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12 スーパードゲザータイム

一ヶ月もかかってしまった。

 土下座。ドゲザーと読む。謎と神秘の国ニポンにおける最大級の懇願を示す姿勢である。足を揃えて膝をつき、地面を額でぐりぐりと押しながら、手は礼拝するかのように地にのばす。この姿勢でもって行う懇願は、たとえどんな内容であっても相手にそこまでさせたなら許さなければならないという一種の脅迫手段にもなり得ーー朔夜はそこまで考えてなんの役にも立たない思考に気づき、考えるのを止めた。天丼でもあるし。

 アルブァンの噴水広場である。ああ、ここでヒメちゃんが土下座していたなあ、と朔夜はなんだか既視感を覚える。現実逃避である。今ここで土下座をしているのは媛佳ではなく朔夜自身であり、そもそもただの土下座ではなかった。


 焼き土下座である。


 もう一度、アルブァンの噴水広場である。人の腰ぐらいの高さの鋼鉄製テーブルが設置され、天板の下には轟々と燃える焚火、上には土下座の朔夜である。焦げて煙を上げていた。その前に並ぶ三姉妹の手には松明。火をつけたのがこいつらなのは明らかであった。ロビンソンと野次馬はドン引きしながらその光景を見つめるしかなかった。ざわ……ざわ……である。


「うーん。このくらいじゃなかなか死に戻らないみたいだよー」


 炎に白い頬を赤々と照らされながら、ガスの火が弱いなーと言うように媛佳。


「やっぱりサク自身にも火をつけないとダメかな」


 眩い炎の照り返しに目を細めつつ、料理に塩が足りないね、と言うのと変わらない調子で知流佳。


「じゃあ油買ってくるかー?」


 キグルミの瞳に輝く炎を映り込ませ、ちょっとコンビニで買ってきてあげるとばかりに阿多佳。

 まるで日常の延長のような態度を取る三人が人々には余計に怖ろしく悍ましかった。ほんとアルブァンの噴水広場は地獄だぜ!

 地獄の三分クッキング、公開処刑、魔女狩りとは人の言う。とは言えど、全てはフレンドリーファイアをかました挙句皆殺しにし、あまつさえダンジョンの一部を破壊した朔夜の自業自得である。インガオホー! なおUltimateKeyOnlineでは構造物も破壊可能である。存在している以上破壊不可能の方がおかしいという考え方である。無闇に破壊されないようだいぶ堅いが。


「いやいやいやもう許してやれよ姉ちゃん達」


 ロビンソンがこれ以上は見てられぬ、と三姉妹を止めようとする。だが三姉妹は首を横に振る。足らぬ、これしきでは足らぬのだ、と。炎を背景にして陽炎に揺れる三姉妹がロビンソンにはただひたすらおっかなかった。


