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ちょっと大人な私達の日常  作者: にしやま そう
箸休め(2)
27/46

真夏の夜の怪

うぎゃぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!

きゃああああああああああ!!!!

うおおおおおおおおおおおお!!!!

どぎゃあああああああああああああああああ!!

ひぃぃぃぃいいいいいいいいいい!!!!

うぎゃぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!

きゃああああああああああ!!!!

うおおおおおおおおおおおお!!!!

どぎゃあああああああああああああああああ!!

ひぃぃぃぃいいいいいいいいいい!!!!

うぎゃぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!

きゃああああああああああ!!!!

うおおおおおおおおおおおお!!!!

どぎゃあああああああああああああああああ!!

ひぃぃぃぃいいいいいいいいいい!!!!




叫ぶ!


皆が目一杯叫ぶ!


そして


走る!

疾走る!

超疾走る!


あたしも必死で駆け抜ける!


手はパー!

モモもしっかり上まで高く!


疾走る!

疾走る!!



「うぎゃああああああ!」


あ!

あんたちょっと、隆二!

何、女の子ブチ抜いて全力疾走して行くのよ!

ってーか、あんた!

その走り方、おっさん臭っ!


「ひぇぇぇえええええ!!」


あ!

巴ちゃんの旦那さんまで!!


こういう時、男の子は女の子を守るもんじゃないの!?

何あたし抜いて二人で爆走していくのよ!



「うきゃぁぁああああ!」


うわ!

巴ちゃんにまで抜かれた!

巴ちゃん、浴衣なのに!

小学校の時には男の子にも、カケッコで負けた事ないのに!



「きゃぁぁああああ!」


後ろを振り返ると、麻子ちゃん完全に出遅れてます!

眼鏡もズレてます!

ひどりもんです!

涙で顔がボロボロになってます!



「どひゃあああああああああ!」


一番後ろ!

一層大きな悲鳴は道洞君!

もうほとんど闇の中です!

松葉杖そっちのけで、飛び跳ねる白い影がチラチラみえます!


ごめん、道洞君。

それはダメなパターンの役回りだ・・


わたしは道洞君の冥福を祈りながら、さらに疾走った。








第二十七話

真夏の夜の怪









「るんたった♪」



今朝から吉乃ちゃんの鼻歌が止まりません。


とにかくずっと上機嫌で、女将モードも忘れてスキップしながら仕事してます。


もちろん私は、相変わらず慌ただしく走り回っています。

お盆ですよ。

お盆。

特に今日は、全お客様チェックインもほぼ同時。

お食事のスタート時間もほぼ同時。という、異例の事態を迎えてるんです。

もう、夕方からずっと西山荘は戦場の様になってます。


皆、今にも死にそうな顔しながら働いてるのに、吉乃ちゃん一人が鼻歌歌いながら泳ぐみたに仕事してます。

かなりの上機嫌で、流れるように吉乃ちゃんの持ち分のお仕事が消えて行きます。


各室一斉の夕食スタートまで、あと三十分と迫った一番胃の痛む時間帯に、朝から吉乃ちゃんを上機嫌にしている「原因ドモ」は、のんきな顔をして西山荘の玄関に姿を現しました。

両手には抱えきれないくらいのお料理やお菓子を持っています。


仲良く浴衣に身を包んだ巴ちゃんご夫妻は、抱えきれないお料理を抱きかかえながら、初めて入る西山荘の玄関で物珍しそうにキョロキョロとしています。


松葉杖の道洞君は普段着でした。

ようやくギプスも取れたばかりです、楽なカッコが都合良さそうです。

さっきから慌ただしく厨房と客室を行き来する着物姿の麻子ちゃんを見て、何だか心配そうに見守っているます。


隆二は少しバツが悪そうに横向いてます。

そう言えばコイツ。高校2年の時にバイトを辞めて以来初めての西山荘かもしれません。あれから12年近く過ぎたのに、いまだにこんな感じという事は、やっぱり隆二なりに何か思う所があるのでしょうね。



はい。

今日は私達の街の花火大会です。

ですから今日は、お仕事バタバタです。

お客様はどうせなら花火見ながら一杯やりたいですもんね。


そして前々から約束していた、離れの茶室を貸しきった隆二一派ヤングチームの宴会の日でもあるのです。


「あらあら、皆様。

 よくおいでくださいました。

 さあさ、そんな所に立ってないで、どうぞお上がり下さいまし。」


涼しげな水色と銀の着物に身を包んだ吉乃ちゃんは、いつもより一層お淑やかな女将モードで玄関先の皆を招き入れています。

よくよく考えてみると、いつもは下ろしてる黒髪も、今日はしっかり結ってあって、綺麗なかんざしまで刺さっています。


玄関先の皆から

「おおっ!!」

という感嘆の声が上がっています。


さっきまでの無邪気な「るんたった♪」 は何処へ行ってしまったのでしょう?


