魔女さんの超絶アドリブ最終試練 (1)
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帝国は割と孤立した国と言える。
南は大森林に覆われ、西と北は大山脈に塞がれており、そもそも高地なので交通の便が悪い。
なぜこんな辺鄙な場所に国を興したのかというと、そもそも初代皇帝が王国での権力争いに負けた公爵家の当主だから。
この辺そこまで詳しくは調べてないから少し曖昧だがそれが大体200年くらい前のことらしい。
てなわけで帝国ってぶっちゃけそこまで歴史のある国じゃないわけだ。
歴史が浅く、地政学的な状況も良くなく、地形環境的にも厳しい。
そんな国が手っ取り早く力を持つために求めたのが魔術。
私が来る前から魔術が盛んだったのはそういうわけでもあるのだ。
……結局それも、二代目皇帝以降から先代までの間で単なる権威付けに使われるようになっていったみたいだけど。
今の皇帝様がいなければ魔術以外の力がない帝国は、そう遠くない未来に初代皇帝の遺産を食い潰して滅んでたかもしれないね。
地理的に整理すると、大森林を隔てて南に獣国、南東に王国。
大森林は東西に広いので、王国との距離は結構離れている。
そして実質的に唯一の行路となる東側には教国、そして法国。
この二つの国はもともと一つだったので距離的にはそこまで変わらない。
強いて言えば教国との方が近いが、別に法国にも道がつながっているので直接向かうこともできる。
まぁつながってるといっても、ちょっと整地されててせいぜい馬車が通れるくらいの砂利道。
前世基準で考えたら、これ道か……?みたいな感想が出るけど、どこもそんな感じだしむしろマシな方でもある。
ちなみにこの世界では馬車が普通にメインの交通手段なのだが、馬も魔力を持ってるので普通に成長すればどんどん強くなる。見た目は前世の馬と変わらないけど。
でもあまり全力で動くと運んでる荷物や人が大変なことになるので、馬がその辺を調整してくれてるみたい。えらいね。
私は動物も嫌いじゃないというか、一見論理的に見えないけど確かにある知性、ということには好奇心がそそられるよね。
特に、お馬さんのような賢さを感じられる動物とか、魅力的だ。
……いや、別に私はケモナーとかいうわけじゃないぞ?
閑話休題。
そういう地理的な問題もあり、帝国は教会と関係が深い。
帝国教会と教国教会、法国教会は密に連携しており、帝国の聖職者もそこそこレベルが高いのだ。
といっても帝国教会はあくまで支部的ポジションなので流石に上位聖職者がゴロゴロいるわけじゃないんだけど。
というか目の前の黒髪ちゃんみたいな上位聖職者がゴロゴロいたら普通にヤバい。
あ、いや、もしかしているのか……?
別に私も教国とか法国の教会のことそんな知らないし、上級冒険者顔負けの人類の上澄みがゴロゴロ……?
いーや、こっわ。冷静に考えたら教会って結構ヤバイね。
少なくともこの子が実力者なのは間違いないとして、単独行動してるこの子だけが特別に強いってのも考えにくいし。
教会の総本山たる法国と教国にも同じくらいの実力者が少なくとも最低一人ずつは存在すると考えた方が良いでしょ。
むしろこの世界の創造主たる女神と直接つながってるやつらなのだから、もっと強いのがいてもおかしくない。
うわやっべ、教会の戦力評価をもっと上げないとダメか?
