鎧、照れる
『ちぇっ。あ、そうだ。じゃぁ、宿に戻る前にタンタんとこに寄るぞ。』
『え?あの化け猫に会うんですか?』
『はは、ハイリン、そう言うな。魔物の解体なんかを依頼したトコだったんだ。今回の依頼が完了するまで利用させてもらう。』
『兄さんがそう言うならいいですが、、、でも、いつの間に接触してたんですか?』
『街の外に出る前にな。俺は元々そのつもりだったんだ。ハイリンに黙ってたことは謝る。』
『別に謝らなくて良いですけど、、、』
『ああ。そうだ。タンタんとこ寄るなら、エルトも顔を合わせておこうか。』
『そうだな。そうしよう。』
俺達は、さっそく街に入り、タンタの棲家に向かう。
『師匠。タンタってどなたですか?』
『道すがら事情を説明するが、その前にエルトに聞きたいことがいくつかある。』
『はい?』
『昼前の訓練所での火属性付与と思しき矢は、どうやったのか?そして、さっきの魔力矢は、どうやって出したのか?』
『はい、簡単です。師匠から頂いたこの葉を使っています。火属性を付与した葉を矢に巻き付けただけです。そして、あの妖狐には火がダメってことだったので、この葉を細長い状態に刻んで、このように小さな枝になるようにして、そこに土属性付与して、更に魔力成形で矢の形にしています。』
(そうか。天樹の葉を使って、、、なんて器用なことをする娘なのか。)
『むぅ、魔力成形か、、、それにしても、一回の射撃で一本の矢が途中で複数に分かれていた。そして、全部、妖狐の急所に命中していたが。あれは?』
『あれはですね。この刻んだ葉を十本をまとめてから魔力成形矢にしたので、矢を放ったあとにバラけるようにしています。さらに命中率を上げるためにそれぞれを制御できるようにしています。』
『せ、制御?矢継早に十回くらい矢を放っていたよな?おおよそ100本の制御ってできるのか?』
『えっとですね。あの妖狐の急所、頭の額を自動認識できたので、そこを狙って誘導しました。』
(わけがわからない。)
エルトの説明を聞いてもピンとこない俺だった。
『ビルよ。エルトちゃん、何言ってんの?俺にはさっぱり理解できないんだが。』
『安心しろハイド。俺も何が作用してそうなっているのか良くわからんから。』
『え〜っと、、、』
『あぁエルト、すまん。多分だが、エルトの中で何か能力が開花したんじゃないかな。その力がエルト固有の能力なら、俺達には理解できないって感じだな。』
『そ、そうなんですかねぇ?』
『自覚はないか。』
『あれだけできれば一人前。いや、それ以上だな。』
ハイドがエルトを褒め称える。
褒められ慣れていないエルトが少し顔を赤らめている。
(俺ももっと褒めたほうが良いのかもなぁ、、、)
『そうだ。今更になるがエルトにアドバイスだ。』
『はい!どのような?』
『もう、この葉の中の精霊力をちゃんと感知できているのだろ?ならば、その力の調整や調節もできるはずだ。更に本来のエルトに宿る力なんだが、俺達の周りの小さな精霊から少しづつ力を分けてもらって、何も付与されていない物に精霊力を付与するってこともできるはずだ。今までは、人の使う魔術で自身の魔力を使っているが、今後は、そういったことを意識して、、、って、何やってんの?』
エルトは俺の話を聞きながら付いてきていたと思っていたんだが、気づくと俺達の後ろの方で座り込んで、手のひらを大地に押し当てていた。
『師匠!』
『な、なんだ?』
『師匠に言われたこと、今、試したら、土の精霊が答えてくれました!』
『な、、、、、、、』
(もうできたんかーい。末恐ろしい娘だ、、、)
『そ、そっかぁ。もうできちゃったかぁ。あとは、少しづつ力を分けてもらって対象物に付与していく練習だけだな。それができれば、この葉も要らなくなるな。』
俺は、この天樹の葉と同じようなものをエルトが作れてしまう、そんな未来を予想してしまう。
『はい、あとでやってみます。』
(やっぱ、この娘、天才かも。)
『なぁビル?』
『なんだ?』
『エルトちゃん、シャーマンなのか?エルフの血でも引いているのか?精霊がどうとか、魔術師というよりそっちの方なのか?』
