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悪殺し -悪を引き寄せる話-  作者: 皆口 光成
20/23

悪ー拾玖ー

ふう……今回は間に合った。


何と運が良いことだろうか。

まさか潜入した当日にクーデターが起こるとは。




現在俺が潜入したユニアド学園は緊急全校集会で全校生徒を体育館に集めている。

だがそれは名目上なだけであって実際これは全校集会ではなく避難だ。もちろん訓練ではなく。




事の始まりはある放送から始まる。




『デングルさん、デングルさん、至急職員室までお越しください』




あまりに早口に言われたその内容に若干の疑問を抱いたものだが。

しかし周囲のユニアドの職員共の慌ただしい行動を見て俺は悟った。




侵入者、もしくは襲撃者か。




特に難しいことではない。ここは全国から選りすぐりの秀でた才能の持ち主を集め、育成し、向上させる場なのだ。そのためユニアドの生徒一人ひとりの価値は個々差はあれども一般とは比べものにならないくらいに上がっている。こうして無理矢理にでも奪い取ってやろうとする輩が一人や二人いてもおかしくは無いはずだ。




そうした者への対応の一つが今流れた謎の呼び出しの放送なのであろう。

不審者を刺激させないためにわざわざ暗号化までして。




軍でも本部や基地に侵入者がいた場合に似たような処置をするので俺にはすぐに分かった。




しばらくすると職員室に俺のような研修生やスタッフ、職員全員が集まった。




大体の事情は教頭とかから伝えられた。




現在ここユニアド学園に向かってイコル教が進軍していること。


三つあるラボ全てが何者かの襲撃を受けたこと。


次はユニアドの生徒を狙っていると思われること。




大方教頭から聞いた話は予想通りであったが、ただ一つ予想出来ないことがあった。




イコル教。




確か奴らは人間社会身分水平基準を提唱しており、それにより全国中の差別を撤廃する運動をしているややオカルトな宗教団体だ。




たかが宗教団体と侮ってしまうが、実際奴らは差別を無くすためならば武力をもって行使するといった危険な思想を持ち合わせており、過去には戦時下の国家間にも割り込むという奇想天外なことをした実例もある。




さらにはただの宗教団体とは思えない程の卓越した統率力まであり、その武力は国一つと渡り合えるくらい、とも言われている。




過去に一度戦場で戦ったことがあるのだが、あまりの統制の取れた動きに翻弄され続け、さらに一人ひとりが同じくらいに強かったこともあり、敗走した記憶がある。




そのイコル教がユニアドに?

しかも今?

あのイカれたオカルト宗教なら確かにここも粛清対象には入りそうなものだが……。それにしては遅すぎる。




否、タイミングが(・・・・・・)良すぎる(・・・・)




なにせ俺が唯一ユニアドに潜入、滞在出来る日に起きたことなのだ。何かあるとしか思えない。




まさか奴らに俺の行動が漏れているのか?




いや、それはありえないだろう。確かに俺にこそイコル教には因縁めいたものを持ってはいるが奴らは俺のことなど知らないだろうに、覚えてもいないはずだ。

仮に俺の行動を把握してのことだとしても何のコンタクトも無しに騒動を起こしていることを踏まえると、やはり今回の俺の潜入とは全くの無関係。ただの偶然だ。




……………本当に偶然なのか?




俺のユニアド潜入の日とイコル教がユニアドを襲撃する日が被ったこと。

それは本当に偶然起きたことなのか?

いや実際この二つには何の因果関係も無い。本当にただの偶然なのだ。




なのに何故だ?この胸のざわめきは?




ここには。いや、ユニアドにはまだ知らない。

得体の知れない(・・・・・・・)何かが俺たちを(・・・・・・・)引き寄せて(・・・・・)いるんじゃあ(・・・・・・)──。




「ジョネル先生?ジョネルせんせー」


「!?」


「あ、気付いた」




気がつくと俺のすぐ側には一年P組の担任がいた。

やたら間延びする声で話し掛けてくる。




「ジョネル先生どうかしましたー?話し掛けても上の空でしたしー」


「い、いえ。少し考えゴトをしてまシテ……」


「とか言って本当は寝てたんじゃありませんかー?」




んなわけねぇダロ、と思わず言いかけて思い留まる。

いかんいかん。つい本音、というか素が出てしまうところだった。今ここで問題を起こすのは芳しくない。




「で、今から僕たち職員は生徒たちを誘か……じゃなくて誘導するために各自行動をしますけどジョネル先生はどうしますー?寝ますー?」




この男マジで後で一発殴ってやろうか。どうしてこんなにも人の神経を逆撫でるような喋り方をするんだ。イライラする。




しかもコイツ今ありえない言い間違いしてなかったか?




……落ち着け。今は任務中だ。私情に流されるな。えーと…。




「えっと…ドユコトデス?」


「いやまぁ僕と一緒に生徒たちの誘導をするか、それとも先に体育館に避難しておくかのどっちか──」


「お先に避難シテマス」




即答した。




こんな男のくせにナヨナヨした奴と一緒に行動など俺の自制心が思っての返答だった。




「…そうですかー。分かりましたー。体育館の場所は分かりますー?」


「ハイ」




ここに潜入する際学園内の見取り図の確認はしてあるので場所はすぐ分かった。




「んじゃあ、僕はちょっくら誘拐してきますのでこれでー」




そう言ってその男、一年P組の担任は(自分がとんでもない言い間違いをしたことに気づかず)職員室を後にした。




………………マジで殴ろうかな。




なんであんな弱々しいのがユニアドの教師なのかが理解出来ない。どうかしてやがる。




まぁいい。

今はともかく本来の目的、任務の事だけに頭を捻ろう。

イコル教のこともひとまずは深く考えないでおこう。リベンジしたいという気持ちが無いわけでは無いが俺は軍人、私欲に走ったりしない。




ただ国のために。


護るべき若い命を救うために。


未来のために。


任務遂行をするのみだ。




そのためならばなんだって利用してやろう。

偽造パスポートも、偽名も、このワザと片言にした言葉遣いも、朝買った読めないが文字が入った服も。




この騒動さえも。




職員室から出ると既に誘導は始まっており、廊下は大勢の生徒でひしめき合っていた。




好都合だ。




本当に今日はつくづく運が良い。

俺が向かうべき目的地は体育館へ向かう道中にあるのだから。この中に紛れこめば誰にも怪しまれずに目的の場所にたどり着く。




そうすればあとはデータを盗み、すぐさまユニアドを脱出、帰国だ。

当初の予定よりも随分と早いがなんの問題も無い。




任務開始。




心に己の覚悟を潜め、俺はさながら空気に溶け込むように生徒たちの列へと紛れ込んだ。


悪ー貳拾ーは12/2更新予定です。

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