ただ強くなってあいつの隣に続く道を行くだけのこと (3)
・・・
そうこうしているうちに、束の間の自由時間は過ぎていく。
日が暮れ、闇が落ちてくる。
教国の夜は特に暗い。他の国にあるような魔石灯は少なく、点在するかがり火の明りが頼りだ。
この辺り、教国に関して短い滞在で多くを見れたわけではないが、どことなく田舎っぽい不便さがあるというか。
王国もそうだが、魔道具のような複雑な設備も少ない気もする。
同じ女神教の中心地である法国はそれなりに発展していたのを考えると、教義の違いもあるのだろうか。
国の経済的な面もあるだろうからあまり単純に比較すべきではないとは思うが。
何はともあれ、日が落ちれば営業している店も無いので特にやれることが無い。
夜は宿に戻り大人しくしているしかないだろう。
ちなみに、だが。
街で宿を取るときは基本、俺だけ一人部屋だったりする。
当然自腹だ。
ベルとアリアは相性が良いのかほぼ相部屋で、今はエステルもそこに加わっている。
なんか俺だけ一人部屋ってのも申し訳ない気もするが、そもそも俺たちは自分の財布を個人で管理しているので、この辺りは割と個人の自由というか。
他のパーティだと共同資産としてリーダーが一括管理してたりするところも珍しくないし、おそらく俺たちが変わってるのだろう。
まぁ……、自由というか、宿に関しては男である俺が女性陣の部屋に一緒になるのは流石に良くないと思うしな……。
というより、ベルやアリアが拒否しなかったとしても俺が困る。
普段一緒にいるから多少慣れてはいるものの、あいつらは見目麗しいと言っても差し支えない。
命を預け合うパーティの一員として、何か間違いがあっては困るだろう。
……いやまぁ、そんなことあるわけないが。
それに思えばあいつとの二人旅でもずっと別々の個室にしてたし、一人が楽というのもあるな。
いや、それ以前に、あいつをそういう目で見るのはなんていうか。こう、申し訳ないというか腰が引けるというかちょっとビビるというか。
でも決してそういう目で見れないわけじゃないというか、むしろ……。
……。
……まぁまぁ、そういう下賤な話はともかくとして、だ。
金銭的負担は大きいが、人目を気にする必要がないというのは大きい。
気が楽だし、個人的な鍛錬をしても迷惑にならないしな。
……。
いや、正直言えば他に理由も無くはないが……。
俺にだって、たまには一人の時間も欲しい時はあるわけで……。
元盗賊の助っ人冒険者ドレイクが一緒の時は相部屋になったりもしてたが、それもだいぶ前の話だ。
ここしばらくは野宿する場合を除いて、こうして自分一人の時間を取ることができているから助かっている。
……ん?
ああ、そうだな。俺だけじゃないか。いや、悪い悪い。
聖剣がピカピカ光って抗議してきたので謝っておく。
孤児院では多少興奮してた様子の聖剣も、戦闘が終わってからは多少満足したのか大人しかったのだが。
まぁそうだな、俺たちは一心同体なわけだものな。考えてみれば完全な一人っきりってのは無いわけか。
……まぁ、これは仕方ないか。
俺が選んだ道でもあるし、それが負担になることばかりではない。
大体それ以前の問題として。
あいつのために強い勇者を目指す俺は、そんなこと考えてる場合じゃないだろう。
一意専心で道を進むことの難しさと重要性というのは、様々な場所で伝え聞かされている。
どうにもここ最近は変な雑念が多い気がする。
ほとんど人と変わらない姿をした魔物と初めて相対し、それを斬ったことで気持ちがより変に高ぶってしまっているのかもしれない。
悪いことだと一概には言えないがそちらに傾きすぎても良くないだろう。気を付けなければ。
とりあえず……、発散するために宿屋の裏で鍛錬でもするか。
聖剣もピカピカ光って付き合う気になってるし、あかり代わりになってもらうとする。
暗闇で剣を振ってたら不審者扱いされるかもだが、あかりがあったら別だろう。いや、そこだけ明るいと逆に不審か……?
あと流石にこんな使い方してるってバレたら教会に怒られそうだが。
聖剣本人……本剣?からは全然気にしてない風な意思が伝わってきてるし良しとしよう。
……。
……。……。
……。……。……。
「……ふぅ」
なんか思ったより捗ってしまった。
まだ暗いが、夜明けは近そうだ。
「アルさん、お疲れ様です」
「うぉっ」
暗闇からエステルが顔を覗かせた。
気配は感じていたが、聖剣からの光で煽り気味に照らされ少し不気味にも見えてしまい、少し驚いてしまった。
「……鍛錬ですか?」
「ん、ああ。寝れなくてな。エステルは?」
「まぁ、似たようなものです」
「似たような?」
似たような……?
