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ちいさな日記帳  作者: カティオ


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春の十日

   春の十日


 朝から広場は賑やかであった。大鍋がいくつも並べられ、肉や野菜を入れた煮込みがぐつぐつと音を立てていた。 リジィはその周りを走り回り、「いいにおい〜!」と声をあげたが、すぐ母に抱き上げられ、「こぼれるから近づかないの」とたしなめられた。

 昼、教会では言葉をつなぐ学びが行われていた。紙に書かれた短い文を、子どもたちが声に出す。「いぬ、はしる」「そら、あおい」 リジィの番になると、彼女は「そら、たべる」と読み上げ、傍らの子どもに笑われた。


はる とおか はれ

におい ぐるぐる そら たべる?



   春の十一日


 空は青く澄み、風は冷たかった。広場では大人たちが大きな焚き火を組んでいた。祭りの最後に神に捧げる火だと、兄が説明した。

 リジィは小声で「ひ、こわい」と呟いたが、兄は「大丈夫だ。小さな火から始めるんだ」と肩を叩いて聞かせた。


 昼餉には豆と肉の煮込みと焼いた麦の薄餅が配られた。熱すぎて「はふっ」と声を上げ、汁を少しこぼしてしまうと、神父に「気をつけなさい」と諭されて、肩を落とした。


 夜更け、村のあちこちから歌声が流れてきた。

リジィは布団に包まり、その響きをじっと聞いていた。


はる じゅういちにち はれ

ひ こわい あちち うたきこえた



   春の十二日


 朝、広場に太鼓が運び込まれた。


 どんどんと鳴り響く音に胸が震える。

リジィは「りじぃも!」と叫び、兄に抱き上げられて小さな太鼓を打った。

にこにこと誇らしげであったが、掌はじんと痺れていた。


 教会では神父が「皆で祈りの歌を唱えましょう」と声をかけた。

「かみさま、ありがとう〜」

リジィは待ちきれず大声で先に歌い出し、皆の笑いを誘った。


 昼過ぎ、空には羊のような雲が流れていた。

「ひつじー!」と指差して跳ねているうちに、どろんこに転び、母に洗われる羽目となった。


はる じゅうににち はれ

たいこ どんどん うた おおごえ どろんこ



   春の十三日


 この日は広場に長い柱が立てられた。

てっぺんには赤や青の布が翻っている。


「ふらぐ! でっかい!」

リジィは目を丸くし、飛び跳ねた。


 大人たちは「神へのしるしだ」と口々に言い、空に向かって手を合わせる。

子どもたちも真似をし、リジィも両の掌を打ち合わせたが、すぐ「おにい、だっこ〜」とよじ登った。


 昼には麦と野菜を混ぜた粥が供された。

苦い草も混ぜられていて、リジィは頬をふくらませた。

兄が「苦いけれど元気になるんだ」と言い聞かせ、口へ押し込んだ。


 夜には太鼓の稽古の音が絶え間なく響いていた。

リジィは布団の中で真似をして、両の手を叩いていた。


はる じゅうさんにち くもり

ふらぐ ひらひら むぎがゆ どんどん てたたく



   春の十四日


 朝から青空が広がり、風はやや強かった。

広場には人が集い、大人も子どもも舞いの稽古に励んでいた。


「りじぃもー!」

 リジィは兄の手を引いて輪に加わり、ぐるぐると回る。

やがて転んで膝を擦りむき、涙をこぼしたが、母に抱きしめられ「頑張ったね」と頭を撫でられた。


 教会では神父が「祭りの終わりは明日です」と告げた。

子どもたちは一斉に「えー!」と声をあげ、リジィも「まだまだー!」と駄々をこねた。


 昼餉には大きな肉と野菜の焼き物とパンが振る舞われた。

香ばしい匂いにリジィは「にがいのより、こっちー!」と叫び、皆の笑いを誘った。


 夜、丸い月が冴え冴えと照らしていた。

リジィは窓の外を見上げ、「つき、まつりみてる?」とつぶやく。

兄は隣で「うん、明日も晴れるな」と応えた。


はる じゅうよっか はれ

ぐるぐる ころぶなみだ にくおいしい つき ぴかぴか

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