悪ー肆ー
僕の悲鳴が住宅街に轟いた後。
サヤさんはどうにか話を聞いてくれるまでに落ち着いてくれた。良かった。
多分コノエさんのあの姿を見てしまったからだと容易に推察できるがそこは今は触れないようにしよう………うん。
「それでは本題に入りましょうか」
「いやなんでついさっきあんな目に遭ったのに無傷なんですか?」
ようやく話が進むと思ったらまた止められた。いい加減にしてほしいものですね、全く。
「その説明も後ほどさせてもらいますよ」
「……分かりました」
サヤさんはまだ疑心暗鬼の目をこちらに向けながらお茶を飲みました。
「あ、これ美味しいですね!」
「分かりますか!?」
「はい!飲んだ瞬間に口いっぱいに広がる濃厚な甘さの後にスッと引くような爽やかさ、まるで大自然に囲まれた気分になります!」
「そうでしょう!そうでしょう!実はこれでも少し茶葉に凝ってましてね。幾つか数種のお茶の葉を探しては集めているんですよ!」
話に熱がこもる。
「これお菓子と一緒だとなおいいかもしれませんね」
「さすがサヤさん!分かる人だ!!そうだ今度一緒にこの茶にあぶっ!?」
「!?」
話がヒートアップしかけたところでコノエさんに肘鉄を脇腹にお見舞いされた。
「………本題……」
「……はい、そうでした…すみません……」
こうして本当にようやく時間としてはおよそ三十分ちょっと経ったあたりで。
本題に入ることができた。
ーーーーーー
「さてそれでは改めまして自己紹介でもしましょうか」
僕は自分の胸辺りに手を置いて話した。
ちなみにサヤさんからの「なぜ無傷なの?」発言は完全スルーとする。
「僕の名前はサツキ。見た目はあなたと同じ同年齢の十五、六に見えますが実年齢は二十二になります。“悪殺し”をしています」
次にその手を隣のコノエさんに向ける。
「そして僕と同居人で彼女のコノエさん。見た目は可愛らしい姿ですが年齢は僕の二つ下の二十歳になります」
最後に僕はサヤさんの方に手を向けた。
「え、あっ、サ、サヤと申します。不束者ですがよろしくお願いします」
突然の応対なのか、もしくは改めての自己紹介の恥ずかしさからなのかは分からないが、なぜかお見合い席での挨拶をサヤさんはしました。
「そう。そしてあなたは“アクヨセ”でもある」
最後に僕がそう着き加えて、各々の自己紹介は終わった。
「な、なんで改めて自己紹介なんかしたんですか…?」
「ん?いえ現状を分かりやすくするためですよ。サヤさんが聞きたい項目を絞らせるためにね」
正確には絞ったのではなく縛ったのだがそこは今はどうでもいいだろう。
「絞らせるため…?」
と、何か腑に落ちないと言った語気を込めた言い方をするのでもう一つ付け加えておく。
「出来れば全部をサヤさんには話しておきたいのですが生憎今日は学校がありますからね。あまり長話というわけにもいかないんですよ」
と、最もらしいことを言って誤魔化す。
「なるほど…そういうことですね。分かりました」
サヤさんは案外簡単に信じてくれた。これはそれで助かる。
「ではまずは何から聞きたいですか?」
「……………“アクヨセ”について教えてください」
僕はやはりか、と思った。
まず正体不明の存在を探るよりも先に自分のことを知りたいと思うのは人としての性であると言えるだろう。
例えるなら、自分を治してくれる医者の経歴よりもまず自分が何の病気に罹ったのかを知りたい、と思うようなものだ。治るのか治せるのか大丈夫なのか危なくないのか?
まずは自分についてある程度整理がついてから他を知ることに関心が向くようになるものだろう。おそらくだが。
「分かりました」
僕はサヤさんに笑顔を向けました。
それはいつも見せる顔。
相手を安心させるために身につけたもの。そこに感情などない。
「“アクヨセ”というのは文字通り“悪”を引き寄せる者のことです」
--アクヨセ--
漢字を使うならばそのままの「悪寄せ」。
文字通り“悪”を引き寄せる者のこと。
該当者の例を上げるならば行くところ行くところに事件が起こってしまう人物のことを指す。
“アクヨセ”の主な役割は“悪”の概念を持った人物を引き寄せることにある。
その目的は人間を“悪”そのものにする“アクビト”を作るためであると言われているがその理由は不明である。
一説では“悪殺し”の効率を上げるためで“アクビト”はその副産物、とも言われるがいずれも確証は無い。
“寄せる者”の一種である。
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「“寄せる者”…?」
サヤさんは聞いたこともない単語にただ唖然とした表情で聞いていました。
「はい」
僕はただその言葉に対し返事をしました。
「それがあなたの正体…能力の説明です」
「“寄せる者”って一体…」
「………そうですね」
僕は少し目を瞑り頭の中で少し考えた。いかに順序良く説明すればいいのかを考えた。
そして思い至り、目を開ける。
「“寄せる者”の説明をするにはまず僕達“悪殺し”…“殺す者”の説明をしなくてはなりません」
そして僕は語り出す。
一つ一つ。
自分たちの秘密を。