いや、変な意味ではないだろうが。
「ああ、いえ、なんていうか。なんていうか……私って弱いんだなと」
「……?」
エステルが影の中から近づき、その表情が見える。
見えたのは、想定外に、思っていた以上に。
……沈鬱だった。
この事件を通し、エステルは完璧に仕事をし、完璧に振舞い、完璧に事後調査まで終えた。
俺は、そのように思えていた。
「ちゃんと動けていたんじゃないか……? 少なくとも俺は助けられたし、エステルが居なければ何もできなかったぞ」
「助けられたのは私です。皆さんが完璧に挽回してくれたというだけで」
吐き捨てるように、失望が闇に落ちた。
苦い自己嫌悪。致命的な深刻さは無いが、その苦悩の強さは相当に深い。
「躊躇したんですよ、私。あれだけ大口叩いておいて。明らかな確信的材料が揃っていたにも関わらず。現状が平和を見せているというだけで。あの場面、ししょーなら絶対に躊躇わなかったのに」
「……」
……難しい話、だな。
これは簡単に肯定も同意すべきでもないし、恐らく慰めるべきではないのだろう。
ただ、理解はできる。
そもそも俺もエステルが動かなければ動くことはできなかった。
視点の違いだ。俺は俺だけでは何もできない。
少なくとも、個人の強さとしてはエステルの方が強いのだから。
「ダメダメですね。私も、もっと成長しないとダメです」
「……俺の方こそ、な。もっと頑張らないと」
「む、アルさんはすごいですよ。私なんか師匠面しといてダメダメです」
「エステルの方がすごいぞ。俺に無い物をたくさん持ってる」
「むむむ……でもアルさんの方が」
「エステルは俺より、ずっとすごい」
「……いや、不毛なのでやめましょうか」
「……そうだな」
結局のところ、無い物ねだりだ。
欠けたものは足したくなる。足りないものは補いたくなる。
補えないものは、どうしても補えないものは、ただ羨ましくなるだけ。
悩んでも仕方ない。自分にできることは所詮、自分にできること。
だから、自分にあるものを強くするため、鍛錬するしかない。
決めたことだ。俺はもっと強くなる。
……。
「……夜が明けますね」
「ああ」
「アルさんは……、どうして強くなりたいんですか? ああ、いえ、強くなくてもきっと、幼馴染さんは認めてくれるでしょうに」
……どうして、か。
それは、一言で言える。あいつの隣に立つため。
もっと正確にいえば、俺はあいつと対等になりたい。
強くなって、あいつを守らなきゃいけないとかじゃない。
ただ弱いばかりに、一方的に守られるだけの関係が嫌なだけ。
こう表せばただのわがままだ。無駄なプライドとも言えるかもしれない。
でも優しいあいつが、俺を、俺たちを守るために傷つくのは間違ってると信じている。
だから。
「俺は、強くならなきゃいけない。弱い俺のままあいつの隣にいられても、そんな俺を俺が許せない」
それだけの話だ。
「……そう、ですか。頑張らなきゃ、ですね」
「道は険しいと分かってるけどな」
「アルさんの良いところは強さばかりでは無いです。が、強くなければ認められない、というのも分かります」
「おう。だからよろしくな、師匠」
朝日が昇る。
自然の明るい光に照らされたエステルの表情は、少し曇りから晴れたように思える。
「そう、ですね。曲がりなりにも私はあなたの師匠になったのですから、師匠に相応しく頑張りたいと思います」
「ああ。……とりあえず、俺は夜でも鍛錬できるような魔術を覚えたいな」
「ふふ、休むことも重要ですよ。それに理論が先です。いえ、実践から入るのも決して悪くはないのですが、やはり知識の有無は大きいですし」
話しながら宿に戻る。少しずつ、町が明るくなっていく。
明日……いや、夜が明けたのだから今日だな。
教会からアリアが戻れば、俺たちも次の街へと出発だ。
ようやく元々の目的地、法国に帰還する。
魔族の痕跡を探るクエスト。
その先に何が待っているかは分からないが……気を引き締めねば。
……。
ただ、ちょっと思わず徹夜になってしまったので今は仮眠を取った方が良いか……。
・・・
聖剣ちゃん「え、暗い? 光る? ……眩しい? ……これくらい?」
聖剣ちゃん「よし……主の役に立ってる……!」
聖剣ちゃん「敵もばっちり斬ったし、これは大活躍……!」
(次回、魔女パート)




