11 トンネルズ&トカゲズ
お待たせしました。トカゲの王、決着。
『トカゲの王』の口に、咥えられたままの阿多佳を助けるため、手加減しつつ攻撃を加えていく朔夜達。
『トカゲの王』も攻撃を喰らう度に体色を変化させて弱点属性を変えていくが、今の所全員物理で殴っているだけなので影響は無い。物理攻撃にも切断、貫通、殴打と種類はあるのだが、そこまでは対応していないようである。
攻撃が加わると阿多佳もダメージを喰らうため、その度に阿多佳の尻尾が揺れたり跳ねたり立ったり忙しい。手加減しているとはいえ痛いのだ。やはり朔夜の攻撃が一番痛いらしく反応も激しい。
『トカゲの王』側の攻撃は、口で阿多佳を咥えているため、爪と体当たりと尻尾を薙ぎ払うのみである。最大の威力を誇る噛み付きと舌による殴打が封じられているのはある意味で幸いであったが……。
「マズイな……トカゲの嬢ちゃんの方が保ちそうにねえぞ」
ロビンソンの言う通り、『トカゲの王』は未だに阿多佳を離さず、解放されるよりも先にくたばりそうである。具体的には尻尾が痙攣して今にも絶命しそうであった。やはり防御力を高めたとは言えど、レベルが低いために、最大HPが低いのが災いしているのだ。
「まー死んじゃったら離してくれそうだし、一応復活アイテムは買ってあるからなんとかなるよー。高いから使いたくないけどー」
火炎鳥の尾羽おひとつ1万マールポッキリである。
「回復はできないの? ヒメちゃん」
「うーん、口の中にも届くのかわからないんだよー。一応やってみるよ。『アイテム投げ』ー!」
投げると同時に消えるハイポーション『タフメーン』。見事『トカゲの王』の口中に転送され……。
「あ」
「あ」
瓶が当たって割れると共に、阿多佳の尻尾が倒れ光になりつつある。やめよう、回復死。ポーションは、対象が個人になっているため、口の中で割れてこぼれた分を『トカゲの王』が飲んでも、回復したりはしないのが不幸中の幸いであった。
「トドメを刺しちゃったねえ……」
「だ、大丈夫だよー! まだ間に合うから! えーいもっかい『アイテム投げ』ー!」
焦りつつも奥の手の『火炎鳥の尾羽』を投げる媛佳。口の中なので見えないが、赤く燃え上がっている。同時に赤字確定の瞬間である。大枚叩いた甲斐は有り、残念ながら一度死んでも拘束されたままではあるが、阿多佳が若干のHPを回復しつつ復活する。尻尾が猛っておられた。お怒りのようである。媛佳が気にせず更にもう一回ハイポーションを投げて回復したのでしばらくは保つだろう。尻尾が激おこになったが。怒りゲージMAXで武器破壊技が使えそうであった。
「もう『火炎鳥の尾羽』は無いから、慎重に回復しながら叩くよー!」
「アタ姉も辛いだろうけどもうちょっと待っててね!」
早く助けてーとばかりに阿多佳の尻尾が振り回される。今、目の前でお亡くなりになったばかりなのだが、案外大丈夫そうなので朔夜も安心して攻撃する。手加減しても尻尾が立つ。痛いものは痛いのだが、これも阿多佳を助けるためなので仕方がないのであった。
殴られては回復し、回復しては殴られて。何度か死にかけながらようやく阿多佳が吐き出された。『トカゲの王』の涎でキグルミを濡らし、満身創痍であったが。キグルミの目もXの字である。
「ううっ……三途の川でババアが手を振っていたぜ……」
婆様は存命中である。スゴイシツレイ!
