ただ強くなってあいつの隣に続く道を行くだけのこと (2)
・・・
事の顛末として、ひとまず孤児院は閉院を免れることになりそうだと聞かされた。
それは単純に今いる孤児の受け入れ先がすぐには見つからないということと、少なくとも設備として充実している施設を捨て置くのは勿体無いという実利的な面を考えてのことらしい。
それに実務を担当していた修道士の男とは別に、ここの孤児院には教国司祭が運営責任者として就いている。
ここにはあまり訪れないとのことだが、全くの無関係とは考えにくいだろう。
また、他にも孤児の引き取り先のナーサリー商会もかなり怪しい存在と言える。
この事件は終わったわけではなく、まだまだ闇は残っているように感じざるを得ない。
……とはいえ、俺たちのクエストはここで終わりだ。
ここから先は教会内部での政治的な話になるし、冒険者としても、俺個人としても、そして勇者としても口を挟める領域ではなくなる。
ただ、アリアだけは少し忙しくしているようだ。パーティに合流するまであと1、2日は時間が掛かると言っていた。
この件は教国にはなるべく情報を伏せた状態で動かなければならず、法国の聖女見習いとしてそれなりに高い立場にあるアリアには色々とやらなければならないことも多いらしい。
また、同じく聖女見習いのテッラは孤児院に詰めるらしい。
詰めるというか普通に教会の仕事もするとのことで、兼任するというのが正確か。
まだ確認したいこともあるし、とは言ってたが修道士の男の代わりに子供たちを見てくれる、ということでもあるんじゃないか。
色々油断ならない雰囲気も感じるが、そこまで悪いやつとも思えない。アリアの仲間でもあるし、あまり警戒する必要も無いだろう。
エステルの魔術が切れて目覚め始めた子供たちとの対応の様子も、問題ないように見えた。
戸惑う子供たちを言い含めて大人しくさせる話術は、むしろ芸術的とも言えるかもしれない。
……あのしっかり者の少年だけは、どこか納得していなかったようだが。
あの子にはテッラも目を掛けている様子だったし、何とか心の傷にならないような形で納得してくれると良いのだけどな。
いや、シスターを斬った俺があまり言えたことではないだろうが……。
ともあれ、孤児院を離れ、アリアの教会での仕事を待つまでの空き時間。
俺とベルとエステルは教国の中心、教都にて時間を潰すこととなった。
時刻は日没前。
食事にはやや早く、何か依頼を探すには遅い、隙間の時間。
……。
……何だったっけか。
あいつは夕暮れが好きで、こういう時間は魔の潜む時間?と言ってたような気がする。
実際にギルドなんかでは日が暮れたら魔物に気をつけろ、みたいな注意喚起がされていたりするのだが。
あいつの話の意味とは何となく違う気もする。精神的なことなのだろうか。
中途半端な、光と闇が混じり合う薄暗闇。
それは魔に魅入られる狭間の境界線でもあるのだろうか。
悪事は日中よりも夜間に多いと聞く。
明るい日の下では善人でも、闇の中では悪人になったりもする。
綺麗に二分できるほど単純な話ではない。
あの孤児院でもきっとそうだったのだろう。あくまで憶測に過ぎないが。
ただ、闇も悪いものばかりが潜んでいるわけじゃない。
あいつを初めて見かけたのもほとんど日の沈んだ夕暮れのことだったし。
なんか綺麗な子がいるな、って子供ながらに思って、興味を覚えたのが始まりだったと思う。懐かしい。
「ま、なるようにしかならないんじゃないかなぁ」
「……?」
特にあてもなく歩いていると、ベルがクルリと振り返り唐突に言葉をこぼす。
いつもと変わらない調子の軽さで、独り言のように。
これは、俺に対しての言葉だろうか。
「ん。いやアルさ、あの子達どうなるんだろとか考えてたでしょ?」
「まぁ……、考えてはいたが」
「そんでそっから連想してまた幼馴染ちゃんのこと考えてたり」
「……いやまぁそのとおりだが」
なんか変に見透かされてるみたいでちょっと恥ずかしいな。
いや、別に恥ずかしいこと考えてたわけでは無いと思うが……。
「なんにせよ、なるようにしかならないって。私たちがやれることはやれる範囲のことだけなんだから」
「……そうだな」
「手を尽くしたら後は祈るだけ。女神さまのお導きのままにってね!」
「む……? なんだそりゃ」
なにやらパチっと片目をつむり、キメ顔で微笑んできたので思わず突っ込んでしまった。
言ってることは正しいとは思うものの、普段ふざけてるベルが急にまともなこと言い出すとなんとなく、くさしたくなってしまう。
「まぁまぁ、年長者の助言ってやつ? お金払ってくれてもいいよ?」
「急に言葉に重みがなくなったな……」
