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ちいさな日記帳  作者: カティオ


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春の六十六日

   春の六十六日


 朝から晴れ、日差しが強く照りつけていた。

畑の麦は日に日に背を伸ばし、青から淡い緑へと色合いを変えつつあった。

父は「そろそろ穂が見えてくる」と言い、母は家の前で干した布をたたんでいた。


 教会では「時間の言葉」をさらに学んだ。

神父は木の棒を日なたに立て、影が動くことを示した。

影が長くなれば朝や夕、短くなれば昼。

リジィは目を見開き、影の動きに合わせて「いまはあさ」「いまはひる」と声に出した。


 夜、家の囲炉裏の火が弱まり、母が「日は落ちて夜になった」と口にした。

リジィは、昼に習った影のことを思い出し、時間が巡ることを実感していた。


はるのろくじゅうろくにち はれ

かげがうごいて じかんがすすむ

ひのひかりがじかんをしらせるのは ふしぎ



   春の六十七日


 朝から曇りがちで、昼には細かい雨が降った。

畑には水の匂いが立ちこめ、村人たちは麦の根が傷まぬようにと気を揉んだ。


 今日の勉強は「数と日々」を結びつけることだった。

神父は板に「ひとつ」「ふたつ」と書き、その横に「ひとひ」「ふつか」と重ねて示した。

リジィは驚き、兄の袖を引いて「おなじことば」と声を漏らした。


 家に戻ると母が「きのう」「きょう」「あした」と口にし、リジィに繰り返させた。

リジィは「きのう」と「きょう」の違いを何度も確かめ、やっと口に馴染ませた。


はるのろくじゅうしちにち あめ

ひとつはひとひで ふたつはふつか

ことばがつながっていて おもしろい



   春の六十八日


 強い日差しが戻り、土は一気に乾いた。

村の子どもたちは道端で小石を拾い、神父に渡すように言われていた。


 教会では「十を重ねた大きな数」を扱った。

神父は小石を並べて「じゅうがふたつでにじゅう」「みっつでさんじゅう」と唱えさせた。

リジィは思わず声を上げ、数が果てなく続くことに胸を躍らせた。


 夜、母は干した豆を煮て、少しの塩を入れた。

リジィは豆を十ずつ数え、まとまりをつくりながら食べた。

兄は笑ったが、母は「学んだことを暮らしに使うのはよいことだ」と褒めてくれた。


はるのろくじゅうはちにち はれ

じゅうがふえて にじゅうさんじゅう

かずはおわらないとしって わくわくした



   春の六十九日


 朝は涼しく、風が強かった。

雲の合間から日が差し、畑の麦はざわめくように揺れた。

父は空を仰ぎ、今年は豊かに実るだろうと口にした。


 今日の勉強は「文章を作る」ことであった。

神父は「わたし」「いく」「みる」などの言葉を板に書き、子どもたちに並べさせた。

リジィは「わたし いく」と指でなぞり、初めて自分の言葉を文にできた。


 帰宅すると、兄が土に「わたし」と書き、リジィも真似た。

母は「いく」と加えさせ、家族で声をそろえて読んだ。

リジィの頬は嬉しさで赤くなった。


はるのろくじゅうきゅうにち くもり

わたし いく とならべた

じぶんのことばがぶんになるのが たのしい



   春の七十日


 朝から空が澄み、鳥のさえずりが響いた。村の人々は畑を見回り、夏に向けての備えを話していた。


 教会では「てにをは」の基本を学んだ。

神父は「わたし は いく」「わたし を みる」と示し、助ける言葉があることを説明した。

リジィは最初は戸惑ったが、繰り返すうちに少しずつ理解できるようになった。


 夜、母は粗挽き麦の粥を用意し、父は「日は長くなった」と口にした。

リジィは今日習った「は」を思い出し、「わたしは たべる」と呟いて匙を口に運んだ。


はるのななじゅうにち はれ

わたしは いく

ことばに は がつくと ちがってきこえる

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