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悪殺し -悪を引き寄せる話-  作者: 皆口 光成
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悪ー陸ー


「えっ………?」




サヤさんの短い、驚きの声が耳に響く。

それは、事実を受け入れられない人間が発するものと同じだった。




「ど、どうして…」




ギュゥウウッ、と強く自分のスカートを握る。




「だって…サツキくんあなたが私の中の能力を消してくれたのでしょう…?」




懇願するような目。

全てが嘘であると信じていたい者の目がそこには映し出されていた。




「いえ」




それでも、僕は真実を言う。




「あなたの中には今もなお“アクヨセ”の力が宿っています。しかも前よりもさらに強力になって」




サヤさんの表情が崩れた。


目からは涙が。


口からは嗚咽が。


絶望していた。




「……んで」




何かを言う。泣きながらに。




「なんでなんですか!?あなたは!!私の中の力を消すのが!!役目なんでしょう!!?なのに!!どうして!!どうして!!!?」




それは行き場のない怒りをぶつけているようなものであった。いや、事実そうであった。

僕はそれを真正面から受け止めた。




「落ち着いてください、サヤさん」




そしてなおも冷静でいる自分がいた。




「これで涙を拭いてください。あとお茶も。そのお茶、沈静作用もあるのでだいぶ落ち着くと思いますよ」




そう言うとサヤさんは僕が差し出したハンカチを受け取り、涙を拭いた後お茶を飲んでから深呼吸をした。




「どうですか?」


「ん……大丈夫です。取り乱してすみませんでした…」


「いえいえ。おかわりどうです?」


「あ、じゃあ頂きます…」




トクトクトクッ、とサヤさんのカップにこだわりのお茶が注がれる。




サヤさんは大分落ち着いたようでまだ少し泣いてはいたがそれでも取り乱すようには見えなかった。




「サヤさん、僕達が最初に会った頃のことを覚えてますか?」




唐突に僕は聞いた。

突然の質問にサヤさんもキョトンッ、とした表情を浮かべている。




「え、えぇ…。確か学校で会ったのが最初でしたよね。初めはビックリしましたよ。こんなに身体が白い人がいるんだなーって」


「ハハッ…。それで周囲もなんとなく距離を取っていて孤立していた僕にサヤさんが話しかけてきたんですよね。あの時は色々とお世話になりました」


「い、いえいえこちらこ」


「でもそれが最初ではありません」




再び、本日何度目なのか分からない唖然とした顔をサヤさんはこちらに向けました。




「僕がユニアド学園に入ったのは一ヶ月前…その転校する前の日に実は僕達は一度会ってるんですよ」


「一ヶ月前…?」



ーーーーーー



一ヶ月前。




僕がまだユニアド学園の生徒となる前の日。

僕はいつも通り夜な夜な“悪”を殺していた。




しかしあろうことかその場を目撃していた者がいたのだ。それがサヤさんだ。




僕はすぐにサヤさんに接触した。そして今のように家に連れ込み今回同様自分たちの秘密を語った。




だが翌日僕はサヤさんこそが目的で標的である“アクヨセ”だと知った。




そして殺した。




それで終わるはずだった。いつも通りなら。

でも終わらなかった。




サヤさんは次の日普通に学校に来ていた。しかも僕と出会った二日間の記憶を失って。




今までにない異常事態に僕達のとった行動は『監視』だった。

常に監視し、彼女の中の“アクヨセ”がなりを潜めたのか、あるいは本当に消失したのかを確認するためだ。




そして一ヶ月が経った。




彼女、サヤさんの“アクヨセ”の力は消えてなどいなかった。



ーーーーーー



「出来ることなら僕は後者…消失していることを祈っていました」




サヤさんは固唾を飲んで聞いていた。




「一ヶ月間、あなたの身の回りに“悪”が寄ってこないか常に確認をしていました。ですがその見極めは至難そのものでした。何せここはユニアド、学園都市ですからね…。人口密度が高くなればなるほどその分犯罪は起きやすくなりますから」




そしてそのまま共に過ごした。

ユニアドの住民として、学園の生徒として、サヤさんの友として。

僕はずっとサヤさんが“アクヨセ”を消失しているのか確認していた。




そして確証を得られたのは昨晩、最悪な方法で知ってしまった。




彼女に触れた“悪”が“アクビト”になったことで。




だから殺した。




それで今度こそ、終わったと思っていた。

なのに。




「あなたはまだこうして生きている」




サヤさんは再び僕の目の前に現れた。しかも今度は記憶などの障害を一切負わずに。




「そ、それで…」




サヤさんの口が開く。




「私はこれから……どうすれば…どうしたら良いのですか?」


「何もしなくて構いません。サヤさんにはこれまで通り過ごしてもらって問題ないので」


「え……でもそれじゃあ私の中の力は…?何か手があるんですか?」


「………………そうですね」




僕は視線を横にしていた。横にして考えていた。いや、本当は考えていない。考えてもいないのに考える、そんな矛盾を自分の中で起こしていた。




これは言うべきではない。




でも言わなければ本人の、サヤさんのためにならない。

そんな葛藤を繰り広げて。




「………正直に言いましょう。サヤさん」




結局、自分の中で決着がつかないままに僕の体は勝手に動き出す。所詮僕も人の枠に当てはめられた存在なのだ。




「あなたの力に対して僕が出来ることはありません。何も……することができません」




そのあまりにも無責任なセリフを、僕はサヤさんにぶつけた。


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