草原を行く
「お父様、お母様、行ってまいります」
騎乗しやすいズボンスタイルに身を包み、私は父と母へと挨拶する。
「お役目頑張りなさい」
「気を付けて行ってらっしゃい」
二人が抱き締めてくれる。
この先はストーリーとしては戦闘があるから、無事である保証はない。
少し不安だけど、それでも私は自分を奮い立たせて、親の腕の中から離れた。
両親と共に外に出ると、すでにみんなが揃って待ってくれていた。
私と両親とのしばしの別れの時間をくれていたのだ。
「お待たせしました」
私のために用意された馬に乗り、全員の出立の準備が済んだ。
「それでは行ってくる」
「道中お気をつけて。ご武運をお祈りしております」
アイザックの言葉に、両親が見送りしてくれる。
私達10人に、離宮にいた護衛兵士が数名エスコートとしてついてきてくれる。
カシェート領では、彼らに守られて行くことになる。
「大丈夫そうか?」
マクセルがメイナに気遣う。
メイナは馬には乗れるが、あまり一人で乗ることはなかったらしい。
前回の旅は、馬車か馬に乗る場合はマクセルと共に乗っていたようだ。
マクセルの手ほどきでメイナは一人で乗れるようにまでなったが、馬で長距離を走るのは今回が初めての経験なのだ。
「ファルノは大丈夫そうだな」
カインが馬を寄せて私に声をかけてくれる。
「久しぶりなので不安でしたが、平原の間に勘を取り戻したいです」
私が前に馬に乗ったのは、このカシェートに遊びに来た時以来だ。
しばらくは平原の整備されてない道を馬で走る。
その先に領境になる森があり、そこが最初の休憩地だ。
「ファルノちゃん、馬に乗れないなら俺が乗せていってあげようと思ってたのに」
まだ案内人としての仕事がないレンが、先頭から私のいる後方にやってきて軽口を叩く。
「ありがとうございます。私が選ばれたのは馬が乗れるからなので…」
馬に乗れなかったら、きっと別の人間が選出されていただろう。
「レン、隊列を乱すな」
カインが注意するが、レンは気にした風もなく私と並走する。
そんな私達の目の前には、馬にしがみついているようなヒルメスとセドリック。
肉体労働はしたくない二人は、予想に違わず馬にも乗り慣れてないらしい。
「お前達、情けないぞ」
イザードが二人のフォローに入れるように並走している。
それでも、今回行くルートは馬車では通れないし目立ちすぎる。
しかも、転移魔法も使えないエリアだ。
地道に馬を走らせるしかないから、不慣れでも頑張るしかない。
ここはあまり魔物が出ない地域だが、それでも草原で見晴らしが良いから早く通り抜けなければ危険だ。 私達は草原の先にある森へと一気に馬で駆け抜けた。
「大丈夫ですか?」
昼食にしようと、森の中にある湖の畔で休憩となる。
私は宮から積んできたサンドイッチを各人へと配り歩く。
セドリックよりも体力がなさそうなヒルメスはぐったりと木の幹にもたれかかっている。
「お茶をどうぞ。疲労回復の成分の入った薬茶です」
魔法でお湯が沸くポットに直接茶葉を入れて煮出した薬草茶もついで回る。
薬草茶には砂糖を入れて甘めに仕上げておく。
「あー、うまい」
甘い温かいお茶で、ヒルメスは落ち着いたようだ。
まだ出発したばかりで体調を崩してもらっては困る。
こういう食事の面でフォローするために私がいるのだ。
短時間での休憩でも少しでも回復して欲しい。
「皆さん、まだおかわりはありますのでいっぱい食べて下さい」
保存カバンを持って、いっぱい食べるだろうマクセルや護衛兵士におかわりを渡す。
食料を保存カバンは、状態保存と収納魔法がかかっていて、軍用であれば一袋100人分くらいは入る。
それよりは小ぶりの保存カバンを今回は渡されていた。
保存カバンには今日と明日の分の昼食用くらいのサンドイッチ、それと道中でいるだろうパンが入っている。
他の保存カバンには、野菜や肉が入っている。
途中補給はできるが、何も手に入らなくても五日間は食べしのげれる量を持ち歩く。
「あまりゆっくりしていて陽が落ちてしまったらいけない。出発しよう」
食事で使ったカップを片付け終えたところで、マクセルが出発の声をかける。
セドリックとヒルメスは嫌そうに、それでも大人しく馬に跨がった。
私も外した荷物を馬にくくりつけて、馬に乗る。
この湖から向こうがミセイラ領となる。
このミセイラ領は、基本的に王家には友好的ではない。
だからお忍びのようにアイザックが無断でミセイラ領を通っていることがバレたら、最悪拘束されるかもしれない。
「この森を抜けた先に、狩猟小屋があります。ミセイラ領ではありますが、今我々が借り受けております」
付いて来た兵士が説明してくれる。
ミセイラ領で何かあれば、身分を隠して駐留している兵士の元に駆け込むことになっている。
最初の地点が、この先の狩猟小屋だ。
他にもミセイラ領に秘密裏の王国兵士の駐留所がある。
出発前に覚えさせられた。
私の役割は侍女というだけではなく、何かあればエイシル伯爵家の人間として矢面に立つことも求められる。
ミセイラ領は聖女信仰が強く、メイナの存在も表に出せない。
王子も聖女もその身分が明かせない土地なのだ。
だから、馬を使って街道ではない道を行く。
森を抜け、再び平原が続く。
その向こうに見える山々が私達が目指すアルカトロ山脈だ。
「あれが今夜の宿泊場所になります」
ちょっとした立ち木が生えている場所にある簡素な家。
これが今日の目的地の狩猟小屋だ。
元々はこの近くの人間が平原や森に狩猟に行く際に休憩する場所として作られたらしい。
私達がミハイロ領にいる間は、兵士達が交代でここに駐留してくれることになっている。
狩猟小屋にいた二人の兵士が迎えてくれる。
「畏まる必要はない」
胸に手を当てて礼をして迎える二人にアイザックは、手で顔を上げるように示す。
「狭い小屋ではありますが、寝具をお使い下さい」
小屋の中にはベッドはないが、仕切りがしてあって雑魚寝できるようになっている。
屋根の下で寝れるだけ有り難いと思おう。
私は必要な荷物を降ろして、夕食の調理に取り掛かる兵士を手伝うことにする。
この兵士達を疑うことはないけれど、やはり調理の段階から私が手伝って安心できるようにしておかなければならない。
今日の晩ごはんは、駐留の兵士が見回りの時に捕った小動物の焼いたのと、スープ、それにパンだ。
「美味しい…」
簡単だけど、やっぱり温かいご飯は疲れた身体に滲みた。




