鎧、魔術を付与する
俺が宿屋アムールの前まで戻ってきた、と同時にアムールの一階からハイドが出てきた。
『お?ちょうどよかったな。』
『おう、ビル。ありがとうな。情報もバッチリだぜ。』
そう念話しながら、ハイリン、エルトの待つ部屋に向かう。
『師匠、おかえりなさい。』
『二人ともおかえり。こっちの作業は終わっているよ。』
エルト達二人は、既に着替えていた。
エルトの仕立てた天樹の布による上着とローブは、淡いエメラルドグリーンで充分な魔力を帯びているようだ。
そして、エルトは膝下までのスカートで、ハイリンはズボンタイプだ。
『ワンピースで仕立てようと思ったんですが、ハイリンの希望でツーピースにしました。どうでしょうか?』
『うん、衣装のセンスは、さすが女の子だな。二人ともよく似合っている。』
『ありがとうございます。街はどうでしたか?私も行ってみたいです。』
『そうだな。明日、俺が案内してやるよ。』
『だったら、僕が食料なんかの買い出しついでに案内するよ?』
『お?そうだな。ハイド、いいか?』
『明日は、ギルドで訓練をするが、その後ならいいぜ。』
『じゃぁエルトは、訓練の後、ハイリンと買い出しついでに街を見て回ると良い。』
『やったぁ。ハイリン、よろしくね。』
『う、うん。こちらこそ。買い出しの手伝いもよろしくね。』
二人とも、仲が良いな。
(エルトにとっては、初めての人間の友人ということになるな。)
『おっと、そうだ。ビルが気にしていたムハインド王国の略地図だ。』
ハイドから羊皮紙を一枚、手渡された。
『お〜、これは、いいな、、、って、略地図?』
『冒険者ギルドで配布している地図だ。見ての通り、この国は、中央の王都、東のハイラック、南のハイファーの三拠点しかない。なんたって自然の要害に守られているからな。と、いうか、囲まれている、と言うのが正しいが、、、』
『ほんとにざっくりした地図だね。あちこちに村なんかあるはずなんだけど。』
『多分だが、ギルドの狙いなんじゃないか?小さな村は自分たちが訪れて、記入していく。みたいな。』
『なるほど。』
少し前にハイドが話してくれたように、北に山脈、西に砂漠、東に大森林、南に大きな湖と囲まれている。
『で、俺達の現在位置はハイファーだから、ここっと。ここから更に南はフーエル公国になる。ちなみにハイラックから東もフーエル公国だ。つまり、このムハインド王国は、フーエル公国のみに接している、ということだな。』
『ムハインド王国は、悪く言えば、人の住みにくい国なんです。魔獣の棲む領域が多い国でして。』
『エルトラン山脈には、ドラゴンが棲んで居るって言うしな。西の砂漠には魔物がうじゃうじゃ居るし、東の大森林は、比較的大人しい魔物が多いが、森自体が人を惑わす。さらにあちこちに魔物の棲家となっている洞窟なんかが点在しているんだ。』
『そして、南の湖とそこに棲む妖狐ですね。』
『そう。しかしだ、良く言えば冒険者が食っていくには申し分ない国だな。命がけだが成長するにももってこいだしな。』
『あぁ、それはわかる気がする。』
『あと、フエール公国にしても、そんな魔獣がムハインド王国から出ないように、出さないように援助しているっていう話もありますね。』
『ほぅ、相互関係が読み取れるな。人間の他国からは、フエール公国がムハインド王国を守る。ムハインド王国は、自国の魔物を他国へ出さないように維持管理をしているってわけか。ん?ということは、隣国のフエール公国なんかには魔物が出ないのか?』
『いや、全く居ないってことではないが、まぁ少ないらしい。魔物が出る場所は決まっていて、人間が踏み込まない限りは害がないらしい。というか、このムハインド王国が異常なだけだと思うぞ。』
『この国には何かあるのかな?魔物が発生しやすい原因みたいなものが?』
『うーん、2000年前に勇者がここに建国した理由がその原因なのかな?っと僕は思っていますけど。』
『ま、原因はともかく、魔物が増えた時、その魔物の暴走を抑える役目を持つ国ということだな。だから、国が冒険者ギルドを作って、国をあげて冒険者を支援しているんだろうな。』
『ふーん、なるほどな。ところで、この北の山脈の向こうや、砂漠よりも西には何があるんだ?』
