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開幕

王宮とは一言で簡単に言い表されるが、広大な敷地に多種多様な建物や様々な機関の集合体である。

青の宮を始めとする王族が生活するエリアを後宮という。

そして、謁見の間や議会などがある建物を本宮、様々な行政機関の本庁があるエリアを前宮と言い、これらを全て含めたものを内宮という。

内宮の周囲にあるのが外宮だ。

外宮には魔導宮や軍部といったものから、図書館や王宮の勤め人用の寮などの施設がある。

内宮とは違って、外宮には一般人でも気軽に立ち入ることができる。

その外宮の正門そばにそびえ立つ豪奢な建物が迎賓館だ。

国随一の広間があり、ここで王宮主催のパーティーが開かれる。

今、春迎の会のために迎賓館は慌ただしく準備が整えられていた。


アイザックは結局、カレリーナとディオナの二人とダンスを踊ることになったらしい。

この二人にはあらかじめダンスのパートナーの打診をしておき、ルーデンスとファリッジの二人の令嬢は今年デビュタントではないので今回はダンスの相手は見送られた。

あの二人はおしゃべりで噂好きな令嬢達と思っていたけれど、令嬢達とおしゃべりしながら自領の名産を売り込み、さらに流行りを仕入れて領の発展に繋げようとしていたようだ。