まあ。

ね。


その理由はなんとなく分かります。

だって、吉乃ちゃんの背中にガッツポーズ見えてますもん。


いつもこの、同年代のグループと遊ぶ時、そこには「オートバイ」 という繋がりがあります。 免許のない吉乃ちゃんはいつも私の後ろ。 もちろん、私も吉乃ちゃんもそれに満足はしているのですが、やっぱりどこかちょっとだけ、「胸の張れない自分」が吉乃ちゃんの中にいるんでしょうね。


うん。

吉乃ちゃん。

今日は思う存分、「女将吉乃」を皆に見てもらいなさい。



「あら。

 道洞さん、松葉杖にそんな大きなお荷物では大変でしょうに。

 お荷物は私がお預かりしますね。

 さあさ、皆さんどうぞ、どうぞ。」


ほんと。

吉乃ちゃんは健気で可愛いです。




道洞君は、いつもとは違う吉乃ちゃんに緊張しちゃったのでしょうか?

松葉杖をつきながら、ロボットみたいに歩いています。

今度は、その姿を心配しながら麻子ちゃんが柱の影から見ていたのですが、上村のおばちゃんに首根っこを掴まれて、引きずられて行ってしまいました。



お宿に上がった一同は、吉乃ちゃんに案内されながら売店を通り抜け、ガラス張りのロビーに向かいます。

先頭を歩く吉乃ちゃんは、嬉しそうにあれやこれやとお宿を案内しています。


私は30分後から始まる戦争に備えて、チェックインが終了したばかりのフロントを整理しながら、そんな皆の後ろ姿を眺めていました。


「女将も楽しそうで、何よりですね。」


「ですね。」


いつの間にか音もなく私の隣に立っていた沼さんも、なんだか微笑ましい顔で眺めています。


「隆二君も、元気そうで何よりです。」


「ああ。

 あれはもう少し大人しくしてていいです・・

 ただでさえ、悪目立ちするんですから・・」


沼さんが笑っています。

私にとって沼さんが「お兄ちゃん」のような人ならば、もちろん隆二にとっても「お兄ちゃん」です。 なんせあいつは大番頭の言いつけで、小学校の頃から松さんの下で板場手伝わされてましたからね。 沼さんとの付き合いは私より長いです。



「明日で2年になりますね。」


「ですね・・」




大番頭。

明日で大番頭がいなくなっちゃってから、ちょうど2年になりますよ。

あの頃は「この先どうなってしまうのか?」 不安ばかりの毎日でしたが、何とか西山荘にも笑顔が戻って来ましたよ!


私は心の中で呟きました。




吉乃ちゃんは、今度はロービーを説明してるみたいです。


西山荘のお風呂は、この売店の奥にあるロビーのさらに奥にあります。

ロビーから大きなお庭の中を通る渡り廊下が出ていて、そこを進んでお風呂に向かうのです。

昔ながらの温泉なので、混浴とか大きな露天風呂なんかはありませんが、泉質に関してはかなり評判が良いお風呂です。

まあ、吉乃ちゃん的いは「熱い!」んだそうですけどね。


その渡り廊下の中程に茶室があります。


そこは私達が出会った「始まりの場所」ですし、当時「おばあちゃん先生」と呼ばれていた大女将が皆に習字を教えていた教室でもあります。

最近では月に1回のお茶会が復活しました。


この茶室は先代社長である「大旦那様」、つまりはおばあちゃん先生の旦那さん。

吉乃ちゃんからすると「お爺ちゃん」が、大女将のために建てた物だと聞いた事があります。


吉乃ちゃんが生まれた頃には、もうすでに大旦那様は他界されていて、吉乃ちゃんもお爺ちゃんの顔は写真でしか見たことが無いのだそうですが、噂では結構怖い感じの人だったそうです。


今のお宿の従業員で、大旦那様を知っているのは、かろうじて上村のおばちゃんと、板場の松さんだけになってしまったのだそうですが、それでも二人がここで働き始めた頃には、すでに病を患っていて、あまりお部屋からは出てみえなかったそうです。