「それに実際さ、少なくとも間違いなくあのまま放置してたらあの子たちに未来は無かったわけだよ。……そだよね?」
「え? あー……そうですね」
どこか遠く、恐らく帝国の方を眺めながら少し離れて歩いていたエステルにベルが問いかける。
「あれは魔術的……いえ魔法の呪いというべきでしょうか。一種の人工的な魔石加工……?」
「あ、軽い確認だったんだけど、そのへん話しても大丈夫なの?」
「まぁこの程度でしたら。あまり愉快な話ではありませんので詳細は伏せますが。……そのままでは長生きは難しかったかと」
「今は大丈夫なのか?」
「はい。進行性の呪いで、あの場の子供たちは対処可能な状態だったので幸いでした。ほとんどはアリアさんの奇跡で除去でき、私がやったのは確認くらいでしたね」
「なるほど、それは良かった」
一概に良かったと一言で済ませては良くないとも思うが、良かった。
……そう、あそこの子供たちはそれなりに幸せそうではあった。
運営上の何かしらの悪事があったのは間違いないが、それでも子供たちにはあそこの修道士の男やシスターとの間に思い出のようなものもあったのだろう。
どんな事情があれ、それをあの子たちから奪ったのは俺たちなのだから、忘れてはならない。
「んー、と。私の持論なんだけどさ?」
「……ん?」
「ほんとの幸せってのは最後に後悔しないことなんだよ。たぶん。今がどんなに幸せそうに見えても、いつかそれを悔やんで終わるなら不幸だから」
「……ベル?」
「終わりよければ全て良しってこと。あの子たち、長生きできるといいね」
……妙に含蓄ある言葉に思えた。体験談だろうか。
エルフは俺たちのようなただの人間よりずっと長く生きる。
実年齢は知らないが、ダークエルフのベルも長く生きてるはずだ。
「なんていうか……難しい話、ですね」
「いやぁ、簡単な話だよ。そう思えるくらい長く生きてればね。明日のことを考えながら、過去を糧に今を楽しく生きられる、それが人生の幸せってやつ?」
「……年の功か」
「いま私のことババアって言った? うん?」
「言ってないぞ」
「おいコラ目を合わさんかい」
なんか思わずうっかり失言してしまったが。
いつものようなじゃれ合いの中、日が落ちていく。
そして明日もまた日が昇り、今日とは違った明日が来る。
そうだな、今の未熟な俺より成長できるよう、もっと頑張らなきゃな。
・・・
事の顛末として、ひとまず孤児院は閉院を免れることになりそうだと聞かされた。
それは単純に今いる孤児の受け入れ先がすぐには見つからないということと、少なくとも設備として充実している施設を捨て置くのは勿体無いという実利的な面を考えてのことらしい。
それに実務を担当していた修道士の男とは別に、ここの孤児院には教国司祭が運営責任者として就いている。
ここにはあまり訪れないとのことだが、全くの無関係とは考えにくいだろう。
また、他にも孤児の引き取り先のナーサリー商会もかなり怪しい存在と言える。
この事件は終わったわけではなく、まだまだ闇は残っているように感じざるを得ない。
……とはいえ、俺たちのクエストはここで終わりだ。
ここから先は教会内部での政治的な話になるし、冒険者としても、俺個人としても、そして勇者としても口を挟める領域ではなくなる。
ただ、アリアだけは少し忙しくしているようだ。パーティに合流するまであと1、2日は時間が掛かると言っていた。
この件は教国にはなるべく情報を伏せた状態で動かなければならず、法国の聖女見習いとしてそれなりに高い立場にあるアリアには色々とやらなければならないことも多いらしい。
また、同じく聖女見習いのテッラは孤児院に詰めるらしい。
詰めるというか普通に教会の仕事もするとのことで、兼任するというのが正確か。
まだ確認したいこともあるし、とは言ってたが修道士の男の代わりに子供たちを見てくれる、ということでもあるんじゃないか。
色々油断ならない雰囲気も感じるが、そこまで悪いやつとも思えない。アリアの仲間でもあるし、あまり警戒する必要も無いだろう。
エステルの魔術が切れて目覚め始めた子供たちとの対応の様子も、問題ないように見えた。
戸惑う子供たちを言い含めて大人しくさせる話術は、むしろ芸術的とも言えるかもしれない。
……あのしっかり者の少年だけは、どこか納得していなかったようだが。
あの子にはテッラも目を掛けている様子だったし、何とか心の傷にならないような形で納得してくれると良いのだけどな。
いや、シスターを斬った俺があまり言えたことではないだろうが……。
ともあれ、孤児院を離れ、アリアの教会での仕事を待つまでの空き時間。
俺とベルとエステルは教国の中心、教都にて時間を潰すこととなった。
