魔神の試練ってなんやねん私ラスボスちゃうぞ (3)
ちなみにここまでで、村時代のことについては軽くしか触れてない。
具体的にはあいつに初対面してから、あいつが親に連れられて村を出るまでらへんまで。
それまでの迫害イベントは楽しい話でもないので本当にサラッと。
それからの村が無くなるまではそもそもあいついないから関係ないし?
それに……あの7年の出来事は誰にも話すつもりはない。
もう何もかも残っていない、とっくに終わった話なのだから。
どうあがいても、あげつらっても、時は巻き戻らないし、死者は還らない。
ならば故人の尊厳を無闇に貶めるべきではない。
私はあいつに救われた。それだけでいいんだ。
……なので話したのは、ほぼほぼそっからの二人旅のこと。
そう……、あいつと私の逃避行……。
愛の冒険……? そう、めくるめくアバンチュールってやつ……!
……。
……。
……なんかツッコミが無いとちょっと寂しい感あるな。
いま諸事情あって思考分割の一部機能を一時停止してる。
なので脳内会議があんま捗らないのよね。
完全に止めてはいないんだけど、なんかバグってるサブ私とかが発生してたのでメンテ中って感じ。
多分、少し前の黒髪ちゃんとの精神汚染的な何やかんやの影響がまだ少し残ってるってことなのだろう。
とはいえ肉体的にも精神的にも特に異常は無い。魔力操作も至ってスムーズ。
分割された思考による精神隔壁もちゃんと機能している。
思考分割の術式機能も止めてるのは自由意思の権限部分で、術式補助運用の方はオールグリーン。
裏でデスマーチしてるサブ私たちもちゃんと作業続行中だ。むしろ文句もサボリも今はできないので逆にいつもより順調といえる。
まぁ……あとで思考統合した時の不満のフィードバックが少し怖いが、どちらにせよそれも私なので大きな影響はない。
……しっかし、なんだろ。
解放感……?
束縛感が無くなったような?
そんな不思議なスッキリ感があるというか……。
……スッキリって感じでもないな。うーん……なんだろ……。
衝動のハードルが少し下がってる、みたいな……?
これもきっと恐らく、少し前の黒髪ちゃんのちょっかいによるものだと思うけど……。
奇跡、というか神力の影響は過程の観測が出来ないので、これが何なのかは正直なんとも言えない。
何にせよ一応術式で色々スキャンしても特に何も見つからないのだ。
しばらくチェックは続けるが、現状少なくとも悪影響は確認出来ないので多分大丈夫じゃないかな。
とりあえず私はノーダメージなのでこのことを取り立てて問題にするつもりは無い。
というかさっきの黒髪ちゃんとの絡みを問題にするには少し政治的な事態に発展しそうなので私は問題にしたくない。困る。
丸く治められるならそうすべきだろう。別に日和ってるわけじゃないぞ。
そんなこんなでメインの私はメインの私で、こうして謎のガールズトークの真っ最中にあるわけなんだが……。
まぁ、あの旅は楽しかったけど、あいつとの進展はぶっちゃけ全然無い。
というか途中、自意識の混乱とかもあったりしてあいつとの距離感が上手く測れなくなりヘタレてたって自覚もあるので……。
「でも二人っきりでしょ? こう言ったらアレなんだけど、凄く綺麗な女の子と男がずっと二人っきりで何もないわけ」
「無かった」
「……」
無かったのだ。
年頃の男女が二人きりで、道中、時には隣で寝てたりとかしても。
そんな素敵な青春ハプニングは何も……。
「何も……無かった……」
「えー……」
ギャルはドン引きである。
何なら村での再会時の抱擁がそういうイベントのピークだったのでは説も私の中ではある。
というかまともなボディタッチイベントは実際あれ以来無い。
なのであいつの肌の温もりを感じられたのは、あれが最後なのだ……。
いまや旅の途中であいつがくれたローブの温もりの残り香だけが私を慰めてくれてるのだ……。
いや、もう匂いはほぼ残ってないけど……。
でも私の匂いが移ったりしないようには気を付けてる。
そのために無駄に高度な魔術とか使ったりもしてたり。
あ、というかあれだよ。匂いって言っても私清潔だよ。ほぼ無臭。
ちゃんと身体綺麗にする魔術の他にもお風呂だってしっかり入ってるし……!
……。
……お風呂と言えば。
「そういえば私があいつを水浴びに誘った時も」
「えっ、水浴びに……!?」
私的にはだいぶ勇気を出して、ちょっぴり服をはだけさせながら「どうせだし一緒に水浴びしない……?」みたいな感じで誘った案件。
ぶっちゃけよくよく考えると普通に痴女スレスレなんだが……。
でも私、控えめに言っても自他ともに認める絶世の美少女だし……?
あいつも思春期の男なんだから、結構勝算はあったはずなんだ……!
