鎧、情報を得る
(さて、俺は俺で消耗していると思うが、実感が無いな。そういえば、一昨日の夜からキョウカが出てきてないが、、、)
「おーい、キョウカ?エルフの逸話か何か見つかったのか?」
「ん〜なぁに?今、いいとこなんだけど。」
ペラリっと頭に響く音。
「ん?なんか紙のめくれる音?何か読んでいるのか?いや、それにしたって、擬音ってするのか?」
「あ、ごめん。えーと、トリセツを探している時に見つけたキキョウ様のオトギ話に夢中になっていたわ。」
「なんじゃそりゃ。そんなものもトリセツにあるのか?」
「そうね。カテゴリー的には雑学なのだけど、おもしろくって。これに出てくるカラスのキヨエが凄くって、、、」
「いや、それ、今必要か?」
「えと、必要ではないわね。ごめんなさい。でも、ちゃんと見つけておいたよ。」
「見つけたんならいいけどさ。で、教えてくれるのか?」
「はい、いいよ。じゃぁ、2000年以上も前の昔話だよ。心して聞いてね。」
「え?覚悟がいるのか?」
「エルトラン大陸は、北の山岳地帯を除き、神の末裔と自負していたハイエルフの支配する大陸だったんだって。
だからかな、大陸各地に今もエルフを冠する地名が多く残っているのは。
でもハイエルフたちの静かな生活をおくっていたのは、2000年と数十年前、他の大陸から来た魔族が侵略を開始するまで。
魔族による魔王軍は、様々な固有種族別の軍となっていて、その連携により一種族であるハイエルフの弱点を突き、次々とハイエルフの村を滅ぼしていったそうよ。
侵略戦争中期になると魔族に与するハイエルフ一族も現れ、混沌を極めたの。
ちなみにその一族は、のちにハイエルフの呪いを受け、ダークエルフと言われたようね。
そして、エルトラン山岳より南の領域のほとんどを魔王軍によって侵略された頃、魔族内で内部紛争が勃発した。
各魔族の種族長がエルトラン大陸の支配領域について、過度な要求をし始め、種族間で言い争いが絶えなくなったことがきっかけね。
各種族の仲違いにより、魔王軍本拠地を守るべく駐在していた各種族の精鋭が自分たちの支配領域を守るために各地に散って行った。
その時、手薄になった本拠地に忍び込み魔王軍を統率していた魔王を倒したのは、僅かな数の人間だった。
元々人族は、魔族の奴隷として、魔族によってこの大陸に連れてこられたんだけど、魔王軍が侵略をつづけている間に、その特異な繁殖力で各魔族領内に根を張り、数を増やしていたの。
もっとも、魔族に虐げられていた人族の魔力特性のある者に、魔術を教え魔族への反逆を煽ったのはハイエルフたちだったようね。」
「なんと!人間に魔術を教えたのはエルフ達だったのか。」
「そうそして、その中心的役割を担っていたのがエルトッキュという村のハイエルフたちだった。
ハイエルフの最大にして最後の拠点だった大森林内のこの村は、天樹様と言われる大精霊が宿る神樹に守られていて、魔王軍は攻めあぐねていた。
そしてハイエルフはハイエルフで生き残るため、戦局の起死回生を目的としたとある計画のため、人間への干渉を決断した。
その時に人間変化の護符が大量に生産され、各種族の軍所属の人間や、拠点で働く人間の中に潜り込み、計画を進めていった。
その計画は、ハイエルフの想定通りに進み、ついには、人間が魔王を倒すに至った。
魔王を倒した人間達は勇者パーティーと言われ、魔王軍が散り散りになったあとも、人間たちに高圧的な態度をとっていた種族を中心に攻めていった。
各地の人間たちも力をつけ、魔族に対し蜂起したこともあり、いつしか各種族の主軍は壊滅した。
生き残った魔族は、エルトラン大陸南部の一部地域に集まり、勇者の侵攻から逃げるように身を潜めていた。
それが、今の魔族領域、エルデンリングね。
だけど、勇者たちは魔族をそれ以上攻めなかった。
いいえ、できなかったの。
人間の寿命は、短きもの。
いかに勇者でもその人間の性からは、避けることはできなかったのね。
ただ、勇者の力により人族は、このエルトラン大陸の支配権を得るにいたり、魔族もその力を侮ることなく、不用意には人間に手を出さなくなった。とあるわ。」
