103 毒花
「へー。あなたたちも今回の討伐依頼を受けるのね。」
艶やかな声でウェンツ達に話しかけてきたのは、”涼風”のリーダーであるジルバである。
30代前半のロングヘアーの美しい女性なのだが、どこか人を寄せつけない雰囲気がある。
「フェル君は、最近随分頑張ってるみたいじゃない。今度お姉さんたちと一緒に飲みましょうか」
ショートカットの活発そうな小柄の女性がフェルに話しかけた。涼風のメンバーであるヴァネラだ。
こちらも30代前半ぐらいのはずだ。ジルバとはまた違った魅力のある女性でフェルには大変好意的にしてくれるのだが、いつもフェルは身構えてしまう。
本能が警告してくるのだ。この人物は怖い・・・と。
「ほら、フェル君が怖がってるわよ。それに、まだフェル君にお酒は早いわよ。」
3人目は、おしとやかな女性でミリナという。涼風の中ではもっともフェルは話しやすい相手なのだが、以前エドガーに「絶対にあいつらと酒飲むな・・・特にミリナ。」と注意されたのを良く覚えている。
なぜ?と聞いた時のエドガーの「聞くな。思い出したくもない。」と言った顔が全てを物語っていた。
どうも、彼女は特に酒癖が悪いらしい。
「師匠~。用意できましたよ~。」
一人の男がギルドのドアを開けてあらわれた。
すらりとした長身の優男で、両方の腰に剣を佩いている。
男の名はジルベルト。涼風唯一の男性である。
顔立ちは整っており、装備も革鎧の上に目の細かい鎖帷子をつけ、頭には綺麗な装飾がされた鉢がねを巻いている。特に眼を引くのは肩まである長い銀髪・・・というか白髪と死んだ魚のような眼である。
涼風は、美女3人に美男1人という所謂”人もうらやむハーレムパーティ”である。
その実態を知らなければ。
涼風というパーティは特殊である。
ジルバ、ヴァネラ、はCランク、ミリアはDランクの魔術師である。
ジルバは付与系の魔術が得意で、ヴァネラは炎と風の攻撃魔法、ミリアは結界と回復魔法を得意とする。
魔術師が三人もいるような贅沢なパーティはそうそうない。
三人は、賢者の学院の同級生なのだ。
そして、ジルベルトはDランクの剣士であるが、このパーティ唯一の前衛かつ突撃要員である。
はっきり言って、涼風はパーティーのバランスが悪い。
そして、その戦いかたを見た者は、戦慄を覚えずにはいられない。
涼風は魔物があらわれると、ジルバがジルベルトにありったけの強化・付与をかけ、突撃を指示する。
背後からは、ミリアが自分達に結界をかけ、ヴァネラが敵に炎や風の魔法を撃ち込む。
そう、ジルベルトの背後から盛大に。
そして、戦闘後には、殲滅された魔物と、ぼろぼろになったジルベルトがいつも残されてる。
それが敵の攻撃によるものか、ヴァネラの魔法によるものか、ジルバの強化魔法の反作用がメインなのかは時によって違うが。
そして、それをミリアが回復魔法をかけてまた動けるようにさせるのだ。
「マリオネット=ジルベルト」それが彼に与えられた呪われた二つ名であった。
実は、ジルベルトの鉢がねは、「鳳翅柴金冠」と呼ばれる魔法の品である。
魔法の力で、目に見えない結界を作り出し、フルフェイスの金属兜よりも強固な防御力を実現する反面、作成者であるジルバの命令で頭を絞めつけることができるという効果がある。
確かに物理的にも痛いのだが、この品の恐ろしいところは魔法の品だけあって脳に直接痛みを与えることである。つまり、これがある限り、ジルベルトはジルバの奴隷といっても過言ではないのだ。
だが、涼風の実力が高いのは間違いない。
3人の魔法の実力は、フェスカよりも上だし、実績だけで言えば銀の拍車よりも優れている。
ジルベルトの剣技は、魔法の支援がなくともなかなかのものだ。
だが、良くも悪くも彼女たちは特殊なのだ。
集団で行動したり、統率をとったり、誰かの指揮下にはいるなどは、はっきり言って向いていない。
そのため、今回の人選には苦労したようだ。
ギルバートも渋々引きうけたらしい。
「ジルバさん達が、今回の討伐隊にはいるなんて、珍しいですね。」
恐る恐るながら、ウェンツが声をかける。
ウェンツが恐れるのも無理はない。
この街の者でジルバ達を下手に扱うものはいないが、やはり旅のハンターや商人などジルバ達をよく知らないものというのはいる。
妙齢で見目に美しい女性である彼女たちが酒場などにいれば、やはり目立つし声をかける者も多い。
そして、中には品のない者もいるのである。
彼女たちの酒癖は、お世辞にも良いとはいえない。・・・いや、悪い。
”毒花”・・・「美しい花には、毒がある」という意味からつけられた別称である。
まずは口撃がはじまる。賢者の学院に行く者であるから、3人とも頭の回転がすこぶる速い。
まず、彼女たちに口喧嘩で勝てる者はそうそういない。矢継ぎばやに悪態を言われ撃破されてしまう。
舌戦で済めばまだいいのだが、カーッとなって手を挙げようものならば、その数秒後には後悔をする。
過去には、真冬に全裸で酒樽の中に凍りづけにされて、路上に投げだした例もある。
流石に店主が助けたらしいが、放置していれば間違いなく死んでいただろう。
そんなウェンツの心境を知ってか知らずか、ジルバは愉快そうに笑いながら返事をしてきた。
「そうね。最近ちょっと暇だったし。それに、最近面白いうわさを聞いたからね。
”エリー湖の女神”って知ってるかしら?」
「いえ、知らないですね。」
「カティアは?」
カティアも首を振る。
カティアからみれば、ジルバ達は大先輩になる。
在学期間はかぶってはいないのだが、賢者の学院の寮にいた時に彼女たちの噂はすでに聞いていた。
その噂を聞く限り、できれば、一生関わりたくなかい人達だった。
「そう。最近ね、エリー湖に女神が出るって噂があるのよ。
なんでも、美しい女性である男性を探しているらしくって、その男性を連れて行けば褒美をくれるって言うのよ。面白そうでしょ?」
ジルバはにったりと笑う。”妖艶”だが、ゾクリとするような怖い微笑みである。
「まぁ、眉唾物ではあるんだけど、調べてみたらよく似た伝承が昔からあったみたいなのよね。
もしかしたら・・・てね。それに、エリー湖に人が行けなくなると、魚が食べられなくなるでしょ?
私的には、そっちのほうがメインかな。」
「私たちだけでも、いけそうだったんだけど、ジル君がどうしてもって言うから合同依頼でいくことにしたのよ。」
今まで何度も死んだかと思ったことはあるが、涼風だけで、リザードマンの群れを相手しようとすれば、今度こそジルベルトは死んでしまうかもしれない。
生きていても、五体満足かどうかも・・・。ジルベルトとしては、当然の選択である。
たとえ、額が擦り切れるほど土下座をして頼むことになっても、その方が百倍マシであった。
「まぁ、フェル君がいれば荷物は困らないって聞いてるし、楽しみにしてるわ。」
「いつでもうちに来ていいのよ。ジル君と一緒にかわいがってあげるから。」
そういうと、涼風の女性3人はギルドをあとにする。
「悪いことは言わんから・・・・」
ジルベルトがギルドを出て行く前に、フェルにそう言うのを待たずに
「はい。大丈夫です。僕は暁のメンバーですから!」
と力強く答えるフェルであった。
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