「でもなんか……凄い勢いで逃げられた……」
「……」
「……」
「その男、ホントに男なの……?」
あれ、もしかしてこれ失言だったか……?
なんか今ギャルの中であいつの評価が著しく下がっていってる気がする……。
確かに私と同じくらいあいつも朴念仁のヘタレな感じあるが……!
流石に女子からの評価がこれじゃちょっとあれなのでフォローしておかねば……!
「でもあいつは良いやつ」
「え? ええ……、まぁ……そうね」
「私なんかを助けてくれた」
「……」
……どことなく生暖かい目で見られた。なんでや。
ちなみにだが、基本的に冒険者は旅の道中であまりお風呂には入らない。
というか普通は入れない。大体は湿らした布を使い身体を拭くくらいで済ましている。
そもそも、お風呂とかそれなりのグレードの高級宿にしか無いのだ。
なので綺麗な水辺などがあれば水浴びをすることもある。てな感じらしい。
私はあいつとの旅と、帝国での超短いソロ期間しか経験が無いので伝聞でしかしらないが。
ぶっちゃけ個人的には魔術でどうとでも清潔に出来るので不要といえば不要だし。
でも前世の習慣的に入りたいとは思うので、魔術院の研究室にある私室には勝手にお風呂が増設されている。
村時代も似たような感じ。
幽閉中も、あいつがいる間は一応それなりに清潔にしてたぞ。一応。
……あとさっきからちょっと気になってるんだが。
なんか割と黒髪ちゃん、私たちの話に興味津々っぽい。
ちょくちょくなんか言いたげな表情でこっち見てたりするし。
「ともかく……最終的に私はあいつを置いて、帝国に来た。あいつの隣にいれる私になるために」
「……そうなのね」
「そう。立派なあいつに……相応しく」
「……ねぇ、一個だけいーい?」
……うん?
黒髪ちゃんから質問……?
「もしも」
するりと近寄り、上目遣いに訪ねてくる。
その瞳は夜の海のように黒く、月明かりの水面のように揺れて。
何かを突きつけるかのように強く、真っ直ぐ。しかし、どことなく不安げに。
「もしもその人の隣にあなた以外の人が居たら、あなたはどうするの?」
「……」
……どう?
……。
「……なにも?」
ポカンとしたリアクション。そんな意外だったのだろうか?
いや、もちろん当たり前に嫌に決まってるだろう。
私はあいつのことが気になって仕方ない。
あいつの一挙手一投足が脳裏に焼き付いて離れない。
四六時中いつだってあいつのこと考えてる。
私はあいつに受け入れてほしいと思っている。
私がどんなに自分勝手な最低野郎か、自分が一番知っているというのに。
そんな欲求を分不相応に持ち合わせている。
だから、変わりたい。
そんな最低な私から、あいつに相応しい私になりたい。
……でも、もしあいつが私以外の誰かを選んだとしたら?
そんなの嫌だ。
少し考えるだけで気持ち悪くて吐き気がするし、頭が壊れそうになる。
……だけど。だとしても。
私は絶対に壊れはしないだろう。
約束したのだから。生きると。
それがあいつとの、約束という名の契約。
私はあいつの願いを叶え、あいつの望みに従う。
だからまぁ……嫌でも受け入れるのだろう。
受け入れられる。私は我慢が得意なのだ。
何もしない。
多分、きっと。
……なんかちょっぴりおセンチな闇が滲み出てきそうになったが。
それでも前よりは多少、気が楽な感じ。
うーん、なんていうか?
……心が少しだけ広くなったような感じ?
「諦めるんだ?」
「ちょ……あんまり」
「? 諦めないよ?」
「……?」
「え?」
いや、それとこれとは話が違う。
あいつが選ばなかったことと、あいつに選ばれたいと思うことは別の話だろう。
というか、なんなら最終的に選ばれればそれで良いとも思ってる。
私は少女だが大人でもあるなのだ。
結果が伴えば何も問題ない。
まぁ、過程に文句は言うかもしれないし、みっともなくあがくかもしれないが。
私は大人だが少女でもあるので。
矛盾してるが人間ってそういうもんだろう。
そもそも仮定の話だ。未来がどうなるかは分からない。
ただ、できるだけ後悔の無い選択をしたい。
とにかくだ。以前の私はヘタレすぎたので……!
改めて再会したら、次こそもっとこう、大々的なアプローチを……!
「ふぅん。なるほどぉ」
「……。大丈夫?」
「? 大丈夫。そろそろいい時間だし、次に行こう」
「……そうね」
少々ギャルが過保護な気がするけど、まぁ大丈夫だ。休憩はおしまい。
この次の部屋で、実技試験の最後のボスが待ってる。
男たちと合流して、さっさと終わらせよう。
(※次回更新3/7予定)




