魔神の試練ってなんやねん私ラスボスちゃうぞ (4)
・・・
「もう大丈夫なのか?」
「大丈夫」
戻るとチャラ男が声を掛けてくる。無言の筋肉男もお待ちかねの様子。
というか私自体はもともと大丈夫だったんだが、ギャルの押しに負けて不要な休憩を取ってしまったっていう。
まぁでも、いい気分転換にはなったかな?
普段みたいに研究室に閉じこもってるとこういうイベント体験できないので楽しい気持ちも多少ある。
弟子とのふれあいも、あれはあれで楽しいが自分が師匠なのであんまり馴れ馴れしくできないし。
その分いまのパーティは身分を隠してるのもあってそこそこ気が楽。いや、仕事ではあるんだけど。
なんにせよボスを倒してもう終わりだ。
「行こうか」
「……ええ」
ボス部屋のクソデカ扉を筋肉もりもりマッチョマンがゆっくりと開く。
すごくどうでもいいけど、やっぱダンジョンのボス部屋の扉ってデカければデカい方がいいよね。
別にこの大きさじゃないといけないわけじゃないし意味は無いんだけど、なんかワクワク感というか。
個人的にはこういう扉を開けるためのギミックを仕込んだりもしたかったけど、あくまでここは魔術院の魔術試験用ダンジョンなので……。
実際のダンジョンにはほぼ無い遅延系の無意味なトラップは設置に反対されちゃうのだ……オタク的にはそういうのもロマンなんだけどね……。
てなわけで、ゴゴゴっと厳かな開閉音とともにボス部屋にたどり着いた我ら即席パーティ一同。
前もって確認した時にはドラゴン型ゴーレムが出てくるはずだが……?
……あれ?
「……何もない?」
「いや……待て……何かある……」
そこにあったのは、明滅する文字のようなものが刻まれた一枚の石碑。
「罠か?」
とりあえずざっと構造解析の走査をしたところ、単なるモニター代わりの魔術碑だ。
筆記用の魔術で文字を書いたり消したりできる黒板のようなもの。
魔術院には私が作ったもっと薄型なのもあるけど、これはだいぶ旧式のやつだなぁ……。
「罠じゃない。危険な仕掛けは存在しない」
「そうか、近づいても大丈夫そうだな」
チャラ男と視線が合ったので、大丈夫だと伝える。別にこの程度なら教えてあげてもいいだろう。
無駄に警戒して時間が過ぎるのも勿体無いし。
「なんだこりゃ? 読めねぇな……」
「なになに? ……いやちょっとこれ複雑すぎるわね」
「……」
「……わかんない」
私以外は黒髪ちゃんも含めて読めない様子。しょうがないなぁ。
んーっと……?
時限式複合交錯魔力暗号……人に読ませる気あるんか……?
……。
……。
「……どうだ?」
「ちょっと待って」
……いやぶっちゃけとっくに解読は出来てるんだが。
どうすっかこれ……。
――試験内容変更の通達。
院長からの私個人に向けた業務連絡だったんだが。
そもそも受験生に読ませる気ないやつだわ。というか読めたら困る。
「えっと……ちょっと待って考える」
「それほどまでに難しいのか……」
「うーん……と……トゥール……ビズ……ゼフィール……」
「?」
解読難易度は高いが、そういう問題じゃない。
とりあえず記述に名前が挙がってるので順番に指差し確認。
私ってば人の顔と名前を一致させるのがちょっぴり苦手なので、一応。
「アックァ……あれ? アックァ?」
「……え? なに?」
あ、黒髪ちゃんがリアクションしたからこの子の名前か。
ていうかあれ? そんな名前だっけ?
「……名前、アックァ?」
「? あっかぁ」
……単にこの子の活舌が悪いだけだったみたい。
脳内データをアップデートしとこう……。
いいや。それはともかくとしてだ。
まず全体の試験記録上、この場の全員は現時点で通常の合格基準を満たせないことが確定しているらしい。
つまりこれからどんだけ頑張っても合格は出来ないので、経費節約としてダンジョン機能のボスは出さない。
魔力資源的にドラゴン型ゴーレムはそこそこコストが高く勿体無いのでって話。
だが、今回の試験は通常の試験ではない。
院長的には現時点の実力よりも将来性と人間性を重視したいという考えだ。
そして、クレーマーズトリオに関して、魔術院の一員に加えるのも割と有りと思われている。
しかし圧倒的に評価点数が足りない。筆記試験の点数が厳しかったのも響いている。
だから魔術院の面々を納得させるために、実技試験のレベルを変更して配点を増やしたい。
試験の採点方式は加点式で厳密じゃないので、その辺臨機応変に変更していけるわけだ。
……ていうかいいのか? 恣意的な変更では?
前日の実技試験受けた人たちにとって不公平にならない?
院長の判断だから私は良いけど……バレたら問題になるのでは……?
……。別にならないか。
そもそも以前の試験でも結構内容の変更とかあったし。
過去に私が受験生全員叩き落とした時とかもそうだったしな……。
いいや、とりあえず進めよう。
「読む」
「……お、読めたのか。頼む」
「"これより、クー・ド・ヴァン・デュ・シエルの試練を開始する。3人と2人に分かれて離れ、右手を掲げよ"」
「!?」
「魔神の…試練……!?」
「え? え?」
……はい。実はそんなこと書いてないんですけどね。
アドリブです。
――貴女が最終試験を出し、それを解いてもらう。そうすれば周囲も納得するでしょう。
――直接、貴女が試験したという結果は、それほどまでに大きい。あまり簡単ではいけませんが、貴女の試験が簡単なはずもありません。
――受験生として参加させると伝えておきながら、試験官の役目も負わせてしまい申し訳ございません。内容は任せますが、以前のような失敗はしないものと信じております。
――それでは、よろしくお願いします。
アイアム、ボス。
いや、なんか響きがよろしくないが。
「……俺たち三人と、そっちの二人で大丈夫か?」
「大丈夫」
その方が何かと都合が良い。
試験内容はずっと前のやつとほとんど同じだ。
難易度高めの結界に閉じ込めて、脱出してもらう。
改善点としては、前は個人で閉じ込めたが今回はグループで閉じ込める。
個人では解決策が出ないかもしれないが、集団なら突破できるかもしれないし。
どうもこの試験はそういう、協力しながらの姿勢が重視されてるような気がするし。
一応難易度調整はして、二人なら無理、三人ならギリギリ行けるだろうって感じにはしてある。
前みたいな全滅の失敗は繰り返さない。汚名返上ってやつ!
そんで、私は黒髪ちゃんと一緒。……なんかめっちゃいやな顔されたけど。
どの道この子は試験に合格する気がない。私も受かる意味が無いので同様だ。
なら一緒に入って適当に時間を潰して、あっちが終わるのを待つというのが良いかなと。
とりあえず、この三人の実力なら2時間もあれば終わるだろう。
これが終われば試験も終わり。同僚になるのか、お別れになるのかの分水嶺なわけだ。
というわけで……まぁ少しの間だけ頑張ってもらおうか……!
女神様「……。……ぅ?」
女神様「……。……」
女神様「……zzz」
(次回、勇者パート)




