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ちいさな日記帳  作者: カティオ


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春の八十一日

   春の八十一日


 夜のうちに雨が降り、朝の道はぬかるんでいた。

村人たちは長靴の代わりに分厚い布を足に巻き、泥に沈まぬよう注意しながら行き来していた。


 今日の学びは「季節」についてであった。

神父は教会の窓を指さし、「今は春と呼ばれる季節です。やがて夏が来て、秋になり、冬を迎えます」と語った。

リジィは首をかしげた。毎日が連続していることは分かるが、春や夏という大きな区切りがあるとはまだよく理解できない。


 授業のあと、神父は季節を示すために「春の祭り」や「収穫の感謝」といった村の行事を例に挙げた。

子どもたちは自分の家で行う祝いを思い浮かべて声をあげ、リジィも「おまつり!」と叫んで笑った。


はるのはちじゅういちにち くもり

いまは はる

つぎに なつ あき ふゆ

よっつのきせつがあるときいた



   春の八十二日


 午前から強い日差しが降り注ぎ、土の道はすぐに乾きはじめた。

子どもたちは広場に集められ、今日は神父に代わり村の古老が話をした。


 古老は石を手に取り、「これは畑のしるしに使う。これは川のわたり場に置く石だ」と説明した。

村の子どもたちはそれぞれの石の用途を知っており、声を揃えて答える。

リジィは少し遅れて小さな声を出した。


「これは みちのしるし」


 古老はにっこり笑い、「よく覚えておるな」と褒めた。

人が生きる場所に石が使われることを知ったリジィは、帰り道に拾った小石を大事そうに握りしめていた。


 家に戻ると、母が糸車を回していた。

紡がれる糸の細さを見てリジィは驚き、「せんせいのいしも いとになる?」と尋ね、母は笑って首を振った。


はるのはちじゅうににち はれ

いしには しるしのいみがある

ちいさいいしをひろった



   春の八十三日


 朝から冷たい風が吹き、空は灰色に覆われていた。


 教会では再び神父が授業を行い、「月」という概念について教えた。

神父は丸い板を示し、「この形を月と呼ぶ。空にある光だ」と語った。

さらに「月は夜に形を変える」と説明し、欠けたり満ちたりする様子を絵で示した。

リジィは「おつきさま!」と声をあげ、夜に見上げていた白い光と結びつけた。


 午後になると雲が切れ、夕方には白い月が現れた。

リジィは兄と庭に出て空を見上げ、「ほんとうにある!」と叫んだ。

兄は「明日は形がちがうかもしれないよ」と教え、リジィは胸をときめかせた。


はるのはちじゅうさんにち くもり

つきは よぞらにある

かたちがかわるときいた

あしたみてみたい



   春の八十四日


 朝から村にはざわめきが広がっていた。

近くの村から商人が来るという知らせで、人々は余った品や織った布をまとめていた。

リジィも母に連れられて広場へ行き、色とりどりの布や乾燥させた魚、木の器などを目にした。


 商人は馬に荷を積み、遠くから持ち込んだ塩や鉄の道具を並べた。

母は少量の塩を受け取り、代わりに布を渡した。

リジィは見慣れぬ光る鉄の包丁を目にして「ぴかぴか」と声を上げた。


 その夜、家ではさっそく塩を使ったスープが作られた。

口に含むと、今までにない深い味が広がり、リジィは「しょっぱい」と顔をしかめつつも夢中で飲んだ。


はるのはちじゅうよんにち はれ

しょうにんがきて しおをかった

おすーぷが しょっぱくて おいしかった



   春の八十五日


 朝は霞が立ちこめ、昼には晴れ渡った。

今日は教会で「祈りの日」であった。子どもたちは勉強を休み、大人たちと共に祈りに加わる。


 石造りの教会に集まった人々は声をそろえて祈り、静かな空気が流れた。

リジィはまだ言葉を覚えきれず、隣の母の口を見ながら小さな声でまねをした。


 祈りの後には広場で小さな祭りが開かれ、パンや干し果物が分けられた。

リジィは甘い干しぶどうをかみしめ、「もっと」と言いかけて母に止められた。


 日が落ちるころ、家に戻ったリジィは「おいのりのひ」と日記に書いた。

大人と同じ場に並んだことが誇らしく、胸を温めながら眠りについた。


はるのはちじゅうごにち はれ

きょうは おいのりのひ

おかあさんといっしょに となえた

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