10 ダンジョンズ&ダメ人間ズ
長らくお待たせいたしました。投稿再開です。
「冒険者あるところダンジョンあり。ダンジョンあるところボスキャラありだよ!」
キメポーズとともに媛佳が叫ぶ。口でババーンとか言っていた。全員ガン無視である。媛佳は内心ちょっといじけた。
ベータラ砦跡に辿り着いた朔夜達であったが、媛佳とロビンソン以外はこれが初のボスフィールドである。知流佳は攻略wikiで情報を集めてあるのだが、実際に辿り着いたのは初めてであった。
かつて戦争に使われたというベータラ砦跡は、久しく人に使われず外見を荒らしていたが、全身を風雨に曝しながら尚も悠然とそそり立っていた。が、朔夜達にとって大事なのは中身なので眺めるのもそこそこに攻略方法の相談に入る。多くの者が初めて入るダンジョンとして、なかなか気合の入ったテクスチャーなのだが……。
「攻略目安レベルは12レベルの6人パーティーだったよね? ヒメちゃん」
「そーだよー。戦士系2名、盾役、盗賊系、回復と魔術士系のオーソドックスな編成が理想的とされているよー」
「しかるに俺らを振り返るとだ」
拳撃士、アイテム士、ダンサー、キグルミ戦士、双剣士……。
「バランス悪い上に、人数も足りていないねえ」
更に言うならレベルも上の順で7、7、12、4、35レベルである。ラプトルーパーを大量に殲滅しながら来たので、朔夜達も少しだけレベルが上がっていた。ロビンソンは高いのでそれくらいでは上がらない。ロビンソンが加わったことで平均レベルは底上げされているが、それでも理想値には足りていなかった。しかし。
「さっちゃんのパワーと買ってきた装備でゴリ押しできんじゃね?」
であった。
「て言っても盗賊系がいないのは辛くないかな?」
知流佳の疑問ももっともである。『シーフ』、『トレジャーハンター』等の盗賊系職業は、ダンジョン中の罠の解除や、敵の察知、先制攻撃等に優れた職業で、ダンジョンを攻略するなら必須とも言える。
「最初のダンジョンだから大した罠もないしー、それに、対策もあるんだよー」
「対策って? ヒメちゃん」
「ふっふっふー、さくちゃん? 戦闘しか役に立たない職業と、アイテム士が違うのを見せてあげるよ!」
「媛佳のドヤ顔がムカつくんだぜ……」
ドヤ顔の媛佳が早速アイテム袋から取り出したのは。
「ぱぱらぱっぱぱー。『くーもーのーいーとー』!」
棒に巻かれた透明な糸の塊である。
「えっと。何に使うのかな?」
「これは昔の小説を元にしていてねー。地獄から極楽へ行けるのを転用して、ダンジョンのどこからでも入り口まで脱出できるんだよー」
ダンジョン攻略において、ある意味で最重要なアイテムである。糸持った? は皆の合言葉。
なお、小説と違って何人でも大丈夫であった。独り占めしようとして糸が切れたカンダタ涙目である。
「しかも一回しか使えないところがアイテム士なら二回使えるんだよー!」
お得お得ーと媛佳は言うが、基本大量にアイテムを使うアイテム士では焼け石に水である。運営側のせめてもの慈悲と言うか、数字で効果が現れないようなアイテムは使用回数が倍になるのであった。
「万が一何かあっても、これでいつでも逃げられるんだよー」
「最初から逃げる事考えるとは所詮媛佳だな!」
一番レベルが低いお方のお言葉とも思えなかった。何かあったとき真っ先に死に戻るのが予想される。
「もーお姉ちゃんはー。退路をしっかり確保するのは重要なんだよー?」
退路と補給線が構築されていない戦線など悪夢である。
「続いて取り出しましたるはこちら! 10フィートの棒ー!」
棒であった。それ以上でもそれ以下でもない。木香鮮やかな『ひのきのぼう』だ。『ひのきのぼう』と言えば竜退治の勇者の最初の武器として有名だが、媛佳の持つこれは別にスライムを叩く武器ではない。ではどう使うかというと。
「これはこうやって壁とか床とかを叩いて、罠が仕掛けてあるかどうか確かめる道具なんだよー。うちのパーティーには盗賊系職業がいないからその代わり。簡単な罠しかわからないけどねー」
媛佳がそう言いながら壁を叩くが、面妖なことにその音は少し離れた場所から聞こえる。訝しげにする一同に媛佳が説明すれば、理屈は簡単。
「アイテム士の効果で20フィート先を調べられるんだよー」
「シュールだな……」
とはロビンソンの弁であった。
