鎧、妖狐討伐に挑む
(むぅ、やはり甘かったか。)
妖狐の生き残りは、100匹以上居るようだ。
(俺の火壁の範囲から漏れていた群れが居たのか?あるいは、隠れていた?)
『すまん、ハイド。俺の魔術から逃れた生き残りが100匹以上も居る。こっちに来るかも知れん。』
『ちょ、まずいって。毒持ちだからちょっとでもキズを付けられると、本当にヤバい。ハイリンもいないし。』
『いざとなったら、浮遊で空中にでも逃げるさ。』
妖狐たちは、俺達に気づいたのか、まっすぐこちらに向かってきている。
俺の魔術から逃れた数十匹もその集団に合流している。
『やつら、来るぞ!』
更に少し離れて、俺の生体感知外にいたのか別の集団も現れた。
『すまん、ハイド。別の場所に別の群れがいたようだ。』
「なんだとぉ!万事休すか、、、」
(さて、どうするか。こちらに向かってきている集団は、120から130くらい?そのくらいならハイドと樹火球で迎撃できるが、後ろの別の集団は、、、無理だな。)
(キョウカ?火壁や火球を使える魔力は残っているか?)
(ムリっす、、、)
(どうした?大丈夫か?)
(ダンナは、平気なんだろうけど、一気に魔力消費したんで、、、普通なら気絶ものよ。)
(まじか。わかった、無理させて悪かったな。)
(逃げるためにも魔術使うことも考えて。少しだけなら、まだ残っているから。)
(あぁすまない。)
あれだけ広範囲だったんだ。
消費魔力量も桁違いだったのだろう。
『ハイド、近づいてくる集団は、剣で撃退するぞ。別の集団からは、まだ距離がある内に逃げる。』
『よし、覚悟はできたぞ。かかってこいやぁ!』
もう目の前にフワフワした白色の毛皮を持つキツネのような獣が迫ってきていた。
そのフワフワ感とは裏腹に、牙を剥き出し敵意に満ちた表情は、確かに魔獣そのものだった。
「キシャー!」
ボン!ボン!
「キャン!」
「シャー!」
ボン!
「キャイン!」
俺は、樹火球で一頭、また一頭と仕留めていく。
『ハイド、俺の後方で取りこぼしを頼む!』
『あぁ、わかってるって!』
俺は鎧だから、というより身体がないから、こいつらの毒攻撃には関係ないが、生身のハイドは、そうは言ってられない。
(くそ!さすがに数が多いか。)
俺は、樹火球の連続使用や木の盾からの土塊などでハイドの盾役になっているが、、、
ハイドも後ろに回り込んできた妖狐を剣で捌いている。
しかし、、、ジリ貧か、、、
俺達の周囲は妖狐の死骸で一杯になる。
(まだ、数十匹いるが、ここらへんで撤退だな。)
そう思った時、ハイドの様子がおかしくなっているのに気がついた。
あきらかに動きが鈍り、衰弱しているのがわかった。
『どうした、ハイド!』
『すまん。足に毒をもらっちまった、、、』
『な!すぐに撤退行動をとる。』
俺は、残った魔力で浮遊魔術を使い、自分自身とハイドをすぐ近くの木の上まで運んだ。
『ハイド、しっかりしろ。』
『しくじったぜ、、、、』
俺達の居る木の下では、生き残りの妖狐が木の上の俺達を取り囲んでいる。
(やつら、木に登ることができないのが救いだな。しかし、、、)
浮遊魔術で街まで戻ることは可能かも知れないが、俺の魔力+キョウカの魔力も既に枯渇している。
木の上に上がるだけの魔力が残っていて助かりはしたが、このままだと、ハイドの身体に毒が回ってしまう。
撤退判断が遅かったことを後悔したが、今更どうしようもない。
(キョウカ、ハイドを助ける手段はないか?)
俺は、藁をもすがる思いでキョウカに問いかけたが、返事は無かった。
(そうか、キョウカもギリギリだったな。俺だけなら助かるだろうが、、、)
この鎧のおかげで、毒は効かないし、妖狐一匹一匹の牙や爪の攻撃力も大したことはない。
俺だけなら、妖狐達に攻撃されながらも普通に歩いて街に戻れるが、ハイドを置いていくわけにもいかない。
『ハイド。すまなかった。俺の撤退判断のタイミングミスだ。』
『ハァハァ、いや、あんたのせいじゃ、、、ハァ、、、ないさ。俺のミス、、、』
ハイドは、すでに足から全身に毒が回ってきたのか、息が荒くなっている。
「あきらめるのは、まだ早いです!」
そこへ、どこからともなく声が響いた。
(え?)