『人の住める場所ではないから空白地帯じゃないか?』
『そうか、王都からの西への道は、途中でバツがついているしな。』
『そこかぁ。昔はオアシスがあったようだけどな。』
『ほぉオアシスねぇ。あと、北の山脈の麓に集落があるが?ここは?』
『ああ、鉱石なんかを採掘している拠点だな。名前は、確かエルドラドだったかな?他国と面して居るわけではないから城壁はない。というか地中の村だから、魔物も襲ってこなくて安全なんだと。』
『そこの鉱山の採掘拠点は、ムハインド王国よりも歴史が古いって聞いたことがあります。なんでも住民の多くはドワーフだとか。』
『ほぅ、そうか。さしずめドワーフの村ってことかな?』
(だいぶ、この国の地理的特徴を掴めてきたぞ。魔物が発生しやすい原因ってのは気になるが、気にしても仕方がないか。)
『ところで、このあとなんだが、、、皆、食事はまだだろう?ハイド、エルトに酒場かどこかでうまいものを食べさせてやってくれ。』
『お?それはいいが、ビルはどうするんだ?』
『俺は、さっき軽く食べ歩きしたし、このハイドの防具とエルトの仕立てたローブに属性か魔術を仕込もうかと。おっと、これも俺自身の訓練になるから気にしなくていいぞ。仕上がりが期待に答えられるものになるかどうかわからんからな。』
『お前さん、ストイックだねぇ。』
『職人のサガってやつかな。ハイドからキキョウの話を聞いたらじっとしてられなくてな。』
『ビルさん、あまり無理なさらないように。』
『師匠は、言い出したら聞かないんだから、、、』
『まぁ適度にしておくさ。食事が終わったら俺とハイドが集めた噂話なんかで、俺達に関する情報を共有したい。酒は飲むなよ、ハイド。』
『うぉっと、酒、だめかぁ。』
『兄さん、我慢!』
『しかたねぇなぁ。じゃ、その代わりにいいもんを食うか。』
『あぁ、そうしてくれ。エルトを頼む。』
「よし、じゃ、行くか。さっき運動しておれの腹が鳴っているしな。」
「運動?」
「い、いや、えと、ビルと一緒に街中を歩き回ったからな。」
「なんか怪しんだけど、、、」
「ささ、俺の知っている店で一番肉料理が美味いとこに連れて行ってやるよ。」
キョドるハイド。
「まぁそういうことにしておくけど。」
(馬鹿たれハイド。ハイリンにバレてるじゃねぇか。)
「わぁ、なんだか楽しみです。」
(エルトはエルトで、マイペースだな。ってか、肉料理にもの凄く食い付いていないか?)
とかなんとか、三人は、夜の街へくり出していった。
(さてと。まずは、このローブだな。状態を確認してっと。)
エルトの仕立てたローブは、天樹の布から作られているわけだが、布自体に精霊力が備わっている。
そこにエルトがローブに仕立てるときに魔力を付与したわけだが。
(この状態なら属性付与でも、いや、魔術付与も可能かも?)
そう思って、ローブの魔力を調べてみる。
(ほぉ、かなりの量の魔力が練り込まれているな。エルトが張り切って作業した様子が目に浮かぶな。その目もないけど。)
これならばっと、火、水、土、空間の四つの属性を付与してみた。
お互いの属性が、バランスよくローブに付与される。
最初は、反発しあうがそれぞれの間にある隙間に布の潜在能力、つまり精霊力を緩衝材として挟み込んだ。
(もう少し、それぞれの属性の魔力量を上げて、、、)
どのくらい時間が経過しただろうか。
(三人がまだ帰ってきていないから、そんなには経過していないと思うが、、、)
四つの属性を同時に付与するという試みは成功した。
そして、このローブにはとある仕組みを組み込んだ。
外部から魔術などの魔力が近づくと、その同属性の魔力が反応する仕組みだ。
(つまりは、魔術シールドだな。)
四つの属性の内、いずれかの魔術攻撃を受けても、装備者へのダメージが軽減されるはずだ。
ただし、限界がある。
このローブに仕込まれた魔力が消費されてしまうとシールド効果は消える。
しかし、ローブには術式を練り込んでいるので、再度魔力を込めれば、再びシールド効果が現れるはずだ。
装備者が魔術を使えるならば、その仕組みがわからなくても効果がでるような親切設計だ。
(さて、もう一着にも同じように魔術シールドを付与するか。)
二回目だったせいか、二着目も案外すんなりとできた。