『ん〜。そうだなぁ。魔術師でもあり精霊使いでもありって感じだな。付与術師って知ってるか?ただの魔術師や精霊使いではできないことをエルトは、たった数日でやっているな。しかも、まだ成長し続けている。』
『マジか。いや、付与術師ってのは聞いたことはないが、今よりも強くなるのか?エルトちゃん、君はいったい何者なんだ。』
『いえいえ、私は私ですよ。鍛冶見習いです。』
『んなわけあるかい!いや、否定は、できないか。しかし、鍛冶師になるなんてもったいないわ。』
『お?その発言は聞き捨てならないなぁ。鍛冶師がなんだって?』
『あ〜、すいません。ビルさん。兄さん、悪いとこ出てます。』
『おっと、前言撤回。すまん。』
『あぁ、冗談だ。でもな、価値観ってのは人それぞれだ。気をつけておいた方がいいんじゃないか。』
「兄さん、ビルさんは冗談って言ってるけど、かなり怒ってますよ。」
「う、うん、あとでちゃんと謝るわ。」
とかなんとか、俺の前を行くハイドとハイリンがこそこそと言い合っている。
(全部聞こえてるケド、、、)
「ふふ」
ふいにエルトが笑う。
『エルト?何か可笑しなこといったか?』
『いえ、以前にもハイドさんが師匠の職業を聞いて、鍛冶師なんかって言ってた気がしたんですが、その時は、そんなに怒らなかったじゃないですか。』
『う、うん?』(そういえば、そんな一幕もあったか?)
『いえ、その差は何かなっと考えたら、急に笑いが込み上げてしまって。』
『違い?ん〜?あぁそうだ。ハイドたちには言ってなかったが、この子の両親は少し前に他界しているんだ。二人とも鍛冶師だったらしい。だから鍛冶師を軽く見る発言は、な。エルトの笑いの意味はわからないが。』
『、、、そ、そうか。そりゃ知らなかったとは言え、配慮に欠けてたな。すまん。』
『いえ、私の両親の事を悪く言われたわけじゃないですし、それに、なんだか嬉しくて。』
『え?だからなにが?なんで?』
俺の疑問は、次のエルトの一言で急速に照れに変わった。
『師匠が私のために怒ってくださる。そのことが私には嬉しく感じたんです。』
『え?、、、、、、』
ハイド、ハイリンから、なんだか生暖かい眼差しを感じる。
それに気づいたエルトも少し顔を赤らめている。
ほのぼのとした雰囲気のなか、そうこうするうちにタンタの棲むスラム街に着いたようだ。
まだ日暮れ前なのに少し薄暗く感じるスラム街。
そこにハイリンの少し大きめの声が響く。
「兄さん、着いたようですよ。僕は、あの化け猫を相手にするのは嫌ですからね。」
『それ、念話で良くね?タンタに聞こえるようにか、、、』
「ふん、相変わらずだな、ハイリン!言っておくが、ハイドの方から俺様を頼ってきたんだからな。仕方なくってヤツだぜ?」
どこからともなくタンタの声だけが聞こえてくる。
「よく言うよ。どうせ金に目が眩んだだけでしょうが。」
「にぁにを〜!」
「ストーップ!お前ら、なんでそんなに仲が悪いんだよ。」
シュタっとタンタが目の前に現れた。
相変わらず、素早い!
「ハイド、どうした?出発は明日だろ?何か有ったのか?街の外が騒がしいが、それと関係があるのか?」
「察しが良いな。実は、お前と別れてから街の外へ向かったんだ。で、街の外で妖狐の集団を見つけてな。撃退しちゃったのよ。」
「ほう、なるほど。街のこんな近くで?いよいよか、、、」
「ん?何がだ?」
「いや、詳しいことは、明日にでも話してやるよ。んで、撃退したはいいがその妖狐の毛皮やらを売れるように加工してくれって話か?」
「そうだ。前金代わりのモノは、渡しているんだ。やってくれるよな?」
「あぁ、いいぜ。約束だからな。で、どこにあるんだ?って、ちょっと待て、その前にそこの見慣れない女は、、、?」
「あぁ、さっき話したろ?もう一人の同行者のエルトちゃんだ。」
タンタは、僅かに尻尾を膨らませながら、エルトに近づき始めた。
(なんだなんだ、エルトが気に入らないのか?)
俺は、エルトを守ろうと、タンタとの間に割って入ろうとしたが、それは必要無かったようだ。