「そうか。ハイドの昔話と一致するな。キョウカは、聞いていなかったか。」
「えと、探し物してた時は、外界からの情報をシャットアウトしてたから、、、」
「まぁ、キョウカの話し、いや、キキョウの記憶?記録?の方が詳しい。それにしても、ハイエルフたちの計画か。ハイエルフたちが人間を利用して、魔王軍に対抗していたのか。しかもエルトッキュのエルフ達が。」
「みたいね。でも、今のあの村のエルフたちは、そういうのを知らないんじゃないかしら?」
「だろうな。けど、長老くらいは知ってそうだけど。」
「うーん、それは直接聞いた方が早いよね。で、まだ続きがあるよ。」
「お?おぅ、聞かせてくれ。」
「一方、その頃、ハイエルフたちは、魔王軍への勝利と引き換えに、2つの理由により、苦悩していた。
・自分たちが計画したことに人間たちを利用したことが明るみに出た時、逆に自分達が力をつけた人間に攻め滅ぼされるのではないか、との疑心暗鬼。
・更にエルフたちの計画を知った敵対魔族の生き残りからの恨みによる反抗があるのではないか、との恐怖。
それを危惧したハイエルフたちは、この段階で大森林の結界を利用し、外界との接触を絶ち、表舞台から姿を消した。
そうして2000年の間にエルトラン大陸は、一部地域を除き魔族でもハイエルフでもなく、人間の住まう人間の大陸と様変わりした。
人間の住めない環境地域、例えばキョクロプス砂漠、例えばエルトラン山岳地帯。
そして、魔族領域のエルデンリングや隠里となったエルフの村などを除いて。
エルトラン大陸で支配権を得た人間達は、国を興し、更に力を増していった。っと、こんなところかな。」
「なるほど、あの結界を張り続ける理由がそれか。当時のハイエルフたちは、人間や魔族からの恨みを買う前に姿を消したっとそういう理由か、、、それにしても2000年前か、、、途方もないな。」
2000年前の魔族による侵略戦争で、当たり前だがハイエルフたちも必死だったことが伺える。
それを知れば、誰もハイエルフ達を責めないと思う。
そもそも、ハイエルフたちは、被害者側だ。
「しかし、だからといって利用された人間たち全員が許すとも限らない、か?」
「どうだろうね?大昔のことだし。今となっては、それを知ったからと言って文句を言う人間なんかいないと思うけど?そもそも当事者でもないんだし。」
「ん〜。あ、でも、人間の反応がそんな感じなら、あの結界は不要なんじゃ?エルミが天樹になる必要性がなくなるような、、、」
「でも、その話をダンナがエルフたちに言っても信じてもらえないと思うよ。まだ魔族もいるしね。」
「それも、そうか。なにか、安全だという保証があればいいんだがなぁ。そうだ、キキョウが生きているなら、キキョウからエルフたちに話せばいいんじゃないか?」
(また、一つ、キキョウに会わなければならない必要ができたな。)
「それは、どうかなぁ?まぁ、キキョウ様のお考え方次第だと思うけどね。」
「むぅ、そう簡単にはいかないか。まぁ、おいおいだな。」
(今後、何か決め手になるような物があるかも知れんしな。)
「それはそうと、ハイドから聞いた昔話で気になることがあるんだが?」
「なぁに?」
「キョウカの話しにも出てきた勇者パーティーのことだ。」
「うん?」
「その勇者パーティーのメンバーに、キキョウがいる。」
「うん。そうだね。」
「それは、事実なんだろう。もう一人、キョウカっていう賢者が居たと言うんだ。まさか、お前のことじゃぁ、、、」
「ああ、それね。キキョウ様は、かつての勇者パーティーの仲間だった名を自分の作ったアイテムに付けているの。この私、鏡花水月は、キョウカ様からっていうように。」
「ほう。そうなのか。」
「他にはね、、、鏡花水月シリーズだと、いくつもの魔術付与された直剣、虚心坦懐。ダンカイ様から頂いた名前だね。同じく魔術付与された中型の盾、晴雲秋月。セイシュウ様からの名前だね。ちなみにインテリジェンスウェポンは私だけだよ。」
「ほほう、興味深いな。その虚心坦懐、晴雲秋月か。見てみたいものだな。」