昔、うちのお爺ちゃんに一度だけ大旦那様について聞かされた事がありました。

あれは、私が高校に上がってすぐ、正式にこの西山荘でアルバイトを始めたばかりの頃だったと思います。


大旦那様は実はお婿むこさんで、しかも、戦後まだ間もない頃のご結婚だったそうで、大女将より20歳近く年上だったのだそうです。


戦時中は警官として都会にいた大旦那様は、終戦と同時にこの街に戻ってみえたのだそうです。 そしてお宿の初代が取り決めた結婚で長谷川の家に入られたそうです。

「おむこさん」

と、一言で言うと、肩身の狭い響きもありますが。

大旦那様はかなりのやり手で、当時は山を切り崩した崖の下にある小さな温泉宿だったのらしいですが、それをここまで大きな宿にされたのが大旦那様でした。


そしてその手腕はお宿だけには留まらず、市会議員も務められたんですって。

普段私達がありがたく走らせて頂いている国道や、鉄道なんかも、大旦那さんの功績なんだそうです。


そして、そんな大旦那様に憧れて、高校を出てすぐに弟子入りしたのが、大番頭。

隆二のお父さんらしいです。

ただ、その頃はすでに学歴社会という風潮が世間一般的になっていて、高校を出ただけの大番頭は結局大旦那様の地盤は引き継ぐ事が出来なくて、随分辛い思いもされたみたいです。


なんでそんなにうちのお爺ちゃんが、大旦那様について詳しいのか?

さすがに不思議に思って尋ねてみると、

「この街のワシらの世代で、ヤツの事を知らんヤツはおらん!」

のだそうです。

「なんせワシらからマドンナを奪い去った憎き男じゃからな!」

なんだそうです。

どうやら大女将。

お若い頃はこの街のマドンナだったんだそうですよ。





さてさて、ドドン!と花火が上がり始めた頃。

お宿は戦乱の渦に巻き込まれていました。

今日は全室同時にお食事スタートです。


走り回る中居と番頭。

泣き叫びながら戸惑うアルバイト。

次から次へと物資を最前線に送る板場。



松さんと、丁稚の二郎くんは、同時に並行していくつものお料理を何十人前と作っているので、気を抜くと松さんと二郎くんが何人もいるみたいに見えるくらいです。


分身の術って、本当にあるんですね。


とてもじゃないですが、私達も茶室で宴会しながら花火・・

なんて、考える余裕すらありません。

もちろん、クールな沼さんですら、額に汗して走り回っています。


死にそうになりながら走り回るバイトの子達を見ていると、なんだか昔の私と美咲を思い出してしまいます。

ちょくちょく勝手口の方から「足が太くなる」だの「手が太くなる」だのの愚痴が聞こえてきますが、今も昔も変わらないんだな。 ってついつい笑が溢れてしまいます。


まあ、お宿がそんな調子なので、今日の茶室の宴会はお料理持ち込みにして頂きました。

皆が抱えていたのがそれです。

「さすがにそれでは申し訳がない!」

という隆二の提案で、飲み物だけはお宿から出させてもらう事になりました。



とまあ、夏のピークもあと数日となって、この夏、いや今年一番の修羅場を迎えた西山荘だったのですが、悪い事ばかりではありません。


全室同時に早い時間にお食事スタートですから、仕事も凄く早くに終わってしまいました。


洗い物も終わって、私がフロント業務をやっていると、吉乃ちゃんと麻子ちゃんが慌てて茶室へと向かって走って行きました。

それを見た沼さんが

「優ちゃんも行ってあげたらどうですか?」

と、言ってくれました。

「では、あとちょっとだけ。」

私はそう言うと、大慌てでフロント業務を終わらせてしまいました。



ロビーを過ぎて、茶室へと続く渡り廊下に出ると、外からは夏の夜の香りに混じって、微かに花火の火薬の匂いが漂っていました。

普段ならこの時間は真っ暗な茶室も、今日は明かりと賑やかな笑い声が溢れています。


私はそのまま渡り廊下を進み、茶室に向かう角を曲がりました。

そしてふすまを開けると・・





やっぱり半分脱がされた道洞君がいました・・






また巴ちゃんは夫婦は、腹を抱えて笑いながら転げまわっています。

吉乃ちゃんは、お上品に笑っています。

麻子ちゃんは真っ赤な顔を手で覆ってます。

いや、あなたは彼女なのだから、助けてあげなさい。


隆二は「やれやれ」という感じでした。



さてさて、私もようやく宴会に参加させてもらえたのはもらえたのですが、花火はとうの昔に終わってしまいました。

宴会の料理ももうほとんど残っていません。


「これからどうしましょ?」


的な話しになりました。

それを聞いていた吉乃ちゃんが、急に何かを思い出したような素振りをします。


「あ!

