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夜になると女神は問いかける──リアルギルドガイドブック  作者: Manpuku


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7/10

07 告知から始まる勇者育成

01


朝の食堂は、ざわめきと戸惑いで満ちていた。

久しぶりに会う我が子が、パクパクと朝食を食べる姿を、母親たちはただ見つめていた。


「ドーポ・コラツィオーネ……なんとか、ドマトーレ……それでね、お母さん! クロールできるようになったよ!」


目の前の我が子が、謎言葉を混ぜながら口からにゅるりと糸を伸ばした。


「ボーノ、ボーノ!」と言いながら食べる息子を、母親はぽかんと見つめていた。

ぬか漬けも納豆も、嫌いだったはずなのに。


週末ごとに母親たちの姿があった。

子どもに会うため、一泊して帰る。

そんな夏が、もう三週間も続いている。


こんがり日焼けした肌。

キラキラと輝く我が子たち。


ふと、食堂の奥にいる、長い杖を持った男と目が合った。

そのヨーロッパの映画のようなイケメンは、母親の視線に気づくと、優雅に微笑んでコーヒーを飲んだ。


一瞬、時間が止まったような気がした。


学生時代によく感じた、あの胸がキュッとなる感覚。


そして――イケメンに見つめらている自分の姿は、納豆ご飯を口に運んでいる真っ最中だった。


(せめて......化粧くらいしてくればよかった)


食堂にいた母親たちは皆一斉に、背筋を伸ばした。


***

02


「そうなんです。うちの子もまだ帰りたくないって」

「うちもよ。ここが気に入っちゃって」


イケメンの視線を意識しながら、コーヒーを片手に母親たちの会話が弾む。窓の外からは、プールではしゃぐ子どもたちの声が響いていた。家事からも、毎日の小言からも解放される、それはゆったりとした夏の時間だった。


母親たちが悩ませる夏休みのお決まりの『子どもの居場所問題』。

自分たちがあれこれ子どもに言ってはイライラする毎日。

そんな母親たちは、マルシェであの告知を見つけた。


【リアルギルドのサマースクール――異国人による語学教室】


値段も驚くほど安かった。そして、保険も完備している。

『私たちが講師です』とプラカードを掲げる7人の異国人。

それぞれ、ファンタジー映画から出てきたような立ち振る舞いだった。


母親たちが恐る恐る近づくと、にこやかな笑顔と聞きなれない言葉とともに握手を求められた。

暖かく大きな手に包まれた。

そして、不思議な匂いがした。


一週間のサマースクール終了後、子供たちは口をそろえて言った。


「ここにいたい。冒険が待ってるんだ」


子どもたちは真剣だった。その団結力に母親たちは圧倒された。


「冒険って、あんた塾や習い事はどうするの?」

「キャンセルして! そのお金をこっちに使って!」


そんな金銭的な要求が出た瞬間、母親たちも徒党を組んで対抗する。その様子を見ていた、羽ペンを胸に差す者が静かに動いた。ギルドの受付嬢と英語で短く会話する。やがて二人は、母親たちの前に立った。


「……お母様方、なんとかなるかもしれません。受け入れ体制を整えます」

受付嬢が母親たちにゆっくりと言った。


母親たちが支払える金額。

ギルド側が許容できる金額。


そんな、大人の現実的な話し合いが続けられていた。


***

03


「きたきた!!!」


外から子どもたちの声が響いた。母親たちが窓から覗くと、リュックを背負った色白で不安げに周囲を見回している別の子どもたちがいた。そんな不安の手を力強く引くのは他ならぬ我が子たちだった。


彼らはテキパキと動き、新たな子どもたちを案内していく。中には、自分より体の大きな子どもを堂々と引っ張っていく姿もあった。小さな背中が、新しい小さな背中を迷いなく引っ張っていく。母親たちは、誰からともなくお互いの顔を見合わせた。


ギルドを去ることになった子供たちにギルドに残る子供たちが握手を求めた。そして、どちらからともなく、自然に強く抱き合った。すべての子供が残れるわけではない。それは、子どもたちも理解していた。


去りゆく子供たちは、最後に『ザ・ファンタジーズ』と深く抱き合った。身体のすべてを預けるような、長い長いハグだった。異国の地の、愛の表現。そのあたたかな光景を、母親たちはじっと見つめていた。


別れが決まった子供の首には、白い石を丸く削ったキラリと輝く小さな首飾りがかけられた。陽の光を受けてわずかに透けるその石こそが、このギルドで過ごした証となる。

誇らしげに首飾りを触る我が子の姿に、母親は静かに目を細めた。


その別れを、静かに陰から見つめる者たちがいた。

ギルドが「受け入れ体制を整えられる」とその中心には、彼らの存在があった。


子どもたちの護衛という緊急依頼をされたとき、返事に迷いなど微塵もなかった。

そして冒険者たちは自分の部屋を追い出され、ベッドを空けた理由も理解した。

それは「未来の勇者たち」のためなのだ。


ギルドに残った子どもたちは、いつまでも去って行った仲間たちに手を振っていた。

高台からも、下の方からも別れの声が響いていた。


名残惜しさにポツンと立っている子どもたちへ、冒険者の一人が力強く歩み寄る。

そして、大きな掌を「パン!」とひとつ叩いた。


「さあ、お前たち! 新しい冒険だ!」


子どもたちが一斉に振り返る。

そのキラキラとした目には涙がたまっていた。

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