……いやまぁ最悪、私が出張れば大抵のことは大体むりくり解決できるので大丈夫っちゃ大丈夫ではあるけど。
そもそも私が戦力的に出張る案件とかほぼ魔王軍関連のことだったりと普通に異常事態だし無いと思いたい。
だいたい帝国と教会は関係が良好なはずなのでそんな事態まず有り得ないだろうが。
教会自体、私が知る限りでは割と善性寄りの存在だしなぁ。たぶん大丈夫かなと。
……個人的には神とか聖とかそういう関係の存在、そんなに好きじゃないので思うところは結構あるんだけど、それはそれとして。
と、いうわけで。
気を取り直して魔術院試験の続きである。
「……」
「……」
……ちょっと気まずい。
あの3人のクレーマーズトリオはさっき適当に結界に閉じ込めたところなので、この場にいるのは私と黒髪ちゃんの二人きり。
あと一応、今後の試験結果に関係ない私たちも別の結界を作って閉じ込めている。
結界を隔ててお互いの様子は目視では分からないが、私は監視術式であちらがどうなっているか逐一わかるので問題なし。
もちろん試験の邪魔をしないため、術式の展開はバレないようにこっそりとやった。
あいつを見守るために鍛えた私の監視術式の練度は我ながらすごいからね。院長相手でも多分バレないレベルの超絶技巧な隠蔽技術だよ。
なんかこうやって手際の良さを説明するとまるで犯罪者っぽいけど気にしてはいけない。
私がやってたのはあくまで見守りでストーカーではないので……!
「……」
「……」
……。
いや、しかしなんていうか……。
私は自発的に人と会話するのが、そう、ほんのちょっぴり苦手なので……。
……こう、二人きりという状況だと時間が流れるのがやたら遅い気がする。
「……」
「えっと、ねぇ、あっちの人たち大丈夫?」
「え? あ……、う……ん? 今のところは……?」
「今のところ?」
「え…っと、このあとどうなるかは……」
「ふーん」
……よし、おーけー。
急に話しかけられたのでちょっと焦ったが、問題なし。
イッツ、パーフェクトコミュニケーション。
だいじょーぶい。
(いやどこが?)
(さっき普通に話した年下相手にまたキョドってるやんけ)
(コミュ力が時間を置くとリセットされるタイプのクソ陰キャ)
(ざこざこな稚魚)
ぐふ……。
試験的に再起動したサブ私たちにさっそくボコボコにされた件。
これ脳内会議みたいなもんだけど思考権限付きでメイン私から独立してるからなんか何気にダメージあるよね……!
実質ただの自虐だから多少マシとはいえ、これ実際メンタルダメコンとして方向性合ってるのかなぁ……!?
(というか最近の私、アホが加速してない? もともとアホだけど)
(そもそもこれも、ほぼバレてるとはいえ普通に私の仕業ですって自分からバラしてええんか? だいじょばなくない?)
(たしかに)
(かに、たらばがに)
いやちょっと、なんかこの新しく生やした分割思考のサブ私ども、生やしたてでまだ仕事振ってないからってやりたい放題すぎへんか……?
黒髪ちゃんの干渉でバグ残ってるかもだし、まだ魔術院の方の試験の最中だし、メイン私に変な影響ないように早々に仕舞うか対処した方がええんか……?
(まぁノータスクで思考権限だけあったら暇だし、そら姦しくなりますわな)
(いうて元々こんなもんだった気がしないでもないけど?)
(脳内デスマーチの甲斐あって今のところ進捗好調だし、若干調子に乗ってる感はある。ちょい内省)
(調子は元々乗ってる定期。まぁまぁ影響ないよ。うに)
うーむ、どうなんかなぁ。まだまだ脳内で処理する仕事はあるけど追加が控え目だから減少傾向ではあるけど、バッファ的な遊びは改めて要調整か?
あととりあえずさっきからへべれけな海産物謎電波垂れ流してるやつ、シンプルにウザいのでこいつだけ先に仕舞っとこ。
(あじゃぱー! ひとでなしー!)
うっさ。
素面になってから帰ってこいや。
「……まぁいいかなぁ。こっちには何もないの?」
「?」
「えぇ……なんで首傾げてるのかなぁ……ほんと話が通じるようで微妙に通じなくてちょっと……」
ちょっとってなんやねん。
え、ていうかなんかした方がいいのか……?
この子も合格する気がないってのは既に分かってるし、私も合格する意味がないので別に何もいらないような気がしてたんだけど……。
なんか……、なんか……。
……うーん、そうだなぁ。
まぁあちらの三人組が試験を終わらせるまで暇だし適当に何かするか。
「あ、いや別に何かしたいってわけじゃ」
――『使い魔:召喚』