「お姉ちゃんも助けたし、さくちゃん! 全力で殴っちゃって! って、あー……」
「消えちゃったねえ」
ある程度のダメージを与えたので『トカゲの王』が透明化してしまった。これではマトモに攻撃が当てられない。仕方ないので当初の予定通り、全員壁際に集まってアイテムをバラ撒こうとして。
朔夜が動かないことに媛佳が気づいた。
「さくちゃん?」
「ーーーー……」
深い深い呼吸。長く、長く吸う。吸い続ける。己の身体をただ風鳴る一つの器官にする。空気は巡り廻りて圧縮されていく。
「サク?」
「ーーーーーー…………」
朔夜は密かに苛立っていたのだ。ボスキャラの登場でせっかく全力を振るえそうだったのに、阿多佳が捕まり再び手加減を強いられて。ようやく阿多佳を助けて、これで遠慮なく殴れると思った矢先に透明化されて、攻撃が当たらなくなってしまった。
「さっちゃん?」
「ーーーーーーーー…………」
攻撃が当てられない、ならば。当てられる攻撃をするまで。それは全方位に等しく打撃を与える一撃。朔夜が唯一持っている遠隔攻撃。
「おい? 兄ちゃん、何して……」
「ーーーーーーーーーー…………」
そも、打撃とは何か? 衝撃を伝えて分子間の結合を破壊する行為である。衝撃、力が伝わる事。つまり振動を伝える事。
「……! さくちゃん! だ」
あ、やべえこいつキレてる、と媛佳が気付くが、一瞬だけ咲夜が息を吐く方が早かった。いや、それはただの息ではなかった。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
空気に乗せた振動。即ち声に全力を乗せ、衝撃波として放つ岩永流奥義『木霊呼び』。例え見えない敵であろうとも、声を避けることなど出来はしない!
人の可聴域を遥かに超えたその『声』、熱の無い音の爆発は、部屋中に響き渡り、反射して初めて爆音ーー木霊を生んだ。そして木霊は全てを破壊した。全てを。
『トカゲの王』は、透明化も解けて全身の穴という穴から血を吹き出してひっくり返っている。李書文もびっくりの七孔噴血ぶりである。グロい。
「ふう。ちょっとだけ気が晴れた。『トカゲの王』も倒したし、剥ぎ取りして帰ろうか、ヒメちゃ……ん……?」
全力を込めた一撃を拳で直接に叩き込んだわけではないので、『オーバーキル!』止まりで剥ぎ取りはできるのだが問題はそこではなく。
「あ……やっちゃった……」
全てを、である。振り向けば、光になって消えていく仲間達。もちろん皆んな七孔噴血している。グロい。レベルの高いロビンソンも一撃である。UltimatekeyOnline、フレンドリーファイアつまり同士討ちはアリなのであった。
死に戻りした媛佳達から連絡が来るまで剥ぎ取りをして待つ朔夜。無事に『トカゲの王の肉』は剥ぎ取れて目標は達成したが……。
「あーやっぱり怒ってる……」
届いたメールにはお怒りの言葉と共に一度アルブァンに戻ってくるように書いてあった。それも火急速やかに、と。
「じゃ、早速『蜘蛛の糸』を使って……」
はたと気づく朔夜。『蜘蛛の糸』を持っていたのは媛佳である。本来はこういう時のためにパーティー全員が一つずつ持つのが望ましい。そして更に問題があった。
「どうしよう……道を覚えてないや」
マッピングも人任せであった。ダメな冒険者の見本がそこにいた。地味な特技として方向だけはわかるので道に迷いつつ帰っても良いのだが、時間がかかれば更に媛佳達を怒らせることになるだろう。
「…………」
方向だけはわかる。道はわからない。じっと目を瞑る朔夜。
「…………!」
そう、仕方ない。仕方ないことなのだ。別に朔夜はゆっくり帰っても良いのだ。良いのだが、急いで帰ってこいと言われているのだ。だから。
「だから、手段を選ばず早く帰っても構わないよねえ……!」
うんうん、仕方ない仕方ないと繰り返し自己弁護しながら、アルブァンの方面の壁に向かって立つ。朔夜だって本当はやりたくない……ついでに破壊衝動を満たしたいだけである。
「しいぃぃあああっ!」
その日、『ベータラ砦跡』に、ボス部屋直通ルートが解放された。プレイヤー達は運営の粋な計らいと思ったが、犯人は己の拳足のみでトンネルを開けた一人の拳撃士であった。
当たり前だが余計に怒られた。
朔夜くん、どこの海王だと。
ステータスをすっかり忘れていました。そのうち修正して差し込んでおきます。




