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ちいさな日記帳  作者: カティオ


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春の六日

   春の六日


 朝から村はざわざわしていた。


 広場では木の台が並べられ、男の人たちが大鍋を運んでいる。

女の人たちは塩漬けにしてあった肉を切り分けたり、干してあった豆や穀物を混ぜたりして、大きなおかずをどんどん作っていた。


「おにい、いいにおいする!」

リジィは兄の袖をひっぱった。


「祭りだからな。冬の食べ物、ぜーんぶ出すんだ」

「ぜんぶ!?」

リジィの目がまんまるになる。お腹もぐうっと鳴った。


 でも母は笑って言った。

「忘れちゃいけないのが春の薬草。ちゃんと食べないと、祭りにならないのよ」

その言葉にリジィは「う〜……」と顔をしかめた。


 やがて村のみんなが集まり、神父が祈りの言葉を唱える。

「冬を越し、春を迎えられた恵みに感謝を」

村人たちは手を合わせ、子どもたちもまねをして神妙な顔をしていた。


 祈りが終わると、いよいよ料理が配られる。

皿には肉や豆の煮込み、それに野菜の焼きものが盛られていた。


 その脇に、緑色の小さな葉っぱをすりつぶした“苦いペースト”がのっている。

「うぇぇ……」

リジィはスプーンを見つめた。

「ほら、一口でいいんだぞ」

兄が横から言う。

「んんん……」

リジィは勇気を出してぱくり。


「にっがぁぁぁ!!」

叫んで転がりそうになったリジィを、周りの大人たちが笑って見ていた。

 でも母がすぐに肉を口に入れてくれたので、リジィは涙目になりながらもなんとか乗り切った。


「よく食べました。これで今年も元気に過ごせるわ」

母に頭をなでられて、リジィはちょっと得意げな顔になった。


 祭りは日が暮れるまで続き、歌や踊りの輪が広場に広がった。

リジィも兄に手を引かれて輪の中へ。ぐるぐる回って、転んで、笑って。

 苦い薬草のこともすっかり忘れていた。


はる むいか はれ

りじぃ くさ にがいおにく おいしおどる ぐるぐる



   春の七日


 村の朝は、まだ少し冷たい風が吹いていた。

でも陽ざしは日ごとに柔らかくなっていて、土の匂いに混じって緑の芽吹きが目立つようになってきた。


 リジィは、兄に手を引かれて教会へと歩いていく。

足もとは泥が少し残っていて、長靴をはかないと靴下が濡れてしまう。


「ほら、気をつけろよ、リジィ」

「うん〜」

兄が手をぎゅっと握ってくれるのがうれしいらしい。


 その日の教会では「数を数える」授業があった。

神父が木の小さな玉を並べて「ひとつ、ふたつ、みっつ」と声に出す。

 子どもたちは一緒に声を合わせるけど、途中で噛んだり、数が飛んだりする子もいる。

リジィも「よん」と「ご」がこんがらがってしまって、隣の子に笑われてむっとする。


 昼食には少し苦いスープが出された。

春の薬草が入っているらしい。

 リジィは鼻をつまんで一口飲んで、「にがーい!」と叫んで神父様に叱られた。


はる なぬか はれ

すーぷ にがいおにい わらう



   春の八日


 朝から陽気がよく、母は畑の土を掘り返していた。

父は森へ薬草を採りに行き、兄は薪割りを手伝う。

 リジィは小さなかごを持たされて、畑の端で咲き始めた花を摘んでいた。


「リジィ、あんまり畑の真ん中に入るなよー」

「はーい〜」


 小さな黄色い花を見つけて、「これ、きれい〜」と頬にあててみる。

 花はすぐにしおれてしまうけど、母が「いいにおいね」と笑ってくれるのが嬉しかった。


 教会では今日も読み書きの練習。

リジィは「り」という字を書くのに苦労して、何度も紙をくしゃくしゃにしてしまう。

 神父が「大丈夫、大丈夫」と言って新しい紙をくれるたびに、頑張ろうと心に決める。


 家に帰ると父が森から戻ってきていて、袋いっぱいの薬草を干していた。

独特な匂いが家の中に広がっていて、リジィは「くさい〜」と鼻をつまむけど、父は誇らしそうだった。


はる ようか くもり

はな つんだり かけない



   春の九日


 村の広場では、大人たちが「冬明けの祭り」の準備を少しずつ進めていた。

木の枝で飾りを作ったり、残っている干し肉や穀物を持ち寄ったり。


 リジィは母と一緒に大鍋を洗うのを手伝わされた。

といっても、鍋の縁を布でこするだけで精一杯。


「リジィもがんばってるね」

母の言葉に胸を張って「うん! ぴかぴか!」と答える。


 兄は友達と一緒に薪を運んでいて、汗だくになっていた。

「おにい、すごーい」

「おう、リジィもそのうちやれよ」

「えー、やだ〜」


 教会では祭りに使う薬草について、神父が少し話してくれた。

体の中をきれいにするために食べるのだと説明され、子どもたちは顔をしかめた。

 リジィも「またにがいの……?」と不安そう。


昼食には少し甘いパンが出て、子どもたちは大喜びだった。

帰り道、リジィは兄に「にがいのよりあまいのがいい〜」とぶつぶつ言い続けた。


はる ここのか はれ

まつり にがいぱん あまい

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