苦手だと近寄って話すことをしなかった今までの自分をちょっと反省である。

やっぱり何事も実際に自分の目で見て判断しなければいけない。

「ルーデンス嬢とファリッジ嬢をそれぞれ殿下とカイン様が娶ればいいのに…」

「それは名案です、ファルノ」

あの二人の仲の良さは引き離すのが可哀想、なんて言うからそう提案すれば、カインは死んだ魚の目をして頭を抱えてしまった。

クラッグも同意してくれた、二人の婚約者問題が一気に片付く名案だと思ったのに、なんでだ。


そして、着々と王宮では春迎の会への準備が整えられていく。

「ファルノ、あなたは基本的に当日は私の指示に従って動いて下さい。何か用事を言いつけられた際は、近くの者にすぐにふるように」

青の宮から迎賓館へ派遣される使用人の打ち合わせだ。

侍女は私の他に3人、侍従はクラッグの他に5人ほどが迎賓館に赴く。

私は当日は青の宮に割り当てられた部屋を担当する。

他の二人はアイザックの控室だったり来客対応用の部屋だ。

「ファルノは廊下に待機し、レイモンド辺境伯令嬢のお姿を確認したら指定するお部屋にお連れすること。殿下の誘導できるよう間を置かずに各自行動して下さい」

ディオナと顔見知りの私が、休憩に来る彼女を部屋に誘導する役目だ。

その後にアイザックとの歓談の場が設けられるといった算段だ。

これがうまくいけば、アイザックの婚約者はディオナとなるのかもしれない。

春迎の会は社交デビューしたばかりの年若い人達が多いので、広間から休憩室のある廊下は混乱ぎみだ。

令嬢には化粧室に誘導してあげる。

その役割を担う侍女達の中に混じって、ディオナを見つけて確保する。

かなり、大変そうだ。

青の宮の人間が連携とって、うまくいくように合図を出しながらやるらしいけど、ぶっつけ本番で失敗は許されない。

気が重くなる。

これなら、重い食器やドリンクを運んだ方が気は楽だ。

でも、青の宮の侍女として完璧にやり遂げなければならない。

アイザックの幸せもかかっている。


「ファルノ、久しぶりね」

ベージュ色の迎賓館用のお仕着せにエプロンを付けて、自分の持ち場に立つ。

エプロンの胸には青の宮の人間を示すバッジがついている。

「リンナ先輩、お久しぶりです」

声をかけてきてくれたのは研修の時にお世話になったリンナだった。

彼女は本宮勤めだ。

「ファルノ、本当に青の宮の侍女なんだ。あんまりにも見かけないから、ファルノがちゃんと働いてるのかってちょっと噂になってたよ」

「なかなか食堂に行く余裕がなくて……」

いつもは青の宮で用意された食事か後宮の勤め人用の寮でご飯を食べてしまうから、内宮に勤める人が多く利用する食堂に行くことがあまりない。

「後宮は出入り厳しいものね…」

「それもあるんですけど、ついつい無精をしてしまって…」

青の宮は忙しくないけど拘束時間が長かったりするから、後宮から出て夜ご飯とかめんどくさくなることが多い。

今も青の宮の侍女だとわかり、周りの侍女達がヒソヒソと私のことを噂してくるのが聞こえる。

とにかく、今はパーティー開催前の最後の準備だ。

「部屋のチェックに行ってまいります」

私は担当になった部屋の準備の状況を確認しに行く。ここは二部屋の続き間になっており、一つはトイレや手洗い場があり、もう一つがソファやテーブルがありくつろげる。

高貴な方を接客するための貴賓室だ。

「ファルノ、準備は大丈夫ですか?」

クラッグが顔を出して確認してくる。

「はい、後はお食事が運ばれてきたら大丈夫です」

「わかりました。それでは施錠しますから出てください」

この部屋が使われるまで、不届きな輩の侵入がないとも言えないので施錠するらしい。 

鍵は私やクラッグだけだ。

「そろそろ来場者がいらっしゃいます。アイザック様もあちらを出立したとの知らせをもらいました。お出迎えを」

高貴な方や特別に招待された方は一般の人とは違う入口から入り、この貴賓室のフロアに通される。

貴賓室フロア担当の手の空いている人間は整列して、やってくる客を出迎える。

15度のお辞儀をキープしつつ、目の前を誰が通るか確認しろという難題をこなさなければならない。

接待役の人間が呼ぶ名を聞き、自分が担当する相手ならその後に付いていく。


ザワザワと騒がしい一団が来る。

叙勲受章者だろう。

「ちょっと早く来すぎたか?」

しかもこの声は和田宏樹であるから、マクセルが来たのだろう。

ということは、隣のエスコートしている女性はメイナだ。

その後ろに続くのはイザード、ヒルメス、セドリックだろう。

「俺、場違いじゃないかな?」

という自信なさ気な中野輝希違うイザードの声。

「僕だって来たくなかったし…」

これは宮舘昴の声だからヒルメスだ。

最年少のセドリックは、物珍しそうにキョロキョロしながら歩いている。

可愛らしい少年声といえば、宋詠美(そうえいみ)さんだ。

私がこの世界に来て滅多に聴けることのないレアボイスだ。

皆が前を通り過ぎたので頭を上げて、その後ろ姿だけでもと彼らを見る。

メイナは聖女をイメージした袖口が大きく開いた白いドレス。

マクセル達攻略対象者は、彼らのイメージカラーの盛装をしている。

「あれ……?」

あのメイナのドレス、それに肩からマントをかけたセドリックの特徴的な衣装。

後ろ姿だけだけれど、私はたしかにこの衣装を着た彼らを見たことがある。

デジャヴ、とは違う。

私はたしかに()()()()()

数組の来賓が前を通っていく。

私は頭を下げながら、胸に広がるモヤモヤの正体を探る。

「アイザック殿下、ご到着です」

アイザックが私の目の前を通り過ぎる頃合いを見て、その後を付いていく。

先導するクラッグ、アイザックとカインと護衛騎士、その後に私は続く。

アイザックに宛てがわれた部屋に共に入り、入口近くに立つ。

アイザックは彼のイメージカラーである青を基調とした盛装だ。

私は今日初めて見る。

そのはずである。

だけど、この青地に金の刺繍に白いマント、そして胸を飾る勲章。

春迎の会では新調した衣装を着る。

私はその選定に携わっていないし、準備も手伝っていないから、今の今まで一度も見ていない。

それなのにどうして既視感があるのだろうか。

「レイモンド辺境伯並びにご令嬢は会場に到着されたされたとのことです。ダンスの際にはアイザック様が迎えに行きやすい位置にご令嬢を誘導するようになっております」

まずはアイザックはディオナと踊り、その後にカレリーナと踊るという手順だ。

カレリーナよりディオナの方が身分が上なので、この順番になる。

「それと、リリアーネ様が会場にいらしたと情報が…」

「あんの侯爵は自分の娘を制御できんのか!」

アイザックが声を荒げる。

本来ならリリアーネは春迎の会には招待されない。

誰かのエスコートや付き添いでしか入れないので、アイザックにエスコートして欲しいと頼んできていた。アイザックはリリアーネを自分のパートナーに選ばず、再三の請願も無視してきた。

