105 エリー湖の女神2
「一応、ここから目撃例があるから、気を引き締めて行けよ。」
ギルバートが一声かけると、皆黙々と丘を登っていく。
ゴルダの丘の麓まで一気に馬車ですすんできたので、まだ朝といってよい時間である。
馬車は、この場所で、ギルドの雇った3人の御者が守る。
人の輸送用の馬車で、荷台には何もないうえ、ギルドのマークが入った旗も立っているので、そうそう襲われることはないとは思われるが、場合によっては野営を行うこともある。
御者も元ハンターなど、最低限の戦いぐらいはできる者達を雇っていた。
「そういえば、変異種のリザードマンに会ったのはお前達なんだって?」
ギルバートが、フェルの所に来て話しかける。
事前に十分話は聞いているだろうし、本来であればウェンツに確認すべき内容である。
どうやら、フェルに興味があって話しかけたかったようだ。
「ええ。通常のリザードマンより一回りか二回りは大きい個体で、大きく吠えて指示をしているような感じでした。鱗も硬くて、矢がまともに刺さらなかったですね。
ウェンツさんがほとんど相手をしてましたが、姿は似ているけれど、強さは別の魔物のようだとの言われていました。」
「だけど、君たちはかなりの戦果を持ち帰ったらしいじゃないか。」
「カティアさんの魔法もありますし、クリスがちょっと面白い魔法を覚えたのが大きかったですね。」
「それに、フェル君達のおかげで装備がかなり良くなったからね。」
並行して歩くニースも話に入ってくる。
「そう警戒しなくたっていいさ。
どうも、お前達、最近景気がいいらしいし、ネールの親父が最近かわいがってる奴がいるってんでちょっと興味があったのさ。わざわざ、エルファルドを紹介してやってくれって頼んできたからな。」
そういうと、ギルバードは、エルファルドをこちらに呼んでフェルに紹介をする。
「エルファルドだ。銀の拍車では、荷物持ちと後衛で弓を使っている。
フェル君のことは、ちょっと聞いているよ。僕と同じような役割なんだってね。
まぁ、よろしく頼むよ。」
エルファルドと名乗った20代半ばに見える背の高い好青年と握手をする。
フェルもあと10年もすればエルファルドのようになるかもしれないが、ならぶとかなり子供に見える。
「はい。よろしくお願いします。
エルファルドさんのことは、ネールさんから聞いています。
凄い弓がうまいし知識が豊富って聞きました。色々教えてください。」
エルファルドは、にっこりと笑うと素早く弓を手に取りだした。
魔物の角を組み合わせてで造られている大型の弓だ。
装備は獣の皮を煮詰めた革鎧に腰に短刀を佩いているのと、矢筒に2本だけ鉄の矢をいれている。
緊急時用らしく、その他の矢は収納にしまってあるらしい。
「いざというときはね、矢を握って射ずに敵の喉元に突き刺すこともあるんだ。
なので、この2本は鉄制にしている。普段使うのは、木か骨製だよ。」
そういうと、収納から木製の矢を取り出して見せる。
フェルはエルファルドから色々と弓の使い方の他に荷物持ち<ポーター>としての役割について教わる。
旅の準備の仕方や立ち回りについては、とても参考になった。
ポーターは、エルファルドのように弓などの遠距離か槍と盾で中距離などでの支援をすることが普通であるらしい。ポーターが最悪重傷を負うと、補給が断たれたり、資産の消失を招く可能性があるためリスクの高い接近戦は極力避けるのだそうだ。
そう考えると、今のフェルの懐に入って戦う戦い方はあまり良くはない。
「接近戦ができた方がいいのは間違いないんだけど、何があるかわからないからね。
パーティーのために、なるべくポーターは、動けなくなるリスクを避けるべきなんだ。
それに、何もハンターに必要なのは戦闘力だけじゃないからね。
魔物の知識や素材の知識、レンジャーとしての知識なんかを鍛えるといいと思うよ。」
・・・・