 そう言えば、お宿の裏に怖い場所があるのよ。」


なんて言いました。

その言葉を聞いて、私はゾッとしてしまいました。

だって、その場所。

本当に怖いんですもの・・


その場所を知っている私や麻子ちゃんは、かなり真剣に怖がっているのですが、それを知らない上に、いい感じで出来上がっている巴ちゃんの食付きは半端ありませんでした。


「行こう!

 今すぐ行こう!

 すぐ行こう!」


そんな感じでノリノリです。


それを見て、やっぱりお宿の裏を知らない巴ちゃんのご主人と、道洞君は

「おお!

 いいっすね~」

なんて後押ししています。


あのね。

絶対に後悔しますよ。

あとで。



先ほど説明しましたが、元々この西山荘は、切り崩した崖の麓に建っています。


という事は、建物のすぐ裏は切り立った崖なのです。


崖と建物の間には5メートル程の距離があるのですが、そこが私達の言う「お宿の裏」なのです。

まあ、こうやって簡単に言ってしまうと、さほど怖い感じもしませんが、実際に行くと結構怖いのです。

崖的に・・ではなくて、アレ的にです。


まず、建物は30メートルくらい崖に沿って建っているのですが、そちら側には窓がありません。完全に建物の背中です。

だって、窓を開けても崖しかないじゃないですか?

なので崖と壁に挟まれたその30メートル程の隙間は昼間でも暗いのです。


一応、落石防止のための壁が、土地の境界代わりに作ってあるのですが、なにせ古いお宿です。コンクリートの壁なんかじゃありません。

使い古された線路の枕木が並べてあるのです。


崖から滲み出る山水で、その隙間はいつだって湿っていて、枕木にも地面にもびっちりとコケが生えています。

さらに枕木にはつたが生い茂り、なんとも不気味な30メートルなのです。


さらに怖い事に、この30メートルは、袋小路になっています。

入り口側は、麻子ちゃんや道洞君がいつも使っているガレージの裏です。

そこから入って奥に進むと、最終的には行き止まりです。

行き止まりは少し広い空間になっていて、そこにはとても太い朴の木が1本だけ生えています。


落ち葉の季節になると、その広場一面に落ちた朴葉を拾い集めて洗い、郷土料理の「朴葉みそ」なんかに使うのですが、正直集めにそこに行くのですら私は嫌で嫌でたまりません。


だって、子供の頃からこの崖の上の森には、お化けが住む古い洋館があるとかいう噂があるのですもん。

ますます怖いですよ。


なんて私が怖がってるうちに、巴ちゃん夫婦と道洞君で、完全に行く話が纏まってしまっていました。

ガレージの裏から入って、一番奥の朴の木に触って戻ってくる。

という感じです。


あまりに麻子ちゃんが怖がるので、2人づつではなくて、皆で一緒に行こう。

という話にはなったようですが。


さすがにそれは有り難い提案でした。

本当なら行きたくないんですけどね、お酒の入った巴ちゃんの勢いは誰にも止められませんでした。

はい。



ちなみに言い出しっぺの吉乃ちゃんは?

と言うと。


「え?

