カシェード領2
久しぶりに両親といっぱい話して、軽い昼食を取ったあと、部屋で休んでいた。
ここは王家所有のカシェード領。
私達がいるこの屋敷は王家の離宮だ。
両親はここでカシェード領を治めながらこの離宮を管理する役目を任じられている。
ここは夏の避暑地として、王族が避暑に離宮に訪れる。
今は私達しか滞在している人はいない。
私は本来なら伯爵家の人間として別棟に部屋を宛てがわれるのだが、アイザック王子の侍女として離宮に宿泊するので、アイザック達が泊まるエリアに部屋を用意されていた。
私がここに訪れたのは、両親がこの地に赴任した時。
学園の休みを利用して訪れた。
転移したら一瞬だが、普通に馬車で来たら二日は最低でもかかる。
王都まで往復五日といったところだ。
次に両親が王都に戻るのは、兄の結婚式だ。
それよりも早く会えたのは、ちょっと嬉しかった。
「頑張っているのね」
母にそう褒めてもらった時は、泣きそうになってしまった。
最近慌ただしく、ゲームのストーリーとのリンクに精神的にも疲れていたのかもしれない。
フカフカのベッドで少し眠れば頭もスッキリ、心も落ち着いた。
寝ぼける頭の目覚めのために、荷物の整理を始める。
馬で移動するから自分の持ち物は最小限。
行く先で目星をつけている拠点に必要な荷物は都度都度送り届けられる。
その後方支援の手配は、恐らく父がするのだろう。
先程父から受け取った支援物資が書いてある書類に目を通す。
「明日から、頑張らなくちゃ……」
メイナ達ゲームの登場人物がスムーズに行動できるようにサポートするのが私の役割だろう。
ゲームではワンクリックで、休憩や食事や睡眠を取れていた。
そのワンクリックの快適に近づけるようにするのが、私の仕事だ。
私は父から受け継いだ愛用の携帯用ナイフを明日着ていく服の側に置いた。
「よく休めたか?」
サロンにはアイザックとメイナが寛いでいた。
フェズは端の方の椅子に腰をかけている。
フェズは青の宮にいても、ある時は扉の前で、ある場合は人知れず影からアイザックを守る役割だ。
今回少人数での旅立ちに、アイザックの護衛として側に仕えるのに一人であればフェズが一番最適だと判断されたらしい。
フェズは近衛兵というのとはまだ違う特殊訓練された護衛兵だ。
私もほとんど話したことはない。
侍女や侍従以上にそこにいても気にしてはいない存在であるからだ。
こんなに気配がして、姿を現しているフェズの方がレアかもしれない。
「失礼します。あの、ハルエス様の返答がございません。いかがいたしましょう」
夕食前に明日以降のことをここで話し合うということなのだが、カインはまだ部屋から出てきてないのだろう。
「もしかしたら、まだ寝ているのかもしれないな」
メイナと楽しそうに談笑していたアイザックが、私の方を向く。
「ファルノ、済まないがカインの部屋の中に入って起こしてやって欲しい。ここのところ、カインはほとんど寝る暇がなかったから…」
「かしこまりました」
アイザックやカインが王宮から離れるのに、だいぶ急いで仕事や書類を片付けていた。
アイザックはそれでも休む暇はあったのだろうが、カイン寝る間も惜しんで働いていたのだろう。
寝不足で転移したのなら、転移酔いが酷いのも頷ける。
私は男性の使用人を連れ、カインの部屋へと向かう。
「カイン様、起きてらっしゃいますか?」
ノックと共に声をかけてみるが無反応だ。
「カイン様、入ります」
人の気配のしない部屋へと入る。
カインの部屋はリビングと寝室の二間だ。
リビングには薬湯の入っていたコップがテーブルに置かれたままだ。
昼にも起きて来ずに、あのままずっと眠っていたのかもしれない。
「カイン様」
寝室のドアをノックする。
幾度かノックするが、ドア越しの気配は眠っているよう。
「私が起こしてまいりますので、あなたはここで」
カインは自分のプライベートに使用人といえど知らない人間が入るのを嫌がる。
この離宮の使用人が部屋に入ったら、間違いなく攻撃されるだろう。
だからアイザックは私にわざわざカインを起こしにやったのだ。
カインが青の宮に自室を与えられ、彼を夜這いしようと忍び込んだ侍女がいたらしい。
眠っていたカインは反射で彼女を焼いてしまったという事件があったらしい。
その侍女は火傷を負い、侍女としても解雇。
カインに一生残る傷を負わせた責任を迫ったが、ハルエス侯爵家に逆にカイン暗殺の疑惑をかけられるハメになったとか。
以来、アイザック以上にカインは近くに置く侍女の選別にこだわるようになった。
執務エリアの侍女はエルザと私しかいないのも、カインのそういったある種女性への嫌悪があるせいだった。
だから、寝てるカインに声をかける時は慎重に。
前はソファに寝てるカインを起こそうといきなり体を揺さぶり、危うく殴られかけた。
「カイン様、起きて下さい」
ピクリとカインの指が動く。
私はカインの朝の支度は手伝ったことがないので、ここまで寝起きが悪いなんて知らない。
「カイン様、どこか具合が悪いのですか?」
声をかけ、布団から出ている手にそっと触れる。
体温は高くないから熱はないようだ。
そう思ったところで、ビクリとカインが目を覚まして体を起こした。
私から距離を取るように後ずさる。
「お目覚めでございますか。そろそろ下りてきて欲しいとアイザック様がお待ちになっております」
一歩ベッドから下がり、カインを見ないように頭を下げる。
寝ぼけながらもこちらを警戒するカインは、いつも朗らかな彼とはかけ離れている。
「済まない、寝すぎたようだ」
「では、お待ちしております」
私は寝室のドアへと向かい、一礼して部屋から出た。
寝室のドアを閉めて、そこにいた使用人に向き合う。
「私は先に戻っていますから、カイン様のお手伝いを」
カインの世話を頼み、部屋からアイザック達のところへと向かう。
「何あれ……」
目覚めた時、たしかにカインは私に殺気を飛ばした。
私が触れた左手は枕の下に潜っていたから、そこに護身用の剣でも入れていたのかもしれない。
寝るためにシャツのボタンはいくつか外してあり、鍛えられた胸元が露わになっていた。
寝起きの婀娜っぽさも相まって、色んな意味で心臓が鼓動を打つのか早い。
なよなよしてるイメージなんて、一気に吹き飛んでしまった。
「そりゃ、あんな色気ダダ漏れだったら襲いたくもなるか……」
カインに聞かれたら私まで警戒されそうなことを考えてしまった。




