鎧、夜の街に繰り出す
そうして、俺達は馬車をギルドに預けたままハイドが選んだ宿へ向かった。
(水や食料の調達。あと訓練は明日だから、今日中に武器は見繕うかな。)
「ここだ、ここ!」
宿屋と言うには派手な装飾の店構えでなんとなくピンク色の建物の中に、ハイドがいやに張り切って入っていった。
その名も”アムール”。
(愛、という意味だったか?)
『なぁ、ハイリン。俺の予想通りだったんだが、この宿、一応ギルドの紹介なんだよな?』
『ビルさん。僕にじゃなく兄さんに聞いた方がいいと思いますけど?まぁそういう冒険者が多いということですね。大体、冒険者って普通はモテないですからね。いつどこで死ぬかも知れない奴と本気で付き合う女の人なんていませんよ。』
『そうすると、そういう店でしか相手にされないから、、、』
『まぁそんなとこです。』
「あらぁハイドちゃん、ひさかたぶりやーん!」
宿の一階のカーテンの向こうから黄色い声、いや、桃色の声が聞こえてくる。
ほどなくして、ほほにキスマークのあるハイドが店から出てきた。
「よーし、いいぞ。ここの二階の二部屋を借りれたぞ。」
「兄さん、、、」
「いた!ちょ、ハイリン、やめ、、、」
そのキスマークを見たハイリンがハイドに蹴りを一発入れていた。
「これは、熱烈歓迎されただけだって!」
「もういいよ。いこ、エルトちゃん、ビルさん。」
(まぁ思春期の女の子としては、とうぜんの反応か?エルトは、よくわかっていないようだが、、、)
『どうしてハイリンは、怒っているのですか?』
『ん〜、まぁあとで説明する。』
俺は、そう言って店の入口の横にある階段を上がっていく。
『ギルドの紹介も有って、俺の顔見知りもいるから安く泊まれるんだぜ。何もやましいことなんてないからな。それに、ここには時間制限はあるが、湯浴みができる湯殿があるんだぜ。』
『ハイド、、、言えば言うだけ怪しく聞こえるから少し黙っててくれ。』
『くっ、、、』
そう。この宿屋の一階は、男性客専用スペース。春の空間だ。
(エルトになんて説明しようか。そもそも、エルフってそういう感覚は理解できるのだろうか?)
と、悩む俺だった。
さて、俺達の借りた部屋は、二階の一番手前の端部屋と奥へと少し離れた部屋のようだ。
一番奥の部屋の扉は、いやに派手な装飾になっていて、部屋の名前も”サキュバス”となっている。
その部屋の中は、いったいどんなことになっているのだろうか?
それはともかく、ハイドが持っている部屋の鍵についている札には、エルフの間とか妖精の間とか書かれている。
(部屋のネームセンスがアレだよなぁ)
『ハイド、ハイリン、注意事項がある。』
『ん、なんだ?急に、、、』
『この携帯念話というアイテムについてだ。こいつでの念話は、間に障害物があると通じない。あくまでも、見通せる範囲にお互いが居てこそ念話できるアイテムだ。それぞれの部屋に入っちゃうと念話できないから、そのつもりで。』
『お〜了解した。』
『ということで、それぞれの部屋の場所を確認したから、ハイド、行くぞ。』
『ちょ、ビル。ちょっと待ってくれ。俺は、下の階ですこーしだけ情報を集めたいんだけど?』
『むぅ、しかたないな。すぐ戻ってきてくれ。ハイリンは、二人の防具兼服を仕立てるから俺達の部屋に来て、エルトを手伝ってくれ。』
「はい。ほら、兄さん、早く言って戻って来る。」
「、、、最近、ハイリンが強くなった気がするのは、俺だけか?」
とかなんとか、ぶつぶつ言いながら、ハイドは階段を降りていった。
俺達三人は、エルフの間と書かれた部屋に入り、部屋の窓を開け、日没前の街並みを眺めてみた。
二階から少し遠くまで見えるハイファーの街は、結構大きな人間の街の部類になるのだろう。
俺もこうした人間の街は、久しぶりなのでその景色を見て、思いにふけってしまう。
『師匠、すごく大きな街ですね。こんなにも人が多いとは思いもしませんでした。』