 私は行かないよ。

 だって昔から、あそこに近づいたらダメって言われてるから。

がんばって一人で茶室おかたづけしとくね!」


なんて、笑っています。

私、ますます行きたくありません。





さて、私達一同は宴会場となった茶室を後にして、各々がお宿に備え付けの懐中電灯を片手に、まずがガレージへ向かいました。


ここはね。

怖くはないです。

明るいですもん。


それに昨日も麻子ちゃんと道洞君でファイヤーブレードを仲良く修理してましたし。

そんなに怖くはないです。


ただし・・

ガレージの隙間から裏手に懐中電灯の光を当たると、そこはジメジメとしたコケだらけの暗い闇・・。

ノリノリだったはずの巴ちゃんの旦那さんが、軽くブルっと震えています。


皆の顔から血の気が引く中、一人だけ楽しそうに浴衣でスキップ踏んでる人がいます。

もちろん巴ちゃんです。

さすが切り込み隊長です。


麻子ちゃんは完全に震えて私の手を強く握りしめています。

どうせなら、これをチャンスにあなた達もいよいよ手を繋げばいいのに。

とも思ったのですが、実は私としても手を繋いでもらえてるのは有難い限りでした。


さてさて、スキップ踏む巴ちゃんの後にブルいながら固まる一団。

そしてその後ろに面倒臭そうな隆二。

と、ちょっとシュールな絵の肝だめしが始まりました。



右手にはつたとコケがビッチリと生えた高い枕木で出来た壁と、その奥の崖。

左手には、暗いお宿の背中の壁です。


真夏だと言うのに、足元には生い茂ったコケと、グジョリと湿った感触。

一歩進む毎に、足元からじゅぶり、じゅぶり、という感触が伝わります。


とてもコケ臭いというか、カビ臭いです。


懐中電灯で通路の先を照らしても、まるで光が闇に吸い込まれてしまうかのように、目の前は真っ暗です。


麻子ちゃんはほとんど泣いています。

すすり泣く声が暗い闇に響いて、余計怖いです。

さらに、握っていた手は、今では私の腕にしがみついています。


吉乃ちゃんレベルとは言いませんが、

麻子ちゃんもそんなの私に押し付けて、イヤガラセですか?

それ。


そんな薄暗い通路を、お宿の壁に沿ってしばらく歩くと、辺りが急に広くなりました。


朴の木の生えている裏庭です。


そこも一面のコケで敷き詰められています。

懐中電灯で照らされた太い朴の木の幹は、なにやらうすら白く、ぼんやりと光っています。

それが白装束の女性に見えて、一同から悲鳴が上がります。


「おお!

 こりゃまた太っい木ですね~♪」


なんて、巴ちゃん楽しそうに手でぺちぺちと朴の木を叩いています。


そんな巴ちゃんの後ろの方の暗闇が、何やら光りました。


また一同から、悲鳴が上がります。

こっち向いてる巴ちゃん、気付いてません。


「ん?

 どしたの?」


って顔してます。

巴ちゃん!

後ろ!

後ろ!!


皆の驚く顔に気が付いた巴ちゃんは


「え?後ろに何かあるの?」


と言って、太い朴の木の幹からその後ろの闇を覗き込みます。


ビッチリとツタとコケが生えた枕木の、ツタの隙間から何かが光っています。


恐れを知らない巴ちゃんは、その光に近づいていって、何やらツタをかき分けているようです。


「あ!

 あったよー!

 光の元~!

 なんだかねぇ、古い鎖みたいなんがあったー!」


と、急に気の抜ける事を言いました。

どうやら古い鎖が懐中電灯の明かりを反射させているだけだったようです。


皆が驚いて、麻子ちゃんに至ってはとんでもない悲鳴を上げてしまいましたが、光の正体が判明すると、さして怖い話ではありません。


どうで枕木を固定させるための鎖か何かだったのでしょう。


巴ちゃんはそのままツタを掻き分けながら、ケラケラと笑っています。


隆二や、旦那さん、道洞君といった男性陣も、巴ちゃんに近寄って

「どれどれ?」

といった、感じです。

私と麻子ちゃんは、あまり男の人から離れたくなかったので、否応なく、それに続きます。


「あれ?

 これ、ドアじゃね?」


巴ちゃんのご主人が突然そんな事を言い出しました。


一同が手に持った懐中電灯でその部分を照らしてみると、ツタで覆われた壁の一部がドアになっていたのです。

そして、そのドアが開かないように、ドアの回りに、いくつもの鎖がされていたのです。

しかも、よく見ると、鎖だけではありません。

サビてはいますが、有刺鉄線も巻かれています。


「これ、開かねえかな?」


なんて言いながら、巴ちゃんの旦那さんは取っ手が付いていないドアを押しています。


さらにもうちょっとだけドアの上の方を照らした時、皆の口から一斉に悲鳴が上がったのです。


うぎゃぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!

きゃああああああああああ!!!!

うおおおおおおおおおおおお!!!!

どぎゃあああああああああああああああああ!!

ひぃぃぃぃいいいいいいいいいい!!!!

うぎゃぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!

きゃああああああああああ!!!!

うおおおおおおおおおおおお!!!!

どぎゃあああああああああああああああああ!!

