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悪殺し -悪を引き寄せる話-  作者: 皆口 光成
21/23

悪ー貳拾ー

寒い…寒いよ…。


ユニアド学園・屋上。




ここには通常生徒の立ち入りは禁止されている。

その理由は様々ではあるのだが、最たる理由を挙げるならば「学校側の目が行き届きにくい」というものだろう。




屋上というのは教師の目を憚ることなく、且つ人目も少ないということもあり、そこで一体何をしていようとも誰にも知られることがないという利点が存在してしまう。




さらに屋外ということもありガチガチに固められた校則からの一時的な開放感よりここではあまり表立って出来ないことを目的にする者が現れやすいという欠点も存在してしまう。




そのため学校側は屋上へ続く扉を頑丈に封鎖してある。

誰にも利用されないように。




その封鎖、もとい立ち入り禁止区域である屋上に。

一人の女子生徒が椅子に座っていた。




その女子生徒は祈るような姿勢を取りながら椅子の上で丸まっていた。

ギュッと手を合わせ、まるで何かからの攻撃から身を守るためのような様子だった。

手は震えており、その震えはやがて腕、肩、そして全身へと渡り、そのまま椅子にも───。




「………ブハァッ!?ハァッ……ハァッ……」




突然女子生徒は顔を上げた。




「スー…………ハー…………。スー…………ハー…………」




その女子生徒は深呼吸をし、自身の呼吸を整えた。

そして再び祈るポーズを取り───。




「……本当にこれで大丈夫なのかな…」




ふとした疑問を女子生徒は、サヤは言った。



ーーーーーー



「僕と勝負をしましょう」




ピッ、と人差し指を立てて私にいきなり勝負の申し立てをしたサツキくんに私は。




「ほぇ?」




と、最早何のキャラなのか分からない返事をすることしか出来ませんでした。




「な、なんで私とサツキくんが勝負することになるんですか?」




ようやく回り始めた頭で初めに私はそんな当然の質問をしました。

なにせ私たちはただの(“悪殺し”と“アクヨセ”ですが)クラスメートであり、私たちが戦う因縁など(“悪殺し”と“アクヨセ”ですが)無いはずなのですから。




………………………。




ありありですねぇ…。




「まぁ確かにサヤさんの疑問はごもっともです。今のは僕の言い方が悪かったですね」




悪殺しなのに、とサツキくんは自分で言って自分で笑いました。全然上手くないのに。




笑うのをすぐにやめると(もしかしたら自分でも面白くないと思ってたのかな?)サツキくんは次に中指を立てました。人差し指と中指二本とも立てたのでピースする感じになります。手元にカメラがあったらシャッターを押しそうになります。




「勝負というより競争ですね。僕とサヤさん、二人の競争」


「競………争?」




それは意味合い的に同じ気がしますが。




「実際勝負なんてしたら僕が一方的にサヤさんの身体という身体を隅々隈なく隙間無く針で刺し続けて殺し続けるだけですからねぇ」


「サラッと物騒なこと言わないでください!!」




あの針(?)痛いんですからね!心に!




「今現在ユニアドがどういう状況かは分かっていますよね?」


「え?えぇ……」




急に本題に入るので少し戸惑ってしまう私。

えぇと…。結構長々と説明しましたが、ザックリ言うとユニアドを私が滅ぼすか、サツキくんが滅ぼすか、のどちらかになるという救いの無い未来しかないということでしたっけ?




一方私、“アクヨセ”の能力(チカラ)でユニアドの住人全員を“アクビト”変えて消すか。




一方サツキくん、“悪殺し”がユニアドの住人全員の“悪”を殺し尽くし、廃人だらけにするか。




その二つしかない未来。




「………ですよね?」




そうして私は恐る恐る、といった調子でサツキくんに聞きます。それは例えるならば先生に当てられた問題の答えを間違っていないか探りを入れながら答える生徒のように。

出来れば間違っててほしいのですが。




「概ね合ってます」




残念ながらサツキくんはそんな私の期待を裏切るように答えていきます。

良い意味にも(・・・・・・)悪い意味にも(・・・・・・)




「まぁどちらの場合でも結局やるのは僕なのでこの街の命運は僕次第なんですけどね」




そんなまるで主人公みたいなことを言うサツキくん。やることは悪者のすることなのに。




「ですが、場合によってはサヤさん。あなた次第(・・・・・)であると言ってもいい」


「え?」




三本目、薬指を立てました。




「ど、どういうことですか?」




私はやや詰め寄るような勢いでサツキくんに問い質します。

そんな私を見てサツキくんは自信ありげな笑みを浮かべました。




「サヤさん、あなたは確かに“アクヨセ”だ。自身の周辺に“悪”を引き寄せ、さらにはその人の心の内の“悪”を増大させて“アクビト”に変えてしまう」


「は……はい」


「そしてあなたは僕が今まで聞いただけでも見たこともない特殊の中の特殊、奇異の奇異である存在でもある」


「あ…あの」




それが一体どう関係あるんですか?と、私が聞こうとした時にです。




「だから僕は思ったんですよ」




サツキくんは言いました。




「サヤさんなら“悪”の制御が出来るのではないかとね」




ハッキリと。



ーーーーーー



「勝負方法は単純です。そう難しくないですよ」




そう言いながらサツキくんは私を抱えたかと思うと、あらかじめ開けていた窓に足をかけてそこから一気に屋上まで(・・・・)飛びました。




いきなりのことに、あまりのことに私は叫ぶことも泣くことも出来ずただ茫然としていました。




「僕が時間稼ぎをしますので、それまでの間にサヤさんが“悪”の制御が出来たらサヤさんの勝ち。いつまで経ってもやはり“悪”の制御が出来ず、一人でも“アクビト”になればサヤさんの負けです」




