鎧、街の外へ出る
ハイドが、隠れているタンタなる人物に声をかける。
「今回、お前に依頼したいことがあってな。成功報酬は、その宝石とギルドからの報酬の四割だ。どうだ?依頼を受けるか?」
「ふむ。」
そう聞こえたかと思えば、素早い動きでタンタが姿を現した。
背格好はハイリンと同じくらいで、薄茶色の髪が腰のあたりまである。
おそらく年齢的にも。
冒険者風というか、街の人間が身につけている服よりも、薄汚れた感のある格好をしている。
ただ、異常にすばしっこいそいつには、頭に猫耳があった。
「その依頼、受けてやろう。」
「お、おぅ。ったく、現金なやつだぜ。ちなみになんだが、さっきの宝石は、どのくらいの価値なんだ?」
「な!まさか価値をわかってないのか?呆れたやつだ。これ一つで、十年は食っていけるぜ。」
「ふ、ふーん、そうなのかぁ。」
『ビル、むっちゃレアじゃんか!』
ハイドが驚きを隠しつつ、俺に念話してくるが、、、知らんわい。
そのハイドの様子を見て、タンタは、疑念が湧いたのだろう。
「まさか、これをくれるというのは嘘か?返せなんて言うなら、仕事は受けないぞ。」
「いや、ちゃんと依頼を受けてくれるなら、それはお前のもんだ。で、この白いのがビルハインドっつうやつで、今回一緒に行動する。それと、あと二人いるが、一人はハイリンな。もう一人は、あとで紹介する。」
『猫の獣人?』
『そうだ、見た目通り半分猫だ。』
そいつには、猫耳と薄い茶をベースに黒と白の斑点模様のある尻尾がついていた。
それ以外は、多少毛深い人間の少年のようだが、それよりも俺が気になったのは、、、
『なんで、人間の街に、、、?』
『おっと、それは聞くなよ。っていっても喋れないか。まぁ色々あったんじゃねぇの。』
「そっちの白い人間、、、いや、人間か?人間の匂いがしないが?」
(さすが獣人族。こいつ、匂いに敏感なのか。)
『ハイド、そいつに言っといてくれ。この鎧に魔術をかけているから匂いや気配はしにくいって。』
『わかった、、、っていうか、そんなのかけてたんか、、、』
『あぁ、街中で変に目立ちたくないからな。』
(気配遮断は嘘だけど、目立ちたくないのは本当だ。)
「タンタ。こいつは、こう見えて魔術が使えてな。今も気配を消す魔術をかけているらしい。目立ちたくないんだと。あと、喋ることができないんだ。」
「ふーん、変わったやつだな。」
(お前が言うか、、、)
「お前が言うのか。」
ハイドとシンクロしてしまった。
「で、仕事の内容は?」
「あぁ、お前も妖狐のことは知っているだろう?今回の繁殖数は異常だって。その妖狐討伐さ。そして、俺達のサポートを頼みたい。」
「だろうな。そんなトコだと思ってた。アレの毛皮は高く売れるからな。ただし、俺様は、戦いには参加しないぞ。」
「あぁいいぜ。獲物の解体なんかの後始末が依頼内容だ。」
「運搬はいいのか?」
「それは、手配済みだ。で、これから街の外でビルの魔術の力を確認しようと思ってな。お前も来るか?」
「そうだなぁ。いや、やめておく。妖狐討伐の出発は明日か?なら、俺様は準備する。明日の朝、街の外で落ち合おう。」
そういって、タンタは素早く姿を消した。
(あの素早さ。さすが獣人というところか。どうやっているんだろうか?)
『すまないな。レアな宝石を使っちまって。』
『いや、いいさ。処分に困っていたしな。普通には換金できないだろうし。うまく交渉がまとまって良かったじゃないか。』
『ま、まぁな。』
俺達は、メインストリートに戻り、門番にギルド証を見せて、街の外の見回りという建前で、門をくぐる。
街の外は、昼過ぎだというのに、あいかわらず閑散としている。
というか誰も居ない。
せっかくの晴天だと言うのに。
街の衛兵達が警戒しているのが滑稽に思えるくらいのどかな街の外で、気持ちのいい風が俺達を優しく包む。
『さて、どこで試そうか?』
『そうだなぁ。街の近くだと騒ぎになるから、あの丘の向こうまで行こうか?』
ハイドの指差す丘は、少し遠いように感じるが仕方ない。
背の高い木々がココらへんより多くあるから、多少の魔術を放っても、人目には付きにくそうだった。
「よし、走るか!」
『え?ちょ、走るのか!』
ハイドが自前の俊敏さを活かして走りだした。
俺も慌てて、ついて行く。
目的の丘まで、かなりの距離があった。
『結構、遠いな、、、』
(いや、しかし、これは、、、俺、走るととてつもなくうるさいんだけど、、、)
ガチャンガチャンと周囲に音を響かせながらも、走り続ける。
やがて、かなり前を走っていたハイドは、持久力が無くなったのかペースダウンしてきて、俺が追い抜こうかと言うところで、待ったがかかる。
「ハァハァ、ちょっと、ハァ、まっ、ハァ、、、あんた、疲れない、のか、、ハァハァ、、、」
俺も走るのをやめて、そこで立ち止まる。
肩で息をするハイド。
「ハァハァ、そんな鎧装備でこれだけ走れるなんて、、、普通じゃないぞぉ、ハァハァ。」
『ふっ、これも魔術だ。』(嘘だけど。)
『何でもありかよ、、、あんたに用意してもらった装備のおかげで、素早く動くことは確認できたが、、、』
『お?感心だな。走ることで装備のテストしてたのか。』
『まぁ、短距離ならともかく、疲れるもんは疲れるからな。』
『まぁそうだろうな。普通はな。』
『あ、でももう少しで丘だな。』
(!!!)
