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勇者のことが気になって仕方ないTS魔女さん  作者: MckeeItoIto
3章:思えばある種の決定的分岐点?
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ただ強くなってあいつの隣に続く道を行くだけのこと (1)

・・・



<魔術の王には程遠いトラブルメーカー>



「わからん……何故だ……!」



「ま、魔王さま……?」






(ぐ……うぐぐ……まじゅつなんもわからん……!)



(いやだいたいなんなんだこいつ、どの魔導書も読みにくすぎるんだが? 頻繁に内容が前後する上に、単に難易度基準なのか中級の内容の一部で上級の内容が必須技術だったりするぞ? 選択的読み飛ばしが強要されててほとんど暗号なんだが? アホなのか?)


(というか読んでて気づいたがこの上級魔術窮極書、明確な言及は無いものの一部の術式で明らかに世界領域に干渉してるぞ……? 我は女神を知ってるから分かるが普通の人間の魔術師で扱えるものなのか……? なんか知らん間に人間のレベル上がりすぎでは……? いや単にクード個人がおかしいだけか……?)


(しかし魔術特有の問題というかスタックした魔力取り出し順の標準処理が環境に依存して不定なのが地味に困るな……。いやこれは技術的な話じゃなく世界領域というか世界基盤の仕様なんだが……。魔法よりも世界への手続き依存が強い構造なせいでいちいち記述が増える……。クソ女神め……)


(そもそもなんで世界領域にスタックした魔力が取り出す度に変化したりしなかったりする……? 一応術式構成中の最終魔力化により揺らぎを防げるが自由度は下がってしまう……。初級中級の魔術程度ならこの辺りは考える必要無いが我は上級魔術と魔法の合成複合化を目指してるからな……。複雑になるのは避けられぬか……)


(ああくそ。本当に我の魔法と勝手が違いすぎる。カスタム性は高いが知識量と経験値の問題で逆に不自由に思える……。とりあえず、これをああして魔力連携して、こっちの記述を置き換え……? ん? あ? 接続できない?)



(……え、なんでいやまって、は? うそ、あの、別の世界層に刻んだ中継術式、消えてない? え? 我、こないだちゃんと記述したぞ?)


(探査失敗……消失? いやいやいや嘘だろ? もしや術式を上書きしたか? そんなことやってないが……? じゃあ破損か……? ええと、この辺の世界層はプライベートだよな? ……だよな?)



(……よし、冷静かつ論理的に考えよう。ステップバイステップ。あの魔導書にもそう書いてあったからな。よし)



(ええと。我の成果消えた。先日に中継術式の記述を確認。さっきの魔力連携後に消失を確認。因果は不明、消失時期も不明。女神が作った世界基盤は女神が消滅しない限り干渉によってのみ変化。勝手には変わらない。この領域の操作可能、我のみ。のはず)



(……よって原因、我、濃厚)






「んあああああああああ畜生めッ!!」


「!!」(ビクッ)



「……ああ? なんだ貴様いたのか?」

「あ、ま、ま、魔王さま……? 軍の作戦でご相談が……」


「我は忙しい。とっとと消えろ」

「え、あ、す、すみま」


「我の崇高な研究の邪魔をしおって、獣にも劣る愚鈍な紛い物どもが……」(ブツブツ)






(魔王さまが激しくお怒りだ……いったい何に……)



(畜生……? 獣……? 紛い物……?)



(……!)



(そうか! 人間もどきの獣人どもが目障りだということですね!!)



(魔術的防護により今や帝国に近づくことすら困難な状況、しかし獣国は大森林を挟み帝国と地理的にも近い……! 大森林にはエルフもいて邪魔でしたが……)


(現在の獣国は内乱続きの不安定な状態でつけ入る隙も多い……。そこから浸透すればエルフどもの蹂躙も容易に可能……。大森林を貫通すれば帝国へは一直線……)


(流石は魔王さま……! その深謀遠慮、恐れ入ります……!)



「承知いたしました!! 獣国へ攻め込みましょう!!」

「? ああ……? いや知らん勝手にしろ。我の邪魔はするな」


「御意!」



(ああ、我ら新生魔王軍、必ずや魔王さまに勝利をもたらしましょうぞ……!)






