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来訪者

「レン!?」

カイが兵士に不審者だと捕らえられそうになった頃、アイザックがカインと共に駆けつけてきた。

その後ろにはレイモンド辺境伯。

妻と娘のために仕事を放り投げてきたのかもしれない。

「殿下、この者が殿下に用があると申しておりまして…」

兵士はカイの腕を捕らえたままだ。

「コイツは私の知り合いだ。害はないから離してやれ」

アイザックの命令に、レンはようやく解放される。

強く掴まれていたのか、レンは不服そうに腕をさすっている。

「なんで連絡も無しにこんなところにいるんだ!?」

アイザックは詰め寄るが、レンは肩を竦めるだけで反省はしていなさそうだ。

「アイザック、とにかく場所を移そう」

このまま更にカイに文句を言いそうなアイザックをカインが押し止める。

「カイン、コイツと先に行っててくれ」

アイザックが冷静さを取り戻し、表情を取り繕う。

「ほら、行くぞ。ちゃんと付いてこいよ」 

レンはカインに急き立てられて、本部の建物へと向かって行った。


「レイモンド辺境伯、夫人、ディオナ嬢、驚かせて済まない」

「あの者は山岳地帯の人間ですかな?」

「さすがはレイモンド卿。アルカトロ山脈に住まう一族の人間です。夫人、ディオナ嬢、彼が何か無礼な振る舞いをしたならば、私の方から謝罪させて下さい」

アイザックは今にも頭を下げそうな勢いだ。

「いえ、急に話しかけられて驚いただけですわ」

夫人の言葉にアイザックがホッと胸を撫で下ろす。

そういえばカイはアイザックが王子だろうが物怖じせずに仲良くしてきたキャラクターだった。

「しかし、あの者が来たということは何か事情があるということなので、この後私も彼の元に行かねばなりません」

「気にするな。今はどんな些細なことでも情報が欲しい時だ」

「レイモンド卿、お心遣い感謝します」

カイが来たことで、この後アイザックはディオナ達と共に昼食をとる暇が無くなってしまったのだろう。

「ディオナ嬢。昨夜は貴女のパートナーとなる栄誉を頂いたのに、踊ることが叶わず残念でした。貴女とは一度お話してみたいと思い、レイモンド卿に願って食事を共にする許可を得たのに、大変申し訳無く思います」

アイザックがディオナの手を取る。

「ディオナ嬢は学園に入学されるのですよね。貴女が落ち着いた頃にまた、お茶でもいたしましょう」

そう言って、アイザックが手に取ったディオナの指先に唇を落とす。

見ている私でも変な声が出そうになったけど、こんなキザなことをされたディオナ本人は顔を赤らめて固まってしまっている。

デビュタントしたばかりの令嬢には、王子の口づけは刺激が強すぎるんじゃないのか。

「それでは、皆様、私はここで失礼いたします」

トドメとばかりに、キラキラ王子スマイルをして、アイザックはこの場を去っていった。

その王子スマイル、アイザックがメイナ以外にやってるのを初めて見ました。

ということは、ようやくアイザックはメイナ以外の女性に目を向けるつもりになったのかもしれない。

「皆様、そろそろ室内に参りましょう」

バーモントの声かけで、私達は軍部の建物へと向かうことになった。


「アイザック殿下は素敵な方でしたわね」

アイザック抜きでの昼食の時間。

夫人はアイザックの自分の娘への待遇に満足のようだ。

「殿下は昨夜のディオナの対応をえらく感心しておいででな。あのように大勢が混乱した時の対応や心構えを教えて欲しいとおっしゃっていた」

王宮が魔物に襲われるようなことはないため、昨夜の群衆のパニックに王宮の人間は対応仕入れていなかった。

その点、領地に魔物の襲来があるレイモンドではああいった場面でのノウハウがある。

「避難指示や誘導をどうしたらいいかと問われて、それならば妻や娘に聞く方が良いとお答えしたのだ!」

レイモンド辺境伯は魔物が来たら討伐に出かける。

その留守を守るのは、領主の妻や娘だ。

「直接お話し出来ずに残念です」

「また殿下が機会を設けてくださるだろう」

アイザックと直接話せなくて残念そうなディオナ。

これは、もしかして良い感触かもしれない。

だけどここにはアイザックはいない。

代わりにネイサンがアイザックの分の昼食を食べている。

昨夜はダンスを踊る前に聖竜の咆哮があり、今日は昼食の前にカイの来訪があった。

ディオナはストーリーには関係のない存在だ。

いや、アイザックの婚約者になってしまったらゲームの設定とは違ってくる。

『りょくいぶ』の続編ではアイザックには婚約者もそれらしい人間もいない。

今、ディオナとアイザックの関係が進展してしまってはゲームの設定とは乖離してしまう。


「学園の準備もあるし、しばらくは忙しいわね…」

夫人は残念そうだ。

ディオナがアイザックの婚約者候補となっていることは、レイモンド家には受け入れられているのかもしれない。

「アイザック殿下もしばらくはお忙しくするだろう。早く殿下に時間ができるように私も協力するさ」

父親と母親の後押しにディオナ自身はどう感じているのか。

飲み物をつぐタイミングでディオナの表情を盗み見る。

そこには少し照れたような表情を浮かべたディオナがいた。 

これはアイザックが押せばいい関係を築けそうだ。

しかし、次にアイザックがディオナと話す機会はいつになるのか。

続編のストーリーが進行している間では難しいかもしれない。


「ファルノ、君にお願いがあるのだが…」

「なんでございましょう」

レイモンド辺境伯直々に声をかけられ、動揺してしまう。

「ディオナは王都に親しい友人がいない。たまに声をかけてはもらえんか?」

「ちょっと、お父様!?」

「私でよければ…王都をご案内いたします」

「よろしくお願いします、ファルノさん」

アイザックとディオナのフラグはことごとく折れたのに、何故か私とディオナのフラグは立ってしまった。



レイモンド辺境伯家の昼食会が和やかに開かれていた時間、アイザックはカイのもたらした話に渋面していた。

「アルカトロ山脈の聖竜の寝床とされる場所…聖域が何者かに荒らされた可能性があると?」

「最初は変な人間が彷徨いているという報告だった。その人間を捕捉する前に、聖域に侵入されたのかもしれない」

「それで昨夜のアレか?」

「そう。アレは多分聖竜の鳴き声。聖竜に何か悪さしたんだ」

「だが、そんな簡単に聖竜に接触できるものではないだろう?」

相手は伝説の聖竜だ。

聖竜に接触して害するなど簡単にできるわけがない。

「それがわからないんだ。聖域に入るのには聖竜が認めた人間しか無理だ」

「それは…聖竜に選ばれた者だけということか?」

「そのはずだ」

聖域に入れるのは、カイの出身である聖石を守る一族と聖竜の選んだ乙女であるメイナとカイを含む聖石に選ばれた6人くらいだ。

「だから、メイナ達の力を借りて聖域を調査したいんだ」

カイは異変を感じて急いで王都に向かった。

けれどカイは間に合わず、聖竜は哭いてしまった。

「わかった。至急調査に行けるように調整するから、少し待ってくれ」

アイザックは前代未聞の事態に、深くため息をついた。


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