悪ー貳拾壹ー
ユニアド学園・体育館
一言に体育館と言ってもここのは普通のとは規模が違う。
ここユニアドでは秀でた才能の育成、向上を目的とした施設が建ち並ぶ。
一言に才能と言ってもその数は未知数。
そのためどの分野のものであろうとも対応できる場所を必要としている。
ユニアドにはそういった施設が幾つか存在しており、そのうちの一つにこの体育館も含まれている。
何が違うのかと言われればまず一つ挙げるとするならばその設備。
学園所有の物とは思えないほどのその広さは、さながらかの有名なサッカー会場や野球会場、または闘技場を彷彿させるほどの面積を持ち、さらには各スポーツに合わせて会場の気温、湿度、天候、また風向き、さらに環境まで自在に変更出来るのだ。
さらに切り上げればキリがないほどにユニアド学園の体育館には最新鋭の技術を盛り込んでいるのだがそれは割愛する。
現在ユニアド学園の生徒が集められているのは体育館のホール、つまり普段ならば競技の会場となる場に集められている。
また先ほどまで何かに使用していたのか床は一面芝生となっていた。
生徒たちは表向きは緊急全校集会という名目で教師陣に誘導されていた。
しかし、その中の数十人の生徒、クラスに一人か二人はこの集まりの本当の意味を理解していた。
そしてその理解している生徒の中にはもちろんミキナも。
「お、いたいた」
そんな彼女に声を掛ける一人の男子生徒。
「おう、見つけたぞ。ミキナ」
「ごめんなさい。人違いです」
「…………」
しばしの沈黙。
「いや今日の朝会ったし、お前を他のやつと見間違えるほど俺の記憶力は悪くはないぞ」
男子生徒がそう言うとミキナはハァッ、溜め息を吐くと。
「で、何かしらハゼト君。私あなたに何か因縁めいたことでもしたのかしら?」
と、男子生徒、ハゼトの方を向いた。
「なんでそんな言い方を……違うよ」
ハゼトは軽く避けられたことに対してのことを言おうとするも、ミキナには口で勝てるわけないと悟り、さっさと本題に入ろうとした、が。
「違ったの?ならごめんなさい。私てっきりあなたの下駄箱にシュールストレミングを仕掛けたことがバレたのかと思ったわ」
「お前そんなことしたの!?」
と、思わずミキナのペースに乗せられてしまうハゼト。
「冗談よ」
なおもミキナは冷静に言う。
「その表情じゃあ冗談に聞こえねぇよ……」
ハァーッ、と今度はハゼトの口から溜め息が漏れる。
「で、本当に何しに来たのかしら?もしや昨夜の一件でのことならあれはお互い無かったことにしよう、ということで終わったはずよ」
「その言い方は誤解を招くからやめてくれ!」
「私たちの間には何も無かったのだから」
「本当に何も無かったからな!」
「もしもどうしても私と関係を持ちたいならまずはお友達からということでお願いしたいものだわ」
「お前さっきからワザとだろ!?」
ミキナとハゼトの周囲にはミキナを哀れむ視線とハゼトを侮蔑するような視線を向けるギャラリーが。
「………!ちょっと来い」
周囲の視線に耐え切れず、場所を変えようとハゼトはミキナの腕を掴む。
「!……ついに実力行使に出たわね。やはり男は皆ケダモノということかしら」
ミキナは顔を少し赤らめながら口元に手を当ててさながら悲劇のヒロインかのようなポーズをとった。
「……………お前そんなキャラだったか?」
昨夜見たS組である彼女と共に危機を乗り切ったハゼトからすれば今のミキナはまるで別人であるかのような錯覚に陥ってしまい、ついそんなことを言ってしまう。
「私ぐらいのスペック持ちだとシリアスとギャグの両方のキャラ持ちが可能なのよ。何だかここしばらくシリアス続きだった気がするからこうして私が身を粉にしてギャグ役をやっているのよ」
「お前何の話をしてるんだ?」
「要するにシリアスの私とギャグの私のギャップで萌えが発生するの。ギャップ萌えって言葉を知らない?」
「知らねぇよ。そして早く来い。さっきから周囲の視線が痛いんだよ」
そう言うハゼトとミキナの周りには先程は横目での視線がハッキリと見る目に変わっていた。
まるでカップルの痴話喧嘩を見るような目で。
「そんなこと言われてももうじき号令だから離れる訳にはいかないのだけれども」
そう言ってミキナが見る視線の先には出席番号順に並んだ生徒たちが教師に確認を取って座っていく光景があった。
「今、どういう状況なのかは分からない訳ではないでしょう?」
この場合の状況とは「号令中に離れる訳にはいかない」ということではなく、「これは避難である」という意を込めた隠語であった。
「それくらい分かってるよ」
ハゼトもこの集まりの真の意味を理解していた。
「だから今お前に来てほしいんだ」
「………どういう」
言っていることが分からない、といった調子でミキナが言いかけると。
「委員長がいないんだ」
