鎧、魔石を入手する
さて、問題は、このハイド用に購入した防具たちだな。
魔力が宿っていないからな、そう簡単には性能を上げることはできないだろう。
しかし、俺にぬかりはない。
さっき、ハイドと別れて一人になった時、とある店で売っていた小さな宝珠をいくつか入手したのだ。
その店は、看板もなく、パッと見ただけでは店にも見えない佇まいだった。
しかし、店内から溢れ出る魔力を俺は見逃さなかった。
それは空間属性の一つ、魔力感知を扱えるようになったからだ。
盗賊たちから奪った、まだ読んでいなかった魔術書に書かれていた魔術で、ハイファーに着くまでの道のりで取得した。
この魔力感知、他の属性との組み合わせ次第では、自分に敵対する相手の放つ魔術を無効化することができるらしい。
俺は、まだその領域に達していないらしく、取得もイメージもできないが、この魔術無効化魔術は強みになる。
(いずれ、取得してやる。)
と、いきこんだのだった。
それはともかく。
その怪しげな店の中には、大小様々な宝珠が売られていた。
俺が店に入ると、店の奥から、これまた怪しげな店員が現れた。
フードを深々と被り、顔の口元しか見えない。
「、、、いらっしゃい、、、」
(あ、あやしすぎる!)
しかし、店内にある異様な魔力が俺を虜にした。
それは店の一角に鎮座する黒い魔石から放たれているものだった。
(こ、これは!こんな、大きな魔石は初めてみた!)
宝珠は、宝石に魔術を宿した人工的なものだ。
これは、俺の扱う魔術付与とは違う方法での魔術付与だ。
宝石の持つなんらかの力を利用しているんだったっけ。
対して、魔石は、魔物の核であったものだ。
全ての魔物に魔石が存在するわけではないので、魔石は希少とされる。
さらに魔物の特徴を色濃く潜在しているため、その魔物の特徴的な魔術が既に宿っているのだという。
(これかぁ、店の外にまで感じた魔力は。これ、売り物だよな。いくらだろうか?)
その拳大の魔石からは、惜しげもなく魔力が放たれていた。
表面上は黒いが、中央から何か光を放っている。
俺は、この黒い魔石に魅了された。
早速、俺はその魔石を店のカウンターに持っていった。
「ありがとうございます。金貨50枚になります。」
(たか!い、いや、安いのか?魔石なんて売ってるのは、初めて見るしな。相場がわからん。)
俺が少し悩んでる風の態度をしたせいか、怪しげな店員が魅力的な提案をしてきた。
「これは今だけですが、これをお買い上げいただけるなら、この店内にある宝珠を五つ、付けさせていただきますよ。」
(うん、買おう。)
チョロい客だと思われたかも知れんが、魔石以外に五つの宝珠を入手できるわけだ。
(五つの宝珠は、ハイドの装備に使うとして、超レアな魔石を何に使おうか、、、)
これは、買ったはいいが、使い道を決めれなくて放置しちゃうパターンかも。
(まぁ、そのうち思い浮かぶだろう。)
そんなわけで、五つの宝珠をハイドのレザースケイルアーマーに仕込んで、強化しておこう。
ハイドの防具も五つ。
そして、五つの宝珠はそれぞれ属性がついている。
まずは、アーマー胴体部分。
土属性の宝珠を使う。
レザーなのに金属並の強度となった。
次は、ガントレット部。
腕部分は、攻撃作用をプラスする意味で、火属性の宝珠を仕込む。
これで、ハイドの攻撃時に少しだけ火属性の効果が上乗せされるだろう。
次は、グリーヴ部。
足に装着するこの防具には、この二つ。
風属性の宝珠だ。
より俊敏に走れたり、緊急回避なんかが容易になる。
っと、自分で属性付与するより簡単だが、こういった宝珠も魔石ほどではないにしろ、
入手が難しいと俺の師匠から聞いていた。
人間の間では、結構出回っているのか?
