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カシェード領

いよいよカシェード領へと向かうことになる。

けれど誰にも気づかれないようにするために、朝は普通に過ごし、いつもと同じ服装をして、少し業務をしてから、転移装置のある本宮へと向かう。

カシェード領に向かう人間は、本宮で陛下と会議という名目で集まる。

私は荷物持ちとしてアイザック達の後ろを歩く。

すれ違う王宮の人間達には私達が今からここからいなくなるとは誰もわかっていない。


「こちらです」

陛下付きの侍従の案内で、隠された通路を行く。

この行き方は絶対に他言無用の隠し通路らしい。

薄暗い通路をしばらく歩くと、開けた部屋へと着いた。

そこには数人の兵や役人や魔導師が出迎えてくれたが、奥にはアイザックの父親でありこの国の王が佇んでいた。

今はマクセルと談笑している。


「陛下、全員揃いました」

「アイザック、頼んだぞ!」

王の前までアイザックが進むと、陛下がアイザックの肩を数度叩いた。

王と王子ではなく、父子としてのふれあいに、皆が見守る。

今回旅に出るのは、今回の責任者としてアイザック王子、王子の側近としてカイン、聖女のメイナ、

戦力としては、魔法騎士のマクセル、 準騎士のイザード、魔導師のセドリック、そしてアイザックの護衛官のフェズ。

賢者のヒルメスと、案内役のレン、そして侍女の私の10人だ。

心許ない戦力ではあるが、何があるか分からないからこその最適の人選とのことだ。

そこに私が選ばれるなんて、誉ではあるが恐れ多いことだ。


「緊張してる?」

出発の準備が整ったらしい。

転送の魔法陣へと入るように促される。

私は恐る恐るカインの後についていく。

「実は俺もこんな風な状況初めてだから、すっごい緊張してるんだ」

「カイン様…」

私の緊張を解すために言ってくれたのかとも思ったが、カインの顔色が心なしかよくない。

アイザックは将来的に軍を任される可能性があるので従軍の経験はあるが、カインは文官なので本格的な従軍の経験はない。

『りょくいぶ(無印)』のストーリーでも、登場人物と共に旅をしていたわけではないので、これが初めての旅らしい。

「できる限り私がお支えいたします」

「そうしてくれるとありがたい」

カインが情けなく笑った。


旅先に持って行く荷物と共に全員が転送陣の上に乗ってスタンバイする。

かなり大きな魔法陣だ。

起動するには大量の魔力がいるため、4人の魔導師が呪文詠唱を担当する。

「皆、怪我なく無事に帰ってきなさい」 

見送る陛下のお言葉と共に、私達は転送先へと移動した。


「うわっ」

グラリと地面が曲がる感覚の後に、目を引く開けば先程とは違う場所にでていた。

薄暗い部屋の中、王宮とは違う空気。

転移先のカシェード領に着いたのだ。

「きもちわる……」

カインが床に蹲ってしまう。

「大丈夫ですか、カイン様」

転移酔いだ。

特に長距離を転移すると、酔ってしまうことがある。

私はなんとか無事だ。

「何回やっても慣れない…」

ふらつくヒルメスはイザードに支えられている。

「皆様、ようこそおいで下さいました。お部屋をご用意しておりますので、そちらでお休み下さい」

懐かしい男性の声に、介抱していたカインから視線を外して私は出迎えてくれた人達を見た。

「少しの間だが世話になるぞ、エイシル卿」

アイザックと挨拶を交わしているのは私の父親で、その隣に立っているが私の母親だ。

母は私と目が合うと嬉しそうに微笑んでくれた。

「今は皆本調子ではないので個々の紹介は後ほどにします。皆、こちらはカシェードの地を管理しているエイシル伯爵とミシェーラ夫人だ。そこにいるファルノのご両親でもある」

「皆様、娘が大変お世話になっております。こちらに滞在している間はなんなりとお申し付け下さい」

いつまでも魔法陣の上にいても仕方ないので、私達は両親の案内に付いていく。

階段を上がり、廊下や部屋を抜け、ようやく屋敷の入り口となるエントランスホールへと着く。

「お部屋でお休みになられる方はご案内いたします。ご休憩される方はあちらのサロンにてお茶をご用意しております。皆様のお荷物は今日お使いになるお部屋にお運びしておきますので」

「ありがとう。今日は夕刻までゆっくり休んでくれ」

父の言葉に頷き、アイザックが休憩を提案する。

「ファルノ」

アイザックが私を手招きする。

「ここにいる間は、私の世話など気にしなくてよい。侍女としではなく、エイシル伯爵の娘として過ごすとよい」

「ご配慮、ありがたくお受けいたします」

今日は親子水入らずで過ごせとの提案に、どこまでも気の利く良い上司だと感動を覚える。

「アイザック様はお身体の不調はございませんか?酔い覚ましの薬湯を準備させますが…」 

現在不能となっているカインには酔い覚ましの薬湯がいるだろう。

他の人達も薬湯がいるほどしんどそうな人はいない。

「……一応もらっておこう。慣れてはいるが、苦手なんだ」

「かしこまりました」

大丈夫そうにしているが、実はアイザックもかなりしんどいのかもしれない。

「お部屋にお持ちするよう手配しておきます」

「助かる」

こういう時、不調を表に出すことを許されない立場の人間は大変だと思う。

今はカインは使えないので、私はアイザックの後ろに控えているフェズに視線を送る。

フェズがアイザックを支えて部屋へと向かった。

カインもヨロヨロとアイザックの後ろを付いていく。

カインが階段を落ちずに無事に部屋に辿りつけるよう使用人が見守ってくれていた。


「夫人、ここには図書室はあるだろうか?」

ケロリとしているセドリックが、母に図書室の場所を聞いていた。

「私達は図書室にいるから」

セドリックはまだふらついているヒルメスを引っ張って、案内する使用人についていった。

「私は少し辺りを見てくるが、メイナはどうする?」

さり気なくメイナの腰に手を回していたマクセルが、メイナの顔を覗き込む。

メイナの顔色は悪くない。

「私も外を歩きたいわ。ここのところ好きなところに行けなかったから」

あの夜からずっとメイナは行動制限がかかっていた。

ずっと窮屈な思いをしてきたのだろう。

カシェードの地にいれば、行動制限もなく自由に歩けとなって嬉しそうだ。

イザードは、マクセルとメイナの二人に付いていくようだ。


「レン様はどうされます?」

「ん〜、久しぶりの親子の再会を邪魔したら悪いから、俺はそこら辺プラプラしとくよ」

ヒラリと手を振って、レンは廊下の奥へと消えた。

そういえば、レンはカシェード領から王都に来たのだった。

「ファルノ!」

レンを見送り、エントランスホールは私と両親だけになる。

父が私を抱きしめてくれる。

「おかえりなさい」

母がそっと私の手を握ってくれる。

「ただいま帰りました」

ここは自宅ではないけれど、両親がいるところが私の家だ。

私達はサロンへと場所を変えて、ゆっくりとおしゃべりすることにした。



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