いまだ茫然としている私をサツキくんは教室にあった椅子に座らせてくれました。

ちなみにこの椅子は後で持ってきた物ではなく、サツキくんが私を抱える際に一緒に持ってきた物です。最早人間の出来る芸当ではありません。




「それまでは誰もいない屋上にいてくださいね。今のサヤさんは“アクヨセ”の能力(チカラ)が高まっているので、もしかしたら普通の先生や生徒まで影響を与えかねませんので」




ようやく意識がハッキリしだし、まるでフラッシュバックのように先程の恐怖体験を思い出しながらも、冷や汗をかきながらもそれを忘れるように頭を振りました。

そして聞きます。




「サ、サツキくん。でも……」


「ん?なんです?」




真っ直ぐ見てくるサツキくんを見て、私は思わず言葉を詰まらせてしまいます。




「いや……あの……その……」


「?」




私はあることが引っ掛かってそれをサツキくんに聞こうとしますがなかなか言えません。

なぜなら、それはとても重大でもあり、しかしこの勝負の根底を覆しかねないことなのですから。




それは──。




「あぁ、そういうことですか」




しかしサツキくんは私が何を言わんとしているのかが分かったようでした。




「大丈夫、安心してください。サヤさん。たとえあなたが粗相をしてもそこら辺の処理はちゃんと僕がしておきますから」




どうやらサツキくんもそれ(・・)は重々承知のようで、その覚悟も──ん?粗相?




「万が一のためにここにバケツを置いておきますので、もしどうしても我慢が」


「何の話をしてるんですかぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!?」




私はバケツを持って立っているサツキくんの笑顔目掛けて水平チョップを食らわせました。




「ダバハッ!?」




そのままサツキくんはバケツを持ったまま倒れます。




「ちょっ!?いきなり何するんですか!?」


「それはこっちのセリフです!!人が真剣に話をしているのにあなた一体何を言い出すんですか!!?」


「え、いや、屋上にはトイレが無いからその心配をしているのかと……」


「サツキくん!あなた時と場合というものが分からないんですか!?今シリアスな空気なんですからそういうことは後でいいんですよ!!というかこういう時だけ変に気回し良いですよね!?」




確かに重要なことではありますけども!!

乙女に向かって言うことではないでしょうに!!

しかも処理するって……一体なんのプレイをさせられそうになったんですか!!?私!!!!




「ま、まぁまあ。確かに年若い思春期の女性に言うことではなかったんですけど……。いやでもほら、サヤさんがトイレに行く間に誰かと遭遇してしまってそのまま“アクビト”に───というリスクを無くすためでもあるので」


「それくらい私でも分かりますよ!!だったらもう少しオブラートに包んで言ってくださいよ!!!」


「す、すいません……」




そう言ってサツキくんはバケツを屋上の扉付近に置きました。




「あまりにも言いづらそうだったのでてっきりそうだと思いまして……」


「思っても言わないでくださいよ!!デリカシー無いんですか!!?」


「うぐっ……」




私が怒鳴るとサツキくんは隅の方で縮こまって両人差し指をつつき合いを始めました。




あんな風に落ち込む人本当にいたんですね……。




「そうじゃなくて、私が言いたいのはですね」




再び、平静を取り戻した私は聞きました。




「本当に私に“悪”の制御が出来るんですか?」




そう。

これはとても重要な、重大なことです。

今現在私の“アクヨセ”はその能力(チカラ)を増大させ、ユニアドの外から沢山の“悪”を引き寄せ続けているのです。




さらにはその中の“悪”が大きければ大きいほど私からの影響を受けやすく、“アクビト”に成りやすいのです。

それはつまり、近くても遠くても、ユニアド全体の人間全員が“アクビト”になる可能性があるということを表しています。

それを阻止する方法をサツキくんは言っていました。「“アクヨセ”を殺すしかない」と。




なのに。




「私に出来ると……思ってるんですか?」


「いや思ってないですよ?」


「ですよね…」




え?




「言ったじゃないですか。過去に“アクヨセ”が“悪”を引き寄せ、その最期は皆“殺す者(キーラー)”に殺されたって。つまり“アクヨセ”が過去に“悪”を制御出来た前例は一度も無いんですよ」


「え?え、ちょっ、え??」




淡々と話されることに追いつかない私。




「確かにサヤさんは前例の無い“寄せる者(アダー)”ではありますが、それがイコール概念の操作が出来るという根拠になるとは思ってません」




いやさっきと言ってること違わないですか?