ともかくも媛佳がちょっと楽しそうに棒で叩きながらダンジョンを進んでいく一行。なお、ロビンソンはもう何度も通っているので罠の場所や種類、安全なルートなど知り尽くしているがそちらに関しては何も口にしない。初めて入って物珍しそうにしている朔夜や阿多佳、アイテム士の頑張りどころと張り切る媛佳のことを考えてである。空気を読める大人ロビンソン。知流佳がそれに気づいて気まずそうではあった。こういう時わかってしまった者は損である。
ある地点で床を叩くと壁から矢が放たれた。20フィート先であったが。放たれた矢は虚しく壁に当たり、乾いた軽い音を立てて床に落ちた。
「なるほど、こうやって調べて先に起動させるんだねえ」
「そーそー。最初のダンジョンだから、大した罠がないんだよー。起動させるとマズイような罠はもっと先のダンジョンかなー」
「マズイような罠ってどんなんだー?」
「俺の知ってるとこだと、吊り天井とか大岩が転がってきたり……ああ、あとは落とし穴の下に槍があるなんてのもあったな」
「なんていうかベタだね……そういう罠が出てくる前に盗賊系の人を仲間に入れないと」
「最悪いなくても対応はできるよー」
「じゃあさっきの例えで言えば吊り天井は?」
「さくちゃんに頑張って支えてもらいます」
「おいヒメちゃん」
「……大岩が転がってきたら?」
「もちろんさくちゃんに止めてもらうよー」
「おい媛佳」
「…………落とし穴」
「さくちゃんなら落っこちても槍は刺さらないよ!」
「おい羊の姉ちゃん」
いったい媛佳は朔夜を何だと思っているのか? 朔夜以外の全員からツッコミを食らった後。
「ヒメちゃん」
朔夜が笑う。
「ひいっ」
お仕置きの予感に悲鳴を漏らす媛佳。下も漏れそうになる。脳裏には昨晩ひどい目に遭った自らのあられもない姿。自業自得ではあったが。緊張と恐怖に媛佳の喉が鳴る。果たして判決は……?
「アリだね!」
にこやかに告げる朔夜。セーフであった。媛佳が一番朔夜を理解しているとも言えるやりとりだが、媛佳はすぐに調子に乗って限度を超えるのでいずれお仕置きを喰らうのは確定している。
「ほっ……」
「漢解除アリなのかよ兄ちゃん……」
漢解除とは、わざと罠にかかって起動させた上で、ただその身で耐えるだけのもっとも簡単かつ危険で乱暴極まる解除方法である。良い子は真似してはいけない、朔夜などの頑丈さ頼りの人間だけに許されるたった一つの冴えないやり方であった。
道中現れる敵も朔夜の指先一つでダウンさせたり、知流佳やロビンソンに刻まれたり、阿多佳が噛みついたり、媛佳のアイテムで消毒して難なく倒しつつ、たまに罠を解除しながら奥へ奥へと進む。
「しかし、パーティー組むとやっぱり楽だな。兄ちゃん達が居てくれたおかげで随分早く進んでるぜ。いつもじゃ、こうはいかねえ」
「ロビンソンさんはソロ専門なの?」
「いや、前は相棒がいたんだがよ。俺が料理にハマっちまったからなあ。先に進みたかった奴は『機人兵団』に入ったのよ」
メール見る感じじゃ元気にドンパチやってるみたいだがな、とロビンソン。ちょっと寂しそうである。ヒゲオヤジの哀愁であった。チラッとか慰めてほしそうにたまに横目で見るのが苛立ちを誘う。朔夜はこういう中年は父親で慣れているので気にしない。故にハッキリと口に出して告げる。
「ロビンソンさん。それはちょっとウザい」
「何気にキツイこと言うな兄ちゃんは!?」
「父さんが良く同じようなことするので」
「俺はまだ兄ちゃんみたいなデカいガキのいる歳じゃねえよ……」
かえってダメージを増やされたロビンソンであった。
「卍さんのところなら今度メールで聞いてみるかな」
「あ? あそこの団長と知り合いなのか。じゃ、もしフライデーってのに会ったらよろしく頼まあ」
「うん。わかったよ。で、その人強いのかな?」
もはや一種の病気にも思える朔夜の悪い癖だが、ロビンソンも笑って返す。
「おお、流石に噂のスーパールーキーでもまだ早いと思うぜ? 『機人兵団』で、実際に先頭切って攻略してるのは奴だからな」
「会えるのが楽しみだねえ」
「スーパールーキーってさっちゃんのことかー?」
「そうだぜ、トカゲの姉ちゃん。ダンサー五人をたった一撃で降したPVPを、誰かがムービーでアップしたみたいでな。今一番ホットな話題ってわけさ。まさか、入って一日の兄ちゃんがなあ」
「ヴィッチさんも掲示版がどうとか言ってたっけねー」
「初めてのPVPだったからとても楽しかったよ。次はもっと強い人としたいなあ」
「はっはっは! 兄ちゃんは大物だな! おっと話してる間に着いたか。じゃあ、ボス戦だが準備は良いか?」
一際大きな扉の前で足を止めるロビンソン。朔夜はそう言えば『トカゲの王』が属性変更のみならず、透明化するとも聞いたのを思い出した。ロビンソンはどう戦っていたのだろうか?