(ダンナ!緊急事態ね!)
キョウカに言われて、俺は、生体感知の感度を上げる。
『ハイド!やばいぞ!この丘の向こうに大量の生物がいる!』
『は?え?』
『油断した。街の近くだから感度を下げてたんだが、失敗だったな。感度を上げたままだと街中は結構きつかったからなんだが、、、』
(この丘の向こうにいる大量の未確認生物に動きはない。が、、、)
丘までまだ距離があるせいか、そいつらがこちらに気づいている様子はなかった。
『生物?まさか、、、』
『ハイド、音を立てずに丘の上まで行けるか?俺は、浮遊魔術で音を立てずに行けるけど、ゆっくりしか進めないんだ。』
『あぁ、わかった。ちょっとまってろ。』
ハイドは、かなり緊張した様子で、慎重に且つ素早く丘の上まで進んでいく。
珍しくキョウカの警告も有り、ただならぬ周囲の雰囲気が俺を焦らせる。
俺は、さらに魔力検知も合わせて最大限に感知の範囲を広げてみる。
(なんちゅう数だ!)
ちょうど、丘の向こう側を見ることができたハイドから念話が届く。
『ビル!大変だ!例の妖狐の大群だ!こいつは、、、こいつらは、、、』
完全に茫然自失となってしまったハイド。
念話すら途中で言葉が出なくなったようだ。
『ハイド?その妖狐の大群の数だが、俺の感知でおよそ五百匹。もしかしたらそれ以上かも?そいつら、そこで何をしている?』
『な!ごひゃく?あ、いや、驚いてばかりじゃ駄目だな。えーと、こいつら、食事中のようだ。ここらへん、畑があったようなんだが、食い荒らされているな。』
『そうか、食べ物か、、、なぁ、ハイド。そいつらまとめて処分していいか?』
『ちょっとまて。理由と方法を教えてくれ。』
『あまり時間はないが。理由はだな、そこの畑で食べるものが無くなったら、そいつら次の餌場に向かうだろう?このままじゃぁ街の人達の食料がなくなる。もしくは、ハイファーの街を直接襲う可能性だってある。始末する方法は、おれの魔術の火壁でそいつらを囲み逃げ場をなくして、そこに溶岩魔術で一網打尽にする。』
『一網打尽て。いやいや、かなりの広範囲だぞ。可能なのか?』
『完全には無理だろうな。どうしても多少は取り逃してしまう。もしも、取り逃がした奴らがこちらに攻撃してきたら、迎撃するしか無い。』
『わかった。街のためだ、やってくれ。』
『よし、準備に入る。俺もこんな広い範囲は初めてだから、万全を期すぞ。』
(ということで、キョウカ。魔力を使うぞ。)
(ちょ、ダンナ。大見得を切ったけど、できるの?)
(多分できる。が、魔力量が不安だな。この広範囲に火壁と溶岩射出、一度にできるほどの魔力量が、、、)
(かなり無茶ね。でも魔力量は大丈夫だと思う。ただ、取り逃す個体も出るわよ。)
(そこは、ハイドに頼ろう。俺も樹火球を数十発は用意してあるしな。)
『ビル!妖狐に動きがあるぞ!』
『よし、こっちの準備はできた。ハイドは、急いでこっちに戻ってきてくれ。いくぞ!』
俺が魔術を発動させた途端、丘の向こう側に相当な高さの火壁が現れたかと思うと、つぎの魔術である溶岩射出により、一瞬で黒煙に変わった。
「うぉ!すげー威力!」
(、、、ん?ん〜、、、こんなに威力が高かったっけ?)
俺は、自分が放った魔術の威力を刺し違えたようだった。
その黒煙は空高く立ち上り、更に俺の火壁の範囲よりも大きく膨らんだようだ。
さっきまでハイドが居た丘の上は黒煙で見えなくなっている。
その影響は、俺達のいるところまで伝わってきた。
「うぉ、あっつ!って、くっさ!」
ハイドが鼻と口を手で抑えている。
おそらく、妖狐を含め、色んなものが燃えたから異臭が周辺に充満しているのだろう。
俺は、匂いがわからないことを感謝しつつ、生体感知で警戒を強める。
なおも立ち込める黒煙は、俺達のいるところまでは来ずに、視界は開けているが、、、