きっと無理矢理父親に頼み込んでこのパーティーにやってきたのだろう。

「カールトン侯爵も娘に甘すぎだな」

カインがげんなりとする。

リリアーネがアイザックに突進してきたら、それを阻むのはカインの仕事だ。

リリアーネのキンキンとした怒声を間近で聞きながら、彼女を宥めなければならないのかと思うと、カインは憂鬱になる。

はあぁと誰が漏らしたか分からない重い溜息が部屋の空気を湿らす。


コンコン。

ドアが叩かれたので、私がドアを小さく開けて相手を確認する。

「皆様お揃いになりましたので、そろそろ開始いたします」

そう伝えられ、私は部屋の中に振り返りクロッグを見る。

「アイザック様、カイン様、お時間のようでございます」

クロッグがアイザックの襟元を直す。

「俺は先に会場に入ってディオナ嬢を確認しておく」

カインが服におかしいところがないか確認して、先に出る。

「では、行ってくる」

「いってらっしゃいませ」

私やクロッグなど部屋にいた使用人が全員礼をしてアイザックを送り出した。


さて、これから貴賓室のフロアの使用人達は慌ただしくなる。

国王の挨拶、叙勲功労者への労いのお言葉、そして今年デビュタントする者達への祝いの言葉が続く。

その後、国王夫婦のファーストダンスがあり、舞踏会の幕開けとなる。

そうなると、控室や化粧室へとやってくる参加者がいる。

他の会場ではすでに軽食やドリンクが用意されている。

この貴賓室は客人が大広間にいる間に軽食や飲み物を各部屋に準備するのだ。

私も担当の部屋用の食事が乗ったワゴンを取りに行く。

「こちらがお部屋の飲み物です」

一緒に付いてきてくれた侍従が飲み物のワゴンを持ってきてくれる。

「ワインなど瓶の物は氷を入れてそちらのクーラーに。水や果実水はこちらのテーブルにお願いします」

まだダンスの曲は流れてきていないから、急がずセッティングをする。

綺麗なオードブルはテーブルに並べておく。

乾いたら食べにくいものや冷やしておくデザートは、保存魔法や保冷魔法のきいた蓋をしておく。

皿やグラス、カトラリーは十分ある。

「よし、大丈夫そうかな」

ここで数分、私達は部屋を汚さない用に休憩だ。

一緒に来た侍従にも使用人用に取り分けた食事と飲み物を渡して、さっと食べる。

今食べないと、パーティーが終わるまで何も口にできない。

「うん、おいしい」

運んできたものを食べるのは、毒見にもなる。

ランダムで並んだオードブルを少し取り分け、味の確認だ。

水で口の中をさっぱりしたら、楽器の音が聞こえてくる。

「王国を讃えるワルツ……」

耳にしたのは、この国では代表的な曲だ。

まずは舞踏会はこの曲からだ。

だから耳馴染みがある、はずなんだけど。

「え………ぁ………そんな……」

唐突に頭の中に流れてくる映像。

それはアイザックがメイナがマクセルが、今日の衣装を来て笑う映像。

「これは…そうだ…オープニングだ」

クルクルと周りながら踊る主人公、その手を次々と取る攻略対象者。

「『緑陰の羽ばたき、黒き息吹2〜ティアーズ・ドロップ〜』のオープニング衣装!!」

私は叫んだ。

侍従はワゴンを持っていなくなっていたので、部屋には私一人だ。

「なんで忘れてたんだろう…」

『りょくいぶ』には続編ができていた。それが『緑陰の羽ばたき、黒き息吹2〜ティアーズ・ドロップ〜』だ。

『りょくいぶ2』もしくは『ティアドロ』と呼ばれた続編。

それがあることを今思い出した。

「オープニングの後は……」

『ティアドロ』は『王国を讃えるワルツ』の曲が終わるとこまでがオープニングムービーだ。

よくスキップしていたから、オープニングの衣装は売る覚えだった。

そして、この後ゲームが開幕するのだ。



キェェェェェェェェェ!!!!



急に響く咆哮。

それは金属が擦れるような、それでいて痛いと思わせるような、ナニかの叫び。


それを主人公と攻略対象者達次々とハッとして空を見つめる。


『緑陰の羽ばたき、黒き息吹2〜ティアーズ・ドロップ〜』

始まりである。


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