と、思う前に、多数の矢が一斉に飛んできた。
それも数回、連続で。
木の下に居た妖狐が一瞬にして全滅してしまった。
『この声、そしてこの矢は、エルトか!?』
『遅くなってすいません。師匠!』
少し離れた木の上にエルトが弓を番えて、格好良く立っていた。
その美しく立つ姿に、神々しい後光がさして見えた、気がした。
『助かった。いや、安心はできない。ハイドが毒を受けてしまって、すぐに治療が必要な状態なんだ。』
俺は、救世主たるエルトに感謝しつつ、現状、ハイドがヤバい状態であることを伝える。
『はいはーい!ハイリン、とーちゃーく!』
ハァハァと息を切らしながら、ハイリンがエルトの近くまで走って来ていた。
全力で走ってきてくれたんだろう。
「はぁはぁ、ごめん、ビルさん。そっちの木の下まで行きたいけど、妖狐の死骸が邪魔で、、、」
『あぁ、いま、そっちまで行く。』
俺は、ハイドとともにハイリンの居場所まで降り立ち、ハイドの介抱をハイリンに任せる。
『すまん。ハイドを頼む。』
『頼まれなくったって!任せて。』
ハイリンが目をつぶり、治癒の魔術を行使する。
(これが解毒魔術、、、)
ハイリンの全身が淡く光り、その一部がハイドを包み込む。
『師匠!別方向から魔物の集団が来ます!迎撃します!』
『あぁ、頼む。こっちの二人は俺が守る。っていうか、矢は足りるか?』
『大丈夫です。魔力矢です。魔力ある限り打てます!』
『そ、そうか、なら頼む。』
(しかし、魔力矢なんて、いつの間に、、、)
エルトの魔力矢の威力は、エグかった。
エルトの放つ一本の矢。
それが発射されるやいなや十本ほどに別れ、近くまで迫っていた妖狐の集団に雨の様に降り注ぐ。
いや、それだけでなく、一本一本、確実に妖狐の額に突き刺さっている。
エルトの十数回ほどの射撃で、こちらに迫ってきていた妖狐は、攻撃する気を失ったのか散り散りになって、西の方へ逃げていった。
そして、ハイリンの解毒魔術で回復したハイドを含め、俺達は街の門の外で冒険者ギルドの職員に事情を伝えていた。
「ハイドさん、皆さん。有難うございました。」
街の守備隊が周囲を警戒する中、ギルド職員が深々と礼を伝えてくる。
「この一件は、早速ギルド長へ報告してきますね。謝礼金が出ますよ。きっと。」
そう言って、ギルド職員たる受付嬢が街の方へと足早に帰っていった。
(受付嬢が事件の情報集めまでするのか、、、大変だなぁ。)
そんな呑気なことを考えている俺に、ハイドから声が掛けられる。
『ビル。色々あったが、命拾いした。ありがとうな。』
『いや、俺の判断ミスでお前は死にかけたんだ。そこは感謝じゃなく苦情をいうところじゃないのか。』
『何を言うか。あの場から生還できたのは、紛れもなくあんたのお陰なんだよ。あの妖狐の大群をみた時は、もう死んだと思ったからよ。』
『いや、生還できたのは、エルトとハイリンのお陰だ。』
『確かに俺達だけを見ればそうかも知れないが、あの大群は、並の冒険者じゃどうすることもできないだろうし、最悪、ハイファーの街に被害が出たかも知れん。それを食い止めたんだ。感謝の言葉くらい素直に受けとこうな。』
『わかったわかった。でも、すまなかった。お前の命が危なかったのは事実だ。あの場での自分の魔術効果を過信した俺のミスもあったんだ。』
『いやいや、ありゃすごかったぜ。それに見ろ、このギルド証のラウをよ。』
『ウラ?』
どういう仕組みかわからないが、そこには討伐数が示されていた。
エルトも確認している。
『俺は、55匹。エルトちゃんは160匹。ビルは、、、710だ!桁違いだろ?』
『合わせて935匹。逃げた奴らと合算すると1000匹以上居たってことか、、、』
『いや、この数をみて、感想はそれかよ。でなくて、あんたが一番の功労者って話だよ。さっきのギルド職員のお姉さんが目をパチクリさせてたぜ。』
『あぁ、ギルド証を見せてほしいと言われて、差し出したときか。』
『さぁさぁ、兄さんたち、お疲れ様でした。一旦、街に戻りましょう。』
『そういや、ハイリンとエルト。街の外の俺達のピンチに良く気がついたな。』
『なに言ってるんですか!街の外であんな黒い煙が立ち上れば、街中にいたって異常事態だって気が付きますよ。そりゃ、最初は、兄さんがまた何かやったのかと変な心配しましたけど、、、』
『ハイリン、、、』
ハイドは、なんとも言えない顔になっている。
『それよりも、エルトちゃんの反応の方が正しかったですよ。僕が変な心配してる隣で、”師匠に何か異変が!”って、言って、街の外へ走り出したんですよ。』
『い、いえ、私はただ、この念話が通じなかったので、せめて通じる距離まで近づこうと思って、、、嫌な予感もしましたし。』
『あぁ心配かけてすまなかった。弟子に心配かけさせてしまうなんて師匠として失格だな。』
『いえ、そんな。でも、間に合って良かったです。』
『あぁ、二人とも助けてくれてありがとう。』
俺は、あらためて二人に感謝する。
『よ、よしてください。もう同じパーティなんですから。それに街を救ったんですよ。堂々と街に帰還しましょう。』
『そうだそうだ。凱旋といこうじゃないか。もしかしたら街の人から酒や食事を振る舞われるかも知れないぞ。』
『兄さん、変な期待はしない。』