そこで一度ミキナの口は止まる。
そして目を見開き、返した言葉は。
「…………………………………サヤが?」
親友の名前。
その声は弱々しく消え入りそうなものであったが、ハゼトの耳には聞こえていた。
「あぁ、なぜか一年P組で委員長だけがいないんだ。それで、お前なら何か知ってると思っ」
「最後にサヤを見たのはいつ?」
「え?」
突然の問いかけにハゼトの言葉が詰まる。
「最後にサヤを見たのはいつ?」
二度目の同じ質問により、ようやくハゼトの口は動く。
「確かここに来る前、教室にはいたよ。いないことに気付いたのはついさっき、全員いるかの確認をしようとした時だ」
「そう」
と、返事だけをしたかと思うとミキナは考え込む姿勢をとる。
「そこでサヤの不在に疑問を持ったハゼト君は私にサヤについて知っていることがないか、もしくは私のところにサヤがいるのでは、と思った訳ね」
「ん、まぁ……そうかな」
「でもサヤはここにはいなかった。そして同時に私はサヤがどこにいるかは知らない。つまりこれはサヤ自信が独自で動いている、あるいは巻き込まれた、という可能性が高いことを表すわ」
「? 巻き込まれたって──」
と、そこでハゼトはハッとした表情をする。この集まりの真の意味を知っている彼が。
「まさか!」
「その可能性もあるわ」
しかしなおもミキナは冷静だった。
「でもそれはまだ憶測の域。確証も何も無いわ。それにもしかしたら単純に遅れているだけかもしれないしね」
「遅れる?なんで?」
「女の子には色々あるのよ。察しなさい」
「?」
ミキナの言っていることが分からない、といった感じに首を傾げるハゼト。
「じゃあ、このまま待ってればそのうち委員長は来るのか?」
「いえ、憶測の域とは言っても一応念のために探しに行った方がいいわ。事が事で状況が状況だし」
「よしじゃあ……」
「行くわよ」
と、教師陣にサヤの不在の報告をしようとハゼトが教師の元へ向かおうとするのを横目にミキナは体育館出入り口に向かいだした。
「い、行くってどこにだよ!?」
「どこってサヤのところに決まってるでしょ。ハゼト君もついてきなさい」
なおも冷静に言うミキナ。
「いやいや!先生とかに言った方が──」
対象的に慌ててミキナを止めに入るハゼトに。
「もし前者ならどうなると思っているの?」
と、キッとした目つきでミキナは睨んだ。
前者。それは先程ミキナが言っていた最初の可能性のことだ。
「もしもそうだった場合、とてもユニアド学園の職員が太刀打ち出来るか怪しいし、何より筋力が異常のハゼト君の方が万が一の時に適任だと思うのだけれども」
ミキナが言う通り、P組ー身体ーが優れた者が集う中でハゼトはその見た目は一般男性と遜色変わり無い体つきであるというのに、その筋力は先に見せた怪力を持つ。
確かにそうなるとこの場合ハゼトが適任ではあるのだが、補足のために言っておくと一応ユニアド学園の職員、スタッフも生徒を危険から守るためになんらかの訓練を受けていて、そんじょそこらのテロリストに負けない防衛術を身につけている。
それでもハゼトを連れる訳。
「だから先生方には言わない。分かったら行くわよ」
「お、おう」
説き伏せられ、半ば無理矢理にハゼトはミキナに連れて行かれる。
「で、でもよ。どうやってここから出るんだ?出入り口は先生たちがいるし、非常口もおそらく見張りかなんかがいると思うぜ?」
「その点は大丈夫よ。今は名目上緊急全校集会ということで集まっている訳だから、お手洗いに行く、とでも言えば通してもらえるわよ」
「……そう簡単にいくものか?」
確かに現在は全校集会ということになってはいるが、しかしこれの本当の意味は不審者に対する防衛のための避難であることを忘れてはならない。例え事情の知らない生徒であっても体育館から出ていくことは許されないはず。
そう、ハゼトが思っていると。
「まぁ、それに」
と、ミキナが言う。
「私なら先生方も通してくれると思うわよ」
「え、なんでだよ?」
お前がS組だからか?と、ハゼトが言うと。
ミキナは歩みを止める。
「だって私」
そしてゆっくりと、ゆっくり振り返り。
振り返りながら──。
「ユニアドの教師全員の弱味くらいなら知ってるから」
振り返りながら、言うミキナの顔から黒い笑みがこぼれていた。
「…………………」
あまりの表情に言葉を失うハゼト。
そのことに特に何も言うことなく再び歩き始めるミキナ。
そのミキナのやや左後ろの位置に着いたハゼトは。
「俺、お前とは友達になりたくないわ………」
と、心の底からの想いを伝えた。
「そう、残念」
と、ミキナは対して傷ついたと思う素振りも見せずに言う。
「どう?これがギャップよ」
「萌えは無かったけどな」
そして二人は向かう。
サヤの元へ。
悪ー貳拾貳ーは12/30掲載予定です。
え?間違えてないですよ?




