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枠外のモブ

春迎の会は途中で閉会となってしまったが、王宮や王都への襲撃はないと確認され、ひとまず安心だ。

ディオナとその母親の世話をして、私は夜食をもらってようやく宛てがわれた部屋へと入る。

「つ、疲れた…」

侍女とはいえ、貴族女性の身の回りの世話をしたことがない。

迎賓館の他の侍女の手を借りても大変だった。

二人の専属となったので、彼女達の部屋のすぐ近くにある使用人用の部屋だ。

いつもよりフカフカのベッドなのはありがたい。

迎賓館でもランクの高い部屋にディオナ達は通されたので、その横の使用人用の部屋もいつもより上質だ。

あまり眠ったことのないベッドでこのまま眠りたいけど、お腹は空腹を訴えている。

私は1人掛けのテーブルに置いた夜食を食べることにした。

「りょくいぶの続編……」

この世界の『緑陰の羽ばたき、黒き息吹』(無印)のストーリーは邪竜を封印して、主人公はマクセルの恋愛エンドで終わったその続きの日々を送っていた。

「なんで続編があるって忘れてたんだろ……」

空腹も満たされ、落ち着いてきて、改めて自分を振り返る。

『りょくいぶ(無印)』の本編が終わったのに、私はこのまま何も起きないで日々が過ぎていくと思っていた。 

あの咆哮を聞くまで。

『りょくいぶ』に続編があるとわかっても、それに関する記憶を無印ほど思い出せない。

まるでその記憶に鍵がかけられているみたいだ。

「続編は…たしか聖竜を助けに行く話のはず…」 

ゲームソフトのパッケージに書いてあるあらすじ程度しか思い出せない。

何でだろう。

「私がネタバレしちゃダメ…とか?」

私はゲームに登場するNPCでもない存在だ。

画面上いるとされるモブ。

そんな私がゲームのストーリーに関与することは許されないのかもしれない。

だから、続編の知識が限定されている。

「『りょくいぶ(無印)』の時は私は遠くから見るだけだったけど…今はアイザック様に進言できる立場…」

モブ侍女の私の話をアイザックが真剣に聞くかは置いといても、今の私の立場ならこの先何が起こるか彼の耳に入れることができる。

それを幾度も繰り返せば、未来に起こることを予言できることになる。

それならばとアイザックが私の話を聞いて、未来に起こることに対処しようとしたら、きっとストーリーは変わってしまう。


ただのモブがそんなことしてはいけないという制限。

私がゲーム上に登場するキャラなら、もしかしたら改変することも可能だったかもしれない。

それは私をこの世界へと転生させた神にでも確認しなければいけないけれど。

私から見たこの世界は、ゲームのストーリーの改変は不可なのだ。


「まあ、改変できなくても私は困らないけどね」

婚約破棄されて断罪なんてことが起きて生きるために改変を!なんてのっぴきならない事情があるわけではない。

私は今のこのただモブ侍女として、平穏な日々を過ごせていることに満足している。

「聖竜のいる山にはゲームの登場人物が行くわけだしね…」

あの咆哮の原因を探るために、これから主人公と攻略対象達は聖竜の眠るアルカトロ山脈に向かうことになるだろう。

アルカトロ山脈は険しい山々が連なる山脈だ。

それなのに魔法での移動不可、ワープなどのショートカットもできない鬼仕様。 

山の中に分け入るなら、徒歩か馬かしか手段しかない神秘の山々だ。

ゲームでは目的地に着くまでのマップがすごい駒数があって、かなり根気が必要だった覚えがある。

こんなどうでもいい箇所は覚えているのに、肝心のストーリーがあやふやなのは、やっぱり何かしらの効力が働いているからだろう。

「私ができることは何もない…」

だから、私は明日も朝早いから寝よう。

今日は朝から働いてクタクタだ。

私は誘惑に負けて、フカフカのベッドにダイブした。




リリ…リリ…。

鈴の音が鳴っている。

「えっ!?ヤバッ!!!」

部屋の呼び鈴の音かと慌てて体を起こす。

「あ……」

周りを確認すると、いつもの寮や青の宮とは違う部屋である。

「そっか……昨日……」

昨夜はパニックのまま終わった春迎の会。

その後に迎賓館に泊まることになったディオナ達の世話をして、夜遅い時間に眠ったのだ。

部屋付きの侍女は主人が起きる時間には支度を終えていなければならないため、いつもの起床時間より早く起きなければならない。

今日は絶対に起きれないと、起きる時間に目覚まし時計をかけていたのだ。

先程のベルは目覚まし時計のベルだ。

これがディオナ達の部屋の呼び出しだったら大事だろう。

「3時間くらいは寝れたかな…」

疲れた体は、フカフカのベッドから出たくないと言っているが、もう起きて支度しないといけない。

「あー、お風呂入りたい。せめてシャワー…」

清浄魔法で体のは綺麗だが、やっぱりお風呂に入りたい。

後宮の宿舎にはお風呂に入れるし、ここにも簡易的な風呂スペースはあるが、時間がない。

顔を洗うに留めて、私はまた迎賓館のお仕着せを着た。


「おはようございます」

迎賓館の使用人用の食堂に顔を出す。

そこにはすでに多くの使用人達がいた。

昨夜は王都自体も混乱しており、迎えの馬車が到着しなかったり、帰るには遠い人達など身分階級問わずに迎賓館に泊まることができた。

そのため迎賓館や王宮で働いている人だけでなく、宿泊した人達の使用人達も多く食堂を利用していた。

「ネイサン、おはよう」

ネイサンは昨夜の礼装から迎賓館から借りたのだろう騎士服を着て朝食をとっていた。



『緑陰の羽ばたき、黒き息吹』

続編と区別するために(無印)表記を付けます。

略称→『りょくいぶ(無印)』と書くこともあります。

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