「ちなみにソロの時の透明化対策は?」
「壁を背にしてやられたらやり返す。怪我はポーションガブ飲みで」
真顔で答えるロビンソンはダメな大人であった。まあ、ソロの双剣士に他にどうしろとも言う。
「はあ……何という脳筋戦法。サクと気が合うわけだね」
「一応私が適当にアイテムバラ撒いてみようと思ってるよー」
「それしかないかなあ」
『アイテム投げ』は明確に相手を認識していないと使えないので、素でバラ撒いての範囲攻撃に当たることを懸けるのであった。一撃当てれば透明化は解けるので、半ば運頼みながらもそれがもっとも効率良さそうだと意見がまとまると、我慢できない大人である阿多佳が早速扉に突撃する。
「せっかくだからアタシはこっちの赤い扉を選ぶぜ!」
阿多佳が開けたボス部屋の扉はどう見ても赤くなかった。
全員が扉をくぐると、身体を動かせなくなる。
「あれ? 何だか身体が動かないよ」
「あーボスと戦うときはムービーが入るんだよー」
媛佳の言うとおりにムービーが始まったので大人しく鑑賞する。ロビンソンはスキップする誘惑に耐えていた。我慢できる大人である。
広い部屋にどこからともなくコドモオオトカゲイヌモドキが忍び込んできて辺りを窺う。瞬間、透明な『何か』に絡め取られ暗がりに引きずり込まれた。
暗がりからゆっくりと透明化を解除しながら現れる巨大な緑のカメレオン。その頭には輝く王冠。威風堂々たる『トカゲの王』であった。口からコドモオオトカゲイヌモドキの尻尾がはみ出ていた。それももっしゃもっしゃと咀嚼され飲み込まれる。
「あれが『トカゲの王』かー」
唯一事前情報を何も知らない阿多佳はすっかり鑑賞モードである。
「そろそろムービーが終わるよー」
『トカゲの王』がこちらに気づき、身体を起こして大きく見せて威嚇する。同時に朔夜達の硬直も解けた。
「良し、奴の武器は伸びる舌と……」
「ひゃあああーっ!」
「言ってるそばから……」
姿形を見て餌だと思ったのか、トカゲの王が舌を伸ばして阿多佳を捕まえた! なるほどさっきは透明化で見えなかったけどこうやっていたのかと感心しつつ、朔夜が助けようと手を伸ばした。そして、そんな風に真剣さが足りなかったせいか間に合わなかった。
「アッちゃん!」
「たっ、助けて、さっ」
二人の指が触れるギリギリで舌が戻り口を閉じて咀嚼。
「食べられちゃった……」
「食べられちゃったね」
「あんな格好してたからかなー?」
一番近い敵を最初に攻撃しただけだったが、どうにも先程のムービーの印象が強かった。
『トカゲの王』のスキル『捕食』は、プレイヤーを食べて自らは回復すると同時にダメージを与える攻防一体のスキルな上、口中に拘束し、助けようと加えられる攻撃の半分をそちらに流す凶悪スキルである。
口から垂れる阿多佳の尻尾が咀嚼に合わせて揺れていた。光になって消えないところを見るとまだ生きてはいるようである。
「思いっきり殴れば吐き出すかなあ」
「ダメだよさくちゃん! 今殴ったらお姉ちゃんにもダメージがいくよー」
朔夜が全力で叩けば阿多佳も諸共に木っ端微塵である。それも一つの手段ではあるが……。
「うーん、じゃあどうしたら?」
「ちまちま削って吐き出させるしかないね」
ある程度のダメージで吐き出すが、阿多佳の死なない程度に手加減する必要があった。
「あーパーティーだと行動パターン変わるんだったか……」
ソロだと捕食行動は無いので、ロビンソンもうっかり伝え損ねていたのである。頭を掻いてすまなそうであったが後の祭りであった。
ともかくも、ボス戦開始である。
フライデーは宇宙家族仕様なのでロボットです。
朔夜くん達は無事阿多佳を助け出せるか?