・・・







――生きる上で最も大事なのは取捨選択。



 これは行商人だった、父さんの口癖。

 俺はこの言葉が嫌いだった。



 村での俺は、何も選択することができなかったから。



 冷静に、損を切り捨て、益を取る。

 何を選ぶべきか、何を拾って何を捨てるべきか。


 父さんはお世辞にも強いとは言えないただの人間だった。

 弱いから、限りある選択を正しく選ばなければならない。


 戦えない行商人の武器は判断力。

 誤りは死に直結する。決して間違えてはいけない。


 いつだってそうだ。

 生きていくためには仕方なかった。そうするしかなかった。

 危険には近寄らず、弱きを見捨てる生存戦略。臆病者の最善策。


 俺は嫌いだった。

 そんなの間違ってる。そう思っていた。


 でも、そうではなかった。

 父さんもそれが良いことだとは思っていなかった。


 ただ、弱いから選べない。

 家族を守るために、悪い正しさを貫くほかなかった。


 ……でも悪い正しさってなんだ?

 父さんは良くも悪くも、普通の人間だ。


 普通の人間は、悪いと自覚していることを続けることは出来ない。



 そうだ。

 つまり父さんは、ただ見ていることができなくなったんだ。



 無抵抗な小さな女の子を村中で虐げる、呪いのような村の因習に、行商人で王国外の価値観を持つ父さんは我慢が出来なくなった。

 だからと言って助けるわけにもいかない。村中を敵に回せるほど父さんは肉体的精神的、そして立場的にも強くない。


 母さんは父さんよりもずっと強かった。剣の才能があり、俺が生まれるまでは村を守る自警団にも所属していた。

 しかし母さんは村の人間だ。俺たち家族の手前、表立って加担はしてなかったが、あいつに対して良い感情は持っていなかった。




 だから、逃げることにした。

 弱いから、見ていられないなら離れるしかなかった。




 結局のところ、父さんが話してくれた本当の理由はそれだけだ。他の理由は全て、あとから理屈をつけたもの。

 それで現実として王都の仕事につなげて家族を養っていけたのだから流石ともいえるが。




 俺はずっと納得していなかった。

 弱いから選べない。じゃあ強ければ選べるってことだろ。


 だから俺は強くなりたかった。

 強くなって、選びに行きたかった。

 父さんのように、捨てて終わりたくなかった。


 幸い、俺にはそれなりの剣の才能があった。強くなれる自信もあった。


 旅に出たかった。王都の商人として、見捨てたものをそのままにする人生は嫌だった。

 行商人ではなく旅人、危険を冒しながらも失ったものを探す強い冒険者として。


 求めたのは強さとしての自由。そして自由としての強さ。




 ……まぁ、その辺りはあいつが語ったような世界の広さを見てみたかったというのも多少はあったのだが。

 あいつも村の生活しか知らないはずなのに、魔術によるものなのか、いろいろなことを知っていたから。


 それを、自分の目で見てみたいという気持ちもあった。


 そして……できることならあいつと一緒に。




 父さんは俺に商人を継いで欲しかったのだろう。

 冒険者になりたいと告げたとき、かなり喧嘩した。それでも最終的に「俺に似なくて良かったな」と、ため息をついて認めてくれた。

 母さんは反対していたが、ほとんど家出に近い形で無理やり俺は冒険者になった。いつか、謝らないといけないだろうな。




 あれから、多くの冒険をし、聖剣の使い手となり、仲間ができ、今に至る。




 でも結局のところ、まだ俺は弱い。

 選べるものが増えても、全てを選べるわけじゃない。


 もっと強くならないといけない。

 聖剣の力だけじゃなく、俺自身がもっと強く。



 一度はすくい上げたはずのあいつが、手の中からすり抜けて消えていく感覚。

 それは俺の弱さがため。



 そんな思い、二度と味わいたくない。次は、もう取り零さない。



 あいつが失踪してからその後、本当に今も生きているかどうか、信じているが不安ではあった。

 あの時あいつに伝えた俺の言葉に、そこまでの価値があったのかどうか。




 でも今は確信している。あいつは生きている。

 確認はできていないし、まだ難しいだろう。情報をもっと集める必要がある。


 再会はできる。だからあいつにまた会える日までに、俺は勇者として強くなる。




 まぁ、というかそもそもの話として、再会できる前提で考えて行動すべきじゃないか。


 そうじゃなきゃ、かっこ悪い俺のまま再会することになりかねないだろ?




 ……なんてな。


 常に正しくあることなんか不可能だ。少なくとも今の俺には。


 だからあいつにとっての正しさを選び続ける。

 それが俺の望んだ道に違いないはずだから。





 何はともあれ、今回の事件の顛末には苦いものが混じる。



 決して忘れてはならないだろう。

 俺が一つを選んだために選べなかった結末を。


 連行されていった修道士の男の、憎悪に満ちた視線を。

 全てが変わってから目覚めた孤児院の少年の、裏切られたような失望の眼差しを。



 全部を抱えて、俺はあいつの隣への道を行かなければならない。

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