青の宮
「え、青の宮に戻れですか?」
今日もディオナ達は迎賓館に泊まり、明日王都での仮住まいに戻ることになった。
私もまだディオナ達に付いていくのだろうと思っていたのだが、青の宮に戻れという命令をもらう。
「今日は寮にもう戻って休んでよい。明日からは通常通り青の宮に出仕して下さい」
青の宮の侍従が義務的に命令を伝えて去っていく。
今は迎賓館に戻るディオナ達のために馬車停めに来ている。
夫人とディオナに断りを入れて、夫人の乗った馬車を見送る。
「さすがに疲れたわ…」
早く自分の寮の部屋に帰りたい。
私は王宮を巡回する馬車へと乗り込んだ。
次の日は朝礼に絶対参加を言い渡されていたので、疲れた体を引きずって青の宮の朝礼に参加する。
「今日より青の宮は閉鎖状態になる。君達は業務以外の後宮外の外出は許可制となる。また、客人を数人預かることになるので、その方々のことは口外せぬよう改めて心に刻んで欲しい」
クラッグの説明に、朝礼に集まった人達に緊張が走る。
「特にアイザック殿下の政務室があるフロアは限られた者しか入れなくなるので気をつけて欲しい」
今でもアイザックのある政務室のフロアは私を含めた決められた人間しか入れない。
更に厳選し、入退室も厳しくチェックが入ることになった。
一体何が起きているのだろうか。
しかし、私達がその詳細を知らされることはない。
「エルザ、ファルノ」
アイザックの政務室のフロアに行くと、またしてもクラッグに話があると言われ控室へと連れて行かれる。
「二人共、しばらくこの青の宮にはレン・カタルギ様が滞在なさる。日中は主に応接室にいらっしゃるのでそのつもりで対応にあたってくれ。それと、しばらくはこの青の宮で会議が行われることが多い。気密性の高い会議であるから、会議が始まったら立ち入りは慎重にしなさい」
「承知いたしました」
二人揃って返事を返す。
「それに加え、メイナ・ヒルデン様、そのお付きとしてイザード・ボルテン様が本日より青の宮に滞在されます。ヒルデン様はこちらで執務を行いますので、小会議室をヒルデン様の執務を行えるように必要なものを入れます」
言われたからには仕事はきちんとしますが、今日から『りょくいぶ』のキャラが青の宮に滞在とは、どういう事態なのか。
ちょっと理解が追い付いていないけれど、今は小会議室の模様替えです。
私達はクラッグと共に小会議室に向かう。
私達が行くとすぐに侍従達が本棚やサイドテールといった物を運んでくる。
6人掛けのテーブルは横に寄せられ執務ができるように整えられた。
「あなた、今日は休みの予定じゃなかった?」
エルザと二人部屋に残り、小物や装飾などを整えていく。
「そのはずなんですけどね。結局昨日の半休のみらしいです」
基本的に王族の都合に合わせる後宮勤めは、職場がブラックになりがちです。
この調子だと、マトモな休みを取れるのはいつに鳴るやら。
「私なんか、朝ここに入るのにチェックが厳しくて大変だったわ。あれ、しばらく毎日になるのよね…」
げんなりとエルザが呟く。
結婚しているエルザは後宮の寮ではなくて、外宮にある官舎に夫婦で住んでいる。
今朝はいつもと違って内宮に入る時の持ち物チェック、後宮に入る時のボディチェック、それから青の宮に入る時にさらに入念にチェックされたらしい。
私も青の宮に入る時は入念にチェックされて、本人確認が済まないと中に入れてもらえなかった。
青の宮に滞在すると決まった人達を守るために事実上宮を閉鎖しているのだ。
「準備できたようですね」
部屋をチェックしに、クラッグが入ってくる。
「今日、午後2時より会議が決まりました。大会議室の準備もお願いします」
「かしこまりました」
いつもはあまり仕事のない青の宮だが、忙しくなるとこんなものである。
午前の仕事も一段落して、エルザと共に早めの昼食をとる。
まだこの政務フロアは無人だ。
しかし、ここの主達がいつ戻ってくるかわからないので、食べれる時にご飯は食べておかないといけない。
アイザックの昼食の指示がないから、彼はランチ会議だろうか。
レンが来たことによってストーリーが進むのだろう。
王宮パートが過ぎたらアストラル山脈へ旅立つ予定だ。
ゲームでは場面が切り替わるだけだが、実際に王子や魔法騎士といった重要人物が王都を離れるのは簡単なことではない。
カン…カン…カン…。
政務フロアの来客の合図の鐘が鳴る。
会議の開始の時間には少し早いが、出席する人間が到着したらしい。
私はエルザと共に廊下側の壁にある小さな扉を開ける。
これは廊下側の小窓になっており、廊下からは見えないが部屋の中から廊下の様子が見える仕様になっている。
つまり、覗き用の小窓だ。
まずは先導してカインがやってきて、その後にアイザックと談笑しながら歩いてくるマクセル。
それに続いて、メイナとレン。
ヒルメスとセドリックがだるそうに歩いている。
イザードはクラッグと何か話している。
私は目の前に通りすぎていく人達を見て、ヒッという悲鳴を小さくあげた。
『りょくいぶ』の登場キャラの全員集合だ。
全員揃っているところを初めて見たので、感動で変な声が出そうだし、小躍りしたい。
エルザの不審なものを見る目で、そんな衝動をなんとか抑える。
けれど心の中では、オタクな私がワーワー言っている。
「大丈夫?疲れてるんじゃない?」
エルザに心配そうな目を向けられる。
すいません、挙動不審で。
でも好きなゲームのキャラが目の前にいたら、やっぱり冷静にはいられないんです。
この覗き用の小窓は声が聞こえないのが残念だ。
今から彼らがここで会議だというなら、一度くらい会議室に入れないだろうか。
いや、機密には触れたくないので、会議ではなくお茶の時間で給仕したいです。




