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ちいさな日記帳  作者: カティオ


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春の二十六日

   春の二十六日


 朝、霧がゆるやかに晴れていくと、教会の鐘が鳴った。

リジィは兄に手を引かれ、他の子どもたちと並んで歩いていく。

道ばたの草には露が光り、足元の小さな虫が跳ねていた。


 教会では文字の読み書きを練習する。

先生は、今日から少し長い文章を声に出して読ませてくれた。

リジィは一文字ごとに指でたどりながら、たどたどしくも声を合わせた。


 帰り道、兄に「今日はちゃんと読めた」と言い張るリジィに、兄は笑って「まあまあだな」と肩をすくめた。


はる にじゅうろくにち はれ

きょうかいで もじ よんだ すこしながい ぶんだった



   春の二十七日


 午前中は畑に家族総出で出かけた。

春先に植えた豆の芽が揃いはじめ、母は「強い芽だけ残し、大きく育てるのよ。弱い芽はスープに入れましょ」と言いながら、器用に手を動かす。

リジィは小さな指で土をほぐし、兄に笑われながらも一生懸命に作業を手伝った。


 午後、家では薬草の仕分け。母は乾燥させた葉を手に取り「この香りを逃がさないことが大事なの」と教えた。

リジィは鼻を近づけて深呼吸をし、「すっぱいにおい」と笑った。

母は「そう、でも薬になるのよ」と微笑んだ。


はる にじゅうしちにち くもり

はたけで まめ とった いえで くさ しわけた



   春の二十八日


 教会では今日は「日記」の大切さについての話だった。

先生は「毎日書きなさい。上手に書けなくてもいい、後で自分の歩いた道になるから」と語りかけた。

年上の子どもたちも鍵付きの日記帳へ黙々と日々を書き続けている様子だった。


 リジィは、最初に教会に来た日に教えられたことを思い出しながら、「もう書いてる」と胸を張った。

その顔は、まだ拙いながらも、仲間と同じ歩みを始めたという誇らしさでいっぱいだった。


はる にじゅうはちにち はれ

きょうかいで にっきのこと ならった みんな かいてる



   春の二十九日


 今日は一日じゅう家仕事。

母は草木を煮出して布を染めていた。


 大きな鍋の中で布が淡い緑に色づいていく。

母は「この色はうちの秘伝よ」と笑みをこぼした。

染料に混ぜる草の分量は誰にも教えないのだと、得意げに言う。


 リジィはその横で、布を棒で持ち上げる手伝いをした。

水蒸気に包まれて顔を赤らめながら、母の真似をして鼻歌を歌った。


はる にじゅうくにち はれ

ははと ぬの そめた みどりのいろ ひみつっていわれた



   春の三十日


 昼前に村の広場に人が集まり、薬草を束ねて干す作業をした。

村中が一つの大きな倉のように見え、子どもたちも笑いながら葉をひっくり返した。

風に乗って香りが漂い、通りがかる人は皆「いいにおいだ」と立ち止まる。


 夕方、兄と歩いて帰ると、空は赤く染まっていた。

リジィは「にっきに、かくこといっぱい」とつぶやき、兄に「そうだな」と頭を撫でられた。


はる さんじゅうにち はれ

みんなで くさ ほした にっきに いっぱい かきたい

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