「そろそろだな・・・。」
ややくだりの斜面を行きながらギルバートが声をかける。
「とりあえずは、道沿いにパーティー毎にまとまって進む。
森の中は、湿地帯で足場が悪いから、できるだけ道上・・それも広場で戦いたいところだな。
幸い、相手は魔法は使ってこないだろうから、必要以上に突っ込むなよ。」
エリー湖までの道は、舗装されているわけではないが、荷車を押して通れるほどの道ができており、ここであれば足場は悪くない。ただ今回の人数の討伐隊が数の利を生かして戦うには狭い。
ほぼ一直線に伸びきった隊列を道を挟む両側の森から挟撃されてしまう可能性がある。
魔物がどこまでそのような戦術を考えているかはわからないが、もしこれが相手が人間であれば、相手の方が圧倒的に有利である。
「ところどころ広くはなっていますが、広場といえるようなところは湖畔までなかったはずわよね?」
クリスがフェルに確認をする。
湖畔までいったことは1度しかないが、かなり緊張していたから結構道は覚えているはずだった。
「湖畔は湖畔で危険だが、この人数ならそこまで行っちまったほうがやりやすいかもな。」
大剣使いのギルバードが実力を発揮するには、剣を振り回すスペースがいる。
そういう場所でも戦う訓練をしてはいるが、あまり得意ではない。
湖畔への道を丁度半分ぐらい進んだところで、後方から、ヴァネラが叫ぶ。
「おーい。右前方の奥側に生命反応・・・数は・・・10~15!」
ヴァネラはどうやら、魔法で索敵ができるようだ。
先頭を歩いていた銀の拍車に緊張が走る。
確かに、100ⅿほど先の森の奥の方に、不自然な動きが見える。
「距離を保ちながら、一列に並んでこちらに向かっているわ。
あと、まだ遠いけど左側からも生命反応がある。こちらの数は・・・15~20!
なにこれ・・・・。まるで軍みたいに統率が取れてるわ」
ヴァネラがギルバートに向かって叫ぶ。声は冷静そのものであるが、驚きを隠していない。
「おい、ギルバート。このままだと挟撃されるぞ。
トカゲだといってちょっと舐めていたかもしれん。思ったよりも切れる奴がいるのかもしれんぞ。」
エドガーが声をかけるとギルバートは頷いてすばやく指示を出す。
「湖畔の広場で迎撃する。走る必要はないが、進軍スピードを上げるぞ。」
既に半分の距離を進んでおり、丘陵まで引き返すのも進軍するのも距離的には差異はない。
情報として聞いている敵の数が正しければ、相手はこの隊を二つにわけたのであろう。
索敵ができているのなら各個撃破は最良手なのだが、森の湿地帯に入るのは危険である。
本来、戻る方が安全なのだが、流石に十分な戦力があるにも拘らず、一戦もせずに引くのは気が引けた。
「あら・・相手も仕掛けてこないわね・・・。一定の距離を保ったまま併走してくるわ。」
ヴァネラが何やら考えながら、呟く。
「もしかして・・・。」
そういうと目を瞑って、意識をさらに集中させる。
「前方の湖畔にも生命反応・・・数は30?!」
最後の方は、流石に声が上ずっている。
その声を聞いて、ジルバが叫ぶ。
「おい!ギルバート。止まれ!湖畔の広場にも敵が待ち伏せしている。」
少なく見積もっても相手が60匹もいれば、流石に、相手が多すぎる。
「まじかよ・・・。なんでそんな群れがいやがるんだ?!」
リザードマンは群れをつくって生活をするが、60といえばかなりの大所帯である。
もちろん、今回の敵が全てとは限らないのだから、驚くのも無理もない。
「しょうがない。まずは平行して追って来ている部隊を各個撃破するよ。
龍の顎と私たちは、一旦後方に引いてついてきた奴らを殲滅するから、拍車と暁、エドガー達でなんとかしなさい。」
ジルバはそういうと、龍の顎を伴って踵を返していった。
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