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ちいさな日記帳  作者: カティオ


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春の三十六日

   春の三十六日


 朝から薄い雲が空に広がり、時折やさしい光が射し込んでいた。

父は森へ薬草を採りに出かけ、母は庭の畑に向かっていた。


 リジィも兄と並んで教会へ歩き、午前中は読み書きの勉強を受けた。

今日は「草かんむり」のつく文字を学んだ。

草や木に関する言葉が増えると、村の生活と結びついていることを子どもたちも感じ取っていた。


 昼食を終えて帰宅すると、母が薬草を干すために広げた棚の横に、リジィの小さな手が伸びた。

まだ触ってはいけないと言われている草もあるため、母は「これは大人だけの仕事」とやさしく諭す。

代わりに、畑の端で伸びすぎた雑草を抜くことを任された。


 その夜、家族で囲んだ食卓には、森で父が採ってきたキノコが並んだ。

香りが強く、母はそれをスープに仕立てる。

リジィは匙を手に取りながら、教会で習った草の文字を思い出し、心の中で繰り返していた。


はるのさんじゅうろくにち くもり

きょうはくさのもじをならった

にわでくさをぬいた てがつちだらけになった

おかあさんがわらってた



   春の三十七日


 風が少し強く、畑の若い苗が揺れていた。

父は朝から森へ出て、母は井戸から水を汲んできて畑を潤した。

教会では数字の数え方を復習し、兄は大きな声で答え、リジィはまだ指を折りながら数を確かめていた。


 昼に家へ戻ると、母が「水やりを手伝って」と頼んだ。

小さな桶を持つリジィは、畑の端から端まで歩くのに何度も井戸と畑を往復しなければならなかった。

それでも自分の役目を果たしたという喜びが胸に残った。


 夕方、父は森で珍しい白い花の薬草を見つけて持ち帰った。

乾かすと咳止めになると母は説明し、兄は興味深そうに質問をしていた。

リジィにはまだその名を覚えるのは早いとされ、ただ香りを嗅ぐだけにとどめられた。


はるのさんじゅうしちにち かぜ

すうじをならった にいにがすぐこたえた

ぼくはゆびでかぞえた

おみずをはこぶのはたいへんだけどたのしかった



   春の三十八日


 この日は朝からよく晴れていた。

教会の鐘が鳴り、子どもたちは並んで歩いた。

今日の勉強では「空」「雨」「風」など自然を表す言葉を学んだ。

神父は「この村の恵みはすべて天からの贈り物」と語り、子どもたちは静かに耳を傾けていた。


 昼食後、帰宅したリジィは兄と庭の畑に出て、母から「芽の間を広げるために土を軽く寄せてごらん」と教わった。

まだ手つきはたどたどしいが、土の匂いと温かさを感じながら小さな指で作業をした。


 その晩は、父が村の仲間と森へ夜に咲く花を探しに出かける日だった。

火を消した暗い家の中で、リジィは母の膝にもたれかかりながら、薬草や星の話を聞いた。


はるのさんじゅうはちにち はれ

そらとあめとかぜのもじをならった

はたけでつちをさわった

てがあったかかった



   春の三十九日


 朝から灰色の雲が空を覆い、昼前には小雨が落ち始めた。

子どもたちは傘代わりの布をかぶり、足早に教会へ向かった。


 今日は三十一日に学んだ「朝・昼・夜」をさらに深く勉強した。

神父は「朝は日のぼるとき、昼は頭のうえにたいようがくるとき、夜はひがしずむとき」と説明した。

子どもたちは窓の外を見て、雲の向こうの光を想像していた。


 昼食を済ませ、家に戻った頃には雨脚が強まり、畑仕事はできなかった。

代わりに母は室内で干した薬草を仕分ける作業を始め、父も森から早めに帰宅して一緒に作業をした。

リジィは見よう見まねで草を束ねようとしたが、すぐにほどけてしまい、兄に笑われた。


 夜、雨音を聞きながら眠りにつくとき、リジィは「あさひるよる」と小さな声で唱えながら、太陽の動きを頭に描こうとしていた。


はるのさんじゅうきゅうにち あめ

あさはひのぼるとき

ひるはたいようがあたまのうえにくるとき

よるはひがしずむとき



   春の四十日


 夜明けとともに雨が上がり、空気が澄んでいた。

地面には雨粒が残り、畑の苗は一段と青々としていた。

父は森に出かける前に「雨のあとは草がよく育つ」と語り、母も畑に出て苗の様子を確かめた。


 教会では、昨日学んだ「朝・昼・夜」を使って短い文章を作る勉強をした。

神父は「朝におきる 昼にたべる 夜にねむる」と板に書き、子どもたちに繰り返させた。

リジィは言葉をつなげるのがまだ難しく、短い言葉で精一杯だったが、それでも嬉しそうに紙に向かっていた。


 午後、畑では昨日できなかった作業を家族で行った。

母が「弱い芽はスープに入れましょう」と語りながら、強い芽だけを残していく。

リジィはその様子をじっと見つめ、自分もやってみたいと願ったが、母は「もう少し待ってね」と優しく頭を撫でた。


 その夜、食卓には実際に摘まれた若芽のスープが並び、春の苦味が家族の舌に広がった。

父は「この苦さが体にいい」と笑い、母もうなずいた。

リジィは少し顔をしかめながらも、匙を口に運んだ。


はるのよんじゅうにち はれ

あさにおきる

ひるにたべる

よるにねむる

すーぷはにがかった


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