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そして次の日

リリ…リリ…。


鈴の音が鳴っている。


リリ…リリ…。


「えっ!?ヤバッ!!!」

部屋の呼び鈴の音かと慌てて体を起こす。

「あ……」

周りを確認すると、いつもの寮や青の宮とは違う部屋である。

「そっか……昨日……」

昨夜はパニックのまま終わった春迎の会。

その後に迎賓館に泊まることになったディオナ達の世話をして、夜遅い時間に眠ったのだ。

部屋付きの侍女は主人が起きる時間には支度を終えていなければならないため、いつもの起床時間より早く起きなければならない。

今日は絶対に起きれないと、起きる時間に目覚まし時計をかけていたのだ。

先程のベルは目覚まし時計のベルだ。

これがディオナ達の部屋の呼び出しだったら大事だろう。


「3時間くらいは寝れたかな…」

疲れた体は、フカフカのベッドから出たくないと言っているが、もう起きて支度しないといけない。

「あー、お風呂入りたい。せめてシャワー…」

清浄魔法で体のは綺麗だが、やっぱりお風呂に入りたい。

後宮の宿舎にはお風呂に入れるし、ここにも簡易的な風呂スペースはあるが、時間がない。

仕方なく顔を洗うに留めて、私はまた迎賓館のお仕着せを着た。

「おはようございます」

迎賓館の使用人用の食堂に顔を出す。

そこにはすでに多くの使用人達がいた。

昨夜は王都自体も混乱しており、迎えの馬車が到着しなかったり、帰るには遠い人達など身分階級問わずに迎賓館に泊まることができた。

そのため迎賓館や王宮で働いている人だけでなく、宿泊した人達の使用人達も多く食堂を利用していた。

「ネイサン、おはよう」

ネイサンは昨夜の礼装から迎賓館から借りたのだろう騎士服を着て朝食をとっていた。

「ちゃんと寝れたかしら?」

実はネイサンとは小さい頃に会ったっきりで、再会はこの前のパーティーだったりする。

ネイサンは王都ではなく領地で学校に行き騎士、レイモンド辺境伯に仕えている。

「寝すぎたくらいだ……」

「ベッド、フカフカすぎたわよね」

私もネイサンの前に座って朝食をとる。


「結局、何事もなかったみたいだな」

昨夜の混乱が嘘のように平和な食堂。

「不思議ね……」

たしかに魔物の咆哮のようなものは聞こえたのに、想像したような魔物の群れが現れることはなかった。

「領地でも通常と変わらないらしい」

「レイモンドでも?」

レイモンドは魔物の発生の多くある地だ。

そこでも昨夜から何かあったというわけではないという。


本当に聖竜が啼いただけ。

でも、物語はここから始まる。


「まだしばらく旦那様は軍部に詰めるそうだ。連れて来た手勢も軍部に来ているそうだから、奥様達はしばらくこちらに滞在していて欲しいそうだ」

「わかりました。そのように調整しておきますわ」

もしかしたら部屋に戻った後も、ネイサンは仲間と連絡を取り合っていたのかもしれない。

「夫人とディオナ様は朝は早いのかしら?」

「他の貴族は知らないからアレだが、遅くはない」

ということは、あまり準備に余裕がないということだ。

自前で侍女を連れて来ているなら、その手配を手伝うだけでいいのだが、私では彼女達がどんなものを好むのかよくわからない。

「それじゃ、俺は先に戻るよ」

「しばらくよろしくね」

ネイサンが気軽に声をかけれるような相手でよかった。

そうでなければ、私は今頭を抱えていたかもしれない。

「私も急いで食べなきゃ…」

まずは衣装部に行って、昨夜二人から回収したドレスと同じサイズのドレスを調達だ。

急に宿泊になった人達が多いから、貸し出しの衣装は争奪戦になるだろう。

二人はあまり派手なものは好まないと想像できる。

こういう侍女らしい仕事は研修以来なので、部屋付き侍女のマニュアルを頭の片隅から引っ張り出さなければならない。

アイザックに婚約者ができれば、こういった対応も増えてくるのだろうけど、それがいつになることやら。


ため息をご飯と共に飲み込んで、まずは衣装部に向かう。

さすが優秀な迎賓館の衣装部。

すでにディオナと夫人のためにいくつかドレスが見繕われていた。

家柄と部屋の格にあったものがきちんと揃えられている。

「これで大丈夫だと思いますので、部屋の方にお願いします」

衣装部の人達は昨夜からずっと対応しっぱなしの徹夜なのだろう。

この後ゆっくり休んで欲しいものだ。


「エイシル」

部屋に戻る途中に呼び止められる。

青の宮の侍従だ。

「本日は引き続きレイモンド辺境伯夫人と令嬢の対応を頼みます」

急に変更になった私の仕事を青の宮で調整してくれたらしい。

どうやら夕方までは私は彼女達に付いていなければいけないという。

「一度、殿下がこちらに挨拶にいらっしゃるとのことです」

アイザックが訪問するというならば、二人のドレスも相応のものにしておかなくてはいけないということだ。

「お二人がお暇な場合、希望すれば図書館並びに庭園への出入りは大丈夫です。その時は必ずエイシルが付き添っておくように」

「かしこまりました。謹んでお勤めさせていただきます」

二人が暇な時間はどのように過ごすのか、そこをネイサンに確認するのを忘れていた。

無理難題は言わないだろうけど、あらかじめ準備が必要なことを要求されないといい。

慣れない仕事にまともに頼れる人がいないというのもしんどいものだ。

「それと、こちらが二人と令嬢の調査書になります。関係部署には先に情報を渡して手配しております」

「お気遣いありがとうございます」

数枚の紙の束をもらい、私は自分の部屋へと戻る。

これから部屋で二人の情報を読み込みまなければならない。

今日は呼び鈴が鳴るまで彼女達の部屋に行くことはないから、それまでにある程度覚えておくつもりだ。

先に関係部署には手配してくれてると言っていたから、衣装部では問題なく用意されていたのだろう。

厨房にも食事の好みが伝えられているだろうから、一安心だ。

夫人とディオナが青の宮の客人扱いになっているので、二人のことを優先的に用意してもらえる。

こういった情報収集は、ディオナがアイザックの婚約者候補になった時点でなされたのだろう。

「貴族にはプライバシーなんてないわね…」

服のサイズ、食べ物の好き嫌い、趣味嗜好といった情報はおもてなしに必要なので秘匿されない。

その代わり、こんな急に泊まることになってもサイズのあったドレスや好みの食事が提供される。

私も渡された情報がなかったら、ディオナ達の反応を見て、手探りで失礼のないように対応しなければいけないから、かなり神経を使っただろう。



リンリン。


予想より早い時間にディオナ達の部屋の呼び鈴が鳴る。

「とりあえず、頑張りますか……」

私は洗面用具を持って彼女達の部屋へと向かった。

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