「で、この三つが揃うと相乗効果で無敵になる明鏡止水に変化するの!」
キョウカがいつになくハイテンションで説明する。
「明鏡止水?な、なんだそりゃ?無敵って、どう無敵なのか?いったいどうやってそんな仕組みを作り出しているのか?興味が尽きないな。」
「三つ揃えば、わかるよ。」
「そりゃそうなんだが、これまた時間がかかりそうじゃないか。時空の館にたどり着くまで大変そうだし。」
「ダンナだったら、その内、時空の館に行けるって。」
「いやいや、そんな気軽に行けるもんじゃないだろう?」
(しかし、なんだろう?キョウカがそう言うと、ほんとにすぐにでも行ける気がしてくる。)
「そういえば、ドワーフは、エルフの仲間だったのか?そのダンカイってドワーフだと聞いたが?」
「えと、ドワーフは、エルフと同じこの大陸の先住民ね。ただ、この大陸の北に連なる険しい山脈の中に住んでいたから、魔族による攻撃や占領から逃れられたか追い返したか、でしょうね。ただ、エルフが負け続けていた時でも、種族としてドワーフが山脈から出てきて、エルフに協力することは無かったみたい。数人のドワーフ戦士のみが個人的に人間を助けたという記録はあるけど。」
「そうか。だからか、俺の師匠も含め、人間の中にドワーフが多少混じっているのは。」
「まぁドワーフの主力が戦いに参加したという話はないから、エルフがドワーフを毛嫌いしているんじゃないか、との話がどっかにあったわ。信憑性はないけどね。」
「そのドワーフが人間にのみ協力して、鍛冶や戦い方を教えたのかもな。だから、人間はドワーフを受け入れているのかも。」
(エルフとは真逆の行動に見える。)
「戦い方と鍛冶か。その可能性は高いわね。ドワーフの作る武器は、確かに魔族をも凌ぐ強力なもの。そして、奴隷として戦い方なんて知らなかった人間が武器の扱い方から魔族との戦い方まで教えてもらっていたって、不思議ではないわね。」
「魔術を教えたのはエルフ。戦い方や武器の作り方を教えたのはドワーフ。そして、人間は持ち前の生産力の高さと繁殖力で、この大陸の主人となった。か、、、」
「ま、大昔の話だから、わかんないけどね。」
「それもそうだがな。おっと、もう一つ確認したいことがあった。人間たちの間での噂が色々とあるんだ。その中で、キョウカが知っていることは無いか、教えてくれ。」
「今日は、質問が多いね。どんなの?」
「ひとつ、この国の北側、エルトラン山岳地帯の異常。北のル・カの額の石の色が黒くなった。
ひとつ、キョクロプス砂漠に棲み着いていた西のカ・ナが姿を消した。
ひとつ、南の妖狐の大量発生の原因は、王都近くにあるハイエルン湖から流れてくる川に誰かが謎の薬を撒いたから。
っと、何か知っていることはあるか?」
「うーん、その三ヶ所って、この国の王都から見た方角だよね?王都のすぐ近くにエルハイン湖。2000年前の魔神を倒した場所がその湖。そしてその湖から北、西、南は、その時、ハイエルフ達が大精霊を呼び出した場所、、、」
「なんだって!大精霊だって?」
「あぁ、魔神キョクロプスを倒した方法については、秘匿だっけ?ま、いいや。」
「いやいや、ハイドの話でも魔神との戦いの詳細は語られていなかった。そ、そうか、エルフ達が実際の戦場にいただけでなく、魔神に対してはるか遠くから援護していたってことなのか!」
「まぁそういうことね。ハイエルフ達は、東も含めて、四方に大精霊を呼び出し、魔神を罠にはめた、とあるわね。もっとも、その中心の戦いがどんなものだったのかは、トリセツでもまだ見ることのできないページになるけどね。」
「マジかぁ。いやしかし、2000年前がそうであったなら、何だか嫌な予感がするな。今のこの各地の異変は、いったい何なのか?」
「私、もう少し、調べてみるね。」
「ああ、頼む。」
(キョウカの言うトリセツなるもので、色んな情報が判明するな。)
そのトリセツは、2000年間のこのエルトラン大陸の出来事の内容で、、、まるでキキョウがずっと監視しているような、、、俺は、そんな気がして仕方がなかった。