時刻は日没前。
食事にはやや早く、何か依頼を探すには遅い、隙間の時間。
……。
……何だったっけか。
あいつは夕暮れが好きで、こういう時間は魔の潜む時間?と言ってたような気がする。
実際にギルドなんかでは日が暮れたら魔物に気をつけろ、みたいな注意喚起がされていたりするのだが。
あいつの話の意味とは何となく違う気もする。精神的なことなのだろうか。
中途半端な、光と闇が混じり合う薄暗闇。
それは魔に魅入られる狭間の境界線でもあるのだろうか。
悪事は日中よりも夜間に多いと聞く。
明るい日の下では善人でも、闇の中では悪人になったりもする。
綺麗に二分できるほど単純な話ではない。
あの孤児院でもきっとそうだったのだろう。あくまで憶測に過ぎないが。
ただ、闇も悪いものばかりが潜んでいるわけじゃない。
あいつを初めて見かけたのもほとんど日の沈んだ夕暮れのことだったし。
なんか綺麗な子がいるな、って子供ながらに思って、興味を覚えたのが始まりだったと思う。懐かしい。
「ま、なるようにしかならないんじゃないかなぁ」
「……?」
特にあてもなく歩いていると、ベルがクルリと振り返り唐突に言葉をこぼす。
いつもと変わらない調子の軽さで、独り言のように。
これは、俺に対しての言葉だろうか。
「ん。いやアルさ、あの子達どうなるんだろとか考えてたでしょ?」
「まぁ……、考えてはいたが」
「そんでそっから連想してまた幼馴染ちゃんのこと考えてたり」
「……いやまぁそのとおりだが」
なんか変に見透かされてるみたいでちょっと恥ずかしいな。
いや、別に恥ずかしいこと考えてたわけでは無いと思うが……。
「なんにせよ、なるようにしかならないって。私たちがやれることはやれる範囲のことだけなんだから」
「……そうだな」
「手を尽くしたら後は祈るだけ。女神さまのお導きのままにってね!」
「む……? なんだそりゃ」
なにやらパチっと片目をつむり、キメ顔で微笑んできたので思わず突っ込んでしまった。
言ってることは正しいとは思うものの、普段ふざけてるベルが急にまともなこと言い出すとなんとなく、くさしたくなってしまう。
「まぁまぁ、年長者の助言ってやつ? お金払ってくれてもいいよ?」
「急に言葉に重みがなくなったな……」
「それに実際さ、少なくとも間違いなくあのまま放置してたらあの子たちに未来は無かったわけだよ。……そだよね?」
「え? あー……そうですね」
どこか遠く、恐らく帝国の方を眺めながら少し離れて歩いていたエステルにベルが問いかける。
「あれは魔術的……いえ魔法の呪いというべきでしょうか。一種の人工的な魔石加工……?」
「あ、軽い確認だったんだけど、そのへん話しても大丈夫なの?」
「まぁこの程度でしたら。あまり愉快な話ではありませんの詳細は伏せますが。……そのままでは長生きは難しかったかと」
「今は大丈夫なのか?」
「はい。進行性の呪いで、あの場の子供たちは対処可能な状態だったので幸いでした。ほとんどはアリアさんの奇跡で除去でき、私がやったのは確認くらいでしたね」
「なるほど、それは良かった」
一概に良かったと一言で済ませては良くないとも思うが、良かった。
……そう、あそこの子供たちはそれなりに幸せそうではあった。
運営上の何かしらの悪事があったのは間違いないが、それでも子供たちにはあそこの修道士の男やシスターとの間に思い出のようなものもあったのだろう。
どんな事情があれ、それをあの子たちから奪ったのは俺たちなのだから、忘れてはならない。
「んー、と。私の持論なんだけどさ?」
「……ん?」
「ほんとの幸せってのは最後に後悔しないことなんだよ。たぶん。今がどんなに幸せそうに見えても、いつかそれを悔やんで終わるなら不幸だから」
「……ベル?」
「終わりよければ全て良しってこと。あの子たち、長生きできるといいね」
……妙に含蓄ある言葉に思えた。体験談だろうか。
エルフは俺たちのようなただの人間よりずっと長く生きる。
実年齢は知らないが、ダークエルフのベルも長く生きてるはずだ。
「なんていうか……難しい話、ですね」
「いやぁ、簡単な話だよ。そう思えるくらい長く生きてればね。明日のことを考えながら、過去を糧に今を楽しく生きられる、それが人生の幸せってやつ?」
「……年の功か」
「いま私のことババアって言った? うん?」
「言ってないぞ」
「おいコラ目を合わさんかい」
なんか思わずうっかり失言してしまったが。
いつものようなじゃれ合いの中、日が落ちていく。
そして明日もまた日が昇り、今日とは違った明日が来る。
そうだな、今の未熟な俺より成長できるよう、もっと頑張らなきゃな。