「えーでもさくちゃんはこれぐらいじゃサウナみたいなものだよー?」

「心頭滅却しなくても火が涼しいとかおかしいんだけどサクだからね」

「ダメージ入っているかも疑わしいんだぜ?」


 一応ダメージは微々たるものだが入り続けている。焼き土下座の基本である10秒どころか一時間以上でもへっちゃらではあるが。


「いや、もう見てるこっちがいたたまれないからよ。勘弁してやってくれよ」


 逆にロビンソンが頭を下げる始末であった。


「さっちゃんにはこれぐらいじゃお仕置きにもならないんだけどな」

「でもロビンソンさんがもういいって言ってるし」

「そうだねー……さくちゃーん?」

「何かなヒメちゃん」

「少しは反省したー?」

「たいへんもうしわけありませんでした。カッとなってやりましたがいまははんせいしています」


 微妙に反省が足らないようである。なので、媛佳達は方向性を変える事にした。即ち、与える刑罰から与えてもらう贖罪へと。


「じゃあ焼き土下座はもう許してあげるけど、あと一つ。ここは定番としてー」


 濡れた花のように艶やかににこりう媛佳。唇が誘うように艶めかしい曲線を描いた。


「さくちゃんにはちょっと私の言うことをきいてもらおうかなー?」


 朔夜は温かく湿った肉に包まれていた。押し付けられ、舐め回され、甘噛みされて。暗く、何も見えない中で与えられる刺激は、より強く敏感に伝わり背筋を震えさせた。粘液を擦り付けては時折蠢き締めてくる肉の管。思わず朔夜は熱い息を漏らすが身動きは許されず、ひたすらに受け続けるのみである。媛佳達に強制されて、一方的に嬲られる朔夜。その責めはいつ終わるとも知れなかった。

 ……この作品はKENZENなので、朔夜が媛佳達にエロいことされてるのを期待した人には申し訳無いが、要するに『トカゲの王』の口の中である。


「さくちゃーん? 返事はできないだろうけどそろそろだからねー?」

「だいぶ弱ってきたみたい。サクがいないとやっぱり時間がかかるね」

「うう、噛み付いたは良いけど振り回されて目が回る……」

「しゃあっ! 『双撃乱舞』! これでどうだ!」


 周りの声が聴こえている間にも、『トカゲの王』には烈火の如く攻撃が加えられ続けている。全員がスキル全開で、ヒットエフェクトで『トカゲの王』の姿が見えない程である。

攻撃の度に朔夜にもダメージが入り、『トカゲの王』も少しでも回復するべく朔夜をガジガジるが、朔夜にとってはマッサージみたいなものである。後はただ『捕食』から解放されるのを待つのみ。


 媛佳達の『お願い』とは、もう一度『トカゲの王』と戦い、その上で最初に行われる『捕食』を朔夜が引き受ける事であった。生き残ったのは朔夜だけだったので、経験値も当然ながら他の面子には入らなかったのである。媛佳達がやり直しを求めるのもやむを得ない。更に言うなら身内はともかくロビンソンにはしっかりと補償すべきなので、もう一回『トカゲの王』の肉を進呈しようという訳であった。剥ぎ取りも媛佳がすれば『採取上手』で増える可能性があることだし。

 意味深な媛佳の前フリに、朔夜がちょっとだけエロい事を想像したのは朔夜だけの秘密である。ハーレムものとかでありそうじゃない、と。そんなエロゲーみたいな『お願い』などある訳もなかった。現実は非情である。

 そうこうしているうちに『トカゲの王』がダメージを堪え切れずにとうとう口を開いた。『捕食』から解放された瞬間、身体に力が入り動けるようになる朔夜。『捕食』もまたゲームのシステム上、朔夜の剛力で力任せに破ることはできなかったのである。だが、解放されるこの瞬間だけは別の話。

 吐き出してそのまま『透明化』を発動し隠れようとする前に、未だ口の中に半身を残している間に朔夜が動き出す。まずはむんず、と『トカゲの王』の舌を握る。唾液でヌルヌルる舌も強引に握り込む。圧搾する。絞る。握り潰す!

 皮膚に守られていない口内を握りつぶされ『トカゲの王』は声も出せなければ身体も硬直し動かせない。吐き出される勢いのままに地に足をつけ、握ったままの舌を今度は前に引くと同時に屈み込む朔夜。舌を使った一本背負いが決まる。『トカゲの王』の巨体が宙に浮き上がり、背中から勢い良く地面に叩きつけられた!

