春の七十六日
春の七十六日
朝から強い風が吹き、木々の枝がざわめいていた。
空は澄んでいたが、雲の影が地面を走り抜けるたびに畑の苗も揺れ動いた。
村の子どもたちは教会に集まり、今日の勉強は「曜日」に関する話であった。
神父は大きな板に七つの印を描き、「これは一週間を示す」と語った。
リジィにとって一日の区切りは「朝・昼・夜」までが精一杯であったが、七日をひとまとめにして繰り返すという考え方に目を丸くした。
神父は「祈りの周期」「市の日」「休みの日」を例にあげ、暮らしと結び付けて説明した。
午後、家に戻ると、母は軒下で染め直した布を干していた。
赤茶や深緑に染まった布が風に揺れ、リジィは「きょうはなんのひ?」と口にした。
母は「今日は一週間の始まりの日かもしれないね」と答え、子の学びに合わせるように微笑んだ。
はるのななじゅうろくにち はれ
きょうは ひがようびになった
ひとつのひがすぎたら またつぎのひ
それが ななつもある
春の七十七日
午前は雨雲が広がり、細かい雨が降り続いた。
子どもたちは教会に集まるのをやめ、各家庭で復習を行うこととなった。
母は棚から小さな木札を出し、そこに数字を書いて見せた。
「これはいくつ?」と母に問われ、リジィは声を小さくして数える。
木札を並べ替えて「三」と「七」を合わせると「十」になることを確かめた。
母は「これが算える力になるんだよ」と教え、リジィは雨音の中で夢中に木札を並べ続けた。
午後には雨が上がり、兄と庭に出て水たまりをのぞきこんだ。
そこには空が映り込み、風にゆらぐ影が揺れている。
リジィは「そらがおみずにはいってる」とつぶやき、兄は「うつってるんだよ」と説明した。
はるのななじゅうしちにち あめ
みっつと ななつは じゅうになる
おかあさんが ふだでおしえてくれた
春の七十八日
今日は再び晴れ間が戻り、村の広場では人々が道具を修繕する姿が見られた。
教会では曜日をさらに学び、それぞれの呼び方を唱える練習をした。
子どもたちは声をそろえて「ひとつめのひ、ふたつめのひ……」と繰り返し、リジィも一緒に声を張り上げた。
授業の後、神父は「一週間のうちで祈りを大切にする日がある」と語り、その日には働きよりも祈りを優先させると教えた。
リジィはその意味をすぐには理解できなかったが、みんなが同じ日に休むという仕組みに新鮮さを感じていた。
夕方、家では母がパンを焼いていた。
保存していた麦粉をこね、粗末ながら香ばしい匂いを漂わせる。
リジィは小さな手で丸めようとしたが、指にくっついて思うように形にならず、母と一緒に笑った。
はるのななじゅうはちにち はれ
ななつのひを おぼえた
やすみのひが あるときいた
まだよくわからない
春の七十九日
午前の空はどんよりと曇り、風が湿り気を帯びていた。
教会では、これまでに学んだ数や時間、曜日を組み合わせる練習が行われた。
神父は「三つめの日の午後に畑を手伝う」といった例文を挙げ、子どもたちに声を出させた。
リジィは少し戸惑いながらも、「ふたつめのひのごぜんに おかあさんをてつだう」と声にした。
その言葉を聞いて神父は「よくできました」とうなずき、周囲の子どもたちも笑顔を向けた。
午後は父がすいしゃから戻り、粉にした麦を大きな袋に入れて運んできた。
村が決めた日程に従って、今日は隣家と同じ日に粉挽をしたという。
袋を見たリジィは「これでまたおかゆをつくれるね」と喜び、母は「そうだよ、パンにもなる」と答えた。
はるのななじゅうくにち くもり
ふたつめのひのごぜんに おてつだい
じぶんでいえた うれしかった
春の八十日
朝から空は明るく晴れ渡り、陽気に誘われて村の子どもたちは広場に集まった。
今日の勉強は少し特別で、神父は「文章を日記にまとめる練習」をさせた。子どもたちは一人ずつ石板に「今日の天気」「したこと」を書き、読み上げる。
リジィは緊張しながらも「はれ あさにべんきょう ひるにおてつだい」と声に出した。
字はまだたどたどしかったが、みんなの前で言えたことで胸を張った。
神父は「自分の言葉でまとめられるようになってきましたね」とほほえんだ。
夕方、家では母が染めた布を仕立て直していた。
リジィは余った布切れを使い、小さな袋を縫う真似をした。
針は危ないため糸だけを結び、布を重ねる。
それでも「わたしのふくろ」と声にする姿に、母は優しくうなずいた。
はるのはちじゅうにち はれ
あさにべんきょう ひるにおてつだい
じぶんでかけた よかった