人間だけの工夫なのかも知れないな。
俺は、ハイドの防具の強化を終わらせ、エツに入っていたが、どうやら、皆が食事から帰ってきたようだった。
「今、もどったぜぇ〜♪」
「すいません、ビルさん。ちょっとした目を離した隙に、兄さんがお酒を飲んでしまって、、、」
「師匠!この街の肉料理、ものすごく美味しかったです!」
『おいおい、、、まったく仕方がないやつだ。エルト、楽しかったか?』
『はい!』
『ま、それなら良し。今日すべきことは殆どおわっているからいいけど。あと、エルトも含めて、皆の装備の説明をしておきたい。情報共有は、明日にしようか。』
「あぁ、俺は酔ってても大丈夫ぅだぁぜ。」
「兄さんってば、しっかりしてください!」
ハイドは、部屋の床に寝っ転がってしまい、ハイリンが介抱している。
(いったい、どんなけ飲んだんだ、、、)
『師匠、これ、いったいどんな特性をつけたんですか?』
エルトはエルトで、目を輝かせながらローブを検分している。
『ハイリン。ハイドは、そのまま放っておいて、聞いてくれ。二人のローブには、今、おれができる最大限の仕掛けを施した。』
二人にローブの説明をして、俺は達成感に浸っていた。
『すごいですね。こんなローブは、見たことがないですよ。』
ハイリンが感銘の声をあげるが、、、
『おっと、ちょっと調子に乗りすぎたか。えと、注意点もある。このローブ、効果は話した通りだが、でも、それがどれだけの効果があるのかは、わからない。ってのが正直なとこだ。』
『過信は禁物ってことですね。』
『そうだ。ダメージを軽減できる程度くらい、と思っててちょうどいいかも知れん。それと、エルト。魔力付与、上出来だったぞ。』
『あ、はい!ありがとうございます。えへ。』
『さて、ハイリン。お前さんにもう一つ渡すものがある。』
俺は、黄色の宝珠のついた杖をハイリンに渡した。
『これは?』
『これは、ハイドからハイリンに。ということだそうだ。』
「ぐぅ〜」
(ハイド、寝てしまったか、、、)
「兄さん、、、」
ハイリンが愛おしそうに杖とハイドを見比べている。
「あ、でも、お金。あぁビルさんから借りたんでしょうか?」
『いや、実は、俺の代わりに俺の持ってた家具を売る交渉をしてくれてな。その報酬をハイドに渡した。その報酬で購入した杖だな。』
『そうでしたか、色々お気遣いをありがとうございます。』
いや、だから、ハイドからだって言ってんのに、俺に礼を言うハイリン。
『良かったね。ハイリン。この杖、可愛いしとても似合ってる。』
『あ、ありがとう、エルト。』
(おや、ハイリンが照れている?なんか、微笑ましいな。)
『それにしても、このローブは凄いですね。私もいつか、こういうのを作れるでしょうか?』
『エルト、できるできないじゃないぞ。いつか作ると思い描いていれば、できるさ。えーと、なんて言ったかな。雨しずくですら、時間をかければ石に穴を開ける事ができる。と言う話もあるくらいだ。』
『へぇ、なるほど。さすが師匠ですね。』
『俺の師匠からの言葉だが、”見方を変えれば不可能が可能になる”。これをエルトにもいつか体現してもらいたいな。』
『はい!なんだか奥が深い言葉ですね!』
(え?そうかなぁ?)
『そ、それはそうと、明日は訓練と補給物資の買い出しだな。』
どこで入手したのか、エルトとハイリンが手のひらサイズの紙の束に、なにやらメモをとっている。
そんな二人をよそに、ハイドを浮遊で彼らの部屋に運んだ。
『浮遊魔術って便利ですね。いつも兄さんを運ぶのが大変だったんです。僕も使えれば良いんですけれど。』
『いつも、こんなんなのか、、、』
(少し呆れてしまったが、まぁそこがハイドの特徴なんだろうな。不用心な気もするが、そういうスキを見せてくれている。と思っておこう。)
『ハイリン、ゆっくり休んでくれな。』
ハイドをベッドまで運び、俺達は二人の部屋から出る。
「はい、おやすみなさい。」
「ハイリン、おやすみ。」
「エルトもおやすみ。」
そして、エルフの間に戻ってきた俺とエルト。
『エルト、この宿屋の一階のことだが。』
『あ〜はい。ハイリンから聞いていますよ。』
『そ、そうか、、、』
『エルフは繁殖欲求が低いって思われているみたいですが、それは生きている時間の長さが原因でしょうか。私達も恋に落ちたり、愛に溺れたりといったことはありますよ。私は経験がないですけど。』
『そうだよな。人魔族も同じようなものだが、全く人間の繁殖力の一環を垣間見た感じだ。』
『森の動物たちがそうですが、力の弱いものほど子を沢山生みます。ですが、ほとんどを強者に食べられてしまいます。ですがそれで、弱肉強食の中の数のバランスが取れます。ですが、決して弱くない人間がこんなにも数を増やし、今より多くなってしまうとどうなるんでしょう?』
『ん?そうだなぁ。でも、人間の寿命は短い。それにだ、仮に増えすぎると人間同士で争って、互いの数を減らすこともある。自浄作用とでもいうのか。』
『そうなんですか?同族で殺し合うって、、、』
『そこらへんは、エルフには考えられないだろうな。まぁこの旅の間にエルトも目にすると思うぞ。人同士の争いってのを。』
『それは、、、なんだか、悲しいというか寂しいというか。』
『そうだな。では、俺達はどうすべきか?何をしたらいい?よそ者に何ができる?』
『そ、それは、当事者でない限り何もできない、、、?』
『そうだ。それでいい。しかし、例えばハイドやハイリンが関わっているなら助ける。あとは、その争いの問題をきっちり精査して、何が問題となったのかを分析する。自分たちの将来に似たようなことが起こった時に対処できるように覚えておく。それぐらいじゃないか?』
『はい、自分たちのためですね。』
『そう、それも旅の醍醐味だ。見聞を広めることで経験からくる思考を持てるようになるわけだ。』
『師匠は、この旅以外でも色んなことを見て、経験したんですか?』
『はは、そうだな。鍛冶師として一人前になるまで、色々あったさ。機会があったら話をするが今日はもう寝なさい。』
『はい、そうします。師匠の昔話、楽しみです。おやすみなさい。』
エルトは、自分のベッドに入り、すぐに寝息を立て始めた。
(天樹の布に魔力を練り込んだ影響かな?)
かなり消耗していたようだ。
『おやすみ、エルト。』
返事は返ってこないが、それで良かった。
俺と出会うまでの彼女の、エルフの村での夜。
両親を亡くし、一人で過ごしたであろう夜に比べれば、今は、いい夢を見れるんじゃないだろうか。
そう願わずには、いられないのだった。