 毎度お馴染み『クリティカル!』『敵死亡!』『オーバーキル!』と流れるシステムメッセージを横目に眺めながら残心を解く朔夜。叩きつけた威力のあまり千切れてしまった舌が光になって消えていった。岩永流の技を使わず投げ飛ばしただけなので、『アイテムブレイク!』にはならなかった。ちょっとホッとする朔夜。とはいえそんな程度で半分以上体力を残したボスが一撃で『オーバーキル!』なのである。今後の不安アイテムブレイクは残ったままであった。最初に戦うことを想定されたボスなので、これ以後の敵が少しでも硬いことを期待するしかない。末期達とのPVPの方が手強かったのはレベル的に考えても道理である。まだ見ぬ強い敵に想いを馳せる朔夜。


「おっ肉ーおっ肉ーっとー」


 そんな朔夜も置いてけぼりにして、早速剥ぎ取りにかかる媛佳。まだまだ序盤のボスなので、そんなものだろうと予想済みなのだ。鼻歌フンフフーン交じりに剥ぎ取りナイフを刺して、刺して、刺して……残念ながら回数は増えなかった。10%などそんなものである。だが……。


「おー! レアドロップだよー!」


 満面のニカッみを浮かべる媛佳。UltimateKeyOnlineでのレアドロップ率は全ての敵に於いて1%。媛佳の逆転大勝利であった。キンボシ、オオキイ!

 何が手に入ったのか興味津々に集まる面々を前に、ちょっと勿体つけながら高く掲げる媛佳。煌めくアイテム。


「ふっふっふー。ジャーン! 『蜥蜴王冠』だよー!」


 それはまさに『トカゲの王』が被っていた金の王冠そのものであった。精緻な細工が施され、宝石で飾られた王冠。可愛らしくデフォルメされたカメレオンが彫刻されていた……『トカゲの王』が作れるわけもなく一体誰の手によるものなのか深く考えれば疑問が残るが、まあゲームなので。ちなみにサイズも人間が着けれる大きさに縮んでいる。ゲームなので。無論朔夜達が気にするわけもなかった。

 こういうツッコミどころはある意味ゲームの華の一つなので気にされないと運営は寂しがるかもしれない。一応『商人』が『鑑定』すれば詳しい設定や挿話なども見れるようになる。『キ印超品』の出番であった。『鑑定』しなくても使用や装備はできるが。

 ともかくも全員レアドロップ様のご登場を歓声と拍手で迎える。たとえ性能がイマイチだったとしてもレアドロップとはそれだけで嬉しいものなのだ。ありがたやありがたや。


「へー綺麗な冠だねえ」


 朔夜が手に取って矯めつ眇めつして見れば、知流佳がニヤニヤう。


「そのままかぶってごらんよサク。王子様っぽいかもよ? あはっ」


 皆の脳裏に描かれる白馬の王子様状態の朔夜。これはヒドイ。


「いや流石にそれは似合わないんじゃなーいー?」

「じゃあロビンソンさんに……」

「俺はコック帽以外かぶらねえと決めている」


 料理に生きる男ロビンソン。ヒゲオヤジなので意外と似合いそうではあったので朔夜はとても残念に思う。

 誰が似合うかと手に手に回される王冠。レアドロップ様の扱いは、わりと悪かった。


「金髪の姉ちゃんならこういうのも映えるんじゃねえか?」

「それより媛佳が着ければ黒い鎧と相まって闇黒女王様になるぜ!」


 厨ニであった。年は同じでも十四歳チキンジョージではない。ギャッ!


「嫌だよそんなのー。もー『トカゲの王』が着けてたんだからトカゲのお姉ちゃんが着けなさいー!」


 阿多佳の頭にぽすせられる『蜥蜴王冠』。


「ほらこうすればミニ『トカゲの王』のかんせーい! ぷぷーお姉ちゃんよくお似合いですよー?」


 その時流れるシステムメッセージ。


『限定条件『蜥蜴王冠』の装備により特殊『キグルミ』の一つ『トカゲの王』が解放されました!』


 光に包まれる阿多佳。再び現れた時には『キグルミ』が『コドモオオトカゲイヌモドキ』から『トカゲの王』に替わっていた。それは小さく可愛らしくなりながらも、決して威厳を損ねることなき王の姿。


「………………………………」

「えーーーーーー!?」


 嘘から出た真であった。

ボス部屋直通ルートができたのでサクサクと。

今後のロビンソンが少し楽になりました。

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