フラグ回収
それから、青の宮は慌ただしい日々が数日続いていた。
私はエルザや侍従達と交代でメイナに付く。
メイナを絶対に一人にしてはならないとの厳命で、誰か一人は青の宮の人間が付いておくようにとのお達しだった。
それはメイナの身が危険に晒されているということで私達にも緊張が走る。
この青の宮の主であるアイザックは相変わらず忙しいらしく、青の宮で行う打ち合わせや会議の他、本宮へと度々出かけていた。
そんな折、私はアイザックに呼ばれて執務室へと向かう。
「メイナ嬢の様子はどうだ?」
「ヒルデン様は日々変わりなく元気にお過ごしになっております」
「イザードやレンは?」
「ボルテン様はヒルデン様と同じ部屋で本を読んでらっしゃいます。カタルギ様は時折出かけてらっしゃいます。カタルギ様には侍従もしくは兵のどなたかがお付き添いになっての外出をしておいでです」
私から聞くこんな報告、ほかのの人から上がっているだろう。
わざわざ私をソファに座らせ、アイザックは目の前に座っている。
アイザックの背後にはカイン、扉付近にはクラッグが立っている。
なんで私は座らされたのだろう。
「今、私達は春迎の会の夜のことを調査していることは知っているだろう?」
カインがテーブルの上に地図を広げ、アイザックの横に広げる。
「近々、殿下はこのアルカトロ山脈を訪れることになった。その一団にファルノ、君も侍女として付いて来てもらうことになった」
「私がですか?」
今からアイザックが行こうと言っているのは、『りょくいぶ』続編のストーリーです。
そんなのにモブの私が参加するんですか!?
「失礼ですが、私が選ばれた理由をおうかがいしても?」
アルカトロ山脈に向かうメンバーは『りょくいぶ』のメインキャラの皆様ですよね。
そんな人達に同行するとか、耳が嬉し死にます。
「ファルノは野宿もできるし、馬で遠乗りもできると聞いている。間違いないか?」
「子供の頃に親と共に旅行した時くらいですが…」
「馬は乗れるのだろう?たしか、カシェート領では馬を乗っていたと聞いたが…」
両親がいるカシェート領で馬を乗ったのなんて、一度しかない。
なんでそんなエピソードをアイザックが知っているのだと訝しむが、もしかしたら父に世話になったと言っていたレンが話したのだろうか。
「今予定している旅程では、馬車を使用しない。そのため侍女を連れて行くなら馬に乗れて野宿ができる人間でなければならないんだ」
まずはカシェート領まで転移をし、カシェート領に隣接しているミセイラ領に最短距離で行くために草原を馬で駆けるらしい。
ミセイラ領の奥地にはアルカトロ山脈があり、できるとこまで馬で行くことになるそうだ。
中々のしんどい旅だ。
そんな旅程なのに、わざわざ遠征に不慣れな侍女の私を連れて行く理由がわからない。
女性の同行が必要なら、軍や魔導士の中にいる女性を連れて行けばいい。
「メイナ嬢の身の安全が保証されない状況なのはファルノも知っている通りだ。しかし、今回の件は背後がわかっていない」
アイザックが沈鬱な表情をする。
「政治的な問題なのか、内部もしくは外部の何者かによる策略なのか、全く検討がついていない状態だ。そのせいで、同行者の人選が難航しているのだ」
確実に安全とわかっていて王家に忠誠を誓っているエイシル家の私がベストな人選ということなのだろう。
後宮の侍女だけでなくとも王族のそばに仕える人間になるためには、護身術と要人警護が合格しなければならない。
今回メイナが唯一の女性だ。
そのメイナを守るならば後宮の侍女である私が適任らしい。
建前として、私はアイザックをお世話するために付いていく侍女となるとのこと。
「私達は少しでも糸口を手に入れるためにアルカトロ山脈へと向かう。その道中の危険を少しでも減らすためにファルノには頑張ってもらうことになる」
「私では道中足手まといになるかもしれませんが、できる限りの力を以て、お役目頑張ります」
私がそう答えれば、アイザックもカインも少しホッとした表情をする。
私には断る選択肢もあっただろう。
実際に、『りょくいぶ』のストーリーを知っているから不安だ。
まさか私がアルカトロ山脈に行くことになるなんて。
「大丈夫、俺もフォローするからさ」
カインの優しい言葉に、不安が少しだけ和らぐ。
「ファルノ、ここから先は他言無用の話になる。同行するファルノも知っておいて欲しいから聞いて欲しい」
詳細はカインが話してくれるらしい。
アイザックは執務机に戻って仕事を始めた。
出発までに片付けなけらばならない実務が山積みなんだろう。
「ファルノ、急なのに引き受けてくれてありがとう」
そう言ってカインが頭を下げるものだから驚いてしまう。
「私は青の宮のアイザック殿下に仕える者として当然の判断をしただけですので、頭を下げるのはおやめ下さい」
アイザックも申し訳無さそうにこちらを見てくる。
私なんか命令を下せばいいだけなのに、こうして頭を下げて説明してくれる。
なんて素敵な主なんだと感激してしまう。
「旅程なのだが、まずは王家所領のカシェート領に転移する。カシェート領はよく知っているな?」
「カシェート領に転移…」
王都からカシェート領には馬車で1日半はかかるところ。
王家の所領だから直通の転移陣があるらしい。
カシェート領は私の両親が赴任した折に一度訪れたことがあるくらいです。
王家の保養地で、森と草原と湖くらいしかありません。
「カシェート平原を突っ切る道を行くのですね」
「ファルノは道案内はできるか?」
「さすがに隣のミセイラまで行ったことはございません」
アウトドアは好きだけど、そこまで私はお転婆ではない。
「レンが道案内できるから、ファルノは土地勘があればいい」
アイザックが書類から顔を上げて捕捉してくれる。
「私は一度しか訪れたこたが無いですので、ご期待に添えないかもしれません」
「ミセイラ領には?」
「訪れたことはございません」
この世界で国内旅行ができるのは一握りの富裕層のみだ。
私は父親の仕事な関係で国内を色々旅してきただけ。
「ミセイラ卿が何か言って来たら、ファルノを名代に送るしかないか……」
なんかアイザックが恐ろしいことを呟いた。
名代ってアイザック第二王子の名代を伯爵令嬢だけどただの侍女にさせるおつもりですか!?
ミセイラの領主は偏屈で有名で、王家には友好的ではない。
だからこその心配なんだろうけど、そんなことにならないように私は祈らなければならない。
「ミセイラ領に入ってから、最短距離でアストラル山脈へと向かう。地点はだいたいこの辺り」
カインが地図を指差す。
『りょくいぶ』のマップでだいたい知ってます。
馬で行くのも苦労するような隠れ里に向かうんですよね。
なんで私も行くことになった。
項垂れても仕方ないのはわかっている。
こんなフラグ回収はいらないのに。
「正確な日程がわかれば伝えるが、早ければ明後日には出発することになるから、そのつもりで準備をしてくれ」
「………わかりました」
早くて明後日なんて、準備間に合うかな。
実家に旅行カバン取りに行ったり必要なものを買いに行かなけれはいけません。
さすがに明日は休みがもらえるだろうか。
そんな思いを込めて、クラッグを見る。
「明日はファルノは休んで旅支度をしなさい」
人員が足りなくて忙しいのはわかるけれど、クラッグに仕方ないって分かりやすくため息をつかれてしまった。