え?じゃあ何?さっきの言葉は嘘なんですか?今やってるこのやり取りはただの茶番なんですか?え?




言いたいことが沢山ある私ではありますが、私の口は唖然としたままで上手く動いてはくれませんでした。

鳩が豆鉄砲を喰らうってこんな感じなんですね。




「サヤさんなら“悪”を制御できる、と思ったのはただの思い付きで言ったに過ぎませんよ」




サツキくんは最後まで特に悪気なく言いました。

そのことに私は怒りを通り越して呆れ返っていました。




あー、この人こんな状況でもこんな感じなんだー、と。


人の気持ちなんてお構い無しで自分勝手だなー、と。




私がサツキくんに対する評価を株価の大暴落並みに下げていると。




「だから勝負なんですよ」




と、サツキくんは続けて言います。




「僕は今まで前例を見たことが無いから『出来ない』方に。そしてサヤさんは前例などお構い無しの例に見ない存在であるが故に『出来る』方に」




そしてサツキくんはそのまま私の前まで来ます。




「確かに僕は『出来る』とは思っていません。なにせそんな方法聞いたことも見たこともやったことも無いのですから。だから僕は『出来ない』と思っている」




でもね、とサツキくんは右手を広げてこちらに向けます。




「サヤさん、あなたはどう思います?僕の言う前例が無いから『出来ない』と思いますか?僕の言葉だけで答えを決めてしまいますか?」




私は、何も言いませんでした。

ただ考えていました。




確かに私は今まで、これまで、ずっとサツキくんの言う言葉だけを信じていました。

そんな筈はない、と思う自分の気持ちをどこかに封じ込めてしまいました。

それこそ聞いたことのない言葉に最初は戸惑いはしましたが、それでも全部真実なのだと思い込むようにしていました。




言うなれば学校で先生が言うこと、教えることがこの世の答えなのだと思い込むように。

私はそれこそが「答え」なのだと思ったのです。




『“アクヨセ”は殺すしかない。』




そう聞いたから、それが「答え」なのだと。




ですがその「答え」は合っているのでしょうか?




例え自分よりも知識があって、経験数も多い人が言っていたとして。

果たしてそれは真実(こたえ)だと言えるのでしょうか?




過去には地球が中心に世界は回っているのだと、世界の果ては崖っ淵であると、自然の脅威は神々が引き起こしたものだと、自分と似た存在に会えば殺されるのだと、神が世界を造ったのだと、様々な迷信が多くの人に知れ渡り、信じられてきました。




しかしそのどれもが間違いであったのだと、真実(こたえ)はもっと別のものであったのだと証明されたのです。




たった少数の人間が、それこそ死に物狂いで見つけた真実こそが答えだと認められたことがあるのです。




ならば今の私はどうでしょうか?




私はなにかを見つけたのでしょうか?




それこそ死に物狂いで調べ、研究し、検証し、実証し、証明したのでしょうか?

いいえ、どれも。




私は何もしていません。




ただ私は教えられたことこそが「答え」なのだと、真実(こたえ)なのだと思い込んでいるだけです。




言うなれば現代国語の小説での作者の心情を。


言うなれば数学の公式と解き方を。


言うなれば科学の物理法則を。


言うなれば歴史の出来事を。




教科書に載っていることこそが真実(こたえ)だと。

ろくに調べもせず、知ろうともせず。

盛大なる知ったかぶりをしているのです。




私の真実(こたえ)が何なのかを、私は知らなくてはならないのではないのだろうか?




「……サツキくん」




ようやく動いた私の口から出た言葉は、サツキくんからの問いによる「答え」ではなく。




「私と………勝負してくれる?」




勝負の申し出でした。




「えぇ、もちろん」




そう言ってサツキくんは私の右手をとって握手をしました。

どちらの真実(こたえ)が正しいのか、それを取り争う勝負が、こうして始まったのです。



ーーーーーー



そしてそれから数十分後。




サツキくんが屋上から飛び立ってから(もう驚かない)。

私はずっと祈る姿勢のまま、“悪”の制御が出来ないかを試みていました。

途中あまりにも集中しすぎて息をするのも忘れていましたが。




試行錯誤を繰り返しながらも何度も何度も試みます。

正直、これで良いのかは分かりません。ですが。




何もせずにただジッとしている訳にもいきません。

私が諦めてしまえばそれこそ本当に全部終わってしまうのですから。




だからこれは私の戦い。




私の真実(こたえ)を見つけるための戦い。




諦めない限り、私に「負け」は無いのですから。




ドッ、ゴォーンッッッ!!!




「!!?」




突然何かの激音が校門方面から聞こえました。

見るとトラックが校門入り口に突っ込んでおり、無理矢理にでも突破しようとしているところでした。




「…………!!急がなきゃ!!」




そうして私ははやる気持ちを抑えながらも、椅子に座ってまた祈る姿勢に入ります。




例え世界中が今私がやっていることは間違い以外の何でもないと言おうとも。

それでも私は続けます。




私だけの真実(こたえ)を見つけるために。


悪ー貳拾壹ーは12/9掲載予定です。

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