鎧、訓練を受ける
エルトが俺達のところまで戻ってきた。
『ハイドさん、どうでした?お役に立てますか?』
『いやいや、何を言ってるのか。攻撃距離と範囲を考慮すると、俺なんかよりも活躍するって。』
俺とハイリンは、うんうんと頷く。
(しかし、、、)
『エルト、あとで属性付与について少し勉強会をしよう。特に安全性についてな。聞きたいこともあるし。』
『あ、はい、ごめんなさい。火は危ないっと肝に命じます。』
『うん、まぁ、わかればいいさ。さて、次は俺だな。ハイド、指南を頼む。』
『おぅ、あ、でも、魔術は無しな。』
『あぁ、わかってるって。タンク役として基本から頼む。』
『よし、じゃぁ、前にも言ったが、タンク役も大きく二通りの立ち回りをする。敵が大勢だった時と一体だけのボスだった場合だ。』
と、説明を受けながら、広場の中央まで移動し、ハイドと向き合う。
『今は、時間も無いから、ボス戦の立ち回りをしておこう。』
『わかった。』
『防御の基本動作だが、まず、腰をしっかり落とす。相手からの攻撃方向によって盾の動きを変化させる。上からや斜め上からの攻撃に対しては、真に受けずに横へ受け流すか避ける。』
ハイドが剣を大きく振りかぶり、ゆっくり俺に振り下ろしてくる。
俺は、それを盾でいなした。
『そうだ、そういう感じだ。次、下からの場合。バックステップで避ける。または、盾を下方向に向けてつつ、左右どちらかに受け流す。』
ハイドが振り下ろした剣を次の動作として切り上げてくる。
俺は、盾で左にいなす。
『そして、真横からの攻撃は、同じ様に盾を使って上方向に受け流す。この場合の注意点だが、横からの攻撃の場合、得物のリーチがわかりにくい上に、剣の軌道をズラして攻撃してくる場合がある。それに備えてバックステップなんかの回避することよりも、盾で受け流すことを念頭に置いて、相手の攻撃の軌道変化に追従できるように練習する方がいい。』
ハイドが説明しながら、一連の動きをして俺が盾で受け流す。
最初は、ゆっくりとした動作で、練習する。
徐々にハイドは、早く打ち付けてくる。
俺は、いなす、避ける、また受け流す、と、忙しなく動く。
『あとは、突きや弓矢、魔術での受け方だな。まぁ今の動作の応用でいいと思う。』
俺は、そんなに素早く対応できないが、なんとなく言われたことはできたんじゃないかと思っている。
『そう、そんな感じでいいと思う。慣れれば、もう少し早く動けるさ。俺も基本しか知らないから、これ以上の鍛錬は、専門職の人に教わるしかない。それと相手が多勢だった場合は、ヘイトコントロールといって、敵の注意を一手に引き受けて攻撃を受け止め、味方が安全に攻撃・回復できるスペースや時間を作り出すことだ。それは、難しくないんだが、もう一つ、敵が味方後衛に向かうのを防がなければならない。これが難しい。』
『まぁそうだろうな。しかし、俺には魔術がある。』
『そうだな。それはある意味チートだな。意表もつけるし、ヘイトコントロールにはもってこいだし。その魔術も見ておきたいが、それは、街の外だな。』
『そうだな、昼からでも街の外に出てみるか?』
『そうしよう。よし、次のステップだ。全員での連携な。』
そう言って、ハイドは、ハイリンとエルトを手招きして、広場中央まで呼んだ。
陣形のチェックとか、今回の討伐対象である妖狐の動きを想定した攻撃の仕方をチェックする。
それらを一通りこなして、なんとかパーティーとして形になったようだ。
『で、このあとなんだが。ハイリンは、エルトちゃんを連れて物資補給を頼む。俺とビルは、街の外に出て、ビルの魔術のチェックをする。』
俺達は、冒険者ギルドの訓練広場から場所を移し、近くの食堂で軽食を摂っている。
『ビルは、何も食べなくていいのか?』
『あぁ、心配しなくて良い。朝食を食べすぎたからな。』(と、いうことにしておこう。)
『そもそも、俺は、一日二食で生活していたからな。ところで、昨日、この街で耳にした噂話の内、興味深いものを共有しておきたいんだが?』
『おう、そうだな。』
『どんな噂がありましたか?』
『一つ目、盗賊団ファントムの頭領、東のコージが死んだ。倒したのは白い亡霊らしい。
二つ目、貴族が秘密裏に入手した薬品は、盗賊に奪われたが、違法に作られた物だったため、盗賊討伐隊がこっそり処分したらしい。
三つ目、北のエルトラン山岳地帯の異常。北のルカの額の石の色が黒くなったんだと。
四つ目、キョクロプス砂漠に棲み着いていた西のカナが姿を消したらしい。
五つ目、南の妖狐の大量発生の原因は、王都近くにあるハイエルン湖から流れてくる川に誰かが薬を撒いたためらしい。
六つ目、勇者が大陸南部地方で魔王軍に勝利し、フーエル公国に帰国しているらしい。
七つ目、ムハインド国の次の王の候補は、3人に絞られた。
八つ目、王都近くにどこからともなく魔物が現れるようになった。
というものだ。』
『一つ目は、、、ビルさんだよね?白い亡霊だって。』
『はは、亡霊って酷いよな。俺の姿を見た生き残りでも居たのだろう。』
(そう言えば、奴らのアジトを脱出する時、倉庫から出るために気絶させた奴をそのままだった気がする。そして、二つ目の薬品については、心当たりがあり過ぎる。この次元収納に納まってる薬品は、いったい何なのか?)
