春の十五日
春の十五日
祭りの最終日、朝から村はひときわ騒がしかった。
夜明けとともに太鼓が鳴り響き、広場には人々が集まりはじめた。
赤や青の布で飾られた柱の周りには花が結ばれ、甘い香りが漂っている。
リジィは兄の手を引いて、「いくいく!」とせがんだ。眠たげな目をこすりながらも、期待に胸を膨らませている。
神父は高台に立ち、朗々と祈りを捧げた。人々は一斉に頭を垂れ、子どもたちも見よう見まねで掌を合わせる。
リジィは小さな声で「かみさま、ありがと」とつぶやき、兄に頭をなでられて満足げに微笑んだ。
昼近くには大鍋から湯気が立ちのぼり、麦の粥や焼かれた肉が次々と配られた。
パンの籠も運ばれ、香ばしい匂いに広場は笑い声で満ちた。
リジィは「にくー! ぱんー!」と叫びながら手を伸ばし、母に少し叱られたが、頬をふくらませて幸せそうに食べていた。
午後、舞の輪が広がった。若者たちが色鮮やかな布を翻しながら舞い、太鼓と笛が鳴り響く。
リジィは最初こそ人波に呑まれそうになったが、やがて「りじぃも!」と輪に加わり、兄に抱きかかえられてぐるぐると回った。
笑い声が空に溶け、花びらが舞う。
日が暮れる頃、大きな焚き火が点けられた。炎は勢いよく立ち上がり、夜空を赤く染める。
人々は歌い、手を取り合い、子どもたちは歓声を上げた。
リジィは「ひ、こわい」と一瞬身を縮めたが、兄に支えられて「きれい…」と目を輝かせた。
月が昇ると、祭りの終わりを告げる歌が響いた。
リジィは眠気に負けて母の肩にもたれ、瞼を重くしていた。
それでも最後に小さな声で「まつり、またね」と呟き、炎を見つめたまま眠りに落ちた。
はる じゅうごにち はれ
ぱんおいしい ぐるぐるまわる ひ あかい まつりまたね
春の十六日
祭りの熱気が去り、村には静けさが戻っていた。
朝から大人たちは広場に残された布や器を片付け、子どもたちも手伝いに駆り出された。
リジィは「つかれたー」と言いつつも、兄に導かれて花びらを集めていた。
昼には昨日の残りの粥が温め直され、皆で分け合った。
リジィは匙を持ちながら舟を漕ぎ、母に抱き上げられてそのまま眠ってしまった。
はる じゅうろくにち くもり
ねむい はなひろった おかゆのこり
春の十七日
風は少し冷たく、空は灰色に曇っていた。
大人たちは祭りで使った道具を倉へ戻し、教会の壁も飾り布が外されていった。
広場にはもう誰もいない。
リジィは柱の下に座り込み、「もうおどらない?」と小さな声で尋ねた。
兄が「また今度だよ」と答えても、納得しきれない顔で地面の砂を指でなぞった。
はる じゅうしちにち くもり
もうおどらない? さびしい
春の十八日
村はすっかり普段の様子を取り戻し、畑に向かう人々の姿があった。
だがリジィはまだ祭りの余韻を胸に抱えていた。
広場の隅で、飾りに使われて落ちた布切れを拾い集め、「ひらひら」と口ずさんでいた。兄が迎えに来ると、リジィは布を胸に抱えたまま、「またまつりは?」と目を上げた。
にっきはる じゅうはちにち はれ
ひらひら またまつりは?
春の十九日
朝の空は青く澄み、鳥の声が広がっていた。
母は洗濯をし、兄は手伝いに立っていた。
リジィは床に座り、筆をとって紙に向かう。
だが書こうとしたのは文字ではなく、丸や三角ばかりだった。
「まつりのかたち」と呟きながら描き並べるうち、やがて小さく笑った。
祭りは終わったが、幼い心の中ではまだ晴れの記憶が灯のように残っている。
はる じゅうくにち はれ
まる さんかく まつりのかたち




