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鎧、知識を得る

 「あら、可愛い猫ちゃん。はじめましてエルトです。」

 エルトの魅力的な微笑みにタンタはもちろん、その場にいた全員が見惚れてしまった。

(さ、さすがエルフ。人間に化けていても、なんちゅう破壊力!)

 タンタなんて、さっきまで膨らんでいた尻尾が細くなって左右にぶんぶん振り続けていて、完全に骨抜き状態になっている。


 っていうか、エルトの足元で寝っ転がって腹をみせてしまっている。

(あぁ、負けの意思表示かな?でも、それって犬の習性じゃなかったっけ?)

「よしよし。」

 そんなタンタの頭をエルトが撫でる。

 タンタはタンタで、猫特有のごろごろ音、喉を鳴らしてしまっている。

『もうメロメロじゃん。』


「おい、タンタしっかりしろ!仕事の話を聞けって。」

「貴方様のペットにしてくださいにゃぁ〜。」

「だめだ、こりゃ。」

 タンタは完全に我を忘れているようだ。

 エルトの腕にスリスリ頭を擦り付けている。


「何をやっているんですか、この化け猫は!エルトちゃんから離れなさいって。」

 エルトにべったりくっついていたタンタをハイリンが羽交い締めにして、引っ剥がす。

「ハイリン、邪魔するなよぉ。あぁエルトさまぁ。」


『なぁハイド、こいつどうしちゃったの?』

『いや、俺もわかんねぇ。なんか酔っ払いみたいになってんな。エルトちゃんからマタタビの匂いでも出ているんじゃないのか?』

『んなことあるか?っていうか、このままじゃ話が進まないから何とかしないと。』


『まさか、、、エルトちゃんって、ビーストマスターかティマーの素質があるんじゃぁ?』

『あのな、ハイリン。何でもかんでも言えばいいってもんじゃ、、、で、本当のトコはどうなんだい?エルトちゃん?』

『、、、ハイドまで、、、』


『え?さぁ?私には、よくわかりませんけど、、、』

『まぁ、確かにこんな事をしてたら日が暮れてしまうな。エルトとハイリンは、少し向こうの建物まで離れてみてくれ。』

『はーい。』


 ハイリンとエルトが俺達から離れる。

 それに付いていこうとするタンタ。

 ハイドは、タンタの首根っこを掴んで、耳元で大声で叫んだ。

「タンタ!しっかりしろ!」

「はっ!俺様はなにを?」

(ようやく、元に戻ったか?)

「俺様は何を?じゃねぇって。」

 それでも、チラチラとエルトの様子を伺うタンタ。

(何なんだろうか?)


「おそろしい人間だぜ。俺様を骨抜きにするなんて。」

「お前、我を忘れてたぜ。どうしちゃったんだ?」

「俺様もわからん。」

「まぁいい。仕事の話だ。俺達が討伐した妖狐の死骸はどこだって話だったな?ビル、出してやれ。」

 俺は頷き、次元収納から妖狐の死骸を一気に出してやった。

「な!うわ!なんちゅう量だ!ってか、どこから出したんだ!?」

 妖狐一匹の大きさは、大型の犬くらい。

 その死骸200体を出した。

 ちょっとした山になっている妖狐の死骸を見て、タンタは尻もちをついている。


 俺が討伐した妖狐の数は700と少しは、溶岩射出や樹火球でみな燃やしちゃったからな。

 この200体は、ハイドの剣、そしてエルトの弓矢で仕留めたものだ。


「凄いな、ハイド。こんなに大量に?お前たちだけで?」

「ん〜、いやまぁ、詳しく言うと、この200匹はエルトちゃんと俺が仕留めたもので、ビルの魔術で、700匹以上を始末したんだぜ。」

「な!ななひゃくぅ?とんでもないな。まさか、その700匹の死骸も解体するのか?」

「いや、それはない。その700匹は、火魔術でぶっとんじまったからな。」

「え?えーと、そんな事ができるのか?」

「できちゃうのよ。このビルの魔術は凄いんだって。」


「さっきの街の外の黒煙がそうか、、、ま、まぁいいか。とりあえず、この200匹の解体だな。仲間とやっても一晩は掛かりそうだなぁ。」

「まぁ気長に頼むわ。でも明日の早朝に出発は変更しないぞ。」

「お前は鬼か。しかし、どうやってこんな数の妖狐を始末したんだ?」

「知りたいか?」

「、、、、、、」

「明日、ゆっくり話してやるよ。」

 ハイドは、ニヤリとした表情でタンタに言い放つ。

(あぁさっきのタンタが”いよいよか”って言ってたやつの意趣返しか。)