『そういえば、ビルさんは、盗賊団を殲滅したのに名乗り出ないんですか?』
『昨日まで冒険者でもなんでも無かったからなぁ。今更、名乗り出たって誰も信用しないんじゃないのか?』
『ん、それもそうですね。冒険者ギルドの登録していれば証明もできたでしょうけど。』
『?まぁよくわからんが、それは、ともかく、三つ目〜五つ目に関して、俺が知っていることが関係するかも知れないので、補足する。』
俺は、昨夜のキョウカからの話の内、魔神キョクロプス対勇者パーティーの戦いの際、遠く離れた四ヶ所からのハイエルフ達の罠についてを皆に話して聞かせた。
ただし、魔神キョクロプスの核の話だの、ハイエルフが人間を利用していただの、そういう話は、今は言うつもりはない。
保身のためだが、彼らの身の安全も保証できなくなるしな。
『ほぅ。大精霊による四方からの魔神キョクロプスへの罠か。』
『魔神をかなり弱体化させたみたいですね。』
『なるほど。それぞれの大精霊の顕現のあと、その地にその精霊の属性が色濃く残ってしまった。と?』
『その影響で妖狐のように、そこに棲んでいた小型の動物が魔物に進化したり?』
『そうだな。ハイリンの言うようにそんな影響が出ても不思議ではないな。ところで北のルカだの、西のカナだのって、なんなんだ?』
『え〜、知らないんですか?どっちも有名ですよ。って、この国に来たばかりでしたっけ?』
『あぁ、すまないな。』
『北のルカは、ルドラ・カーバンクルの略です。西のカナは、カーディナル・ナーガを略しています。ルカは、大昔、岩壁に彫られたらしい大きな石像です。カナは、魔物ですが人間に協力的で神獣として、砂漠の村では、崇められていると聞きます。』
『ほぉ、どちらも興味深いな。しかし、異常?原因はなんだろうな?』
『それこそわからんさ。それにしても、南に水属性、北に土属性、西に火属性、おそらく東に風属性、、、』
ハイドがそれぞれの方角と特性を示して、何やら考察している。
(ん?風の大精霊?天樹様?って、、、いや、それよりも、、、そうか!その影響か!エルトッキュのエルフ達の精霊魔術に偏りがあるのは。)
彼らは、風を中心とした魔術を使っていた。
エルミは、水、火属性を扱えていたが、土魔術は使えない。
他のエルフ達に至っては、火と水属性魔術を扱えるものが少なかった気がする。
(かなりの影響が出たんじゃないのか?)
『つまり、東を除くその三方の変化があって、八つ目に繋がるのか?』
『それは、はっきりとはしない。ただ、2000年も変化が無かったのに、何がきっかけかはわからんが、同時期ってのは偶然ではないだろう。』
『うーん、人為的ですか?誰がなんの目的で何をしようとしているのか、、、』
『そう、全容はわからない。しかし、五つ目の川に薬品を撒いたという話、それが今回の妖狐の大量発生に繋がっているのは確かだな。』
『あぁ、そうか。生態系のバランスを崩して、自分たちが手をくださずに敵対勢力にダメージを与える手法ですか。』
『ハイリンは頭が良いな。そう、そうすれば、自分たちの戦力は保ったまま、見ているだけで敵が弱っていくんだから、そういう手段がとれるなら積極的にもなるだろう。』
『だとすると、それによって、一番利益を得た者が首謀者?あるいは国家?いや、敵対種族なら魔族か?』
『さぁな。話が大きすぎて、俺はわからない。そもそもこの国の者でもないしな。』
『でも、仮に首謀者が魔族だったとしたら、六つ目の話に繋がりますね、、、このハイファーの街に妖狐でダメージを与え、隣のフーエル公国にいる勇者をハイファー防衛に引き込む、とか?さっき、話が出たエルフの大精霊のことを魔族は知っているだろうし。』
(ハイリンの言う、その可能性はあるが、そんなに単純なことだろうか?そんな簡単に俺達みたいな下っ端が予想できるようなことは、真実では無い気がする。ただのカモフラージュではなかろうか。)
『そうかぁ、魔族との戦争なんて、はるか南方のできごとだと思って気にしてなかったんだけどな。』