ひぃぃぃぃいいいいいいいいいい!!!!

うぎゃぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!

きゃああああああああああ!!!!

うおおおおおおおおおおおお!!!!

どぎゃあああああああああああああああああ!!

ひぃぃぃぃいいいいいいいいいい!!!!




そこにあったのは、サビてはいましたが、なにやら高い骨董のような錠前と、無数の呪符のようなお札の数々でした!



「俺っ

 俺っ

 一枚破いちゃった!!!!!」


なんて半べそになりながら巴ちゃんのご主人が走ります。


無論巴ちゃんのご主人だけではありません。

全員ダッシュです!!


さっきまでスキップだった巴ちゃんですら叫びながら走っています!


全員がもう、全力疾走です!!!




まさに命からがら逃げ出した私達は、30メートルの距離をコケに足を取られながらも逃げ切りました。


どうやら逃げ遅れた道洞君も、「最初の被害者」 にはならなくて済んだようです・・




逃げ切った私達は、街灯に照らされて明るいマイクロバスのガレージの前にへたり込んでしまいました。



麻子ちゃんはボロボロに大泣きしています。

男の子組は絶句して青ざめています。

切り込み隊長だった巴ちゃんも腰が抜けてしまった様子で


「ごめん・・・

ちょっと漏らした・・・」


と言いながら目が点になっていました。



茶室の片付けが終わってガレージの前で待っていた吉乃ちゃんは


「だから行くなって言われてるのに・・」


と、この肝だめしを提案した張本人らしからぬ事を言って苦笑いしていました。





こうして少し冗談にならない形で、私達の花火の夜の肝だめしは幕を閉じたのです。










「そうですか・・

 それは随分と怖い思いをされましたね・・


確かに、科学が進んだ現代でも、科学的に照明されていない物は

沢山あります。 これは証明できないから『ない』のではなく、

ただ単に、人間の持っているモノサシでは測れないだけで

『ある』なのです。

『想い』や『念』といった物もそれにあたります。

 これは目には見えませんが、確実にあります。」



私達の前に座る住職さんは、そのまま説法を続けて下さいました。



わたくしが実際みた訳ではありませんから詳しくはわかりませんが、

 そこまで厳重に封印されていたとなると、

それはかなりの物が封じてあるのかもしれませんね・・。


「情念」は残りますからね・・」



数日後、あまりに心配になった私、そして巴ちゃん、麻子ちゃんは、仕事の合間にお宿に登る途中のお寺にお話を聞きに行きました。



住職さんはその話を聞いて、驚いたような困ったような顔をしていましたが、そのような説法を聞かせてくださると、

「あまり心配なのであれば、私が一度その場所を見に行きましょう。」

とおっしゃって下さいました。






しばらくして出てきた大住職さん(住職さんのお父さん)は、

その説法を聞いてなにやら笑っています。



「お父さん、さすがに笑うのは失礼ではないでしょうか?」


と住職さんが抗議すると。




「お嬢ちゃんら。

あんたらあのお札を見たんかい?

ちゃんと見たかね?

あれは見事な『へのへのもへじ』だったじゃろ?

ワシの力作じゃ。」



と言って、カーーーッカッカッカッカと笑っています。




横一列に並んだ私達が目をまん丸にさせていると。

大就職は



「あそこには裏の山に続く獣道があったそうなんじゃがな。 

その昔境界線の事で西山荘の大旦那と裏山の地主が大喧嘩して、

誰も行き来できんように柵にクサリで封をしたんじゃ。 

で、余程それが腹立たしかったのか

『今後誰もうちの者は近づけさせん!』

と息巻いて、ワシにとびっきり皆が怖がって寄り付かないような

「おふだ」を書いてくれと頼んで来たんじゃ。 

「へのへのもへじ」と書いてやったよ。」





と言って、またカーーーッカッカッカッカ!!と笑い、

少しいたずらっぽく舌を出していました。



私達一同、急にほっとして、その場に崩れて泣き始めてしまいました。


でも。

よかった。

良かったです。


怖いお話じゃなくて!



どうやら私達が花火の夜に引っかかったのは、何十年越しの大旦那様と大住職さんの仕込んだドッキリだったようです。


まさか仕掛けた当の本人も、自分が死んじゃって20年以上過ぎて誰かが引っかかるなんて思ってもいなかったでしょう。



まったく男の人達ってのは、いつまでたっても質の悪い悪戯っ子で困ります。












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