても。』
『そうだなぁ。今更、装備してほしいって言いにくくなってしまったな。』
『ハイドさん達も師匠の力で冒険や旅が楽になるでしょうし、、、あの二人、少し危なっかしいですしね。』
『それは、俺達も冒険者になる、っていうことか?』
『鍛冶師を目指す者としては失格ですが、鍛冶の事は今回の旅、キキョウ様に会ってエルトッキュの問題を解決したあとからでもできなくはないかと。』
『そうか、そうだな。そこは別に急がなくても、時間はあるもんな。』
「それに問題がなくなれば、エルトッキュで、師匠と二人でのんびり暮らせますし、、、」
エルトの最後の言葉は、なぜかうつむき加減で声が小さく、しかも念話ではなかった。
『?』
『い、いえ。しっかりと鍛冶の仕事を覚えることは、忘れません。』
『まぁ、エルトの考えはわかった。今回の妖狐の討伐が無事に終わったら、彼らに俺達の秘密を話して了承を貰えれば、今後も一緒に旅をしようか。』
『はい。私に何ができるかはわかりませんが、お手伝いします。』
『おぉ。頼むな。っと、噂をしていたら二人が帰ってきたようだぞ。』