『そうだな、俺もここまで大きな街は久しぶりなんだが、人ってのは短期間でこういった街を作り上げ、数を増やしていくんだなぁ、と感じているところだ。』
『二人とも何を言ってるんですか?それはそうと、エルトちゃんは、大きな街は初めてでしたか?王都には行ってないんですね?』
『おお、そうだな。この国の王都ともなれば、あの遠くに見えるこの街を囲む城壁ももっと大きいのかな?』
俺は、ハイファーの街をグルっと囲むように作られた背の高い、もう城壁といっていいほどの壁を指した。
『そうですねぇ。大きいとは思いますが、このハイファーよりも街の規模が違いますから、比較にならないと思いますよ。あ、いや、単純に大きさの問題ではないですね。』
『ん?どういう事だ?』
『大きければ良いのではなく、ちゃんと街の人々を守れるかどうかが重要なので、、、』
『あぁ、性能が違うのか?』
『魔術結界込みですからね。』
『なるほど、機会があったら見てみたいものだな。』
俺は、先日、エルフの村の結界を見たばかりだ。
だからだろうか、人間の魔術による結界も見てみたくなった。
『さて、作業を始めてもらうとするか。』
俺は、収納から天樹の布と裁縫道具を取り出し、エルトに手渡す。
『では、採寸からしましょう。』
『エルト、あとは頼むな。ハイドと出かけてくる。』
『はい、いってらっしゃいませ。』
エルト達二人に見送られ、俺は部屋を出て階段を降りていく。
この宿屋の一階、受付カウンターの奥は、カーテンで仕切られ中を伺うことはできない。
が、俺は生体感知で中に居る人間の数くらいはわかる。
まだ日没前だと言うのに結構な客が居るようだ。
俺は人魔族だ。
人間から見て、魔族に分類されている。
とは言っても人魔族という種族はない。
いずれかの魔族と人族の間に生まれた子供を総じてそう呼んでいるだけだから、いろんな姿の人魔族が存在する。
まぁ、そんな人魔族は、子孫を残すという種族としての感覚に人間との大きな差はない。
(俺の居た魔族領でも、そういった店はあったからな。)
今度はこの宿屋の外を伺ってみた。
宿屋の前の大通りは、人、人、人。
時折、馬車が忙しなく通り過ぎていく。
通行人の格好も様々だ。
冒険者風の人間も少なからずいるので、俺みたいな鎧がうろついても問題なさそうだった。
「よぉビル、待たせたか?」
背後からハイドがポンポンと背中を叩いてきた。
『まずは、どこへ行くんだ?』
『ん、そうだな。少し金策のためにな、家具なんかの買い取りしてくれる所はあるか?』
『家具?骨董品屋か質屋か、、、』
『まぁ行ってみて交渉してみよう。ハイドには、通訳というか、交渉役を頼む。』
『あぁ良いぜ。こっちだ。』
大通りから少し離れた道筋にこれまた大きな看板で”アンディ”と書いてある。
横に小さくアンティークと書いてある店があった。
『おぉ〜立派な店だなぁ。』
『あぁこの街で一番大きなアンティーク店だ。おもしろいものが売っている可能性もあって、結構人気店だな。俺の剣もこういったところで入手したんだ。普通の武器屋なんかにゃぁ無い品ばかりだぞ。』
『そうか。なら、ハイリン向けの杖とか良いものがあったらいいな。』
『ハイリン向けかぁ?どんなものがいいのか、さっぱりなんだが、、、』
『ん?そうだなぁ。ハイリンが好きな色や植物とかわかるか?』
『あぁそういうのはわかるぜ。黄色やたんぽぽ、わた毛なんか、好きだって言ってた。』
『ほぅ、なんというかハイリンっぽいなぁ。』
人間の姿のエルトに負けないくらい可愛らしいハイリン。
(黄色の花が似合うハイリンね。想像できちゃうなぁ。)
『よし、わかった。そういったものを探してみよう。っとその前に、ここで買い取ってもらいたいものがあるから、ハイド、交渉してほしい。』
『いったい、何を買い取ってもらうんだ。』
『こいつさ。』