「じゃ、俺達は、疲れたから宿に戻ろうぜ。あとはタンタに任せとこう。」

 ぼーぜんと妖狐の山を見ているタンタをその場に残し、俺達は宿に向かう。


『ハイド、俺は、ちょっとエルトと街を見て回りたい。先にハイリンと食事でもして宿で休んでてくれ。』

『あぁ、わかった。が、また何か企んでいるのか?』

『、、、企むって、、、まぁ今日の事で、妖狐の数が俺の想定以上だということがわかったからな。何かしら対策を立てておこうかと。』

『それな。確かに異常な数だったもんな。ん、なら俺はギルドに寄って、他の冒険者パーティに声を掛けとくわ。連携できれば、なお良し。だな。』

『それがいいな。戦略は任せた。戦術は俺が担当ってことで。あ、そうだ。ハイリンに聞きたいことが有ったんだ。』

『なんですか?』


 俺は、自分の知識にない薬の知識について、ハイリンに聞いておこうと思ったんだった。

 今回、ハイドを危険に晒してしまった。

 そのあたり、知っていると知らないとでは雲泥の差があるだろう。

 つまり、毒について。

『ハイリンは、解毒魔術でハイドを治癒しただろう?魔術に頼らずとも妖狐の毒に効く薬も有るのか?それは用意されている?その毒消しは一般的なものなのか?妖狐にのみ効くのか?』

『え、えーと、えらく熱心ですね。まず、毒消しの薬って、それぞれ魔物の毒によって血清成分が違います。クモ類、ヘビ類、魚類、蟲類、そして、獣類。獣類以外のそういった毒消し薬は、妖狐の毒とは全然違う成分なので効果はありませんね。』

『やはり、、、』

『確かに、この街では、獣類用毒消し薬とは別に妖狐専用の毒消し薬が作られています。ですが、もっと効率の良い薬が魔術によって存在します。魔薬というものですね。』

『ほう、魔薬?』


『先程、例に上げた毒消しは、その毒に罹った他の動物の血を元にして、人間の体内に入れても良いように改良されたもので、その薬を飲んで体内で抗体を作り、体内に回った毒成分を無効化する方法です。』

『なるほど。飲んだ人間の治癒力に頼ることになるわけだな。』

『はい。メリットは、対処が早ければ猛毒でも効果がありますし、一度の使用で数日は効果が持続します。デメリットは、効果が現れるまで時間が掛かるのと、対処が遅かった場合、間に合わずに、効果が出る前に死亡するリスクがあります。』

 得意分野の話だからか、ハイリンは得意気に説明してくれる。


『さもありなん、だな。自分の自然治癒力によるわけだしな。』

『それに対し、魔薬は、体内にある毒成分の分別を素早く行い、それを魔力で打ち消します。即効性に優れていますし、例に上げた毒の殆どに効果があります。まさに万能薬ですね。』

『おー、それは確かに。それで、デメリットは?』

『デメリットは、粗悪品が出回っていて、そういうものだと薬内の魔力不足で、充分な効果が期待できませんし、猛毒にはより魔力が練り込まれた上級の薬でないと効果がでません。まぁ保証のある信用のおける店での購入が一般的です。その分、高価にはなりますが。あと持続性は無いので、毒消し効果は一度きり。毒を受けてしまう毎に一本消費することになります。』

『ま、そうだろうな。』

 俺達は、タンタの棲家から街の大通りに向かっているのだが、ハイリンの講釈が止まらない。


『ちなみに、世の中には、この対魔薬毒というのも存在するそうです。毒と認識されないようにカムフラージュした毒ってところでしょうね。他にも、、、』

『ちょっ、ちょっと待った。ハイリン、もう充分だ。君が薬に対して非常に詳しいということは分かったが、、、』

『あ、すいません。調子に乗りすぎちゃいました。本題に戻ります。』

『うんまぁ。で、その魔薬を用意したってことでいいのかな?』

『はい、数は10本です。』

『今日のようにハイリンとはぐれたりした場合に備えたいから、もう少し購入しておこうと思う。』


『そうですか。そうですね。では、予備の購入をお願いします。』

『師匠、ハイリンと一緒に行った薬の店なら、私、覚えています。』

 エルトが自慢げにアピールしてくる。

『そうか、じゃぁ、ここで別れよう。』

『おう、宿屋で落ち合おう。』

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